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約4割がハラスメントを受けた経験あり。事業者・労働者が注意すべきポイントは?

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こんにちは、アクシス社会保険労務士事務所の大山敏和です。

日本労働組合総連合会(略称「連合」)が調査した仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査 2019によると、職場でハラスメントを受けた経験があると答えた人が約4割に達し、そのうちの約9割(全体の3割強)がパワハラ関連でした。

また、厚生労働省が行った「平成28年度 職場のパワーハラスメントに関する実態調査」では図1の通り、企業の相談窓口で受けた相談の約32%がパワーハラスメント関連(セクシャルハラスメントが約15%)だったと伝えています。

図1 従業員から相談の多いテーマ(上位2項目) (複数回答)

出典:厚生労働省「平成28年度 職場のパワーハラスメントに関する実態調査

昨今ではハラスメントについての問題意識が高まり、国の取り組みでも、各種法制化の動きが盛んになっています。

とりわけ、職場内での経験及び相談件数が最も多いパワーハラスメントについては、「労働施策総合推進法」の改定案が、2019年5月29日に参議院で可決、6月5日に公布され、来年の6月までには施行(中小事業主は、措置義務が施行から2年間猶予)されます。

今回は、ハラスメント全般に焦点を当てながら、とりわけパワーハラスメントについて、その特徴と注意点について解説します。

どのような場合に「ハラスメント」になる?

ハラスメント(Harassment)とは「悩ますこと、いやがらせ、悩み(のたね)、執拗」を意味します。

職場におけるハラスメントの定義は、「他者に対する発言・行動等が本人の意図には関係なく、相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えること」とされています。ここで典型的なハラスメントの代表としてパワーハラスメントとセクシャルハラスメントの定義を引くと、それぞれ以下のようになります。

■ パワーハラスメントの定義(改正労働施策総合推進法):
優越的な関係(例えば上司と部下)を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動で労働者の就業環境を害すること

■ セクシャルハラスメントの定義(男女雇用機会均等法):
職場において相手(労働者)の意思に反して不快や不安な状態に追いこむ性的な言動に起因するものであって、
(1)職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること、または
(2)職場において行われる性的な言動により労働者の就業環境が害されること

これらの定義を見ると、パワーハラスメントとセクシャルハラスメントの成立要因に違いがあることがわかります。

セクシャルハラスメントは明快で、性的な言動をされる側が「不快感や不安感」を持てば、労働条件や就業環境が害されることはほぼ間違いなしです。一方のパワーハラスメントの場合は、「業務上の必要性と相当な範囲」がどこにあるのかはケースバイケースで、言動をする側とされる側で見解が分かれるところです。

すなわち、セクシャルハラスメントは、性的な言動をするほうにどんな言い訳があろうと、される側の主観でハラスメントが成立するのに対して、パワーハラスメントは、優越的な関係を背景に上司が「業務上必要なことを相当な範囲で命じた」ことが、部下にはパワーハラスメントと感じたとしても、そのことをもってパワーハラスメントになっているかは一概に判断できません

このことが、パワーハラスメントの対策を難しくしているところでしょう。

パワハラについて事業者・労働者が対策すべきことは?

まず、事業者・労働者がすべきことを考えるために、相談件数の最も多いパワーハラスメントにおける「業務上必要かつ相当な範囲」について考えましょう。

パワーハラスメントにおける上司の見解とそれをされた部下の見解が異なるとき、上司は「業務上の目的を達成するために必要な要求(言動)だからパワハラではない」と主張し、部下は、「人格を貶める言動を受けたから相当な範囲を超えているのでパワハラだ」と主張します。このように多くの場合、パワハラをするほうは、業務上の目的の正当性を主張し、パワハラと感じたほうは、その手段が「相当な範囲」を超えていると主張します。

事業者が対策すべきこと

パワハラをパワハラと感じていない管理者が、企業の業績を伸ばしているとしたら、事業者はこの者をどう評価すべきでしょうか。

事業者は、管理者が部下に一定のプレッシャーを与えて短期的な業績を獲得しても、部下に与えている悪影響(上司への不満、職場への不満、会社への不満、仕事への意欲低下)が、生産性の低下として一気に現れてくることを知るべきです。

このことを踏まえ、事業者は短期的な業績を問われるプレッシャーの中で難しい選択となりますが、中長期的な視点で事業者がすべきパワハラ対策を箇条書きで示します。

  1. 事業者が自ら主催してパワハラ対策会議を定期的に開く
  2. 事業者名でパワハラへの取り組みを示す真摯なメッセージを労働者にアナウンスする
  3. 無節操にパワハラとされないようパワハラの例示、罰則を決め、社内のルールを明確にする
  4. 管理者、労働者向けにパワハラ防止研修を開く
  5. 相談窓口を設置し、相談者の感情を汲み取る

労働者が対策すべきこと

仕事を進めるにあたり、上司、先輩が部下、後輩を叱ることはあるでしょう。

仕事を共にする上司と部下、あるいは先輩と後輩が日ごろからコミュニケーションを密にし、上司・先輩が相手の意見を聞き、ある程度の失敗を許す許容範囲を持っているとき、部下・後輩に「無能だ」「やめてしまえ」と言ったとして、それをパワハラと感じるでしょうか。これは「人間関係をどう構築しているか」に左右されると考えます。

このほかの労働者がすべきパワハラ対策を箇条書きで示します。これらは、業務遂行の普遍的真理でもあります。

  1. 上司・先輩は、部下・後輩の話を聞いて指導する
  2. 叱る場合は、叱る理由を明確にし、短時間で終わる
  3. 叱るとき相手の人格を否定しない
  4. 会議など大勢がいる場所で個人を叱らない
  5. 叱った後は、声掛けをするなど何らかのフォローをする
  6. 部下・後輩は、上司・先輩に報・連・相を欠かさない

あまり知られていないが実はハラスメントにあたるケース

冒頭に紹介した、厚生労働省の実態調査で企業の相談窓口で受ける内容では、パワーハラスメントとセクシャルハラスメント以外のハラスメントは、ほとんどなかったという結果になっていますが、今後の傾向を踏まえて、あまり知られていないものの知っておくべきハラスメントについて紹介します。

理解型パワーハラスメント

これもパワーハラスメントの一種ですが、あえて「理解型」としました。理解型とは、一般には流布していないのでここだけの命名です。

パワーハラスメントの内容を類型分類すると6種の類型(*)にわかれ、その第4番目に「過大な要求」があります。これは部下の能力や経験とかけ離れた過大な要求をすることです。

たとえば理解型パワーハラスメントでは、定時では終わらないレベルの仕事量であるのに対し、残業をさせないよう定時になったら「帰りなさい」と勧めるタイプのハラスメントです。「働き方改革」の流れに乗った、一見部下を思いやる態度であっても、命じた仕事量とのバランスが取れていなければこれはハラスメントにあたるでしょう。

(*)パワーハラスメントの6類型

  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個(プライバシー)の侵害

リテラシーハラスメント

これも一般に流布した言い方ではありませんが、一部の人、あるいは仲間内でしかわからないような専門用語や新語を自慢げに使って仕事を進めることにより、特定の人を職場内で孤立させる古くて新しいハラスメントです。

略語や新語が飛び交うIT関係の企業で要注意です。

パタニティハラスメント(パタハラ)

よく言われるマタニティハラスメントの男性版です。育児休業も女性同様に取得できる制度は確立されましたが、企業内風土として、仕事より家業を優先することが悪であるかのような悪しき慣習により起こりがちなハラスメントです。

男性の育児休暇取得率が数パーセントにとどまっているのは、パタハラの企業風土が残っているからに他ならないと考えられます。

ハラスメントを未然に防ぐ心がけ

上司や先輩にあたる人は、「ハラスメントになるとは思わなかったが、結果としてハラスメントになってしまった」ということがないように注意する必要があるでしょう。

日ごろから双方向のコミュニケーションに努めるとともに、自分の中に指針を持ちましょう。「労働者が対策すべきこと」の中で述べたこともその指針です。部下や後輩個人への感情が先に立つことで「相当な範囲を超えた言動」になってしまわないように、相手をその個人ではなく、「その立場の別人」に置き換える心がけです。その立場の別人に掛けられる妥当な言動なら、それは相当な範囲を超えない言動です。

また、相手だけではなく、「自分の立場と同じ別人」にも置き換えたときに、同様の言動でアドバイスをするに違いないと考えられるのであれば、相当な範囲を超えていない言動と言えるでしょう。

2020年の6月までに施行(中小企業を除き、施行日は、4月1日ではないかと言われています)される、「改正労働施策総合推進法」を待つまでもなく、パワハラを未然に防ぐには、日ごろから風通しの良い人間関係を築くことが、対策の第一歩と言えます。

(了)

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