働き方改革法施行で見直すべき「就業規則」の要注意ポイント
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こんにちは、アクシス社会保険労務士事務所の大山です。
2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されます。これら改正法は、過労死などの諸問題に対処するため、行政として考えうる労働環境の改善を目的としている法案であり、正社員のみならず非正規社員も含めて労働者にとっての改革法が施行されることになります。
したがって、企業(使用者)は、当然ながら改正法に沿った対応が必要になるので、改正法で何がどのように変わるのかを理解したうえで、現状の就業規則や労使協定の見直しや改定、場合によっては労働基準監督署への届け出が求められることになります。
今回は、差し迫る改正法施行に伴い「就業規則で見直すべき要注意ポイント」について解説します。
「就業規則」に影響する法改正内容
改正法において以下の項目は就業規則に影響します。
(1)年次有給休暇の時季指定義務
言うまでもなく年次有給休暇は、労働基準法39条で規定されており、使用者は「その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して」「十労働日の有給休暇を与えなければ」なりません。
また、パートタイム労働者など所定労働日数が少なくても、有給休暇は比例付与されます。
新法(労働基準法39条に2項追加)では、この規定に加えて有給休暇の日数が10日以上である労働者には、年次有給休暇の日数のうち5日について、基準日から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより有給休暇を与えなければならなくなります。
(2)客観的方法による労働時間の把握
改正労働安全衛生法では、健康管理の観点から、裁量労働制が適用される人はもちろん、これまで労働時間管理についてないがしろにされてきた管理監督者も含め、すべての労働時間の状況を客観的な方法で把握することが義務付けられます。
そして、把握した労働時間に関する情報は、一定の労働時間を超えた場合、労働者50人以上の企業では、氏名、業務内容とともに産業医に開示されます。
産業医は、その情報から企業に対する勧告をするとともに、産業医もしくは、労働者が希望する医師は、労働者に対する面接指導を行います。
このように労働時間を把握することは、次に触れる「時間外労働の上限規制」や「高度プロフェッショナル制度の新設」にもかかわる基本的改革といえるでしょう。
(3)時間外労働の上限規制
これまでは、労働省告示で決められ法文化されていなかった時間外労働時間について、改正労働基準法でその内容が明文化されました。
改正労働基準法では、原則時間外労働はできませんが、いわゆる「36協定」で時間外労働の上限が月45時間、年間360時間(1年変形労働時間制を採用する企業では、月42時間、年間320時間)になり、臨時的な特別の事情(特別条項)がなければこれを超えることはできなくなります。
(4)高度プロフェッショナル制度
労働時間ではなく成果で評価されるべき労働者(業務用件、年収要件があります)を対象に、労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金の適用対象外とする高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働制)が創設されました。
労働時間が割増し賃金の適用対象外といっても、健康管理の観点からは労働時間の把握は欠かせません(4週間に最低4日、年間で104日間の休日等)。
したがって、高度プロフェッショナル制度を導入する企業では、産業医との連携、総労働時間の把握に特に注意を払う必要があります。また、対象者には同意を求めるルール作りが求められます。
なお高度プロフェッショナル制度の対象となる業務用件、年収要件は以下の通りです。
- 金融商品の開発業務
- 金融商品のディーリング業務
- 企業・市場等の高度な分析にあたるアナリスト業務
- 事業や業務の企画運営にあたるコンサルタント業務
- 研究開発業務
- 書面による合意に基づき職務の範囲が明確に定められ、その範囲内で労働する労働者
- 1,075万円以上を相当程度上回る年収の労働者
(5)勤務間インターバルの努力義務
労働時間などの設定の改善に関する特別措置法の改正により、これまでの第1条の2の二項の「労働時間、休日数、年次有給休暇を与える時季その他労働時間等に関する事項」に「深夜業の回数」「終業から始業までの時間」を具体的に加えたものを「労働時間等の設定」と定義しました。
このことにより、事業主の責務(努力義務)に「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定」が追加されます。
勤務間インターバル制度は、その重要性に比べて認知度が低いことからまずは、周知や導入促進が重要ととらえ、厚生労働省では、「時間外労働等改善助成金(勤務インターバル 導入コース)」の導入や勤務間インターバルの導入までのプロセスを示して取り組みやすい環境を整えています。
就業規則の見直しポイント
改正法の趣旨を就業規則に反映するための主な見直しのポイントと、そのための管理上のポイントを整理します。
(1)年次有給休暇の時季指定義務
年次有給休暇の時季指定における、就業規則見直しと管理上のポイントは以下が考えられます。
就業規則の見直しポイント
- 基準日等付与規定
- 年次有給休暇管理簿の導入と責任体制
- 時季指定する有給休暇日数
- 「計画的付与に関する労使協定」の締結
管理上のポイント
- 基準日を同一(例えば4月1日)にして有給休暇を一律に管理(この場合は入社日によって不公平にならないように法定基準を意識する)
- 基準日に1年間の有給休暇日数を告知
- 基準日からの有給休暇取得日数の管理
- 基準日から1年間の有給休暇数が自発的取得と時季指定による取得を合わせて5日以上になるよう管理(自発的取得日の事前申告)
- 休日を指定する計画的付与をするなら労働組合または労働者代表との労使協定を締結
(2)客観的方法による労働時間の把握
客観的方法による労働時間の把握における、就業規則見直しと管理上のポイントは以下が考えられます。
就業規則の見直しポイント
- 労働時間の把握方法(始業/終業時刻の記録方法)の規定
- 産業医への報告義務規定
- 医師による面接指導規定
管理上のポイント
- 勤怠管理システム、タイムカード、パソコンのログイン/オフ時間のログなど客観的な方法で出退勤時刻を管理
- 時間外労働がないよう労働者人数、業務量を適正化
- 時間外労働の上限にならないよう指導(業務の効率化、生産性の向上対策)
- 新商品・新技術の研究開発業務以外では、時間外労働が「単月100時間以上(休日労働含む)」「複数月平均80時間以上(休日労働含む)」「年間720時間以上」になったら産業医に報告する手順(余裕をもって報告することが望ましい)
- 「管理監督者」も対象であることの周知
(3)時間外労働の上限規制
時間外労働の上限規制における、就業規則見直しと管理上のポイントは以下が考えられます。
(中小企業は2020年4月から)
就業規則の見直しポイント
- フレックスタイム制や変形労働時間制、テレワーク導入の可否
- 「36協定」の締結
管理上のポイント
- 業務効率性や生産性の向上、労働環境の改善
- 時間外・休日労働がありうるなら、労働組合または社員代表との労使協定(36協定、必要に応じて特別条項)
(4)高度プロフェッショナル制度
高度プロフェッショナル制度を導入する場合は、就業規則見直しと管理上のポイントは以下が考えられます。
就業規則の見直しポイント
- 対象職種/部署/対象者の明確化
- 対象者の同意規定
- 制度を遵守した休息、休日等の規定
- 深夜労働の制限規定
- 医師への報告義務規定
- 医師による面接指導規定
管理上のポイント
- 労使委員会の創設、運営規定の作成
- 労使委員会による決議(対象職種/部署/対象者の妥当性)
- 労使間(使用者と対象者)の合意手順
- 高度プロフェッショナル制度の対象者にならない選択、離脱の自由に対する配慮
- 法定労働時間を一定時間超えた場合の医師への報告、面接指導の徹底
(5)勤務間インターバルの努力義務
当面は努力義務ですが、勤務間インターバルにおける、就業規則見直しと管理上のポイントは以下が考えられます。
就業規則の見直しポイント
- インターバル時間の規定
- インターバル時間を取れなかった場合の取扱い規定
管理上のポイント
- 企業実態を踏まえた勤務間インターバル時間の検討
- インターバル時間の遵守指導
- 出勤簿の活用
おわりに
働き方改革関連法の順次施行まで残すところあとわずかです。
管理・運用上のポイントのみならず、就業規則も忘れず見直しましょう。
(了)