「この人員配置はおかしい!」トラブルを避けるために企業ができる対策
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この記事でわかること
- 人員配置の変更の内示で従業員から拒否された際の対処法
- 人員配置の変更がパワハラになっていないかのチェックポイント
- トラブルのない人員配置のために有効な方法
目次
人員配置の変更時に起きやすいトラブル
業務効率の向上や組織の活性化のために、企業では人員配置を変更し、従業員をより適切なポジションに配置するように努めています。
企業は採用や配置、人事考課など従業員の地位の変動や処遇に関する決定権限をもっており、従業員は企業から発令された配置転換(人員配置の変更)を原則として拒否できません。
しかし、転勤など生活地の変更がともなう大がかりな配置変更は、従業員にとってストレスとなり、トラブルの原因になる場合があります。転勤以外でも、目的が不明確である、あるいは従業員への配慮に欠けている人員配置の変更は、企業と従業員の間にわだかまりが生じるきっかけとなります。一度わだかまりが生じてしまうと、従業員の労働意欲や効率の低下だけではなく、離職のきっかけにもなりかねません。
従業員が納得する人員配置とは
2020年10月に株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所が実施した「異動とキャリア開発に関する意識調査」。本調査のなかでは、必ずしもすべての人事異動に否定的なわけではありません。
自身の成長やキャリアにつながる人事異動であれば、肯定的に受け取る従業員も半数以上いることがわかります。
また、従業員が考慮を求める項目として、先述の転勤のように「勤務地の変更」が上位です。そのほかには、「これからと今までのキャリア」や「強み・弱み」「保有スキル」を踏まえたうえでの人事異動を求めているようです。
これらのことから、「従業員の個に着目し、さらなる成長につながる人事異動」であれば、従業員の理解と納得を得られるでしょう。
内示時の異動拒否のトラブル対処法は3つ
企業には従業員の処遇を決める「人事権」がありますが、無制限に人員配置を変更できるわけではありません。人員配置の変更が無効になる場合については後述します。トラブル予防のために、まずは就業規則や雇用契約書の内容に違反していないかを確認しましょう。
従業員の異動拒否や配置後にトラブルが起きてしまった場合の対処方法としては、次の3つが挙げられます。
1. 従業員に十分なヒアリングを実施し、説得する
従業員が移動を拒否した場合は、まずは理由や事情の聞き取りをしましょう。
「家族の介護をできる人がほかにいない」「持病を治療するために特定の病院に通う必要がある」などのやむを得ない理由があれば、異動の取り消しなどの対応が必要になるでしょう。
一方、「業務内容が嫌」「引っ越しをしたくない」などの理由であれば、異動を取り消す必要はありません。その場合は、異動が必要な理由やメリットについて説明し、納得してもらうよう説得を試みてください。
2. 給与・手当などの見直しをする
異動にともない、従業員に金銭的な負担が生じる場合や説得が難航したときは、給与や手当を見直すのも手です。
金銭的な報酬が増えるのであれば、異動に対して納得してもらえる場合もあります。とくに、転勤で引っ越しや住居の費用がかかるのであれば、手当を支給して補償するのが効果的だと考えられます。
3. やむを得ない場合は懲戒処分を検討する
前述したように説得や待遇の見直しを実施しても、正当な理由なく人員配置の変更に応じないのであれば、懲戒処分の検討も必要になってきます。
一般的に、懲戒処分は「戒告」「譴責」「減給」「出勤停止」「降格(降職)」「諭旨解雇」「懲戒解雇」の7種類です。「戒告」や「譴責」などの注意に留まる処分から、「諭旨解雇」「懲戒解雇」など雇用を終了する処分まで、内容の重さは多岐にわたります。企業によっては、上記以外の異なる懲戒処分が規定されている場合もあります。
実際に処分を下す際は、配置転換命令の拒否が懲戒処分の理由になる旨が就業規則に記載されていることを確認し、定められた範囲の中からどの処分を下すかを選択しましょう。雇用を継続する内容の懲戒処分を下したうえで、人事評価や昇給・給与の査定においてマイナス評価をつけるという方法もあります。
また、雇用を継続するわけにはいかない場合でも、裁判などのトラブルにならないよう、いきなり解雇処分を通達するのは避けましょう。まずは企業と従業員双方が同意のうえで決着できるよう「退職勧奨」から始めるという方法もあります。
人員配置の変更がパワハラにならないための対策
企業側にパワハラの意図がなくとも、人員配置の変更が従業員側からパワハラと受け取られてしまう場合もあります。
この項目では、人員配置の変更がパワハラになる条件について確認していきます。
パワハラの定義
そもそもパワーハラスメントとは、どのように定義されているのでしょうか。
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」の第30条の2第1項では、以下の3つの条件すべてに当てはまる言動であると定義されています。
- 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動である
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものである
- 1と2によって労働者の就業環境が害されている
「業務上必要かつ相当な範囲」については社会通念を、「就業環境が害される」かどうかは一般的な労働者の感じ方を基準に判断されます。
そして、パワハラ行為には6つの類型があります。
(1)身体的な攻撃
殴る、蹴るなどの直接的な暴力のほか、相手に物を投げつけるなどの行為も該当します。
(2)精神的な攻撃
相手の人格を否定するような言動が挙げられます。ほかにも、厳しい叱責を必要以上に長時間にわたって繰り返したり、ほかの労働者の前で大声で怒鳴りつけるのも精神的な攻撃に当たります。
(3)過大な要求
おおよそ達成できないノルマを課したり、業務とは無関係の私的な雑用を強いる行為です。
(4)過小な要求
嫌がらせを目的として、本来すべき仕事を取り上げて単調な作業ばかりさせるなどの言動が該当します。
(5)人間関係からの切り離し
仲間はずれや無視など従業員を職場で孤立させるような言動や、長時間別室に隔離する措置は、パワハラに当たります。
(6)個の侵害
プライベートに過剰に介入する行為のほか、従業員の個人情報を他の従業員に暴露するなどの言動も含まれます。
通常の業務でのやり取りだけではなく、人員配置においても変更の目的や内容、命令に至るまでやその後の対応などで上記の6類型に該当する言動があれば、人員配置の変更がパワハラと認定される可能性があります。
具体的に、どのような場合にパワハラになるのかを見ていきましょう。
人員配置の変更がパワハラになりうるケース
人員配置の変更がパワハラとして認定されるケースは以下の通りです。
(1) 人格を否定するような発言があった
内示の際やその後のやり取りで「無能だから異動になった」や「成長の見込みがない」など、本人への侮辱や暴言などがあった場合は、「精神的な攻撃」にあたるパワハラと認定されます。パワハラだと認定されると配属転換の命令自体は有効でも、裁判では無効と判断される可能性があります。そのため、人員配置の変更について説明する際は十分に気を配るべきといえるでしょう。
(2) 能力に見合わない業務に配置した
従業員の自信を喪失させる目的で、能力に対して困難な業務に配置した場合は「過大な要求」に当たります。一方、簡単すぎる業務しか取り扱わない部署への異動は「過小な要求」に該当するでしょう。また、いわゆる「追い出し部屋」のような退職に追い込むための場所に異動させた場合は、「人間関係の切り離し」によるパワハラに認定されます。
(3)妊娠や出産などを理由に閑職に配置した
妊娠や出産、育児・介護休業などの利用を理由に、従業員の同意なく閑職に配置転換するのもハラスメントです。よかれと思った配置転換でも、必ず事前に従業員の希望をヒアリングしてから内示を出しましょう。
(4)従業員個別の事情を考慮せず、無理に異動させた
前述したような介護や通院などのやむを得ない事情を考慮しなかったり、長時間の通勤が必要になったりなど、従業員の事情をまったく考慮しない人員配置の変更も、パワハラに当たると判断される場合があります。
パワハラ以外の理由で人員配置の変更が無効になるケースも
人員配置の変更が無効になるケースは、パワハラ関連以外にもあります。
(1)就業規則や雇用契約書に抵触している
就業規則や雇用契約書に配置転換命令についての項目が記載されていない場合や、記載内容に抵触しているときは無効となります。
(2)人事権の濫用に当たる
人事権を濫用していると判断される場合も、人員配置の変更は無効になります。「人事権の濫用」と判断されてしまう状況は以下の通りです。
- 業務上の必要性がない
- 通常甘受すべき程度を著しく超えた不利益を従業員に負わせている
- 特定の従業員に対する評価が著しく不合理である
- 嫌がらせや見せしめといった不当な動機・目的があると考えられる
とくに4つ目は「報復人事」とも呼ばれています。逆恨みなど上司の私情による配置転換は、命令が無効となるだけではなく、前述したパワハラに認定される可能性があります。
(3)育児介護休業法に抵触している
「育児介護休業法」では、育児休業後の従業員は原則として「原職または原職相当職への復帰する」としています。つまり、休業から復帰する際に配置転換をする場合、「降格」と判断されるポストへの配置は法令違反となる可能性があるのです。
(4)専門職として雇用されているのに、他の職種への配置転換命令が出た
特殊な技術、技能、資格を有する従業員を「専門職」として雇用しているケースも注意が必要です。雇用契約書に職務を限定する旨の記載がある場合は、無関係な部署への配置転換命令は無効となる可能性が高いです。
準備が肝心!人員配置の変更のトラブル防止のために人事担当者ができること
スムーズに人員配置を進めるには、人事担当者を中心とした入念な事前準備が重要です。
ここからは、人事担当者が気をつけるべき配置転換のポイントについて見ていきます。
就業規則、雇用契約書などの規則を整備する
まずは企業の就業規則や雇用契約書に、配置転換についてどのように記載されているかを確認します。人員配置の際は、検討している配置案が記載内容に抵触していないかチェックが必要です。
就業規則や雇用契約書に人員配置について記載がない場合は整備しましょう。労使間で対立した際に、企業側が不利にならないような就業規則の作成が重要です。配置転換命令の拒否を懲戒の事由にできるように「正当な理由なく、会社が命じる配置転換を拒否した場合」などの文言を入れておくことも検討しましょう。
以下は厚生労働省が公開している労働条件通知書の様式からの抜粋です。
(人事異動)
第8条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する
業務の変更を命ずることがある。
2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させること
がある。
3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。
人員配置を変更する必要性を踏まえる
配置転換は、業務効率化や社員への教育などの明確な目的のもとで慎重に進めなければならない、という意識も必要です。
人員配置の変更は、従業員にとっては働く環境や生活が変わる大きなイベントです。短期間に何度も配置転換を実施するなど、必要性を疑われるような変更は避けましょう。
従業員の業務や家庭の事情を十分に配慮する
人事権を有する企業ですが、従業員の業務や家庭の事情に配慮する必要があります。
企業側にとっては人員配置を最適化するための異動でも、従業員が望まない異動は労働意欲の低下や離職の原因となり、企業も結果的に損失を被ってしまうかもしれません。また、従業員の事情を考慮しない人員配置の変更には、命令を出すまでの経緯や配置後の部署でパワハラや人間関係のトラブルが生じるリスクがあります。
配置転換をきっかけに人材が流出してしまうのは本末転倒です。必要に応じて、従業員の事情をヒアリングするなど事前に情報収集するのも良いでしょう。
内示で異動の目的や必要性を十分に説明する
通常、配置転換命令の前に「内示」というかたちで従業員に人員配置の変更を通達します。
内示は、従業員が業務を引き継いだり新生活の準備をしたりするためにも必要です。また、内示の段階で人員配置を変更する目的や必要性を説明できれば、従業員も心の準備ができるでしょう。
内示はただ結果を提示するだけではなく、従業員に目的や必要性が伝わるようしっかりと説明する内容としましょう。
トラブルのない人員配置には、タレントマネジメントシステムが有効
人員配置のトラブルを避けるためには、最新の従業員データに基づいた入念なシミュレーションが大いに役立ちます。
SmartHRでは、蓄積された労務データや人事評価などの情報を活用して、人員配置のシミュレーションが手軽にできます。画面には登録されている部署や平均勤続年数など、部署の統計情報のほか、所属する従業員が顔写真付きで表示されます。従業員の異動シミュレーションは、従業員の顔写真をドラッグ&ドロップで動かすだけで簡単に操作できます。
タレントマネジメントシステムを活用すれば、人事担当者の負担の削減と手間をかけない人員配置シミュレーションの両方を実現できます。
最適な人員配置と、トラブルへの慎重な対応が重要
人員配置のトラブルは、従業員に配置変更の必要性を理解してもらえない場合や、個人の事情を踏まえていない場合に起こりやすい傾向があります。場合によってはパワハラと認定されてしまうケースや、法令に抵触していると裁判所に判断される可能性もあるため、慎重な対応が求められます。
トラブルを防ぐためには、従業員への事前の説明のほか、入念なシミュレーションが欠かせません。効果的なシミュレーションを実現するためには、従業員の最新データの活用が有効です。
最新で正確な従業員データに基づいて意思決定できる人員配置の検討には、ぜひSmartHRをご活用ください。
FAQ
Q1. 配置転換のトラブルには、どのような内容がありますか?
内示の際に従業員が異動を拒否するというトラブルがあります。また、配置転換の内容や経緯によってはパワハラと認定されたり、法令に抵触していると判断されて無効になるケースもあります。
Q2. 配置転換のトラブルを未然に防ぐために、事前に準備しておくべき対策はありますか?
人事データに基づく人員配置の入念なシミュレーションが有効です。そのほかにも、就業規則や雇用契約書の確認と整備や、従業員に配置転換の理由や必要性を十分に説明しておけば、トラブルの防止につながります。