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社労士が解説!今月のHRニュース2020年5月編(雇用調整助成金/キャリアアップ助成金/パワハラ防止法など)

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こんにちは。特定社会保険労務士の榊です。

緊急事態宣言が解除され、我が国全体で見ても新規感染者数が落ち着きつつあるなど、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が抑えられつつあります。

まだまだ油断できない状況ではありますが、光も差し始めているのではないでしょうか。

本稿、2020年5月度の「今月のHRニュース」では、コロナウイルス関係の助成金等に関する最新の政府の動きと、アフターコロナを見据えた企業活動の本格再開に向けて、おさえておきたいトピックを紹介していきたいと思います。

※本稿に掲載されている情報は2020年5月21日時点での情報ですので、変更されている可能性があります。

2020年5月のトピックの振り返り

(1)雇用調整助成金

前月のトピックでは、雇用調整助成金の申請書類が簡素化されたことをご紹介しました。

しかし、それでもなお、事業主にとって申請のハードルは高く、雇用調整助成金の活用はなかなか進まず、企業への必要な支援が行き届かない状態が続いていました。そこで、政府は、追加で3つの施策を打ち出しました。

1. 雇用調整助成金の申請書式のさらなる簡素化

第1は、雇用調整助成金の申請書式のさらなる簡素化です。

5月19日に簡素化された申請書式が発表されましたが、中でも、今回新たに、従業員20名以下の事業主向けの特例として用意された申請書式は、社労士の目から見ても「よくぞここまで簡素化してくれた! 」と、拍手をしたくなるほどの分かりやすさと書類の削減を実現しています。ようやく、一般の事業主が安心して申請をすることができる助成金になった、という思いです。

雇用調整助成金の最新の申請書式は「こちら」よりご確認ください。

2. 雇用調整助成金がオンライン申請可能に

第2は、雇用調整助成金がオンライン申請できるようになったことです。

雇用調整助成金の申請は、郵送による申請も可能です。しかし、書類が難しく窓口で相談をしながら申請をしたい、窓口で手渡しで書類を提出して確実に受理されたことを見届けたいなどの理由から、申請希望者が窓口に殺到し、ハローワークの助成金窓口がまさに「三密」の状態になってしまっていました。

そこで、書類のさらなる簡素化と合わせ、5月20日より、オンライン申請による雇用調整助成金の申請受付が開始されることが予定されていたものの、残念なことにシステムに不具合が見つかり、5月21日現在、稼働延期中です。

今回の電子申請は、入社や退職の人事労務手続のように、電子証明書やGビズIDを利用した高度な仕組みではなく、作成した書類をPDFにして送信する簡易的なものです。

しかし、三密の回避に繋がる、送信(申請)した証拠が残ることで安心感が生まれるなど、大きな進歩であると考えます。一刻も早く不具合が解消され、システムが稼働することが望まれます。

3. 「休業補償の直接払い」制度

第3は、目下継続審議中ですが、雇用調整助成金を補完する「休業補償の直接払い」の制度が開始される予定であることです。

雇用調整助成金の申請書類が大幅に簡素化されたとはいえ、雇用調整助成金は「あらかじめ休業手当を先払いすること」が前提なので、資金繰りが厳しくて事業主が休業手当を支払うことができない場合は、雇用調整助成金の申請ができません。

また、事業主が助成金を申請することに消極的である場合も同様です。その結果、最終的に割を食うのは、休業補償を受けられない従業員となります。

そこで、休業したにもかかわらず、会社から休業手当を受け取ることができなかった従業員本人が、自らハローワークに申請をして、基本手当(失業手当)のような形で休業補償を受けられるようにする制度が検討されています。

5月21日現在、詳細はまだ明らかになっていませんが、早期の実現が望まれます。

(2)キャリアアップ助成金

助成金関係の話が続きますが、キャリアアップ助成金についても振り返っておきます。

キャリアアップ助成金は、コロナの影響で申請ができない場合には、申請期限に猶予が設けられることは先月の記事で説明した通りです。これに加え、4月・5月の勤務実績として、休業が多かった企業は、「そもそも申請のタイミングが到来しているか」の再チェックをする必要があります。

キャリアアップ助成金を申請するためには、正社員転換後、6ヶ月分の賃金を支払っていることが必要条件の1つとなっています。しかし、その6ヶ月をカウントするにあたり、賃金の支払い基礎となった日数が11日未満の月は1ヶ月とカウントすることができません。

もちろん、6ヶ月にカウントできない月があったとしても、キャリアアップ助成金の申請が、未来永劫できないということでなく、コロナ終息後に11日以上出勤して、出勤日数条件を満たす月が通算6ヶ月になれば、キャリアアップ助成金を申請できるようになりますのでご安心ください。

逆に、休業手当が100%(正規の賃金と同額)支払われた休業日は、賃金の支払い基礎日数にカウントされますので、この点もご注意ください。

チェックしておきたい主なHRトピック

ここまでコロナ関係の助成金の話題が続きましたが、今月のトピックは、アフターコロナを見据え、法改正や通常の労務管理に関する話題に比重を移していきたいと思います。

(1)未払い賃金の時効が3年に

2020年4月1日より、改正民法が施行されています。この影響で、従来は2年で時効にかかっていた未払い残業代などの賃金債権の時効が、3年に延長されることとなりました。

もう少し補足説明をしますと、改正前の民法では、賃金債権の時効は1年とされていたのですが、労働者の保護に欠けるとして、特別法である労働基準法で時効が2年に補正されていたのが従来の姿でした。

ところが、改正民法では、賃金債権を含め、すべからく債権の消滅時効は5年とされたので、労働基準法で補正した2年と逆転現象が起こってしまったのです。本来であれば、賃金債権も5年の時効が適用されるべきですが、労使のバランスを踏まえ、当面の間、3年の時効という形で決着しました。

結論としては、2020年4月1日以降に発生した未払い残業代などの賃金債権は、時効が2年ではなく3年に延長され、未払い残業代の支払や、不当解雇で裁判になって会社が敗訴した場合には、時効が1年延びた分、会社が支払わなければならない損害賠償額も大きくなるリスクがあるということです。

この点をご認識いただき、これまで以上に適正な労務管理に努めてください。

(2)健康増進法の改正

こちらも2020年4月1日から既に施行されている法改正ですが、改正健康増進法の施行により、一般企業のオフィス等においても、原則として室内禁煙が義務化されます。室内で喫煙を認める場合には、望まない受動喫煙を防止するため、喫煙室を設置しなければなりません。

この義務に違反した場合は、行政指導の対象となり、それでも禁煙や分煙の対応がなされない場合には、50万円以下の過料という罰則が課される可能性があります。

「罰則があるから」ではなく、もともと事業主には、労働安全衛生法により包括的な安全配慮義務が求められていますので、従業員の健康を守り、快適な職場環境を提供するという観点から、積極的に禁煙や分煙に取り組んでいってほしいと思います。

(3)パワハラ防止法が施行

パワーハラスメントの防止を企業に義務付ける法律である「パワハラ防止法」が、2020年6月1日より施行されます。

この法律を受け、厚生労働省が告示した「職場におけるハラスメント関係指針」には、具体的に企業が取り組むべきパワハラの防止措置として、次の3つが挙げられています。

  1. 「パワハラ防止に関する方針等」を明確化し、労働者への周知、啓発を行うこと
  2. パワハラに関する相談や苦情を受ける窓口を設置する等、パワハラ防止体制を整備すること
  3. 実際にパワハラ事案が発生した場合、事実関係の迅速かつ正確な確認と、適正な対処を行うこと

中小企業に関しては、2022年3月31日までは、経過措置として「努力義務」にとどまるとされていることや、パワハラ防止法には刑事罰は定められていないので、対応が後手に回ってしまいがちかもしれません。

しかし、パワハラが発生すると、職場環境が悪化して退職者の増加につながったり、パワハラによる自殺などが生じた場合は、民事上の損害賠償責任を問われることもあります。加えて、パワハラの事実がマスコミで報道されると、企業イメージの大幅な悪化や、その結果として、取引停止や採用難に直面するリスクもあります。

今回のパワハラ防止法の施行を契機に、いまいちど、社内のチェックや引き締めに力を入れましょう。

(4)労働保険の年度更新

毎年恒例の人事労務手続に関する話題になりますが、毎年5月下旬になると、緑色の封筒(一部、青色の場合あり)で、労働保険料の年度更新の案内が届きます。

労働保険料とは、労災保険料と雇用保険料の総称で、労働保険料は、社会保険料のように毎月納めるのではなく、年に1回、精算と前納を繰り返す方式になっています。この精算と前納を合わせて「年度更新」と呼ばれています。今年度でいえば、既に前納されている令和元年度分の労働保険料の精算と、令和2年度の労働保険料の前納を行うことになります。

この場では詳細な説明は省かせていただきますが、「令和元年度の賃金支払い実績」と、「業種によって定められた保険料率」に基づいて、精算および前納すべき労働保険料の額が決まります。各企業は都道府県労働局にその額を申告するとともに、金融機関を経由して労働保険料の納付を行うことになります。

申告と納付を合わせて、6月1日から7月10日までの間に行うことが原則とされていますが、2020年に関しては、コロナの影響で、8月31日まで猶予されています。

(5)新年度の住民税を給与計算に反映

もう1つ、今の時期に忘れてはならない定例行事は、給与計算で、住民税の特別徴収控除額を新年度の金額にアップデートすることです。

住民税は、毎年6月分(7月10日納期限分)から年度が切り替わりますので、5月中旬から下旬にかけて、特別徴収の対象となる従業員が居住している各市区町村から、住民税額の通知書と、納付書が届きます。

6月に支給される分の給与から、住民税のマスタを新年度の金額に変更してください。なお、住民税は、総額を12ヶ月で按分した額を給与から天引きしますが、端数の関係で6月だけ7月以降の住民税と額が異なる場合が多いですので、ご注意ください。

6月に入っても住民税額の通知書や納付書が届かない場合は、その従業員の居住している市区町村の役所に問い合わせて状況を確認してください。

人事労務ホットな小話

4月・5月はコロナウイルスの影響が直撃した時期でしたが、「やむを得ず始めたテレワークが、すっかり社内に定着して、従業員からも好評である」という話を筆者は顧問先から伺いました。

今のタイミングで「災い転じて福となす」という表現を使うのは時期尚早かもしれませんが、コロナ対応の中で気づいたことや、改善につなかったことを、アフターコロナ時代の経営に生かしていくことができれば、コロナ前よりも企業体質が強化され、働きやすい企業として、さらなる社業の発展につなげていくことができるのではないかと確信しました。

まとめ

6月からは、自粛一色ではなく、コロナウイルスへの用心と経済活動の本格再開のバランスで、各企業は難しい舵取りを迫られることが予想されます。人事労務領域においても、年度更新や算定基礎届など、繁忙期に入っていきます。

どのような対応をするのがベストなのかは判断が難しいですが、引き続きテレワークや時差出勤なども積極活用し、コロナウイルスと共存する環境を前提に、社内はもちろん、社外の関係者も含め、皆で力を合わせながら、この危機を乗り越えられるよう頑張っていきたいものです。

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