新米人事労務担当者に贈る10のチェックリスト。突然任命されても問題なし!
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こんにちは。特定社会保険労務士の榊 裕葵です。
スタートアップ企業やベンチャー企業で働いていると、経営者が片手間でバックオフィス業務を行っていたのが、忙しくなって手に負えなくなったり、前任者が突然退職したりして、ある日突然「他にできそうな人がいないから、君が人事をやってくれないか?」と白羽の矢を立てられることも珍しくないようです。
そこで、本稿では、未経験者が人事担当に任命されたとき、何から手を着ければよいのかということを解説させて頂きたいと思います。
人事労務に係わる3つの仕事
さて、そもそも論になりますが、「人事労務」というのはどのような意味の言葉でしょうか?
専門家の中には、「人事とは何ぞや、労務とは何ぞや」と細かい定義付けをしたがる人もいますが、実務上は、「人事労務」を1つの単語と捉えて、『経営の3要素である「ヒト」「モノ」「カネ」のうち「ヒト」に関する仕事』という理解をしておけば、総論としては充分でしょう。
ただ、もう少し具体的に説明しないとイメージが湧かないと思いますので、実務的な観点から整理するとしたら、人事労務に関する仕事は、粛々と作業をこなす「事務系の仕事」、状況に応じた柔軟な対応が必要な「管理系の仕事」、経営者目線で取り組まなければならない「企画・戦略系の仕事」の3種類に分けられると思います。
各役割に当てはまる具体的なタスクの例としては、下記のようなものが挙げられるでしょう。。
1. 事務系の仕事
- ハローワーク・年金事務所・労働基準監督署等に提出する書類作成事務
- 勤怠管理・給与計算
- 定期健康診断の実施や社宅契約など福利厚生に関する業務
2. 管理系の仕事
- 労働トラブルの対応
- 社員からの相談対応
3. 企画・戦略系の仕事
- 採用や人員配置計画
- 人事評価制度の設計や実施
- 就業規則の作成・改定
- 社員教育・社内研修の企画・実施
人事労務担当者が抑えておくべき心構え
大企業においては、仕事が整理されており、役割分担も明確になっていることが通常ですので、人事部門に配属されたら自分に割り当てられる仕事がある程度は明確になっているはずです。
しかし、スタートアップ企業で人事労務担当者になったら、大企業と同じ考え方ではいけません。
「私は、何をやればいいんですか?」という受け身な姿勢では、人事労務の仕事をなすことはできず、評価もされないでしょう。
スタートアップ企業の人事労務担当者は、「私が、全ての人事労務業務を実行しなければならないのだ」という気持ちで取り組まなければなりません。
確かに、人事評価のような戦略系の業務の一部は経営者が直接担うかもしれませんが、経営者が「これは私が直轄するから」と言った業務以外は、人事労務担当者が主体となって動き、「新入社員が入社したら当然、社会保険や雇用保険の資格取得手続を行う」とか「給与支給日前には勤怠を締め、給与計算を当然終わらせておく」など、誰から言われなくても、責任を持って遂行していくという姿勢が必要なのです。
新米人事労務担当者向け「10のチェックリスト」
主体的に動かなければならないとは言っても、新米の人事労務担当者は、人事労務に関する知識が無ければ、何から手を付けて良いか分からず途方にくれてしまうでしょう。
そこで、本稿では、前提知識のない人事労務担当者が、まずは、何から手を付ければ良いかということをリスト化してまとめてみたいと思います。
自分がゼロイチで始めるか、経営者や前任者から引き継ぐ形になるかは、会社により状況はそれぞれだと思いますが、取り組まなければならない事項のチェックリストとしてご活用ください。優先順位の高い項目を10個挙げてみました。
- 36協定(時間外・休日労働に関する協定届)を労基署へ提出しているか? 提出していても有効期限が切れていないか?
- 10名以上の会社の場合、就業規則を作成し、労基署へ提出しているか?
- フレックスタイム制や、裁量労働制が社内で適用されている場合、労使協定は作成されているか?
- 社会保険や雇用保険には、加入すべき人が正しく加入しているか?
- タイムカードなどで、適切に勤怠時間の管理がなされているか?
- これまでの給与計算において、残業代の払い漏れはないか?
- 定期健康診断は正しく行われていたか?
- 各社員とは雇用契約書を取り交わすか、または、労働条件通知書を交付しているか?
- 労働者名簿、出勤簿、賃金台帳といった、労基法上作成すべき帳簿類が作成されているか?
- 過労死ラインを超えて働いている社員はいないか(80時間以上が常態化、または1ヶ月でも100時間超)
以上のような部分が、労働基準監督や年金事務所の調査があった場合に厳しくチェックされるような項目であり、また、そのような調査を抜きにしても、社員に気持ちよく働いてもらうためには、会社の人事労務担当者が積極的に目を光らせなければならない項目です。
人事労務担当者は、入退社手続を行うとか、給与計算を行うとか、定期的な事務作業を行うことも必要ですが、経営者と連携しながら、労働トラブルのリスクを未然に防いだり、社員が安心して働ける職場環境をつくる役割を持っているということを忘れてはなりません。
新米人事労務担当者が成果を生む3つのポイント
上記10項目のチェックだけでも、新米の人事労務担当者にとってはハードな作業でありますし、入退社手続や給与計算のような事務仕事も日々発生する訳ですから、「とにかくやりましょう」では無茶振りになってしまいます。
そこで、取り組み方について、3つの観点を示させて頂きます。
1. 一所懸命、人事労務を勉強しよう
第1の観点は、「一所懸命勉強をすること」です。
日々の実務をこなしながら少しずつになるかもしれませんが、人事労務の担当者になった以上は、労務関係の本を読んだり、セミナーを受けたりして、知識を身に付けていかなければならないと思います。
もちろん自腹を切る必要まではありません。業務を行なうために必要な知識を得るための本やセミナーであれば、会社も理解してくれると思いますので、経費で負担をしてもらって、積極的に取り組みましょう。
人事労務の仕事はどこの会社でも発生するものですので、職業人として一生の財産になると思います。
2. 人事労務の専門家を活用しよう
第2の観点は、専門家を活用することです。一生懸命勉強するといっても、すぐにまとまった知識が身に付くわけではないので、社会保険労務士など外部専門家を活用するというのも手だと思います。人事労務担当者自身が慣れない業務を全面的に任されて、過重労働になってしまっては元も子もありません。
例えば「給与計算は社会保険労務士に外注する」とか「必要な場合に相談できるようアドバイザリー契約を結ぶ」など、経営者と相談をしながら自社にあった形で専門家を活用する方法を見つけて頂きたいものです。
社会保険労務士の顧問料は、基本的には社員数に比例しますので、まだ社員数が少ないスタートアップ企業の場合は、慣れない担当者が全て内部で対応しようとするよりは、外注をしたほうがコスト的にも工数的にもメリットが大きいケースが多いのではないかと思います。
3. クラウド人事労務フトを活用しよう
第3の観点は、クラウド型業務ソフトの活用です。
「HRテック」という言葉を聞いたことがある方も少なくないと思いますが、昨今は人事労務の分野で、低コストで気軽に使えるクラウド型の業務ソフトが非常に充実してきています。人事労務に関する基礎的な知識を身に付けさえすれば、これらのソフトの力を借りて、「勤怠管理」「給与計算」「入退社手続き」「年末調整」などが、簡単かつスピーディーに行える時代になりました。
ですから、これからの人事労務担当者にとっては、法的な知識を学ぶだけではなく、自社に合ったHRテックの業務ソフトを選ぶ、というようなスキルも非常に重要になってくるのではないかと思います。
このようなツールによって業務効率化できれば、生まれた時間で新たな施策や勉強などに着手することも可能になるでしょう。
まとめ
人事労務の仕事は多岐にわたっており、確かに大変な仕事であると思います。
しかし、会社の屋台骨を支える、やり甲斐の大きな仕事であることも間違いありません。例えば、給与計算ひとつとっても、社員全員の生活に直結することですから、非常に重要な仕事なのです。
人事労務担当者に抜擢されたら、「やっかいな仕事を押し付けられたな」とネガティブになるのではなく、「会社の基幹業務を任されたのだ」という、自信と誇りを持って取り組んでみてはいかがでしょうか。