施行まで1年余り。今からやるべき“物流業界の2024年問題”対応マニュアル

こんにちは。トラック運送業特化社労士の名古屋です。物流業界の労働基準関連法に関する違反が是正されていません。2021年に厚労省が調査した3,770事業場のうち、81.0%に当たる3,054事業場で、違法な時間外労働など労働基準関係法令違反が発覚しました。

「2024年問題」まで残り1年余り。物流会社はどのような対応をいつまでに実施するべきなのかについて解説します。

物流業界の2024年問題とは?

トラック運送業界の2024年問題とは、2024年4月からドライバーの残業時間の上限が制限されることにより起きる諸問題です。残業時間の上限制限は、すでに事務職や作業職などで導入されていますが、ドライバーなど一部業種については、適用が猶予されていました。

2024年4月から、ドライバーの残業時間の上限は年間960時間になります。これは、1か月当たりでは平均80時間になります。休日労働時間はこの時間に含みません。

上限制限の導入により、ドライバーの労働時間を現状よりも減らさなければならない運送会社が多いでしょう。そうすると、会社の売上や利益が減少します。ドライバーの残業代や歩合給が下がることもあるので、ドライバーの不満、退職につながる可能性もあります。

そこで、多くの運送会社は2024年問題に対し、いち早く取り組まなければなりません。

  • 残業時間の罰則付き上限規制導入のまとめ
対象職種
事務職・作業職など 運転職
適用開始年月日 大企業2019年4月1日から

全企業2020年4月1日から

全企業2024年4月1日から
原則 時間外労働 月45時間かつ年360時間
(1年単位の変形労働制の場合、月42時間かつ年320時間)
時間外労働 年960時間
罰則 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

「物流業界の2024年問題」の理由

トラック運送業界に大きな影響を与える2024年問題について、各運送会社の現況を表すデータがあります。全日本トラック協会の第4回働き方改革モニタリング調査によると、3割弱の運送会社が残業時間年間960時間を超え、このままでは法律違反となってしまいます。

時間外労働時間が960時間超となるドライバーの有無

(出典)第4回働き方改革モニタリング調査について – 公益社団法人全日本トラック協会(p.2)

課題(1):⻑時間労働の削減

ドライバーの勤務時間を大別すると、「運行時間、荷待ち・待機時間、作業時間」になります。長時間労働削減のために、まず着手すべきは荷待ち・待機時間です。荷待ち・待機時間は、運送会社にとってまったく不必要な時間です。

荷待ち・待機時間も、荷主先の都合による時間とドライバーの都合による時間に分かれます。荷主先の都合による時間であれば、その時間を短縮・削減するための荷主・元請への交渉、難しければその時間分の運賃を確認し、引き上げの交渉となるでしょう。

ドライバーの都合による時間でもっとも多いのは、運行指示と異なるドライバーの出発でしょう。「遅れると迷惑を掛けるから」「並ぶのが嫌だから」などの理由で早く出発するドライバーの気持ちもわかりますが、運送会社は拘束時間の上限も厳守しなければなりません。

2024年4月から、改善基準告示も改正され、1か月の拘束時間について、「原則月293時間」から「月284時間かつ年3,300時間」に短縮されます。これを機に、指示と異なるドライバーの運行は止めさせましょう。

運行時間と作業時間の短縮については後述します。

課題(2):ドライバーの収入減少

長時間労働削減に取り組むと、一般的に、残業代や歩合給などが少なくなり、ドライバーの収入減、退職につながる可能性があります。

そこで、2024年問題に対応できる給与体系に変更する必要があります。

2024年問題に対応できる給与体系変更の進め方

  • 給与分析
    • 現状の給与体系の問題点
    • 現状の給与体系へ不満
    • 地域相場との比較
    • 車両別の損益
  • 会社方針を確認
    • 重要視していること
    • 評価したいこと
  • 自社に合った給与体系の検討
    • 手当の整理
    • 固定残業代の導入(時間設定の見直し)
    • 歩合給の導入(率の見直し)
    • 評価制度の導入(評価項目などの見直し)
  • 新給与体系のシミュレーション
  • 調整・激変緩和措置の検討
  • 全従業員への説明会の実施
  • 就業規則の届け出・雇用契約者の締結

とくに固定残業代の導入(時間設定の見直し)は重要です。長時間労働削減に取り組むことにより、ドライバーの収入が下がるようでは、取り組みの効果は期待できません。

会社として長時間労働削減に取り組みながら、「〇〇時間分の残業代は補償する」といった仕組みは必要でしょう。

また、長時間労働削減に取り組む内容を評価項目に入れ、ドライバーの取り組むに対するモチベーションを上げる仕組みも大事です。

2023年4月適用の「時間外労働割増賃金率引き上げ」

労働基準法の改正により、時間外労働の割増賃金率は月60時間以内の時間外労働について25%以上、月60時間を超える時間外労働について50%以上と定められました。中小企業においては、月60時間を超えても割増率は25%と猶予が認められていました。しかし、2023年4月からはこの猶予が廃止され、中小企業でも月60時間を超える時間外労働については割増賃金率が50%以上となります。

時間外労働の割増率(厚生労働省が発表した資料をもとにSmartHR Mag.編集部で作成)
(参考)月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます – 厚生労働省

時間外労働月60時間を超えるドライバーについて、残業代は増加します。人件費からも、2024年問題とあわせて、長時間労働削減に取り組む必要があります。

残業代シミュレーション

基本給など月額24万円のドライバー (所定労働時間173時間 ・残業時間100時間)の場合

  • 2023年3月まで
    • 時給単価:24万円÷173時間≒1,387円
    • 残業単価:1,387円×1.25≒1,734円
    • 月間残業代:1,734円×100時間=17万3,400円
  • 2023年4月以降
    • 時給単価:24万÷173時間≒1,387円
    • 残業単価(1):1,387円×1.25≒1,734円
      • 1,734円×60時間=10万4,040円
    • 残業単価(2):1,387円×1.5≒2,081円
      • 2,081円×40時間=8万3,240円
    • 月間残業代:10万4,040円+8万3,240円=18万7,280円

1か月あたり1人で残業代1万3,880円の上昇

代替休暇の付与も可能

労働者の健康確保の観点から、引き上げ分の割増賃金を支払う代わりに、有給の代替休暇の付与でもよいとされています。ただし、代替休暇制度導入にあたっては、過半数組合または過半数代表者との間で以下を取り決め、労使協定を締結する必要があります。

  • 代替休暇の時間数の具体的な算定方法
  • 代替休暇の単位
  • 代替休暇を与えられる期間
  • 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

労使協定を締結して代替休暇制度を導入したとしても、会社が強制的に休暇の付与を決められるわけではなく、代替休暇を取得するか否かは、あくまで従業員の希望によって決定されなければいけません。
また、代替休暇の単位は「1日」「半日」「1日または半日」のいずれかでなければいけません。代替休暇は、時間外労働が月60時間を超えた月の末日の翌日から「2か月間以内」の期間に付与する必要があります。

代替休暇を付与する制度の計算と注意点

  • 計算式:月60時間超の時間外労働の時間数×換算率=代替休暇
  • 注意点
    • 労使協定が必要
    • 代替休暇は1日単位または半日単位
    • 2か月以内に付与
    • 任意の選択
  • 計算例
    • 時間外労働の時間数80時間
    • 割増率は法定どおり
    • (80時間 – 60時間)×(1.5−1.25)=5時間
  • 所定労働時間8時間の場合
    • 半日の代替休暇(4時間分)+1時間分は割増率1.5で支給
    • 他の有給休暇3時間分を足して、1日の代替休暇

2024年問題の対応策とスケジュール

2024年問題の対応策は、大きく分けて「会社主体の取り組み」と「現場主体の取り組み」の2種類あります。

会社主体の取り組み

  • 中継輸送
  • トラックの大型化、トレーラへの変更
  • トラックの予約受付システムの活用
  • 荷役のパレット化、パレット規格の統一化
  • 省力、アシスト機器の活用

現場主体の取り組み

  • 運転日報の精査
  • 勤務時間等の集計
  • 3M(ムリ・ムダ・ムラ)の排除
  • 業務効率の向上
  • 配車の見直し
  • 車両別の損益、人件費・労務費の見直し
  • 荷主・元請への交渉
  • ドライバーの定着
  • ドライバーの採用
  • 給与体系の見直し

対応(1):中継輸送の実施|2023年6月まで

「会社主体の取り組み」のなかでは、大きな費用が掛からない中継輸送に取り組む運送会社が多いでしょう。実現できると運転時間の短縮につながります。

中継輸送は、「トレーラヘッド交換方式」「貨物の積替方式」「ドライバーのリレー方式」の3つのパターンがあります。同一荷主か異なる荷主か、自社間か他社間か、トレーラーか単車かの要素と、各営業所の運行シフトをもとに、新たな中継輸送の運行シフトを作成していきます。

ただし、営業所を多く持たない運送会社では、営業所の増設、協力会社の応援など難題が多く、中小の運送会社では「現場主体の取り組み」を優先すべきです。

対応(2):勤務時間等の集計|2023年3月まで

「現場主体の取り組み」では、まず正しい運転日報の記録、勤務時間の集計から始めなければなりません。蓋を開けてみれば、法律違反だったというわけにはいきません。拘束時間、休憩時間、休息時間、運転時間、深夜時間について、1か月単位で集計している運送会社が多いと思いますが、これからは半月や1週間単位の集計が必須となっていきます。

割増賃金率が50%以上となる2023年4月までには、集計方法を確立してください。

対応(3):業務効率の向上等|2024年3月まで

3M(ムリ・ムダ・ムラ)の排除、業務効率の向上、配車の見直し方法については、会議やアンケートをもとに現場の声を集め、計画的に進めてください。

ステップ1:現状把握

  1. 運転日報の精査
  2. 勤務時間等の集計
  3. 改善基準告示違反のチェック

ステップ2:問題発見

  1. 会議やアンケートをもとに、現場の声をひろう
  2. 問題の原因・成功の要因を探る

ステップ3:改善

  1. アクションプランを計画する
  2. アクションプランを実施する
  3. 進捗報告をする
  4. 成功要因・失敗原因を探る
  5. アクションプランを調整する
  6. 1.→2.→3.→4.→5.の繰り返し

アクションプラン例

アクションプラン例(SmartHR Mag.編集部で作成)

アクションプランについては、効果、期間、難易度をもとに、2024年3月までには緊急の内容を優先し、その後も継続的に実施していくことをおすすめします。

トラック運送業に特化した社労士。業界の特徴を理解した上で管理や仕組みづくりをサポートする。得意領域は、トラック運送業の人事・労務対応、ドライバーの勤怠管理、改善基準告示遵守への取り組み、働き方改革の支援、給与制度・評価制度の構築、セミナー・研修会の講師など。トラック運送業についての社労士目線でのコラムはこちら
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