運輸業界で働き方改革を進めるうえでの課題と対策とは?【トラック運送業の人事カイカク #2】


こんにちは。社会保険労務士の名古屋清隆です。

「トラック運送業の人事カイカク」というテーマのもと、トラック運送業の人事労務の課題と対策について全5回でお伝えする本連載。

第2回となる今回は、「運輸業界での働き方改革を進める上での課題と対策」をお届けします。

他業界と比較しても長時間労働が常態化している運輸業界で、働き方改革を進めるのは決して簡単ではありません。

一般企業とは時間外労働の上限規制の適用時期が異なり、まだ時間の猶予はありますが、後手後手の対応にならないようにすぐ着手するのをおすすめします。

前回の記事はこちらです。

運輸業界の労務課題とは? 課題の要因を車種・積載量ごとに解説【トラック運送業の人事カイカク #1】

【1】働き方改革を進める上での課題

全産業平均と比べて、トラック運送業は賃金が2割ほど低く、労働時間は1〜2割ほど長い現状があります。

出典:国土交通省「トラック事業の概要」

業界の課題である深刻なドライバー不足対策としても、働き方改革関連の取り組みによる処遇の改善が必要です。しかし、トラック運送業をはじめとした運輸業界には、働き方改革を進める上での大きな課題があります。

それは、「ドライバーが基本的に社外で仕事をしていること」です。

どれだけ働き方改革の名の下に教育や業務改善を進めようとしても、ほとんどの場合、管理者のいる自社倉庫やホームではなく、公道や卸先、積込先などで働いているため、労務管理の難易度が非常に高いのです。

運転日報やデジタコ(デジタルタコグラフ)、チャート紙、ドライブレコーダーなど、会社外での働き方を把握する方法はありますが、それでも100%把握するのは不可能です。教育や業務改善を安全会議や点呼を中心に進めても、定着するのは簡単ではありません。

【2】働き方改革を進める上での注意ポイント

続いて、こういった働き方の特徴を念頭に置いたうえで、運輸業界で働き方改革を進める上で気をつけるべきポイントを、働き方改革の3つの柱「正規、非正規の不合理な格差の解消」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方の実現」に照らし合わせて解説します。

(1)正規、非正規の不合理な格差の解消

「同一労働・同一賃金」とは、仕事ぶりや能力が適正に評価され、意欲をもって働けるように同一企業における正規雇用者と非正規雇用者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。

運輸業界の正規、非正規の不合理な格差の解消で気をつけるべきポイントについて、2つの裁判例をもとに解説します。

「ハマキョウレックス訴訟」と「長澤運輸訴訟」

同一労働・同一賃金の原則をめぐっては、平成30年6月1日に2つの最高裁判決が出ています。ハマキョウレックス訴訟と長澤運輸訴訟です。

ハマキョウレックス訴訟は正社員と契約社員との待遇差を問題にした訴訟、長澤運輸訴訟は正社員と定年再雇用社員との待遇差を問題にした訴訟です。

2つの最高裁判決の趣旨を端的にいうと、正社員と同一の業務を行っている有期契約労働者について、労働賃金の相違の不合理性を判断する際には、各賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきとの判断が示されました。

すなわち、運輸業界に多い各種手当(無事故手当、精皆勤手当、作業手当、通勤手当、転勤を予定していない住宅手当等)が、非正規雇用に支給されないのは不合理であり違法であると判断されたということです。

2020年4月から大企業、2021年4月から中小企業は同一労働・同一賃金が適用されます。

日給ドライバー等の非正規雇用者が多数在籍している運送会社は、特に各種手当の趣旨を再度検討し、賃金制度を見直す必要があります

働き方改革法の「同一労働・同一賃金の原則」とは? 概要と注意事項を解説

(2)長時間労働の是正

続いて、働き方改革の柱「長時間労働の是正」について、運輸業界の中で気をつけるべきポイントについて解説します。

残業時間の罰則付き上限規制適用

運輸業界では、「残業時間の罰則付き上限規制」の適用において、ドライバーとドライバー以外とで大きく対応が異なります。

全日本トラック協会「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」をもとに作成

ドライバーは、残業時間年960時間の上限規制が約4年後に適用予定ですが、ドライバー以外は、2020年の4月1日からすでに上限規制が適用されています。

上限規制は運行管理者や点呼担当者にも適用されるので注意が必要です。

例えば、1人でドライバーの乗務前点呼と乗務後点呼を行っている場合に、ドライバーは上限規制が当面猶予されていますが、運行管理者や点呼担当者だけ上限規制に引っ掛かるケースも出てくる可能性もあるので、気をつけましょう。

1ヶ月60時間超の残業は5割増し(全企業 2023年4月1日から)

1ヶ月間で60時間を超える時間外労働をさせた場合、その超えた分の時間外労働について50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

出典:全日本トラック協会「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」

月60時間を超える時間外労働は、運送業界では該当する会社が非常に多いです。

長時間労働対策としてはもちろん、コスト面で見ても人件費が大幅に増えることを考慮すると、割増賃金が適用されるようになる2023年の4月までの間に確実な対策を講じるべきでしょう。

長時間労働是正のポイントとは?

先ほどから述べているように、運輸業界ではドライバーの長時間労働の是正が最大の障壁といえます。

ドライバーの長時間労働の是正は以下の3点が鍵となると考えます。

  1. 現場生産性の向上
  2. 荷主・元請交渉
  3. 給与体系の変更

長時間労働の是正は、交通事故や荷物事故の削減にもつながりますし、確実に対処していきましょう。

(3)柔軟な働き方の実現

働き方改革の柱である「柔軟な働き方の実現」については、働き方改革の観点だけではなく、ドライバー不足への対応の観点からも取り組むべきでしょう。

生産年齢人口・労働力人口は減り、大型免許の取得者も当然減っていきます。この会社、業界で働きたいと思ってもらえるような、柔軟で魅力的な働き方を検討・導入し、様々な人材を活用しないかぎり、ドライバー不足は解消されません。

代表的な例は下記の通りです。

  • パートや日給ドライバーの正社員化
  • 働きやすい制度(平日のみや土日のみ、短時間勤務等)の導入
  • 副業、ダブルワークの検討
  • 未経験者、女性の採用
  • 定年の引き上げ、高年齢者の活用
  • ドライバーから作業員や事務職への転換

柔軟な働き方を実現し、退職者を減らすために取り組んでいきましょう。

【3】運輸業界において、働き方改革を進めるための対策

運輸業界の働き方改革は、シンプルな3ステップで進めることをおすすめします。

(1)現状把握

  • 運転日報の精査
  • 拘束時間・運転時間・休憩時間・実働時間・残業時間の正確な把握
  • 改善基準告示違反のチェック

ドライバーの長時間労働是正の答えは、社外=現場にあります。まずは、現状の働き方を把握しましょう。

(2)問題発見

  • 現場の状況把握、ドライバーの声を聴く
  • 問題の原因・成功の要因を探る
  • 問題の要因を自社別と荷主・元請別に分ける

続いて、実際にドライバーの声を拾い上げるべく、アンケートなどを実施します。

アンケートは安全会議などよりも、多くの従業員の声を集められるのでおすすめです。以下は、実際に私が作成したアンケートの例です。

ドライバーアンケートの例(著者作成)

(3)改善

  1. 行動計画(アクションプラン)を立てる
  2. 行動計画(アクションプラン)を実施する
  3. 進捗報告をする
  4. 成功要因・失敗原因を探る
  5. 行動計画(アクションプラン)を修正する

アクションプランを立てる前の段階で、問題を自社と荷主・元請に分けておくと便利です。

アクションプランを立てたあとは、ひたすら1から5のステップを繰り返し、振り返りと改善をしていきましょう。

おわりに

冒頭で、ドライバーは基本的に会社外で仕事をしているから、教育・指導・業務改善を進めるのが難しいと言いました。

つまり、運輸業界にとって、働き方改革の最大の障壁である、ドライバーの長時間労働是正の答えは、社外=現場にあることになります。

そして現場のドライバーの声をどれだけ拾えるかが最大のカギになります。

その有効な手法が、従業員アンケートです。従業員アンケート例もご紹介しました。参考にしていただければ幸いです。

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トラック運送業特化社労士 名古屋清隆

トラック運送業に特化した社労士。業界の特徴を理解した上で管理や仕組みづくりをサポートする。得意領域は、トラック運送業の人事・労務対応、ドライバーの勤怠管理、改善基準告示遵守への取り組み、働き方改革の支援、給与制度・評価制度の構築、セミナー・研修会の講師など。トラック運送業についての社労士目線でのコラムはこちら
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