助成金活用のススメ。ただし注意点も【飲食・小売業、人事カイカク#14】
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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。
自社の「働き方改革」を推進するうえで、従業員に対して、労働条件の向上、職場環境の改善、人材育成などに取り組みたいとお考えではありませんか。
例えば……、
- 優秀なパート・アルバイトを正社員に転換して、長期的に安定して人材を確保したい。
- ワークライフバランス推進のため、育児や介護を抱えるスタッフをバックアップしたい。
- スタッフの育成のため、外部の研修機関で研修を受けさせたい。
これらに取り組む際、会社にとっては、かなりのコスト負担となります。そこで、オススメするのが助成金の活用です。
本連載【飲食・小売業、人事カイカク】の14回目となる今回は、厚生労働省の手掛ける助成金について解説します。
厚生労働省の助成金を活用しよう!
助成金は返済する義務がなく、比較的大きな金額を受給できるため、企業にはとても魅力的な制度だといえるでしょう。
厚生労働省の助成金は、雇用保険料や労災保険料の一部を原資にしています(雇用保険を原資とした「雇用関係助成金」と、労災保険を原資とした「労働条件等関係助成金」に大別されます)。
ここでは触れませんが、この他にも助成金、補助金、奨励金などの名称で様々な助成事業があります。国だけではなく、東京都の働き方改革宣言奨励金や働き方改革助成金のような、地方自治体である都道府県や市区町村が独自に助成しているものもあります。
助成金申請から受給までの注意点
助成金はそれぞれの要件に合った取り組みを計画・実施したうえで、必要書類を整えて期限内に支給申請し、労働局の審査をクリアすれば、助成金を受給できます。
注意点としては、助成金は申請書を提出してから受給決定、そして実際に入金されるまで、相当な時間を要することです。半年〜1年近くかかることもありますので、助成金をあてにした資金繰りは避けるべきでしょう。
また、施策に取り組むにあたって、研修費など実際に必要なコストは先に支払っておくことになります。
助成金は、制度や要件を十分に理解した上で活用してください。
助成金の支給申請ができる事業主とは?
助成金の支給申請ができる事業主について、助成金の「共通する要件」は以下の通りです。
【共通する要件】
- 雇用保険適用事業所の事業主であること
(「労働条件等関係助成金」については、労災保険加入していればよい。) - 過去3年以内に助成金の不正受給をしていないこと
- 労働保険料を滞納していないこと
- 過去1年間に労働関係法令違反により送検処分を受けていないこと
- 風俗営業等関係事業主でないこと
- 暴力団との関わりがないこと
- 支給申請日、支給決定日の時点で倒産していないこと
- 支給のための審査に協力すること(実地調査に応じるなど)
- 労務管理上必要な書類を整備・保管していること(出勤簿、賃金台帳、労働者名簿等)
- 不正受給等の場合、企業名公表することにあらかじめ同意すること
助成金の要件とは
助成金はたくさんの種類があります。
実際に助成金を受給するためには、支給申請できる事業主の共通要件の他に、各助成金の個別の要件も満たさなければなりません。
- 会社都合による解雇をしていないこと(助成金により、期間の要件あり)
- 対象となる労働者を雇用保険、社会保険に加入させること(要件に該当する者)
などの要件もありますので、十分に確認しましょう。
年度ごとに、要件が変更になる、新しい助成金が新設される、助成金自体が廃止になることがあるため、情報を把握していないと申請が難しいことがあります。
「中小企業事業主」の範囲
助成金の対象となる企業については、厚生労働省のホームページや各助成金のパンフレットで確認が必要です。
大企業と中小企業では助成内容、助成金額が異なっていることがあります。また対象が中小企業のみで、大企業は対象外としているものもあります。
ここでいう「中小企業」とは以下の範囲を指します。
生産性を向上させると助成金額が増額します!
働き方改革を推進するうえで重要なのは、「労働生産性の向上」です。
それに関連して、助成金を活用するにあたり生産性向上に寄与した場合、助成金額が増額されます。
生産性向上要件については、厚生労働省が定めた以下の計算式等を確認してください。
オススメの助成金とは?
特に活用したい助成金を以下に挙げます。
助成金額や、支給要件、実際の申請手順等は、パンフレット等で十分に確認してください。
(1)キャリアアップ助成金
契約社員、パート、アルバイト、派遣労働者などの有期雇用契約労働者に対し、待遇改善、安定的に雇用する取り組みや「同一労働同一賃金」に資する取り組みを行うときに活用できる助成金です。
特に、正社員化コースは、有期雇用契約労働者を無期転換や正規転換する、または派遣労働者を直接雇用するときに活用できるため人気があります。
・「キャリアアップ助成金」
(2)人材確支援保等助成金(雇用管理制度助成コース)
正社員に対し、評価・処遇制度や研修制度、健康づくり制度、メンター制度、短時間制社員制度を整備するときに助成されます。
・「人材確保等支援助成金」
(3)両立支援等助成金
男性の育児休業等取得推進に取り組む、中小企業が仕事と育児や介護の両立支援に取り組む、女性が活躍しやすい職場環境を整備し、目標を達成する(300人以下の中小企業)など、ワークライフバランスに関する取り組みをするときに活用できる助成金です。
・「両立支援等助成金」
(4)時間外労働等改善助成金(労働条件等関係助成金)
時間外労働の上限設定を行う、勤務間インターバルを導入する、年次有給休暇の取得促進、所定外労働の削減等を推進する、在宅又はサテライトオフィスにおいて就業するテレワークを導入するときに活用できる助成金です。
(5)人材確保等支援助成金(働き方改革支援コース)
(4)の時間外労働等改善助成金を受給した事業主が対象です。
働き方改革に取り組む上で、人材を確保することが必要な中小企業が、新たに労働者を雇い入れ、一定の雇用管理改善を図る場合に助成されます。
助成金活用で人事労務担当者が注意すべきこと
助成金の活用において、担当者は以下のような点に注意する必要があります。
日ごろの労務管理が重要
助成金申請する際には、添付書類として出勤簿(タイムカード)、賃金台帳、労働者名簿、就業規則などの写しを提出します。
中でも、残業代未払い、最低賃金などは、助成金の審査段階でチェックされる重要な項目です。出勤簿で時間外労働を行っている形跡があるのに残業代が支払われていない、残業代計算が法律で求める基準となっていない、1時間当たりの賃金が最低賃金以上でないなど、問題がある場合は審査が通らないことがあります。
そうならないためにも、日頃から帳簿を整備するなど、適切な労務管理が重要です。
就業規則は現行の法律をクリアし、自社の状況に合ったものを労働者に周知しておきましょう。
不正受給に対しては厳しいペナルティ
虚偽の内容で支給申請することは不正であり、助成金の不正受給は厳しく取り扱われます。
不支給となることはもちろんですが、受給した後であっても助成金を返還することになります。
悪質な場合、不正に助成金を申請・受給した事業主は告発されます。 事業主名等の公表や、中には詐欺罪で懲役2年8ヶ月の判決(*1)を受けたケースもあります。
助成金はあくまでも手段であり、目的ではないことを心に留めていただきたいと思います。
助成金は魅力的な制度であるがゆえ、企業には助成金活用についてダイレクトメールや、電話での勧誘等が頻繁にあるようです。厚生労働省では、厚生労働省の関与を誤解させる表現を用いた勧誘についてホームページや窓口で注意を促しています。
報酬を得て、厚生労働省管轄の助成金を申請代行できるのは、社会保険労務士のみです。
助成金をお考えの時は、事業主が自ら申請するか、助成金に精通した社会保険労務士に相談するのがよいでしょう。
おわりに
制度を知らなければ、申請できない助成金。
【参考】
*1:雇用助成金詐欺事件、実質経営者に実刑判決 東京地裁 – 朝日新聞DIGITAL
賢く情報収集していただき、上手に助成金を活用することで、従業員の待遇改善等を加速させ、自社の「働き方改革」をより一層推進していただきたいと思っています。