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「組織サーベイ」が組織の健康状態を可視化する。本音に向き合い改善につなげるヒント

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近年、組織の強みや課題を定量的に把握し、個人と組織の成長を目指す「組織サーベイ」が注目されています。

株式会社SmartHRでは2020年にリリースされた従業員サーベイ機能を活用した「組織サーベイ」がスタート。SmartHR社における組織サーベイ実施の目的や、サーベイ展開における工夫、さらには、集計したサーベイ結果をもとにした現場を巻き込んだPDCAについて、人事の六本木さんに伺いました。

組織と個人を可視化する組織サーベイ

はじめに、「組織サーベイ」とは何でしょうか。

六本木さん

「組織サーベイ」とは、組織の現状把握のために、従業員を対象に定期的に実施する調査を指します。なかでもSmartHR社の「組織サーベイ」は、組織や従業員個人の状態変化を早期に把握するためのツールとして開発されました。この「状態」とは、会社にいる間の気持ちの動きを指します。従業員の方が仕事をしているなかでストレスに感じる部分や、「こうありたい」という理想の姿を阻害する要因がないかどうかをチェックしています。

SmartHR社における「組織サーベイ」の具体的な内容を教えてください。

六本木さん

現在の「組織サーベイ」の目的は「組織の可視化」と「個人の可視化」の2軸です「組織の可視化」に関しては、全15問の設問について、前月からの変化を注視しています。とくに、前月からの差が大きな部分に関しては深掘りするようにしています。また、組織の傾向を把握する意味で、「このような点のスコアが上がってきている、下がってきている」といった内容を、人事と現場のマネジメント層が一緒に振り返ることもあります。それが組織課題を発見するきっかけになっているのです。

「個人の可視化」については、人事は従業員のサーベイ回答を一つひとつ確認しています。スコアに大きな変化がある、または自由記入欄にて声を上げている従業員に声がけをして話を聞くなど、組織や個人の心の変化、状態の変化を見つけるために「組織サーベイ」を活用しています。

SmartHR社 組織サーベイ運用イメージ

現在の「組織サーベイ」の実施頻度についてお聞かせください。

六本木さん

「組織サーベイ」は、従業員サーベイがプロダクトとしてリリースされた2020年から月に1回の頻度で毎月実施しています。コロナ禍によりリモートワークが常態化したことで、遠隔であっても従業員や組織の状態を毎月把握できることで価値がさらに高まりました。

2023年初頭に一部設問を見直し、同時に実施頻度について各マネージャーに相談したところ、頻度が減るのは困るという意見が出ました。私たちが思っていた以上に、サーベイの結果を注視し、施策やチームビルディングに活かしてくれているのだと再認識できました。そうした背景もあり、現在も月に1回の組織サーベイを継続しています。

「組織サーベイ」は健康診断。実施後の分析、アクションが重要

「組織サーベイ」がもつ価値についてどのように考えていますか。

六本木さん

弊社には、現場組織の課題解決を担う「組織人事」というポジションがあります。「組織人事」は現場で起きている課題や、起きうる課題の早期発見、改善アクションの提案を理想としています。「組織サーベイ」は、そのスタート地点として有効です。サーベイの結果から「組織の健康状態」が見えるので、課題の仮説を立てられます。たとえるなら、高頻度で健康診断をしているようなイメージです。

従業員からサーベイを回収したあと、人事ではどのように集計、分析をしているのかお聞かせください。

六本木さん

現在は従業員サーベイのダッシュボードで分析を進めています。記述欄の回答は表計算ソフトも併用し、個別の回答を人事がすべてチェックしています。あわせて、ダッシュボードで全体の傾向を把握し、組織ごとに分析結果を共有する流れです。

また、経営会議においても全体の傾向、スコアの急な変化などを報告しています。

従業員サーベイ クロス集計イメージ

平均回答率90%。従業員の本音は人事に届いているのか。

SmartHR者の組織サーベイの回答率は平均90%を超えています。高い回答率を維持できている理由は何でしょうか。

六本木さん

自社プロダクトなので従業員の意識が向きやすいのは大きいかもしれません。さらに「組織サーベイ」以外に定期的にほかのサーベイも実施しているので、「サーベイ回答を習慣化させる」ことはコツといえるかもしれません。

また、部署によっては、マネージャー自ら「明日が組織サーベイ回答締め切りです」といったリマインドをしてくれることもあります。

組織サーベイ内での設問において、従業員が回答しやすいように工夫されているポイントはありますか。

六本木さん

とくに回答する側の負荷は気にしています。回答必須の設問は選択式にし、最短1分で終えられるようにしています。また、回答しやすいインフラ整備についても意識していますね。スマートフォンアプリがリリースされたことは追い風になっていると思います。

従業員サーベイの機能紹介ページでは従業員の本音が集まってくることを訴求していますが、SmartHR社の組織サーベイでは従業員の本音が集まっている実感はありますか。

六本木さん

素直に回答いただけている実感はあります。スコアに急な変化がある方や「ネガティブ」な選択肢を選んでいる方へヒアリングすると、考えていることを赤裸々に語っていただけます。

たとえば、「人間関係で困っていることがある」、「上長と折り合いが悪い」など本人が抱えている悩みを打ち明けてくれます。

従業員からの本音にどう向き合っているのか

「本音が聞きたい」と考える企業が多いなかで、実際に本音への向き合い方に苦慮されている人事も多いと思います。SmartHR社では届いた本音に対してどのような対応をしていますか。

六本木さん

弊社人事は毎回すべての回答に目を通し、内容に応じて個別に対応しています。とくに、コメントに強い想いを書いている従業員には1on1面談などのアクションをしています。

マネジメントへのアプローチではなく、該当の従業員へ直接アプローチしているのですね。

六本木さん

2022年ごろまではサーベイの結果を人事から現場マネジメント層に伝え、「内容に思い当たることはありますか?」と聞いていました。しかし、マネジメント層の想像で物事を語ってしまうケースもあり、課題に感じていました。

現在では、対象の従業員と人事が直接話すようになりました。その後にマネジメント層にフィードバックすることもあります。やり方は組織ごとに独自に進化してきていますし、現在も日々模索している最中です。

1on1面談では従業員とどのような対話をするのでしょうか。

六本木さん

1度の1on1面談で悩みを聞き、課題が解決になるケースは少ないので、翌月にも「その後どうですか?」と声をかけており、継続して状況確認を続けています。

サーベイに本音を記入してくれる方は、「組織を自分ごととして考えているタイプ」が多いので、組織改善のヒントになるケースも多く、人事にとっても非常に価値があると考えています。時間はかかりますが、結果的に本音に一つひとつに向き合っていくやり方が現在のベストだと思っています。

数か月にわたって、対象の従業員の本音に向き合い続けた結果、根本的な課題解決に至らないケースもあるのでしょうか。

六本木さん

「これで解決」と線引きするのは難しいと感じています。ただ意識しているのは「人事だけが改善アクションをする形にしない」ことです。

たとえば、ある従業員の話を聞いて「人事からマネージャーに話を聞いてみます」と伝えると、人事が動いてくれるのだと従業員側の期待値が上がり、思った形にならないときの落胆も大きくなります。

しかし、実際は個人の課題は100%周囲の責任ではなく、本人自身が改善すべきポイントもあるはずです。なので、「人事はこうします。あなたはこうしてもらうことは可能ですか?」と、従業員の方にもボールを持ってもらうように意識しています。実際、ご自身で動くことで見える景色が変わり、状況が改善することも多いんです。

それでは、「サーベイ自体に回答をしていない従業員」にはどのような対応をしていますか。

六本木さん

2か月連続で回答がない方に対しては、人事から「気になっていることはありますか?」「1on1でお話を聞かせてください」といったコミュニケーションをしています。

サーベイ回答の有無はマネージャーも確認ができるので、マネージャーから声がけをする部署もあるそうです。

ネガティブ変化は伸び代。ポジティブ変化は組織改善の種になる

マネージャーに対して、個別対応が必要なサーベイの結果をどのようにフィードバックしていますか。

六本木さん

場合によっては、マネージャーからコミュニケーションをとってもらうこともあります。人事が動くより、マネージャー自身が一次情報を得ることで、スムーズに課題を解決できると判断したときは、積極的にこの方法を取っています。

「匿名回答なのに、マネージャーに共有されるのは嫌だ」という反発はないのでしょうか。

六本木さん

状況によって臨機応変に対応を変えています。「マネージャーに共有したうえで解決に向けて動く」と判断した場合は、あらかじめ該当の従業員から了承を得るようにしています。

1on1面談で個人のケアをしつつ、マネージャーには個人に向けた働きかけではなく、環境改善などで協力を得るケースもあります。

たとえば、Aさんが悩んでいる事項があったとして、主語をAさんではなく、チーム全体で語るように促せるようにサポートします。

人事とマネージャー間でどのように組織サーベイの結果を振り返っていますか。

六本木さん

組織ごとに方法は異なるのですが、分析したサーベイ結果を参照しながら、「ここの数値が先月に比べて大きく変化しましたが、マネジメントをしているなかで、気になったことはありましたか?」などとマネジメント層にヒアリングを実施します。

ここではネガティブな変化だけではなく、ポジティブに変化しているスコアに対しても同様にヒアリングしています。ネガティブな変化は伸び代、ポジティブな変化は組織改善の種として捉えています。マネジメントしているみなさんも、ネガティブな話ばかりしたいわけではありません。ポジティブな変化ついて話をするときは本当に楽しそうで、それは人事としても本当にうれしいことです。

組織サーベイの結果は、経営会議でも発表されていますね。

六本木さん

そうですね。しかし、経営層を巻き込んだ形での組織サーベイ活用の観点では、まだ100点とはいえません。

現在の組織サーベイの内容は、経営会議で毎月、組織サーベイの回答内容の推移を報告しています。ただ、報告内容から具体的に組織としてどうすべきかを示せているわけではありません。

このあたりの改善は人事のなかでも模索中ですね。「事業の状態と組織サーベイの結果をセットで報告をした方が、価値が生まれるのでは?」「経営企画や事業運営者の視点を組織サーベイの分析に盛り込んでみる」など、アイデアを出しあっています。

事業貢献にプラスになる組織サーベイを目指してリニューアルプロジェクトが進行中

今後「組織サーベイ」をどのように改善していく予定ですか。

六本木さん

現在、「組織サーベイ」のリニューアルプロジェクトが進んでいます。現時点では、2025年1月以降に新しい組織サーベイをスタートする予定です。これまでの組織サーベイは、現場のマネジメント向けの観点が強い性格です。今後は「人事施策がうまくいっているか」「人事のやっていることが経営にプラスになっているか」「バリューはどれくらい浸透しているか」など、さまざまな役割を担うサーベイに改良する予定です。

とはいえ、まだ足りていないところもあるので、「どういう形で報告するか」「どういう情報提供をすると誰が嬉しいか」などの事業貢献を意識した体制をしっかり整えるつもりです。

来年のリニューアルに向けて準備が進んでいるのですね。具体的にどのような見直しをされているのでしょうか。

六本木さん

現在は、設問が増えるのを懸念して項目を絞っています。そのため、抽象的な設問内容になりがちです。たとえば「部署や本部の雰囲気は自分に合っているか?」といった抽象的な質問は、設問の目的にあわせて大きく変えていってもよいかもしれません。

現在の目的は「組織の可視化」「個人の可視化」の2軸ですが、リニューアル後は目的そのものを変えることになりそうだと感じています。

「人事施策がうまく機能しているか」など、よりメタな視点で活用するには、設問も変える必要があります。従業員が回答しやすいようにシンプルにしたい反面、目的を考慮すると設問が複雑化してしまうジレンマが発生します。引き続きどのような形がベストなのかプロジェクトチームで見極め、準備を進めていきます。

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