社労士が解説! 今月のHRニュース 2020年10月編(同一労働・同一賃金、年末調整、自己都合退職者の給付制限期間短縮など)


こんにちは。特定社会保険労務士の榊です。

10月末から11月上旬にかけて、人事労務部門は、まさに「仕込み」の時期といって良いでしょう。

11月下旬から12月にかけては年末調整や冬季賞与の査定・支払、年末での退職者の手続きなどで人事労務部門は大忙しとなります。これらの業務をスムーズにこなしきるためには、今のうちからの前段取りが重要となります。

本稿では、慌ただしい今の時期だからこそ、キャッチアップしておきたい人事労務に関連した話題をまとめてお届けします。

2020年10月のトピックの振り返り

(1)自己都合退職者の給付制限期間が2ヶ月に短縮

自己都合で退職をした場合、雇用保険の基本手当(いわゆる「失業手当」)を受給するためには、待機期間の7日の後、さらに3ヶ月の給付制限期間がありました。

この点に関し、雇用保険法の改正によって、2020年10月1日以降の自己都合退職については給付制限期間が2ヶ月に短縮されています。ただし、2ヶ月に短縮されるのは「5年のうちに2回まで」となっていることに注意が必要です。

給付制限期間は、安易な離職を防ぐために自己都合退職者に対して設けられたペナルティ的な制度です。終身雇用が原則であった時代はそれで良かったのかもしれませんが、昨今は働き方の多様化が進み、転職によるキャリアアップやキャリアチェンジも珍しくなくなりました。そのような時代の変化を踏まえ、労働力の移動を円滑にするために今回の改正が行われたのです。

もちろん、「安易な離職を防ぐ」という当初の目的が無くなったわけではありませんから「5年のうちに2回まで」という「歯止め」が設けられたということです。

また、懲戒解雇による離職のように、従業員本人に責任がある事由による離職の場合は、給付制限期間は従来と同様3ヶ月のままですので、この点もご注意ください。

詳細は以下の記事をご確認ください。

失業等給付の給付制限期間が3ヶ月→2ヶ月に短縮。雇用保険法改正・制度変更等のポイントは?

(2)同一労働・同一賃金の重要判決

10月は、同一労働・同一賃金に関する最高裁の重要な判決が相次ぎました。少々長くなりますが、実務上非常に重要なので、今回の記事で触れたいと思います。

同一労働・同一賃金は、働き方改革法により2020年4月1日よりスタートしていますが(パートタイム・有期雇用労働法の中小企業適用は2021年4月1日~)、具体的に、どのような待遇差が同一労働・同一賃金違反になるのか、という点で、実務上の判断が難しい状況が続いていました。

これに対し、次の3つの最高裁判決が、具体的な判断を示しました。これらの判決は、各企業がこれから自社の人事制度や賃金体系を整備し、同一労働・同一賃金を実現していくうえで、極めて重要な意味を持ちます。

メトロコマース事件

第1は、10月13日の「メトロコマース事件」に対する最高裁判決です。

この事件は、東京メトロの駅売店に勤務していた正社員には退職金が支払われ、契約社員には支払われないことが同一労働・同一賃金違反になるかどうかが争われた事件です。

第1審の東京地裁では「同一労働・同一賃金違反には当たらない」として会社が勝訴しました。第2審の東京高裁では「同一労働・同一賃金違反に当たる」として正社員の4分の1の退職金を支払う必要があるという、労働者側の主張を一部容認する判決が出されました。このように、下級審の見解が分かれる中、最高裁の判断に注目が集まっていましたが、最高裁は、契約社員に退職金を支払う必要はないとして、会社勝訴の判決を下しました。

最高裁は、店舗業務に従事していた正社員は接客だけをしていたのではなく、

  • 業務内容の変更や配置展開の可能性
  • 休暇や欠勤で不在の販売員に代わって早番や遅番の業務を行う代務業務
  • トラブル処理
  • 売上向上
  • 業務改善

など、契約社員よりも重い責任を担い、幅広い業務を行っていた事実を認定し、正社員のみに退職金が支払われることは不合理な待遇差ではないと判示しました。

大阪医科薬科大事件

第2は、同じく10月13日に出された「大阪医科薬科大事件」に対する最高裁判決です。

この事件は、大学職員に関し、正社員には賞与が支払われ、契約社員には支払われないことが同一労働・同一賃金違反になるかどうかが争われた事件です。

第1審の大阪地裁では同一労働・同一賃金違反には当たらないとして会社が勝訴しました。第2審の大阪高裁では同時期に採用された正社員の賞与の60%を支払う必要があるという、労働者側の主張を一部容認する判決が出されました。こちらも、メトロコマース事件と同様、下級審の判決が分かれていました。

最高裁は、

  • 正社員には人事異動を命ぜられる可能性があったこと
  • 両者の職務の内容に一定の相違(正社員のほうが幅広く重い職務を担っていた)があったこと
  • アルバイト職員については、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたこと(本人が望めば正社員になれる道が用意されていた)

等を踏まえ、正社員のみに賞与が支払われることは不合理な待遇差ではないと判示しました。

日本郵便事件

第3は、10月15日に出された「日本郵便事件」に対する最高裁判決です。

この事件は、正社員に支払われる「住居手当」「年末年始手当」「扶養手当」「早出勤務等手当」「祝日給」「夜間特別勤務手当」「夏期年末手当(賞与)」「外務業務手当」「郵便外務業務精通手当」といった諸手当や、「夏季冬期休暇」「有給の病気休暇」といった福利厚生制度は、契約社員には適用されないことが同一労働・同一賃金違反になるかどうかが争われた事件です。

日本郵便事件は、東京・大阪・佐賀の3ヶ所の地裁で裁判が提起され、東京・大阪・福岡の高裁で控訴審判決まで出ています。各下級審で判断が分かれていましたので、今回の最高裁判決で司法としての統一見解が示されました。

最高裁は、審理対象となった「年末年始手当」「扶養手当」「祝日給」「夏季冬期休暇」「有給の病気休暇」の5項目全てについて、正社員には適用され、契約社員には適用されないのは不合理な待遇差であるとして、労働者側の主張を全面的に認める判決を下しました。すなわち、日本郵便における働き方の実態を踏まえると、長期的に勤続している契約社員は、正社員との業務内容に大きな差はなく、両者に待遇差を設ける合理的な理由が認められなかったということです。

これらの判決を踏まえると、正社員と契約社員・パート社員が表面的には似たような業務を行っていたとしても、

  • 「人事異動や業務内容変更の可能性の有無」
  • 「責任の重さの違い(KPIに対する達成責任の有無や顧客からのクレーム対応の要否)」
  • 「職務範囲の広さの違い」

などがあれば、合法的な待遇差の根拠になり得るということです。

したがって、各社で同一労働・同一賃金対応を進めるにあたっては、まずは、自社の契約社員・パート社員が「人事異動」「責任の重さ」「職務範囲の広さ」などにおいて、正社員どのように違うのかを明確化し、その上で、説明がつかない待遇差を解消していくという手順で対応していくことが必要になるでしょう。

2020年11月のトピック

(1)年末調整の段取り

11月に入ったら、年末調整の前段取りを本格的に開始するタイミングです。会社側として行っておいたほうが良いことは、次の3点です。

法改正情報の把握

2020年の年末調整は、「給与所得控除や基礎控除の額の変更」、「ひとり親控除の新設」、「所得金額調整控除の新設」など、変化点が盛りだくさんです。まずは、年末調整の担当者が2020年の年末調整の仕組みをしっかりと理解し、従業員から質問があった場合にはスムーズに回答できるようにしておきたいものです。

従業員に申告書を配布する準備

紙で年末調整を行う予定の企業は、国税庁のホームページからダウンロードして印刷したり、所轄税務署にもらいに行ったりして、必要な枚数の各種申告書を取り揃えてください。

ペーパレスで行う予定で、国税庁で配布している国の年末調整ソフトを利用する場合は、インストール型のソフトとなっていますので、各従業員にPCやスマートフォンにアプリをインストールしてもらうよう案内をしましょう。操作方法の説明会を開催することも望ましいでしょう。

一方、SmartHRや人事労務freeeのようなクラウドソフトを用いてペーパーレス年末調整を行う場合は、IDとパスワードの配布だけで足ります。既に上記のようなソフトを導入済の企業であれば、既存のアカウントを利用すれば年末調整ができますので、前段取りはミニマムで済みます。また、インターフェースも分かりやすく工夫がされていますので、従業員説明会を行うにしても説明がスムーズになりますし、説明時にベンダーが公開している動画なども活用できるでしょう。

日程軸の線引き

「いつ従業員へ年末調整の依頼を発信するのか」「説明会をいつ行うのか」「申告書の提出期限をいつまでにするか」「何月分の給与計算に精算額を反映させるのか」など、日程軸を明確にして推進していかなければ、年末調整の実務はスムーズに進みません。

SmartHRや人事労務freeeのようなクラウドソフトでは、申告書の提出状況の一覧把握や、未提出者へ督促メールを送信するような機能も備わっていますので、管理者側の業務を円滑にするという点においても、メリットがあると言えるでしょう。

(2)e-Govのアップデート

11月23日に人事労務手続の政府の電子申請窓口であるe-Govが大幅なアップデートを予定しています。

具体的には、「UIの刷新」、「マイページの導入」、「GビズID等によるログイン」、「モバイル対応」、「macOS対応」の6項目のアップデートとなります。詳細は、こちらのページご確認ください。

最も注目すべきは、やはり「GビズID等によるログイン」です。従来は、電子証明書を取得するためにコストがかかっていたり、電子証明書をインストールしたり申請書に添付したりする操作の難易度が高いことが問題になっていました。これが、GビズIDでのログイン方式にも対応することにより、e-Gov経由での電子申請のハードルは大きく下がると予想されます。

出典:e-Gov「2020年更改に伴う変更概要(電子申請サービス編)」

(3)オンライン・ワンストップ化

政府のロードマップでは、2020年11月からマイナポータルを活用した新しいワンストップ型の電子申請を開始するとしています(下記参照)。

・企業が行う従業員の社会保険・税手続のオンライン・ワンストップ化等の推進

これまでは、紙ではもちろんのこと、電子申請の場合でも、バラバラに申請を行っていた、従業員の入社や退職に伴う社会保険・雇用保険・住民税の手続をワンストップで申請できるようになります。

ただ、どのようなソフトを経由して、具体的にいつからワンストップ申請を行うことができるようになるのかの詳細は、まだ十分な情報が出ておらず、不透明な状況となっています。

ですから、現時点においては、クラウドソフトを経由した電子申請か、(2)で説明したe-Govのアップデートを踏まえ、使いやすくなったe-Govで電子申請するのがメインシナリオとなるでしょう。

マイナポータルを経由したワンストップ申請のほうは、もう少し具体的な情報が出揃ってから動く形でも遅くはないと思います。

人事労務ホットな小話

同一労働・同一賃金に関する最高裁判例が出揃ったことで、多くの企業で「様子見」をしていた同一労働・同一賃金への具体的対応が、一気に動き出すと思います。

同一労働・同一賃金の実現に向けた、人事制度や給与体系の構築・変更は、人事労務部門にとって、非常に大きな負荷がかかるタスクになります。

しかし、だからといって年末調整は待ってくれません。逆に、年末調整に人事労務部門の目先の工数を奪われ、同一労働・同一賃金対応を後回しにしてしまうということもあってはなりません

そうなってくると、これからの時期、年末調整への対応をいかに最小限の工数で、効率的に進めていくかが、人事労務部門がオーバーヒートしないための重要ポイントになってくると筆者は考えています。とくに、年末調整のクラウド化は、効率化にあたっての切り札となるのではないでしょうか。

まとめ

今年の11月は、年末調整の準備だけでなく、同一労働・同一賃金対応、e-Govのアップデート内容の把握、オンライン・ワンストップ化の情報収集なども並行して行わなければならず、人事労務部門は例年以上に忙しくなりそうです。

そのような中、本格的に寒くもなってきますので、体調を崩さないように気を付けながら、日々の業務を進めていって頂きたいと思います。

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東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
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