年末調整、しないとどうなる? デメリットと間に合わなかった場合の対処法を解説


こんにちは。特定社会保険労務士の榊 裕葵です。

12月に支払日のある給与または賞与に合わせ、年末調整が行われる会社が多いのではないでしょうか。あるいは、年末の繁忙期を避けるため、1月に支払日のある給与に合わせて年末調整を行うか、給与や賞与とは別に個別精算という形で年末調整を行う会社もあると思います。

上記のように年末調整を実施するタイミングや形は会社によって若干の違いはありますが、いずれにしても、従業員の立場の方としては、会社が年末調整を行ってくれれば何ら問題はないでしょう。

しかしながら、もし勤務先の会社が「面倒くさい」とか「よくわからない」などと言って、年末調整を実施してくれない場合は、どうしたらよいのでしょうか?

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年末調整をしないデメリット

年末調整を実施してくれなかった場合には、次のようなデメリットが本人に発生します。

(1)各種控除の申告ができない

年末調整の際には、「扶養控除等(異動)申告書」「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」「保険料控除申告書」「住宅ローン控除申告書」といった、年末調整用の各種申告書を会社に提出します。

会社がこれらの申告書を確認して、配偶者や被扶養者の状況、生命保険や地震保険の保険料の支払額、住宅ローンの残高等に応じて、所得控除や税額控除の計算を行ってくれるのです。

勤務先の会社が年末調整に消極的だと、これらの申告書を受け取ってもらえなかったり、提出したとしても適正に処理してくれなかったりして、各種控除の適用を受けられなくなります。

(2)税金の過払いになる

年末調整が行われると、上述した所得控除や税額控除が適用され、毎月の給与から控除された所得税のうち、過払いだった分が本人に還付されます。

逆に、年末調整をやらなかった場合は、この過払いだった所得税が還付されず、本人が損をしてしまうことになります。

また、住民税に関しても、前年の課税所得を元に計算されるので、翌年6月分からの住民税も、本来よりも高い金額で算出されてしまいます。

(3)確定申告の手間が増える

会社が年末調整を実施してくれなかった場合、税金の過払いを避けるためには、従業員個人が確定申告することが不可避となります。

医療費控除の適用を受ける場合や、副業の所得と合算する場合のように、会社が年末調整を実施してくれたうえで、プラスアルファで必要な申告をするという形の年末調整であれば、慣れていらっしゃる方も多いのではないかと思います。

しかし、個人でゼロから確定申告する場合には大きな手間が発生します。とくに、後述するように、会社が「年末調整未済」の源泉徴収票すら発行してくれない場合は、自分で給与明細の集計などをしなければならず、負担は一段と大きなものとなってしまいます。

このような不利益や手間を避けるためには、年末調整を実施してもらえるよう、可能な限り、会社に働きかけたいものです。

年末調整を行ってくれない2つのパターン

年末調整を実施してくれない場合というのは、私の実務経験からは2パターンあるように思えます。

(1)経営者が年末調整の必要性を認識していない

第1は、経営者が年末調整の必要性を認識していない場合です。

設立されたばかりのスタートアップで、まだ人事担当者がおらず、経営者がすきま時間に給与計算や労務手続きをするような場合、経営者が年末調整を任意的なものだと勘違いしていたり、そもそも年末調整を実施しなければならないこと自体を知らない場合もあります。

そのような場合は、年末調整は法的に行わなければならないと経営者に説明し、理解をしてもらうことで解決できます。

とはいえ、スタートアップやベンチャーの経営者は忙しいですから、もしあなたが少しでもバックオフィス業務の知識があるなら、年末調整をしてくださいと単に要求するだけでなく、「差し支えなければ私に年末調整の実務をお手伝いさせていただけませんか」と、ひと言添えることができれば、とても素晴らしいことだと思います。とくに最近は、年末調整タスクを劇的に効率化させるツールやサービスも登場していますし、あわせて検討するのもよいでしょう。

これらの課題を巻き取り実行できればご担当者自身の評価も上がり、近い将来、管理部門担当役員の候補者にリストアップされるかもしれませんよ!

(2)年末調整が必要だとわかっていながら行わない

第2は、必要だとわかっていながらやらなかったり、頑なに年末調整を行うことを拒否されてしまう場合です。

こういった場合は、会社の所在地を管轄する税務署に相談をしてください。会社が年末調整をしなかった場合は、「10年以下の懲役、もしくは200万円以下の罰金(併科も可)」という罰則もありますので、税務署から会社に指導をしてくれるはずです。

年末調整に期限はあるのか?

会社との調整に時間がかかり、年末調整をやってもらえることになったものの、すでに年が明けてしまっていた……というような場合、年末調整は間に合うのでしょうか?

この点、年末調整の最終期限は1月31日です。

1月31日というのは、年末調整の結果である源泉徴収票を税務署に提出したり、源泉徴収票に準ずる給与支払報告書を、住民税の計算のため従業員の居住する市区町村に提出する期限という位置づけになっています。

年末調整は、税額や還付金の計算するだけでなく、源泉徴収票等の書類の提出まで含めてが年末調整ですから、1月31日までに必ず年末調整のすべてのプロセスを完了させるようにしてください。

なお、実施済みの年末調整に誤りがあった場合も、1月31日までならば源泉徴収票などを再提出することで修正が可能です。

もし「年末調整の期限」に間に合わなかった場合

では、残念ながら年末調整の期限に間に合わなかった場合はどうするのでしょうか。

会社が罰則を受けるかどうかは別として、個々の従業員は自分の税額が確定せずに困ってしまいます。

この場合は、従業員が一人ひとり、自分で確定申告を行うことになります。

年末調整と確定申告の関係を説明しておきますと、原則的に、課税所得のある全国民は、自己の所得を国に申告するために確定申告しなければなりません。ですが、一般の会社員が自分で確定申告をするのは大変なので、会社が確定申告の一部を代行しているのが年末調整ということになるのです。

会社からの給与収入が唯一の収入源である場合は、1月31日までに年末調整が完了すれば確定申告の必要はありません。

しかし、給与収入以外に、副業の収入や不動産収入などがある場合、そして今回の事例のように、勤務先の会社による年末調整が1月31日までに実施されなかった場合には、「課税所得のある全国民は確定申告しなければならない」という原則に立ち返って、従業員本人が確定申告をしなければならないということになるのです。

会社が、税務署の指導を受けてもやはり実施してくれなかったという場合も、同様に従業員本人が確定申告をすることになります。

確定申告には源泉徴収票が必要

従業員本人が確定申告をしなければならないことになった場合、その際の添付書類として「“年末調整未済の”源泉徴収票」が必要です。

「“年末調整未済の”源泉徴収票」とは、単純な1年間の給与額や源泉徴収額の合計額などが示された源泉徴収票のことを指します。同じ「源泉徴収票」という名称を使っていてまぎらわしいですが、「年末調整を完了させて会社が税務署に提出する」源泉徴収票とは別物ですので混乱しないように気をつけてください。

さて、この「“年末調整未済の”源泉徴収票」ですが、会社に発行してもらう必要があります。年末調整をやらなければならないことは重々承知していたが、忙しくて間に合わなかったというような会社の場合は、従業員に「年末調整が間に合わなくてごめんなさい」と言いながら発行してくれると思います。

しかし、必要性を認識しながら年末調整を実施しないような会社の場合は、「“年末調整未済の”源泉徴収票」すら発行してくれないかもしれません。

そのような場合は、「源泉徴収票不交付の届出書」という書式を作成することで源泉徴収票に替えられます。「源泉徴収票不交付の届出書」の詳細や書式は、国税庁のホームページで確認できます。

年末調整を効率化する動き

年末調整は会社の義務ですので、年末調整が間に合わなかったり、年末調整をやってくれないような場合には、会社に非があると言わざるを得ません。しかし、年末調整の手続きは複雑で面倒なものですので、会社にとって年末の忙しい時期の負担になっていることも理解できます。

そこで活用したいのが、2020年度から本格的にスタートした年末調整の電子化対応です。

年末調整の手続きが簡素化されれば、会社の負担も減り、年末調整が遅れたり、年末調整を実施してもらえないという問題も解消していくと思われます。

すでに民間では、年末調整を大幅に簡素化できるクラウドサービスが始まっています。

年末調整のすべてのプロセスがネットで完結するというわけではありませんが、従業員からの扶養控除等申告書や保険料控除申告書をクラウド上のインターフェース経由で回収したり、回収した情報にもとづいて、年末調整税額や還付金を自動で計算してくれたりなど、アナログでの年末調整業務に比べ、大幅に効率化が可能となる仕組みが実現しているのです。

企業の管理部門にとって、12月や1月は、年末調整はもちろんのこと、期末賞与の計算や支給、年末年始の入退職者の事務処理、お歳暮の発送、年賀状作成など、大忙しの時期です。

このような繁忙期の働き方改革の一環として、年末調整のクラウド化は試してみる価値があるかもしれませんね。

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東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
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