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働き方改革法における「産業医の機能強化」。事業者が行うべき対応とは?

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こんにちは、アクシス社会保険労務士事務所の大山です。

いわゆる「働き方改革関連法」が、2019年4月から順次施行されます。

「働き方改革」の趣旨は言うまでもなく労働環境の改善にありますが、この「労働環境」とは、労働安全衛生環境も含まれる概念です。

したがって、「働き方改革」には、企業の労務管理関連部署自身の取り組みと、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学的知見を持った「産業医」と事業者との連携強化が欠かせないことになります。

そこで今回は、「働き方改革」における産業医との連携強化をテーマに解説します。

「産業医」とは?

産業医とは、労働安全衛生法で規定され、一定以上の従業員を有する事業場で、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について、厚生労働省令で定める一定の要件を備えた者のことです。

厚生労働大臣が定める研修を修了し、労働衛生コンサルタント試験に合格した医師が、産業医として企業に嘱託あるいは専属で選任されます。

産業医の「選任条件」

事業場単位でその労働者数規模により選任する産業医の人数と選任形態が下表のように決められています。

事業場単位でその労働者数規模により選任する産業医の人数と選任形態が決められている(表)

※ 特定業務

イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
ホ 異常気圧下における業務
ヘ さく岩機、鋲打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
ト 重量物の取扱い等重激な業務
チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
リ 坑内における業務
ヌ 深夜業を含む業務
ル 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り 扱う業務
ヲ 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベン ゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
カ その他厚生労働大臣が定める業務

「衛生委員会」とその役割

常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、産業医・衛生管理者・事業場の労働者で衛生に関し経験を有する者などからなる「衛生委員会」を組織する必要があります。

毎月1回以上招集して、労働者の健康障害の防止対策」、健康保持増進策、労働災害の原因及び再発防止対策で衛生に関することなどを調査審議し、事業者に意見を述べることをその役割とします。

働き方改革法における「産業医の機能強化」

産業医はこれまでも、各事業場で開催される衛生委員会で、労働者の健康障害防止や健康保持増進策などについて調査審議し、事業者に意見を述べる重要な役割を与えられています。

したがって、2019年4月から順次施行される法改正のうち、改正労働安全衛生法では、産業医の衛生委員会内及び事業者への権限強化が規定されます。

具体的にみていきましょう。

産業医への「情報提供」の強化

2019年4月から事業者は、選定産業医に以下の情報を提供する義務を負います。

  • 1ヶ月あたりの「時間外・休日労働時間」が80時間を超えた労働者の氏名、及びその労働者の超えた労働時間に関する情報、並びに労働者の業務に関する情報で産業医がその労働者の健康管理に必要と認める情報
  • 健康診断実施後の措置等

医師*による「面接指導」の強化

上記情報提供の強化は、医師による面接指導の強化と対をなすものです。医師は上記情報提供に基づき、一般労働者の希望があれば実施される医師による面接指導を事前に提供される情報をもとに実施することになります。

また、今回の法改正で同時に実施される「高度プロフェッショナル制度」に該当する「新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務につく労働者」および「特定高度専門業務・成果型労働制の対象労働者」については、「時間外・休日労働時間100時間以上」であれば、労働者の希望のあるなしにかかわらず、医師の面接指導が義務付けられます。100時間未満でも、希望すれば面接指導をするように努めなければなりません。

* 面接指導を行うのは産業医に限らないのでここでは、医師としています。

「勧告」の強化

産業医に提供される情報などから判断され、その結果として産業医により事業者に行う「勧告」の意味合いが強化されました。

これまでは、産業医の勧告は、事業者側で「尊重」するにとどまっていました。しかし、4月からは、勧告された内容は、事業主により衛生委員会若しくは安全衛生委員会への報告が義務づけられました。

さらにその勧告を受けて行った事業者側の措置等を議事録に記録し保存することが義務づけられたため、「勧告を尊重する」にとどまらず、事業者側による何らかの具体的な対応が必要になります。

事業者(労務担当者)が注意すべき具体的対応事項

(1)産業医への「時間外労働時間」の報告

2019年4月以降は、産業医との連携強化を図るべく、労働者1人ひとりに対する労働時間の客観的把握を徹底し、毎月欠かさず産業医に報告する必要があります。

これまでは管理職の労働時間の把握は比較的ルーズだった事業所も、例外なく管理職も管理対象にしなければなりません。

(2)産業医への「必要な措置内容」の報告

産業医は、面談結果を踏まえ、当該労働者への今後の措置等に関する意見を事業者に述べます。

事業者は、産業医の意見に基づき実施した措置内容を産業医に報告します。

さらに、産業医は措置状況を確認したうえで、さらなる措置が必要と認めたときは、「勧告」を行います。事業者は、上記「勧告の強化」で述べたように衛生委員会等への報告や、議事録への記録を欠かさず行うことになります。

(3)面談を希望しやすい環境整備

働き方改革の第一歩は、長時間労働の是正です。したがって、長時間労働でアウトプットを向上させるのではなく、決められた時間内で合理的な緊張感で付加価値の増大をはならなければなりません。

しかし、実情として長時間労働の現実がある以上、いきなり大幅削減、というのも難しいでしょう。

そこで、1ヶ月あたりの時間外・休日労働時間が80時間を超えた一般労働者、および1ヶ月あたりの時間外・休日労働時間が100時間未満の高度プロフェッショナル制度対象労働者が、躊躇することなく医師との面談を希望できる職場環境の整備が急がれます。

(4)消費時間の低減

付加価値の増大をもたらすために事業者ができることは、多々ありますが、今回のテーマの趣旨から外れない範囲で一つだけ挙げるとすると、労働時間のうちの消費時間の低減、とりわけSNS等の活用による「移動時間の低減策」は、フィールドワーカーには、直ちに効果を発揮します。

事業者(労務担当者)は、働き方改革の現場レベルでのメインキャストです。

改正労働安全衛生法をはじめとして、その趣旨を十分に理解し、産業医への情報開示方法と、面談環境の整備、時代に合わせた生産性の向上策を早急に具体化する必要があります。
(了)

【編集部より】働き方改革関連法 必見コラム特集

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