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健康保険証廃止の影響は?マイナ保険証切り替えスケジュールとタスク

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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

2022年10月に河野デジタル相は、「現行の健康保険証を2024年秋に廃止してマイナ保険証」に切り替えると発表しました。今回は、導入に向けて、人事・労務担当者がやるべきことを、タイムスケジュールとともに具体的に紹介します。

「マイナンバー保険証(マイナ保険証)」とは?

マイナ保険証とは、マイナンバーカードを健康保険証として利用する仕組みのことで、2021年10月からスタートしています。デジタル庁の調査では、健康保険証として使える認知度は73.9%となっています。しかし、マイナンバーカードを取得したと回答した人のうち、健康保険証としての利用申し込み状況は43.6%で、マイナ保険証の利用は進んでいません。

業種別マイナンバーカード取得状況等調査(ネット調査)の結果

(出典)業種別マイナンバーカード取得状況等調査(ネット調査)の結果 – デジタル庁(p.5、p.7)

マイナンバーカードをマイナ保険証として利用するには、事前の申し込みが必要です。スマートフォン、パソコンなどでマイナポータルからのオンライン申し込みや、セブン銀行ATMや一部の病院・薬局などでも申し込めます。登録の際には、マイナンバーカードとマイナンバーカード受け取り時に設定した数字4桁の暗証番号を準備します。

マイナンバーカードの健康保険証利用についての詳細はこちらから確認してください。

マイナ保険証のメリット・デメリット

マイナ保険証に移行すると、医療分野のデジタル化が進みます。考えられるメリット・デメリットは以下のとおりです。

従業員のメリット

従業員がマイナ保険証を利用することで、どのようなメリットが生まれるのでしょうか。

(1)就職・転職・引越しをしても健康保険証として継続して使える

就職・転職・引越しなどで取得や喪失しても、マイナ保険証が使えます。登録状況の確認は、マイナポータルの「申込状況を確認」から確認できます。

マイナンバーカードが健康保険証として利用できます

(2)特定健診情報や診療・薬剤情報・医療費がチェック可能に

医療機関・薬局を変更しても、本人が同意すれば、マイナポータルで診療、薬剤情報、医療費、特定検診情報など過去の情報が閲覧できます。医療情報を用紙に記入したり、口頭で説明する必要もなくなり、正確な情報が伝わることで適切な医療を受けられます。

(3)確定申告の医療費控除が簡単に

2021年分の確定申告の医療費控除手続きで、2021年9月分以降から医療費通知情報の自動入力が可能となりました。マイナポータルからe-Taxに連携することで、確定申告が簡単になります。

(4)窓口への書類の持参が不要

限度額以上の医療費の一時的な自己負担や、限度額適用認定証、高額療養費の手続きが不要になります。

人事・労務担当者のメリット

健康保険資格取得など、手続きを実施している人事・労務担当者にとっても、いくつかのメリットが生まれそうです。

(1)入退社時等の工数削減

入社時に、人事・労務担当者が健康保険資格取得手続きを実施し、保険者が手続き完了した後、情報が反映されれば、従業員はすぐにマイナ保険証を利用できます。担当者は手続き完了したことを従業員に通知すればよいだけです。

これまで、資格取得後から健康保険証が届くまでに医療機関を利用したいときには、健康保険被保険者資格証明書交付手続きを実施していましたが、これも必要なくなるでしょう。

退社時は健康保険証の回収、紛失などへの対応が不要になります。限度額適用認定証の交付、高額療養費の手続きも必要ありません。これらの手続きや従業員への案内がなくなるため、担当者の工数が削減され、業務を効率化できます。

(2)対象者に健康保険証を渡すタイムラグ減少

現状、保険者から保険証が郵送で事業所に到着するまで、事業所に到着した健康保険証を本人に渡すまでタイムラグが発生します。マイナ保険証ではこのタイムラグもありません。郵送にかかるコストも削減できます。

このようにマイナ保険証への切り替えで工数やコスト削減も期待できます。このタイミングで、人事・労務領域のさらなる工数削減に取り組んでみてはいかがでしょうか?

ヒントを以下の資料にまとめましたので、ぜひご活用ください。

人事・労務領域 効率化すべき業務チェックリスト

従業員のデメリット

従業員にとってメリットも多いマイナ保険証ですが、デメリットもあるようです。

(1)利用できる医療機関がまだ少ない

2022年10月時点で、マイナ保険証を使用できる医療機関は約3割です。

運用開始/CR申込施設 割合の推移

(出典)オンライン資格確認等システムについて – 厚生労働省(p.2)

政府はマイナ保険証の対応施設を増やすため、2023年4月から医療機関などに必要なシステム導入を原則義務化する方針です。また、2022年10月から、マイナ保険証の方が保険証よりも患者の窓口負担が少し割引になる優遇策が始まっています。健康保険証廃止に向け、今後利用できる医療機関は増えていくでしょう。

(出典)オンライン資格確認の導入が原則として義務付けられます~データヘルスの基盤となります~ – 厚生労働省

(2)受診時には毎回提示が必要

健康保険証は多くの医療機関、薬局で毎月初回の診療時に提示が必要でした。しかし、マイナ保険証は特定健診等情報や診療・薬剤情報、薬剤情報の閲覧のため、受診の際に同意をする必要があり、通院時に毎回提示しなければなりません。

(3)マイナンバーカード紛失時

現在、マイナンバーカードの再発行には1〜2か月が必要ですが、政府は今後、10日程度に短縮できるように総務省のシステムを改修するとしています。マイナ保険証がない人も保険診療が受けられる救済策についても、検討されるようです。

人事・労務担当者のデメリット

工数削減など、人事・労務担当者にとってメリットのあるマイナ保険証ですが、デメリットもあるようです。

(1)導入時の対応が必要

マイナ保険証について最新の情報を入手し、入退社時や被扶養者異動届などの手続きフローの見直しなど、自社に合った対応が必要です。

(2)従業員のマイナンバーカードの取得・利活用を促進させるのが大変

マイナンバーカードが普及しない理由の一つとして、個人情報の漏えいを懸念する声があります。しかし政府は、「マイナンバーカードは写真付きなので、対面での悪用はできない」としています。また、番号だけでは個人情報を取得できない仕様になっており、芋づる式に個人情報が漏えいすることはないと発表しています。

とはいえ、企業が従業員に情報を伝え、マイナンバーカード取得やマイナ保険証の申し込みを促すのは労力がかかると予想されます。

企業での取得促進策は?

経済産業省など各省庁は、マイナンバーカードの取得、マイナ保険証利用の促進について、業界団体などに要請しています。しかし、デジタル庁の調査では、マイナ保険証の利用促進策を実施している企業や団体の割合は13.4%という結果でした。マイナ保険証は企業や保険者のコスト削減にもつながるため、積極的な導入が期待されています。

マイナンバーカードの健康保険証利用申込促進策実施状況

(出典)オンライン資格確認等システムについて – 厚生労働省(p.8)

導入までのスケジュールと対応策

2024年10月の健康保険証廃止に向けて、人事・労務担当者は、何をいつまでに取り組むべきかを、スケジュールとともに紹介します。

STEP1:アナウンス(2023年1月〜)

この段階では、企業の取り組みやスケジュールについては未確定であっても、「2024年健康保険証の廃止」と「マイナ保険証への切り替え」について、従業員へアナウンスします。従業員へのマイナンバーカードの取得、利活用の促進について、政府の資料やデジタル庁などの動画、リーフレットなどを活用し、イントラネットやメールで共有するなど、従業員に情報提供しましょう。

STEP2:フロー策定(2023年4月〜)

政府、保険者の動向を考慮して、導入手順、時期の決定など、導入フローを策定します。

入退社時の手続きフローは、マニュアルや手順書の変更が必要です。社会保険の資格取得、喪失、被扶養者異動届など、保険証に関わる手続きは、速やかに処理します。自社の労務管理ソフトの仕様変更、変更時期なども確認してください。

従業員のマイナンバーカードの取得状況、マイナ保険証の申し込み状況を把握し、早い段階でマイナ保険証の申し込みを終えておくことが重要になります。必要に応じて、従業員のフォロー、支援をしましょう。

従業員には、マイナンバーカード、マイナ保険証についての情報を周知し、従業員にもメリットがあることを伝えます。また、個人情報漏洩のリスクなどに対する不安も払拭する必要もあるでしょう。

STEP3:仮運用スタート(2023年10月〜)

従業員にマイナ保険証を積極的に利用してもらいます。

マイナ保険証対応が可能な医療機関などで受診するときや、限度額適用認定証の交付、高額療養費となることが予定されているときには、従業員にメリットを伝えておくとよいでしょう。

仮運用の段階で出た懸案事項は、本格導入の前までに解決しておきます。

STEP4:完全切り替え(2024年10月〜)

2024年10月からのマイナ保険証への変更にともなう、健康保険資格取得手続きの様式変更、記載の変更など、保険者からの情報は常にチェックしておきましょう。手続きフローの変更でミスや漏れがないか細心の注意を払ってください。

お役立ち資料

【2023年版】人事・労務向け 法改正&政策&ガイドラインまるごと解説

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