次世代リーダー、ミドル層育成のための人材マネジメント

2022.03.11 ライター: 髙橋 豊

日本における労働力不足にともない、企業を支える人材育成が非常に難しくなる中、これからの時代にカギと言われているのが「ミドル層の育成」です。しかし、ミドル層の育成は多くの企業で難易度が高く成功しているケースが多いとは言えません。

今回は、ミドル層そして次世代リーダー育成が難航する原因、そして育成のポイントを解説していきます。

人材不足の主な要因は少子化

少子化の影響で日本の若年層の生産年齢人口が減少しています。その中でも、大学を卒業し、新入社員として企業に就職する人材が減少傾向にあります。

日本の高度経済成長を支えた人材戦略は、「終身雇用・年功賃金・企業別組合」という三種の神器でした。それは、企業の成長戦略に基づいて、終身雇用を前提とした新卒一括で大量に採用し、若手を手塩にかけて仕事のやり方を教え込み、優秀な若手人材へ育てるというものです。そして、その大量の若手社員に、成長を見込んだ大量の仕事をこなしてもらい、年功序列の昇進と年功賃金によって社員の忠誠心を高めていきながら、定年を迎えてもらうというものでした。

さらに、企業内組合で労使協調を図って一致団結して育成された社員が働くことで、企業の成長戦略を実現し、企業の成長を支えました。このモデルのポイントは、優秀な若手社員が大量に存在しているという点です。

このモデルは、今も日本企業の中の文化・風土として新卒一括採用や人材育成、人事制度の中に生き残っています。しかし、前述のように若手の生産年齢人口が減少していくことで、新卒者を大量に一括で採用することが基本となるこのモデル自体が崩れかけています。若手の採用が難しくなり、人数の確保ができないため、昔のように業務を若手に分担することが難しいためです。

人材不足解消にはミドル層育成は必須

これまでの成功法則であった若手の確保と育成が難しくなっていく中でも、企業は成長していかなければなりません。そのため企業には、成長を支える新しい人材戦略が求められています。それは、大量の新卒一括採用・終身雇用・年功序列を前提にしない人材戦略です。

現在「ジョブ型雇用」がトレンドですが、このキーワードはバズワード化しており、定義されていくのはこれからだと考えられますが、それを待っていては新しい人材戦略による成長の機会を逃してしまいます

それを回避するための必要な対策とはなにか、企業の内情から具体的に考えてみると以下が考えられます。

  1. 自社の中で社員数の多い世代を活用する
  2. 足りない世代を社外から採用する
  3. 今まで活躍させてこなかった人材を活躍させる

私の経験から考えると企業の中には、バブル世代の50代の人が多く、就職氷河期世代の40代の人数が少ない状況がよく見受けられます。また、40代は管理職に登用される人材と業務のスペシャリストとなる人材に分かれていく年代です。最近では、管理職登用の年代も若年化しており、処遇が分かれていく年代も早くなっています。

企業の中で社歴が長くなり業務経験も長くなっていく中で、立場の変わらない人材が業務生産性を高め続けることは、心理的に難しいと言わざるを得ません。40代、50代で自分の思い通りに昇進昇格できず、モチベーションが下がっている人材のモチベーションを上げられれば、不足する人材を外から採用する必要はなくなるのではないでしょうか。

中途採用として外部から人材を獲得する場合、企業内で活躍してもらうためのオンボーディングを行い、自社の仕事のやり方と組織に馴染んでもらうまでに時間がかかります。これは、中途採用時の課題になっています。

この課題を回避するためにも、社内にいる人材の活性化を積極的に検討してみましょう。

多くの企業で次世代リーダー育成に苦戦

これまでの日本の人材戦略は、大量の若手人材を確保して、その人材に対して年功序列の業務経験とジョブローテーション、階層別研修を施し、各年代からリーダーを輩出するリーダー育成方式でした。

この育成方式のポイントは以下の通りです。

  1. 新卒一括採用による人材の大量確保
  2. 年功序列による業務経験とジョブローテーション
  3. 終身雇用と年功序列を意識した階層別研修とジョブローテーションによる人材育成
  4. 年数をかけての人材のふるい掛け
  5. ふるいにかけた人材への挑戦機会の提供

すでにこの方式は、機能しなくなっていると考えられます。

  • 新卒の一括採用での人材大量確保が難しくなり、ジョブを軸にした中途採用も一般化して次世代リーダーの人材層と育成方式のズレが生じてきている
  • 年功序列制の崩壊とジョブを軸とした中途採用によって、時間をかけてのジョブローテーションの実施が難しくなってきている
  • 終身雇用と年功序列を念頭に置いた階層別研修やゼネラリストを育成するジョブローテーションが、ジョブを軸にした中途採用の一般化やスペシャリスト人材の育成などで機能しなくなっている
  • リーダー育成にかける時間がなくなり、人材をふるいにかける時間もなくなっている
  • 挑戦機会を与えても活かせる人材層が薄くなってきている

このような状況の中で、今まで通りの次世代リーダー育成をしていても成果が出ないのは当然のことではないでしょうか。

さらに、人材のキャリア開発に関する考え方が変わってきています。これまでも話してきたように、これまでは終身雇用、年功序列を念頭にした社員のキャリア開発を企業は指向してきました。社員も自社が考えるキャリアロードマップを元に、自社が与えてくる業務と研修を受け、自社の求める人物になることをキャリア開発の第一に考えてきました。ここが変わってきたのです。終身雇用、年功序列は崩れつつあります

市場での競争の激化によって、求められる人物像が目まぐるしく変化しており、今までのようなキャリア開発では、企業のためにも、社員のためにもなりません。企業の言うとおりにキャリア開発を実施していても、社員が自社の変化についていけなくなっています。その結果が、希望退職や早期退職制度に繋がっていくのです。

このような状況下でキャリア自律、プロティアンキャリア(変化し続けるキャリア)といったキーワードが注目され始めています。これからの企業で働く人材は、自分のキャリアを自ら開発していくことが必須なのです。一方で企業側は、ビジョン、ミッション、バリュー、各種戦略(経営、事業、組織、人事など)を社員に伝達し、社員自身のキャリアが、自社にいることで実現するイメージを持てるようにしていく必要があります。

現在は、このような大きな転換点のため、従来型の方法では次世代リーダーを育成していくことが難しくなっています。

次世代リーダー育成のカギ

これから求められる次世代リーダーを育成していくために必要な要素を考えていきましょう。

これからの次世代にリーダーに必要なことは、次の通りです。

1.OS部分であるマインドセット

  • 人間性・倫理観・多様性
  • 使命感・価値観
  • 大局観・時間軸・現場観

2.アプリ部分であるスキルセット

  • コミュニケーション&コラボレーション
  • 観察&洞察
  • ビジョン構想&イメージ
  • 戦略的思考
  • 省察(リフレクション)

加えて、周囲から期待される「人望」が必要です。

「人望」は、個人で身に着くものではなく、周囲の人間が持つものなので非常に扱いが難しいです。しかし、これがないとリーダーとして活躍は期待できないでしょう。仕事が大きくなればなるほど、一人では目標を達成することはできないからです。リーダーの仕事は、周囲の人材がその仕事をまるで自分のことのように主体的・能動的に考えられるように導くことなのです。

上記の各ポイントをさらに詳細に解説します。

1.マインドセット

リーダーのマインドセットは、いつもの自分、いつもの人間関係、いつもの仕事、いつもの場所にいては、磨くことができません。環境が変わらないと、自分自身の弱みや不足部分に気づけないからです。

弱みや不足に気づくためには、他との比較が欠かせません。いつもと同じ場所にいれば、当然のように自分と同じような人々と比較することになるので、大きな違いを感じられないためです。

マインドセットの成長のためには、いつもと同じ環境から越境して、自分とはまったく異なる人と交流することが求められます。これを「越境的学習」といいます。

さらに越境の効果を増加させるために、具体的なテーマで対話し、実際の行動まで一緒に経験することが必要になります。この経験によって様々な角度で物事を考え、必要な知識(リベラルアーツなど)を自ら主体的にインプットしていくことでマインドセットが鍛えられていきます。

2.スキルセット

自らの目標達成に向けて主体的に課題を検討し、能動的に行動し、そして必要となる知識を自らインプットし実践していくことで、リーダーに必要なスキルセットを身に着けられます。主体的、能動的に学習していくために特に必要なのが「省察(リフレクション)」です。

これは、学習の動機を生み出す根本スキルだと考えられます。「省察(リフレクション)」は、外向きの「課題試行的な問題解決」と内向きの「探求的な自己理解」の2つの側面を持っています。

成人学習理論を構築したジャック・メジローは、「省察(リフレクション)とは、経験の意味づけを解釈し、意味づけを行う努力の内容とプロセスを、また努力の想定を批判的に評価するプロセスである」と述べています。つまり、自らの努力を自己批判的に評価することで自らの強みや弱み、不足に気づくことができ、学習へのモチベーションが発生します。

マインドセットとスキルセットを身に着け、目標を達成していく真摯な努力と達成によって、「人望」を周囲のメンバーに持ってもらえるようになるのです。

ミドル層全体の活性化はどうすすめるか

リーダーとなる人材以外のミドル層全体の活性化はどのように進めていくべきなのでしょうか。ポイントを3つまとめました。

多様性をもった新しいリーダーが活性化を促す

高い人間性と正しい倫理観、多様性を持った次世代リーダーを育成していくことで、組織の文化や風土が変わっていきます。文化や風土が変われば、ミドル層を活性化させていくこともできるでしょう。仕事においてミドル層を輝かせるためには、上司と部下の関係を変えていくことが必要だからです。

これまでのような若手にのみに期待をしていく上司ではなく、多様性を前提に部下一人ひとりをよく見て、全員の能力やキャリア観に応じて仕事をアサインし、コーチして、成果を実現させていくリーダーを育成していくことが、ミドル層の関係性を変えていくポイントです。いわば、全員に期待する上司の誕生です。

成功体験を積み重ねる

人は、自分では「無理だ」と思う目標を達成することによってのみ、自分に期待を持てるようになります。これを「自己効力感」といいます。これを持つためには、目標達成に向けたシンプルな行動に全精力を注ぎ込んで実行し、短い期間で省察(リフレクション)を繰り返すことで、小さな成功体験を積み重ねることが必要です。

これを継続するには、上司の部下への期待がエネルギーになります。人は周囲の期待に応えたいと考えるものです。期待されなければ、期待されない行動をとり、期待されれば、期待される行動をとるのです。

越境的学習を活用する

個人の気づき力を高めるには、越境的学習が効果的です。輝いてもらいたいミドル層は、ぜひ越境的学習を活用してください。越境的学習によって自分の強みや弱み、不足に自ら気づくことができます。

さいごに

人材不足を解消していくには、これまで日本企業が当然だと思い込み、無意識に行っている人材育成方法を見直す必要があります。人が育たない、教育投資の割に効果が出ていない、などと考えて人材育成を諦めるのではなく、再度、根本に立ち戻って、現在の状況を直視して省察(リフレクション)することをおすすめします。

必ず問題を解決し、皆さんの自社にとって必要な人材の育成ができるはずです。

人財&組織開発ファシリテーター / 元㈱パーソル総合研究所 執行役員
大学卒業後、大手建設会社に入社し総務人事を担当。その後、電気メーカー子会社にて採用及び研修担当、株式会社日本能率協会コンサルティングを経て、2015年にデロイトトーマツグループのトーマツイノベーション株式会社に入社。講師派遣研修&人事コンサルティング事業の事業責任者に従事しながら、人材育成コンサルティング及び研修を実施。2018年10月よりパーソル総合研究所にて講師派遣研修事業の責任者を務めながら人材育成及び組織開発のデジタルトランスフォーメーションを担当。
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