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「働き方改革で収入が減った・・・」企業が見直すべき根本的課題とは?

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こんにちは。社会保険労務士事務所しのはら労働コンサルタントの篠原宏治です。

国は、働き方改革における最重要課題の一つとして「長時間労働の是正」を掲げており、多くの会社で残業時間削減のための取り組みが進められています。

残業時間削減の効果は一定程度現れ始めていますが、その一方では、「残業なしでは終わらない仕事量」「残業時間とともに収入が減ってしまった」などの不満の声も聞かれています。

このような社員の不満を漫然と放置した会社では、遅かれ早かれ社員離職や人材採用難などの問題の発生が懸念されるでしょう。

残業時間削減を進めるに当たって、企業が根本的に見直すべき課題とは何なのでしょうか。

働き方改革は「カネ」ではなく「ヒト」の対策

「ヒト」「モノ」「カネ」は、経営の3大資源(または「情報」を加えた4大資源)と呼ばれていて、経営者はこれらの資源をバランスよく確保し、運用することが求められます。

本来、働き方改革は、過重労働対策や働きやすい職場環境づくりを進めることで健康障害や離職による労働力損失を防止しようとする「ヒト」の対策ですが、残業代削減をそのまま会社の利益にしている会社は、働き方改革を「カネ」の対策と捉えていると言えます。

新たなサービスや商品を生み出し、企業が成長していくためには「ヒト」である社員の力が必要不可欠です。

「カネ」の対策はもちろん重要ですが、中長期を見据え会社が確保すべき経営資源が何なのかを十分に検討することが必要でしょう。

賃金水準の低下による影響の検討

経営者の多くは、成果にかかわらず労働時間の長さに基づいて支払わなければならない残業代を「無駄なコスト」と考えているのではないでしょうか。

実際、残業代目当てにダラダラと仕事をする生活残業型の社員は少なからず存在します。

とはいえ、残業代の削減が経営者から見れば合理的なコストダウンであっても、社員の立場からすれば賃金水準の低下であり、実質的な賃金カットに他なりません。

本来、賃金水準は、必要な人材を確保するために高度な経営戦略に基づいて決定されるべきものです。残業代の削減は、コストダウンの観点からだけでなく、適切な賃金水準の決定の観点からも別途検討を行わなければなりません。

残業代の減少が離職のきっかけになることも

現在、従業員の離職や採用難等により収益が悪化したことなどを要因とした「人手不足倒産」が増加し、2018年8月は過去最多を記録しています(*1)。

また、倒産とはいかずとも、人材確保が原因となって事業に影響がでている企業は約4割、飲食サービス業に至っては約6割にのぼるそうです(*2)。

業務効率化によって労働時間削減するのが望ましい一方で、業務量が変わらず残業時間だけ減少しているのであれば、社員の時間当たりの業務量は増加しています。業務効率化なきまま労働時間を削減すると、従業員は「仕事が終わらない」「成果が出ない」といったジレンマに悩まされ、隠れて残業を持ち帰る、いわゆる「ステルス残業」にも繋がりかねません。それにも関わらず収入が減ってしまうのは労働条件の悪化であり、社員の士気が高まるはずはありません。

教育費や住宅ローンなどの支払いに残業代をあてにしていたという社員も少なくなく、残業時間の削減による収入減が離職のきっかけにもなりかねません。

企業には、ただ単に労働時間を削減するだけでなく、本質な業務改善のもと、社員の収入を一定水準以上維持し、さらには上昇させていくための取り組みが求められます。

【参考】
*1:人手不足倒産が最多更新 8月に45件 – 毎日新聞
*2:リクルートワークス研究所 Works Report 2018「サービス産業の新しい働き方」Part1 サービス産業の人的課題

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