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年間応募者数が20倍に。ベンチャー型町工場が実践する人材採用術

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目次

“中小企業が目指す 攻めの人材戦略” をテーマに開催されたカンファレンス「SmartHR Agenda #5」。さまざまなゲストをお招きし、「人材戦略」「採用」「評価」「定着」「育成」「組織づくり」についてのセッションを開催しました。

「『社員の9割が20代』タシロが実践する人材採用術」と題した講演では、単なる採用ノウハウの紹介に留まらず、従業員が自己成長と働きがいを感じられる組織をいかにつくってきたかについても共有されました。登壇したのは株式会社タシロの田城 功揮さん、朝日インタラクティブ株式会社の高橋 克己さんです。

  • 登壇者 田城 功揮 氏

    株式会社タシロ 代表取締役

    新卒で人材紹介のパソナ入社、同時期にNGOのNICEの理事を務める。2019年タシロ入社。新規事業で自社製品の開発を開始。3WAYピザ窯でクラウドファンディングに挑戦し目標金額の300%を達成。同商品は日本最大規模の展示会である東京ギフト・ショーLIFE×DESIGNアワードグランプリ受賞。2023年代表取締役就任。年間求人応募数は5年で数名から200名に増加。「日本で一番挑戦するベンチャー型町工場」を掲げ、町工場から日本の産業の盛り上げを狙う。

  • ファシリテーター高橋 克己 氏

    朝日インタラクティブ株式会社 事業戦略推進室サブマネージャー / ツギノジダイ

    2012年朝日新聞社入社。販売局外勤職として、主に近畿・北陸エリアにおける朝日新聞販売店(ASA)の営業支援&経営コンサルティング業務に従事。2022年からツギノジダイの運営に加わり、広告営業や事業開発を担当。2023年4月からツギノジダイの事業移管に伴い朝日インタラクティブへ出向中。

戦略的な「話題づくり」で年間応募者が20倍に増えた

登壇をしてお話する田城さんの様子の写真

田城さん

株式会社タシロは、精密板金加工をメインに切削や商品開発を手がけています。今年で創業59年、従業員数13名の会社です。私は2019年に入社し、昨年3代目の代表取締役社長に就任しました。

「採用」は、多くの中小企業が正解のない課題として、試行錯誤を繰り返していると思います。有料の求人媒体に求人募集をかけてもなかなか効果が出ない会社は多いと思います。 以前のタシロもそうでした。

私が入社したころ、タシロは年に10名の採用応募が来れば御の字という状態でした。特にものづくりに興味がある人の採用が急務。管理職や中堅の社員は「入社する人がいても、ものづくりに興味がないのですぐ辞めてしまう」とこぼしていたんです。

入社前に人材業界にいた経験を生かし、採用チャネルを増やしたり求人票の書き方を変えてみたりしましたが、成果を出せずに悩んでいました。転機となったのは、日本最大のパーソナルギフトと生活雑貨の国際見本市である東京インターナショナルギフト・ショーへの出展です。グランプリを獲得したことをさまざまなメディアで取り上げていただき、年間の応募者数が100人を超えるようになりました。今ではマシンオペレーターと生産管理の2つの職種への募集で、年間200名以上の方からご応募いただいています。

タシロの応募者推移や転機となった取り組みなど本文の内容をまとめたスライド資料

タシロに応募が集まる理由は2つあると考えています。1つは「土台づくり」です。従業員が働きやすいように制度を整え続けています。もう1つが「話題性」です。常にどこかで話題になっている状況をつくり、求職者のみなさんから「おもしろそう、働きやすそうな会社だな」と思っていただくことですね。

現場の声を聞き、中小企業の魅力を活かした採用戦略

田城さん

採用に悩んでいた時期、弊社がまず着手したのが採用戦略の見直しでした。どんな会社にしたいのか。そのために、どのような人を採用したいのか。その人を採用するには、どのような採用戦略が必要か。順序立てて考えるにあたって、現場の声も積極的に聞きました。

その結果出てきたのが「未経験でもいいのでものづくりに興味があって、スキルを向上したい意欲の高い人材」という人材像です。新しい物事を吸収しやすい面から考えると、10代から20代の若い年齢層の人材が好ましいという声もありました。

では、ものづくりに関心のある若手人材に応募してもらうためにどうするのか。思いついた手法は2つでした。

1つは「風通しのいい社風」です。肩書きに関わらず社員のアイデアをどんどん商品化して、クリエイティブなイメージを打ち出したいと思いました。

もう1つは「技術力のアピール」です。技術系のコンクールで入賞実績を積むなどして「タシロに入れば高い技術が身につく」という期待を高めたいと思いました。

さっそく2020年5月から取り組みを開始。最初の商品は、魚と猫の肉球をモチーフにしたドアオープナーです。コロナ禍で「公共の場所にあるドアに直接触れたくない」という需要が高まっていたこともあり、yahooショッピングのカテゴリーの月間売上で1位を獲得するなど出だしは順調でした。

その後も、猫好きの社員が熱伝導率が高いアルミ製の猫用冷却シートを開発。付加価値の向上のためにクラウドファンディングを立ち上げるなど活発な活動が続きました。ユーザーさんから「今までにないアイデア」「デザインがかわいい」といったご感想もいただき、勤続20年になるベテラン社員も「入社してから今までで一番やりがいを感じる」と言ってくれました。自社商品の開発事業は今後も発展させ続けたいと考えています。

猫用冷却シートなど本文中で言及された自社商品の写真をまとめたスライド

田城さん

中小企業というのは、みなさんが思う以上に魅力的だと思います。学情が2023年・2024年の就職活動生を対象に実施した調査によると、「どのような企業に魅力を感じるか」という質問に、最も回答が多かったのが「待遇面と働きやすさ」、次に「転勤がないこと」や「裁量権の大きさ」でした。「これから成長が期待できそうか」「企業のビジョン、パーパスに共感できるか」といった企業への期待値に魅力を感じるという声も少なくありません。

中小企業は転勤が少ないですし、小規模な分、若手社員に与えられる裁量も大きいと思います。経営者や役員と従業員の距離が近い分、従業員の声を職場環境に反映させやすい面もあるはずです。今、本当に魅力的なのは中小企業だと思うんです。

学情が2023年・2024年の就職活動生を対象に実施した調査に付いて本文内容をまとめたスライド

田城さん

なかでもビジョンの構築や職場環境の整備については、従業員とのコミュニケーションが必要不可欠です。経営者がよいと考えるものと、実際に求職者が求めるものとは違うケースも多いからです。その点に注意しながら、制度改革を進めていく必要があります。

発信を続けるには、コンテンツ蓄積の習慣を

田城さん

制度を考えるときに重要なのは「キーワード」です。自社のビジョンからキーワードを設定しましょう。弊社の場合は「残業ゼロ」「年間休日120日以上」「土日は完全休み」「転職なし」「資格取得支援・手当あり」などをキーワードに制度を設計しました。

その結果、求人サイトの検索にヒットしやすくなりました。今後は「有休のとりやすさ」をキーワードに、今は半日単位のみの有休休暇制度を時間単位に変えたいと考えています。

高橋さん

製造業では特急注文によって残業や土日出勤が増えているイメージがありますが、タシロさんではいかがでしょうか?

登壇する高橋さんの様子の写真

田城さん

そうですね。弊社は8時から17時が営業時間ですが、15時半の時点で終わっていない翌日納品の商品があれば、上司に報告してもらいます。その後必要に応じて従業員を増員するなど対応し、残業の削減に努めています。休日出勤に関しては少なくても4年間は0です。

評価では「どのようにがんばり、どのような成果を出せば評価されるのか」を明確にしています。評価基準を細分化し、習得度合いも4段階あり、部門リーダーや課長への昇格基準も同様に明文化しています。

・第1段階:誰かのサポートのもとその業務ができる
・第2段階:1人でその業務ができる 
・第3段階:自分でPDCAを回して業務の改善や工夫ができる
・第4段階:人に教え、育てることができる

評価結果は会社のクラウドサーバーに保存し、評価する側・される側ともにいつでも見られるようにしています。短期間でできる業務が増えたときなどは、上司と不定期で面談を実施。資格取得支援にも力を入れていて、推奨する資格を取得した人には基本給に資格手当が上乗せされる仕組みです。資格ごとの上乗せ金額を公表するなど、透明性の高い制度設計を心がけました。

安心して業務に取り組み、スキルを習得できる体制づくりのために、業務マニュアルの作成やメンター制を導入しています。メンターはその仕事をメインで教えてくれる先輩社員です。一方で従業員が書いた日報に管理職がコメントしたり、私との面談も入社後1か月間はほぼ毎日実施するなど、従業員と経営陣とのコミュニケーションにも注力しています。

より多くのみなさんに会社を知ってもらうという意味では、話題づくりを意識し、発信のもとになるコンテンツをいかにつくるかが大切です。東京ギフト・ショーのような展覧会に出展するのもひとつの方法ですし、技術系のコンテストに応募したり、技術の認定を取得したりするのも有効だと思います。

日ごろからコンテンツを蓄積しておくと、発信のハードルも下がります。弊社でも蓄積したコンテンツを活用してホームページの更新をしたり、SNSやプレスリリース、noteでの発信を続けています。発信が増えていくと、メディアからも取り上げてもらいやすくなります。結果として認知度が高まったのか、新卒社員の採用がうまくいくようになりましたね。 

登壇中にお話をする田城さんの様子

田城さん

選考では、すべての社員が採用に関わることを意識しています。選考フローのなかで社員との座談会を開いたり、業務紹介や工場見学時の会社案内をしてもらったり、募集ポジションの作業を担当する社員にスキルチェックをしてもらったり。「いっしょに働く人はみんなで選ぼう」という考え方のもと、社員にも積極的に選考に参加してもらっています。入社が決まった新入社員のみなさんにも面接ごとに評価ポイントを伝える、内定後もこまめにコミュニケーションをとるなどして、「自分はタシロの一員だ」と感じてもらえるよう努力しています。

中小企業は非常に魅力的であり、中小企業だからこそできることがたくさんあると思います。より多くの人に魅力を知ってもらうとともに、制度を整えて従業員満足度を高めることで、1社1社の個性がさらに輝くはずです。タシロもまだまだチャレンジの途上ですので、一緒にがんばりましょう。

高橋さん

採用というと具体的な打ち手に注目しがちですが、実際には採用戦略の前に考えるべきことがたくさんあると思います。何のために会社が存在するのか、どんな会社にしたいか、そのためにどんな人を採用したいかといった根本的な議論を重視されているタシロさんの取り組みは、非常に印象的でした。ありがとうございました。

セッション後の田城さん、高橋さんの写真

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