荷主の物流効率化義務化へ。値上げなど交渉のコツを社労士が解説
- 公開日
目次
こんにちは社労士の名古屋です。「物流業界の2024年問題」まで約1年となり、国土交通省は、運送業界の多重下請け構造など労働環境の改善に向けて、荷主らに物流の効率化などを義務づけることを決定しました。また、厚生労働省も労働基準監督署が荷主に改善要請するため、都道府県労働局に「荷主特別対策チーム」を編成しました。
しかし、運送会社が弱い立場であることは変わらず、荷主への運賃値上げの交渉などが難航するケースもあり得ます。今回は、物流業界に特化した社労士が「荷主への交渉のコツ」について解説します。
荷主対策の深度化とは?
トラックドライバーの労働環境を改善するためには、荷主の協力が不可欠です。そこで、平成30年12月に貨物自動車運送事業法が改正され、下記を骨子とする「荷主対策の深度化」が実施されています。
(1)荷主の配慮義務が新設
荷主は運送会社が法令を遵守して事業を遂行できるよう、必要な配慮をしなければならないとする責務規定が新設されました。
(2)荷主への勧告制度の拡充
運送会社の過積載運行や過労運転防止措置義務違反などの違反行為が、荷主の指示によるなど荷主に起因すると認められるときに、国土交通大臣が荷主に違反行為の再発防止のための適当な措置をとるべきことを勧告します。
想定されるケースとして、
- 常に荷物の積み下ろし待ちが発生している
- 休憩なしで運転しないと間に合わない到着時刻を指定している
- 到着が遅れた場合に商品買取のペナルティがある
- 積み込む直前に過積載となる貨物量を指示する
などが挙げられます。また、勧告を発動した場合には、荷主名および事案の概要を公表するとしています。
(3)違反原因行為の疑いがある荷主に対しての働きかけ
違反原因行為の疑いがある荷主に対して、国土交通大臣は関係省庁と連携して、「運送会社のコンプライアンス確保に荷主の配慮が重要である」と、理解を求めるように働きかけます。
また、荷主が違反原因行為をしていると疑うに足りる相当な理由がある場合などには、要請や勧告・公表します。これは令和5年度末までの時限措置としています。
国土交通省が検討する効率義務化とは?
トラックドライバーには、2024年4月以降、年960時間の時間外労働の上限規制が導入され、さらに年間の拘束時間が原則3,300時間に減少するなど改善基準告示の改正も適用されます。
拘束時間の上限が原則3,300時間を超え、荷待ち時間減少などの対策を実施しなかった場合に、新型コロナウイルス感染症の感染拡大以前の2019年の貨物輸送量などと比較して、不足する輸送能力は、14.2%におよぶとの指摘があります。さらにドライバー数の減少も加味して、2030年度の物流需給ギャップについて試算した場合、輸送能力の34.1%が不足する可能性があるとの指摘もあります。
しかし、物流の危機的状況に対する荷主企業や消費者の認知度や理解は、十分とはいえません。運送会社が2024年問題に対応し、トラックドライバーの生産性向上と担い手確保により持続可能な物流を実現するためには、「荷主企業も含めたサプライチェーン全体で生産性向上に取り組む」ことと、「消費者の物流コストへの理解の醸成」が必要です。
また、物流が抱える諸問題の解決のために、物流効率化に取り組まない荷主に対するペナルティなど、従来よりも実効性のある政策が検討されているところです。政策の方向性として、下記の3点を中心に検討されています。
政策1:荷主企業・消費者の意識改革
- 荷主企業や消費者に対する物流に係る広報の推進・物流改善の取り組み
- 消費者や市場から評価される物流改善の取り組みに係る評価のあり方
- 物流担当者のみならず経営者層の意識改革を促す措置
- 再配達の削減や置き配の推進
- 梱包簡素化の受容など消費者に求められる役割を示すための措置
政策2:物流プロセスの課題解決
- 待機時間や荷役時間などの削減
- 納品回数の減少
- リードタイムの延長など物流の平準化を図る措置
- トラック業界の多重下請構造の是正や契約条件の明確化を図るための措置
- 物流サービスに応じて価格を変動させる取り組みなど物流コストの可視化
- 上記の荷主に対しての働きかけと標準的な運賃制度の延長など
政策3:物流の標準化・効率化推進に向けた環境整備
- デジタル技術を活用した共同輸配送・帰り荷確保など
- パレット標準化などの官民連携による物流標準化
- 物流拠点ネットワークの形成などの支援
- モーダルシフトの推進
- 車両のEV化や再エネ施設導入
- サプライチェーンの省エネ化・脱炭素化を推進するための環境整備
- 物流事業における規制の柔軟な運用ややそれに対する支援スキーム
厚生労働省が編成した「荷主特別対策チーム」とは?
厚生労働省は、都道府県労働局において、トラックドライバーの長時間労働の是正のため、発着荷主などに対して、長時間の荷待ちの発生抑止についての要請と、改善に向けた働きかけを目的とした「荷主特別対策チーム」を編成しました(適用は2024年4月1日から)。
「荷主特別対策チーム」は、トラックドライバーの労働条件の確保・改善に関する知見をもつ都道府県労働局・労働基準監督署のメンバーにより構成されます。労働基準監督署が発着荷主などに対して、長時間の恒常的な荷待ちの改善に努めることなどを要請します。
また、都道府県労働局のメンバーが、労働基準監督署から要請された事項に発着荷主などが積極的に取り組めるよう、荷待ち時間などの改善に係る好事例の紹介などをアドバイスします。
ほかにも、厚生労働省ホームページに「長時間の荷待ちに関する情報メール窓口」を新設し、発着荷主などが長時間の荷待ちを発生させていると疑われる事案などの情報を収集し、その情報をもとに、労働基準監督署が要請などを実施します。
荷主へ交渉するべき内容
運送会社が2024年問題に対応するためには、荷主や元請への交渉は避けられません。荷主や元請への交渉というと運賃だけに目がいきがちですが、交渉は多岐にわたります。
(1)待機時間の削減
まずは待機時間の削減について交渉すべきです。具体的には下記が挙げられます。
- 出荷時刻と到着時刻の見直し
- 宵積みから朝積みへ(朝積みから宵積みへ)の変更
- 順番待ちの解消や事前連絡
- トラックの停止場所の確保
(2)作業時間の削減
次に作業時間の削減についての交渉です。
- 積み降ろし作業の縮小や排除
- 作業場所の確保
- 積み降ろし場所の集約
- 作業軽減のための機会化 など
それでも作業時間の削減に応じてもらえなければ、作業料の確認・収受につなげます。
(3)運賃値上げの交渉
そして、運賃の値上げ交渉です。具体的には下記項目別で交渉するべきです。
- 車種別の距離制運賃か時間制運賃
- 休日・深夜・早朝による割り増し
- 待機時間料
- 積み込み料・取りおろし料・附帯業務量
- 高速道路やフェリー利用料などの実費分
- 燃料サーチャージ
運賃交渉の方法とコツは、客観的な根拠の明示
近年では、運賃交渉に取り組む運送会社が増加しています。標準的な運賃の届け出、車両費、修繕費、軽油価格やタイヤ価格高騰による経費の圧迫、2024年問題による売り上げ減などさまざまな要因が考えられます。
そのなかでも運賃交渉に成功する運送会社、不成功に終わる運送会社があります。当然、「運送会社の規模」「荷主の理解や信頼関係」「特殊な車両や輸送である」「突発的な依頼に対応している」「元請ではない」「地域差」なども影響しますが、交渉が進まない理由を考えてみる必要があります。
値上げには客観的な根拠が必要です。まずは荷主担当者に値上げを提案し、その荷主担当者に上司や会社に掛け合ってもらうのが一般的です。荷主担当者に客観的な根拠を提示できなければ、上司や会社の承認は当然難しくなります。
客観的な根拠は原価計算です。原価を計算することで、「燃料費の高騰分を転嫁できていないのか」「人件費増分を転嫁できていないのか」「そもそも休日・深夜・早朝による割増賃金分が反映されていないのか」「附帯業務量分がもらえていないのか」「今後高速道路を利用しその料金分をもらいたいのか」などを分析できるはずです。その分析が値上げを提示する理由ときっかけになります。
タイミングを見て荷主・元請への粘り強い交渉を
荷主・元請交渉は粘り強く、継続的な取り組みが重要です。2024年問題などにより、荷主・元請に「運賃の値上げ」「ドライバーの勤務時間の短縮」「物流の効率化などの必要性」は徐々に理解されているはずです。しかし、荷主・元請も運送費はできるだけ抑えたいので、1回の交渉で上手くいくことはまれでしょう。複数回にわたり交渉し、自社での取り組みや自社の経営状況のアピールなどの戦略、妥協案や代替案も必要になるでしょう。
また、交渉にはタイミングも重要です。「燃料費の高騰時」「高速道路の料金改定」そして2023年4月から1か月60時間超の残業が5割増しになるのもよいタイミングです。
最後に重要なのは、荷主・元請との信頼関係でしょう。突発的な依頼への対応、困りごとへの対処、そして普段からのコミュニケーションが交渉力につながります。