人事労務の基礎知識 ~就業規則・36協定編~【飲食・小売業、人事カイカク #05】


(前回の「飲食・小売業、人事カイカク #04」はこちら


こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

17年間の飲食業現場経験から、【飲食・小売業、人事カイカク】というテーマの中で、「飲食業・小売業」の人事労務を改革し、バックオフィスから経営を強めていくためのヒントを探り、提供する当連載。

働き方改革を進めるための土台をしっかりと築くために必要な「人事労務の基礎知識」を、#03〜#07において5回にわけてお送りしていきます。3回目となる今回は、働くルールを定めた「就業規則」、労働者を残業させるときに必要となる「36協定」について、よくある質問をQ&A形式にて解説します。

【Q.1】「就業規則」は作成すべきなのか?

就業規則は必ず作成すべきなのでしょうか?

【A.1】労働基準法で定められています。就業規則を作成することが、社員だけでなく会社を守ることにつながります。

労働基準法第89条において、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があると定められています。

就業規則は、会社が労働者に守ってほしいと考える働く上でのルールや労働者の規律、労働条件を明文化しています。労働条件を公平、一律に設定し、職場の規律を定めておくことは、事業運営を行う上で必要不可欠です。

また、会社が労働者に対し「勤務中は職務に専念すること」「やむを得ない場合を除き、欠勤、遅刻早退をしないこと」などを求めるのは、労働契約上当然のことです。それに反する問題社員がいる場合、就業規則に則って対処することになります。

しかし、懲戒規定で、あらかじめ懲戒の対象となる事由を定めておかなければ、問題社員を懲戒処分にすることができません。

就業規則には、従業員はもちろん自社を守るという側面があるのです。

 

【Q.2】「就業規則」を作成すべきタイミングは?

就業規則はどのようなタイミングで作成すべきなのでしょうか?

【A.2-1】労働者が10人以上の場合、就業規則を作成して、労働基準監督署への届け出が必要です。

前述の通り、労働者が10人以上の場合、「就業規則の作成」と「所轄労働基準監督署への届け出」が義務づけられています。

ここで言う労働者の人数は、会社全体の労働者人数ではなく、工場、支店、事務所、店舗など「事業場単位」で考えます。

1つの事業場で、正社員、契約社員、パート・アルバイトを含む、すべての労働者が10人以上となったとき、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が必要となります。

【A.2-2】10人未満でも就業規則を作成したほうが良いのでしょうか?

1事業場10人未満であっても、多店舗展開している会社や、近い将来人数が増え10人以上となる予定である場合、Q.1で挙げた観点から就業規則を作成することをお勧めします(この段階では、労働基準監督署への届け出は不要です)。

個人的な意見として、雇用する労働者がおおむね5人以上になった段階で、就業規則作成の時期を意識しておくと良いでしょう。もちろん、それより少ない人数であったとしても、加速度的な成長が見込まれる場合は同様です。また、このようなフェーズにおいて就業規則を作成する事業場もあります。

なぜならば、就業規則がないときに、暗黙のルールが出来上がってしまうとそれが慣例となり、後々廃止するのが困難になり、規律を維持できなくなる恐れがあるためです。また、対処が必要になった時にその都度待遇を決めていると不平等になり、労働者の不満につながってしまうこともあります。

一方、働くルールを明確にすることで、労働者が安心して働ける環境を保つことができ、健全な事業運営に繋がります。

就業規則には、必ず記載しなければならない「絶対的記載事項」、定めをした時に就業規則に必ず記載しなければならないならない「相対的必要記載事項」がありますので、厚生労働省の「モデル就業規則」などを参考にしてください。

 

【Q.3】「36協定」って何?

「36協定」とはどのようなものなのでしょうか?

【A.3】「36協定」とは「時間外労働・休日労働に関する協定届」のことで、時間外労働をさせるには届け出が必要です。

「36協定」とは、「時間外労働・休日労働に関する協定届」のことで、労働基準法第36条に規定があることから、通称「36協定(さぶろくきょうてい)」といいます。

労働者に1日8時間、1週40時間を超える時間外労働をさせるときには、あらかじめ36協定を事業場単位で締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出ることが必要です。

36協定では下記の事項を定めます。

  1. 時間外労働をさせる必要のある具体的な事由
  2. 時間外労働をさせる必要のある業務の種類
  3. 時間外労働をさせる必要のある労働者の数
  4. 1日について延長することができる時間
  5. 1日を超える一定の期間について延長することができる時間
  6. 有効期間

延長時間は、その期間ごとに限度時間が決められています(1ヶ月は45時間、1年は360時間など)。

限度時間を超えて残業をさせる特別な事情がある場合、「特別条項」を定めることができます。

ただし、月80時間は「過労死ライン」と言われ、長時間労働による過労死や脳、心疾患発症のリスクがあるとされるため、月80時間を超える時間外労働の設定は避けるべきです。

あまりに長時間の限度時間を設定した場合、労働基準監督署の監督・指導の対象となることがあります。

 

【Q.4】労使協定における「労働者代表」はどう決める?

36協定をはじめとした労使協定を締結する際の「労働者代表」とは、どのように決めるべきなのでしょうか?

【A.4】「労働者代表」の選出には要件と手続きが定められており、要件を満たさない労使協定は無効です。

労使協定を締結する際は、労働者の過半数で組織する労働組合と、その労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(労働者代表)と書面による協定をします。

労働組合がないケースが多く、「労働者代表」を選出して労使協定を締結している場合がほとんどでしょう。

■「労働者代表」の要件と選出のための正しい手続き

  1. 労働者の過半数を代表していること
  2. 協定を締結するための過半数代表者を選出することを明らかにしたうえで、投票、挙手などにより民主的な方法で選出すること
  3. 管理監督者でないこと
    (※ 管理監督者とは、労働基準法第41条第2号に規定する「経営者と一体的な立場にある人」をさします。会社の管理職とは意味合いが異なります。)

上記の要件を満たさない労使協定は無効となってしまいますので、注意が必要です。

 

【Q.5】パート・アルバイトでも「労働者代表」になれる?

社員のみならず契約社員・パート・アルバイトが労働者代表になることは可能でしょうか?

【Q.5】雇用形態に関係なく労働者は「労働者代表」になることができます。

雇用形態に関係なく、正社員、契約社員、パート・アルバイトはすべて労働者なので、民主的に決めたのであれば労働者代表になることができます。

 

【Q.6】多店舗展開している会社の「事業場」の適用範囲は?

就業規則や36協定の作成・締結において、レストランなどの飲食業やコンビニなどの小売業のように、チェーン展開・多店舗展開している場合の「事業場」の適用範囲はどのように区別されるのでしょうか?

【A.6】店舗ごとに「事業場」として区別されます。

チェーン展開・多店舗展開している場合、同じ会社であっても、店舗ごとに「事業場」として区別されます。労働基準法の「事業場」の考え方は、原則として、同一の場所にあるものは一つの事業場とし、場所的に分散しているものは別個の事業場とされています。

労働者代表は店舗ごとに選出することから、「事業場の長」となる人材には、就業規則や36協定をはじめとした基礎知識が必要です。このような観点からも、店長には労務を含めた総合的な店舗運営知識が求められます。

 

【A.7】全店一括での、就業規則や36協定の締結はできる?

店舗ごとの労働者代表選出や、就業規則や36協定の締結は手間がかかるため、全店一括でできれば嬉しいのですが……。

【A.7】例外を除き、基本的に全店一括での締結はできません

労働基準法の適用単位が「事業場」ごとであることから、一部のケースを除き、全社・全店一括での労働者代表選出や各種締結はできません。

一部のケースとは、パート・アルバイトを含めたすべての労働者の過半数が組織する「労働組合」がある場合で、その事業場(店舗)において加入している組合員が過半数であるという要件を確認した場合のみ、一括して作成・締結することができます。

 

【Q.8】就業規則や36協定の「労働者への周知」はどう行う?

就業規則、36協定は「労働者に周知すること」とありますが、どのようにすればよいでしょうか?

【A.8】「労働者がいつでも手に取って確認できるように」がポイントです。

就業規則を作成し、労働基準監督署へ届け出た後、書庫などに鍵をかけて保管する、36協定も重要書類ファイルにいれるなどして、労働者がどこにあるか把握できないという状況は望ましくありません。「周知」で大切なのは、労働者がいつでも手に取って確認できるようにしておくことです。

周知には、以下のような方法があります。

  • 就業規則や付属規程一式、36協定、労使協定書をファイリングしておき、事務所や休憩室などに備え付ける。
  • イントラネットでデータ保管しておき、いつでも閲覧できるようにしておく。
  • 書面(就業規則、36協定を複写したもの)を労働者に交付する。

 

まとめ

就業規則、36協定については、各都道府県の労働局のホームページにも情報があります。

就業規則は、厚生労働省の「モデル就業規則」も活用できますが、自社の実情に合わせて作成することが必要です。

また、いったん規定してしまうと、変更や廃止が難しいということに注意してください。この変更や廃止は、「労働条件の不利益変更」であって、会社が勝手に行うことはできません(「労働条件の不利益変更」は原則できず、あくまでも例外として変更に合理性があれば可能ではあります)。

就業規則、36協定は労務管理上とても重要です。適切な労務管理で、優秀な人材の確保、働き方改革の推進、会社の発展につなげていただきたいと思います。


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飲食業でSmartHR導入後に起きた変化とは?
飲食業におけるSmartHR導入事例

アルバイト人材をはじめ、多くの入退社手続きが発生する飲食業界は、その管理も煩雑。特に多くの業態や店舗を持ちチェーン展開する会社では、管理が分散してしまうなど、より大きな課題を抱えます。この飲食業を営む企業において、SmartHRを導入した結果、どのような変化が訪れたのかに迫ります。

【こんなことがわかります】

    ・月間40時間の労務工数削減に成功したワケ
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特定社会保険労務士 羽田未希

17年間の飲食業現場経験を持つ、異色の女性社会保険労務士として飲食業・小売業などサービス業を得意とする。パート・アルバイト活用、人材育成のコンサルティング、労使トラブルを未然に防ぐ就業規則作成、助成金申請など、中小企業の人材活用のサポートを行う。著書に『店長のための「稼ぐスタッフ」の育て方』(同文舘出版)がある。
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