社労士が解説! HRニュース 2021年12月振り返りと2022年1月のポイント(育児介護休業法改正への対応、傷病手当金の支給期間通算化など)


2021年も残りわずかとなりました。

人事労務担当者の皆さまは、年末年始休暇前のラストスパートで業務に取り組んでいるのではないでしょうか。寒さも本格的になってきましたので、忙しいとは思いますが、体調管理には十分に気を付けてください。

2021年の年末から2022年年初にかけては、把握しておくべき法改正情報がいくつかありますので、時事的なトピックと合わせ、ご紹介したいと思います。

2021年12月のトピックの振り返り

(1)年末調整

年末調整の対応お疲れ様でした。皆さまの会社では、年末調整は無事に完了しましたでしょうか?

12月支給分給与や12月賞与で還付金の還付や追加徴収が完了していれば何よりです。

ただし、気を付けていただきたいのは、年末調整には「後工程」があるということです。具体的には、以下の4つとなりますので、忘れないように対応をしてください。

  1. 税務署への法定調書合計表と源泉徴収票の提出(1/31まで)
  2. 所得税徴収高計算書への年末調整結果の反映(1/10納付期限分以降の計算書で)
  3. 市区町村への給与支払報告書の提出(1/31まで)
  4. 従業員への源泉徴収票の交付(1/31まで)

実務上、上記「3」を忘れがちになることが多いですが、これを従業員が居住する市区町村へ提出しなければ、翌年度の住民税の特別徴収の納付書が届かないことになり、給与計算を正しく実施できず、従業員にも迷惑をかけしまいますので、漏れのないようにご対応ください。

なお、年内に年末調整の計算や、還付金の還付などが間に合わなかった会社さまも、実務上は1月支給分の給与での処理も可能ですので、ご安心頂き、年明けにキャッチアップを図ってください。

(2)育児介護休業法改正対応

2022年は、4月および10月に、男性への育児休暇取得促進などを踏まえた、改正育児介護休業法が順次施行となりますので、人事労務担当者は情報を把握しておく必要があります。

この点、厚生労働省は11月30日に「令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&A」を公開しました。

令和3年改正育児・介護休業法に関する Q&A (令和3年 11 月 30 時点)(厚生労働省)

50問を超えるQ&A集となっており、実務上も参考になる内容となっています。自社の改正育児介護休業法対応を進めていくなかで、不明点や疑問点が生じた際には、随時確認をするとよいでしょう。

(3)保険証の直接交付制度は「骨抜き」に

本HRニュースのバックナンバー(「2021年8月振り返りと9月のポイント」の号)で紹介しました、健康保険の保険証を従業員に直接交付することが可能となる制度ですが、筆者も期待をしていたものの、蓋を開けてみると、残念ながら「骨抜き」ということが判明しました。

といいますのも、加入者数が最も多く、大半の中小企業の従業員およびその家族が加入している「全国健康保険協会」が、その運営方針を決める「運営委員会」において「従業員への直接交付制度」には対応しないという方針を打ち出したからです(法制度上は、対応可否は「保険者」が決められることとされている)。

たしかに、これまでは一律会社宛に発送していた保険証を各従業員宛に発送することになると、全国健康保険協会にとっては、工数や事務コストの増加が懸念されます。

しかし、実務の現場においては、保険証が手元に届くのが遅れ、本人が10割負担をしたり、病院に行くのを後ろ倒しにするという現象も少なからず発生していますので、少しでも早く従業員の手元に保険証が届く直接交付制度には筆者も期待していたのですが、残念な結果となりました。

とくに、昨今はテレワーク実施企業も増えました。会社に保険証は届いているものの誰も出社しておらず、保険証をリアルタイムで従業員に渡せなかったり、保険証を従業員に転送するためだけに人事労務担当者が出社したりということが負担になっているのは、特筆すべき懸念点です。

もちろん、最終的には保険証が本人の手元に届いた後、手続をすることで7割分の医療費は戻ってくるのですが、いったん10割支払わなければならない経済的負担や、払い戻し手続の手間を考えますと、今後、全国健康保険協会が直接交付制度に取り組んでいただけることを期待したいと思います。

なお、組合健保の加入者については、各健康保険組合の判断となりますので、人事労務担当者に、自社の加入している健保組合がどのような判断をしているかをご確認ください。

(4)雇用保険料率アップは先送り

ここ数ヶ月、ようやく落ち着きをみせていますが、長引くコロナ禍により、雇用調整助成金の支給が長期化し、雇用保険の財政がひっ迫しているというのは周知の事実です。

そのため、政府内では、従業員負担分を含め、雇用保険料の引き上げが検討されていました。

しかし、報道によると、従来予定されていた令和4年4月からの雇用保険料の引き上げは先送りさせる可能性が濃厚ということです。

2022年度の雇用保険料について、政府が当初予定していた労働者負担分の引き上げを来秋以降に延期する方向で調整していることが20日、分かった。来夏の参院選を控え、与党内に労働者の負担増を懸念する声があることを踏まえた。(JIJI.COM 2021年12月20日)

雇用保険料は、現時点で、賃金の総支給額に対し、本人負担分が0.3%、事業主負担分が0.6%となっています(一部の業種を除く)。

ですから、仮に雇用保険料の本人負担分が0.1%引き上げられ、0.4%になった場合、額面40万円の人で、1ヶ月あたり400円、1年あたり4,800円の負担増となります。

雇用保険料は、社会保険料ほどの負担感があるわけではありません。ですが、デフレ傾向が続き、給与アップも限定的な我が国において、租税公課の負担増は、見た目以上のネガティブインパクトになることが懸念されます。ですから、先送りされたことは、ひとまずはよいニュースと受け止めてよいでしょう。

2022年1月のトピック

(1)傷病手当金の支給期間通算化

健康保険に加入している従業員が私傷病で労務不能となり、事業主から賃金が支払われない場合に支給されるのが傷病手当金です。

傷病手当金は、従前のルールでは、受給開始日から起算して、暦日ベースで1年6ヶ月までが支給対象期間となっていました。この1年6ヶ月の間に、就労をするなどして賃金が支払われる日があった場合には、その日については、傷病手当金の受給権を失うことになります。

しかし、昨今、癌の治療などを中心に、「仕事と治療の両立」ができる環境の整備が求められるようになり、厚生労働省も実現に力を入れています。

その一環としての取り組みが、今回の傷病手当金の支給ルールに関する法改正で、2022年1月1日からは、傷病手当金の受給可能期間が「支給開始日から通算して1年6ヶ月」となります。

すなわち、治療期間中に就労をして賃金が支払われた日があった場合には、その日分の傷病手当金を後ろ倒しで受給できるようになったということです。

この法改正により、通院や短期入院を繰り返して仕事をする場合、傷病手当金を長期に渡って受給しながら、仕事と治療の両立を図れるようになりました。

令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます – 厚生労働省

(2)雇用保険マルチジョブホルダー制度

2022年1月1日から、雇用保険のマルチジョブホルダー制度がスタートします。

今回の制度開始時点では、65歳以上の労働者に限定されている点は残念ですが、従来の雇用保険制度では、複数事業所に勤務者は、主たる勤務先のみでの労働条件が、1週間の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込みなどの適用要件を満たさなければ雇用保険に加入できませんでした。

これに対し、マルチジョブホルダー制度では、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務を合計して下記1~3の要件を満たす場合に、本人からハローワークに申出をすることで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)になれます。

  1. 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
  2. 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  3. 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること

この制度は、本人が申出を行わなければ適用されませんので、自社の従業員に該当しそうな方がいたら、ぜひ、人事労務担当者からも案内をしてあげてください。

【重要】雇用保険マルチジョブホルダー制度について – 厚生労働省

(3)新入社員迎え入れ準備

4月1日から、新卒者を中心に、新入社員の迎え入れを予定している企業は少なくないと思います。

昨年および今年は、コロナ禍により、入社前研修、内定者懇談会、入社式などのイベントを中止したり、オンラインで実施する企業が目立ちました。

来年度に関しては、新型コロナウイルスの感染拡大がいったん落ち着きを見せるなか、新入社員をどのような形で受け入れるかは、各企業の判断に委ねられることになりそうです。

「入社式をリアルで実施するので、会場を予約する」というような動きも、早めに判断する必要があります。まずは、入社式などをリアルで実施するかどうかを決定し、その決定に基づき、リアルで実施する場合、オンラインで実施する場合、いずれであっても、それに応じた準備が必要です。

新入社員の受け入れは、人事部だけのタスクではなく、社内各部門と協力しながら準備を進めていくものですので、直前になって社内が混乱しないよう、人事労務担当者は、早めにプランを立てておくべきでしょう。

人事・労務ホットな小話

傷病手当金が「暦日で1年6ヶ月」から「通算で1年6ヶ月」に変わったことは、法的には小さな変化に見えるかもしれませんが、病気と闘いながら職場復帰を目指す従業員にとっては、非常に大きな変化点といえるでしょう。

人事労務担当者も、これまでは傷病手当金を受給している従業員に対し、「傷病手当金の受給期間は働いたら損です」としか案内できなかったところ、「治療と仕事を両立させながら、無理なく職場復帰していきましょう」と、より前向きなメッセージを送れるようになったのです。

法改正があったとき、人事労務担当者は、その客観的事実を把握し、就業規則の改定など、法的に必要な対応を取ることは当然必要です。

しかし、その法改正の内容を自社なりにかみ砕き、従業員にどのようなメッセージを送っていくのかを考えるのが血肉の通った人事労務部門の仕事であり、より重要なタスクなのかもしれませんね。

来年4月、10月に行われる育児介護休業法の改正についても、人事労務部門から、自社の従業員に素敵なメッセージを送れたらよいですね。

まとめ

人事労務部門の担当者の皆さまをはじめ、読者の皆さま、1年間お疲れさまでした。筆者としましても、読者の皆さまのおかげで、1年間執筆を続けられたと思います。本当にありがとうございました。

何卒、よい年末年始をお過ごしください。そして、来年もよろしくお願いします。

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
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