【SmartHR Agenda#1レポート】データ分析を活かすエンゲージメント向上への「改善アクション」


2022年3月8日、変革のジレンマを超える「人」起点の組織づくりをテーマに、さまざまな識者のお考えを伺うトークイベント【SmartHR Agenda#1】が開催されました。

株式会社We Are The People 代表取締役 安田雅彦さんをお招きした『データ分析を活かすエンゲージメント向上への「改善アクション」』では、コンサルティングの立場からさまざまな企業の人事に携わってきたご経験からのお話を伺いました。

従業員エンゲージメントは、企業の業績(売上や利益、人材の定着率)との関連性があるといわれる一方で、「人事データ分析はするけれど、組織改善のための活用方法が分からない」と頭を悩ませるマネジメント層も多くいらっしゃいます。

この記事では、安田さんにお話しいただいた、分析結果を活かし組織改善に繋げる「思考の軸」と「具体的なアクション」をお届けします。

株式会社 We Are The People 代表取締役 安田 雅彦氏

1989年に南山大学卒業後、西友にて人事採用・教育訓練を担当、子会社出向の後に同社を退社し、2001年よりグッチグループジャパン(現ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からはジョンソン・エンド・ジョンソンにてHR Business Partnerを務め、組織人事やTalent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリードした。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年からラッシュジャパンの人事統括責任者 Head of Peopleに就任。2021年7月末に同社を退社し、人事・組織コンサルティング事業を主とする株式会社 We Are The Peopleを起業。

データ分析を活かすエンゲージメント向上への「改善アクション」_グラフィックレコーディング

(グラフィックレコーディング:グラフィックカタリスト 成田 富男

ビジネスの成長を支える人事とは

「良い会社」の定義を考える

安田さん:まずは簡単に自己紹介をさせていただきます。大学卒業後は西友というスーパーマーケットに入社し、人事部で10年働きました。のちに人事のプロフェッショナルを目指すため、グッチグループジャパン、ジョンソン・エンド・ジョンソン、アストラゼネカを経由。独立直前はイギリスのコスメティックカンパニー・LUSHの日本法人であるラッシュジャパンというところで統括責任者をしていました。

昨年、30年のキャリアを踏まえ54歳で独立をさせていただいて、人事部がない中小企業を中心に組織や制度、パーパスなどにまつわる支援をしています。やっていることとしては、人の成長でビジネスをドライブするための戦略人事のサポート。そしてパーパスや存在意義、ミッション・ビジョン・バリューみたいなものでビジネスを成長させていくことなど、広く関わっています。

株式会社We Are The People 代表取締役 安田雅彦さん

(株式会社We Are The People 代表取締役 安田雅彦さん)

安田さん:ここで皆さんに“問い”をさせてください。「良い会社」とはなんでしょうか。届いた回答を見てみましょう。

「心理的安全性の高い会社は素晴らしい」「やりがいのある会社」「働く人が生き生きしてる」「従業員が活躍できる会社」「成長できる会社」「三方よし」「ボトムアップ」「生き生きしてる」「社会に良い影響」。

全て正解です。いいですね。私の定義も読みますね。「明確な経営理念・信念・価値観を持ち、そこへの従業員エンゲージメントを『キードライバー』として、安定的に結果としてビジネスの成長を続けていく」と定義しています。

パーパスで売り上げが倍になったら世の中どう変わっていくのかを明確にし、そこに対する共感を1つのやりがいとする、ということです。

そのうえで、「世の中に価値を創出する、世の中に変化を起こしている」「組織内に心理的安全性がある」「成長機会を生み出している」ことも重要でしょう。「明確な経営理念」「エンゲージメント」「ビジネスの成長」「世の中への価値」「心理的安全性と成長機会」などは昨今のキーワードだと思います。それらが備わったことを前提に、人事のグランドデザインをしましょう。

制度をワークさせるために必要なパーパスとマネジメント

中小企業の社長さんに人事の守備範囲を伺うと、「給与・報酬」「評価制度」「等級(昇進/昇格)」「人材育成」などの話がよく上がります。しかし、人事制度や評価制度はあくまでサブツールなんですよね。制度をワークさせるために大事なものは、2つあります。

1つがパーパスです。企業経営理念とか組織文化とか価値観、当社らしさ、当社の価値基準などともいえますね。制度は、これらを従業員に伝えるメッセージです。

もう1つがマネジメントの概念的理解。マネジメントとはそもそもなんであるかということです。

登壇資料_人事のグランド・デザイン

安田さん:上記の図に、「努力してつくられ維持される良好な信頼関係・強みを引き出し育てる風土」と書かせていただいたのは、つまり、人間関係を努力してつくる必要があるということです。フィードバック・カルチャーもこの1つだと思います。これらがあってこそ制度が整ってワークし、戦略人事が成立します。

そこから、タレントマネジメントやサクセッションプランによってビジネスを成長させたり、エンゲージメントの向上によってビジネスの価値を創出させたりします。これらがトータルのシステムとしてワークしている状態が理想ですね。

経営理念や価値観が徹底されている組織であることは、働きやすい環境や心理的安全性、信頼関係の醸成にも繋がります。

経営理念や価値観のあらゆる点において徹底

安田さん:私が働いてきた5つの会社の中には、経営理念や価値観の徹底度合いに濃淡がありました。徹底されてる会社には共通点が3つあります。

1つ目は、理念・価値観がビジネス上の判断や人事制度、オフィスルールに至るまで、あらゆる点において矛盾なく徹底されていること。

たとえば、LUSHは全ての判断の基準に倫理観を置いています。倫理と利益であれば倫理を優先します。当時、LUSHは中国大陸ではビジネスをしないと決めていました。なぜなら、中国は輸入した化粧品を中国大陸で販売するために、動物実験を義務付けているんです。(※2021年に義務付けを撤廃

ラッシュは自分たちの倫理的立場から動物実験に反対の立場を取っているため、需要のあるエリアではありますが、ビジネスはしませんでした。言ってることと、行動が一致している例です。

2つ目は、理念・価値観について話し合う時間と機会を持ち、共通理解を維持する努力を絶やさないこと。言ったことをそのままにしないことです。自社が大事にしてる価値観について話し合う機会を定期的に作っていました。最近の経営判断や世の中の流れを価値観と照らし合わせる作業です。

これらが徹底されている企業の1つがジョンソン・エンド・ジョンソン。「Our Credo、我が信条」という4つの責任のもと、あらゆる判断を下しています。また、その判断の理由について話す、クレド・チャレンジ・ミーティングも実施していました。自社の理念や存在意義、価値観について時間をかけて話し合うことをいとわない、その努力を絶やさないというのが、共通点として見られたことですね。

3つ目は、理念・価値観が組織内に徹底・浸透してるかどうかを常に確かめていること。できていない場合は改善を促すことです。これはつまり、サーベイによる定点観測を指します。ジョンソン・エンド・ジョンソンであれば、クレド・サーベイを、ラッシュはエシカルコンシューマー・サーベイという名前で、世界中に同じ質問内容のサーベイを実施していました。

「あなたの国は、あなたの事業部は、あなたの職場は、あなたの上司はクレドに則って日々お仕事をしてますか?」と問うわけです。その結果を社内、部内、グループ内で共有し、できてないことについては改善を促します。結果から改善へつなげていくことが重要なのです。

株式会社We Are The People 代表取締役 安田雅彦さん

サーベイは、マネジメントの通信簿

安田さん:ジョンソン・エンド・ジョンソンの「我が信条、Our Credo」に似たようなものが、ラッシュにもありました。「We Believe」という、自社が考えるエシカルや有機(オーガニック)とは何かを明文化したものです。

このポリシーはラッシュの店舗の壁にもかかっています。印象的だったのは、グローバルのミーティングや店長のミーティングなどを「Think Tank」という名称で行っていたこと。世の中のできごと、たとえば動物の殺処分や地球環境の問題などを、われわれの信念に基づいて考える機会を、積極的にもっていたのです。

また、エシカルコンシューマー・サーベイという名前で、自社の信念の達成に関するサーベイも実施していました。「あなたの国、あなたの職場、あなたの上司、そしてあなた自身がきちんとそれに基づいて日々お仕事ができていますか。そして、働く環境、雇用条件、お給料等に満足していますか」という内容です。

この従業員サーベイの結果で理念の浸透度を測っていました。理念に基づいた制度や信頼関係、心理的安全性の達成度が、どれくらいのステータスかを調べているのです。これがあらゆる改善、改革のきっかけとなりました。言い換えれば、マネジメントの通信簿ですね。

サーベイの導入・活用を推し進めるポイント

運用の成果が導入の説得材料に

安田さん:サーベイの導入や活用が進まない原因は、何でしょうか。どんな粒感、解像度でも、お書きいただければと思います。

回答を読んでいきましょう。「質問がフィットしない」「何を見たいか決めてないから」「フィードバックしていく工数がないので、うまく活用できるか不安がある」「当事者意識の低さ」「そもそもサーベイを知らない、理解してない」「サーベイでは良いことしか言わず、従業員は本音を言わない」「分析の仕方が分からない」「社内サーベイを実施したことがなく、経営陣が実施したその結果を社員にどう受け止められるかを懸念していて腰が重い」「データが曖昧」「人数が少なすぎる」「匿名性が担保できない」「業績との連動性の不透明感」「経営者が金を出さない」「経営担当者、社員の本気度が実は薄い」

なるほど。そのとおりだと思います。

サーベイの実施・活用が進まない

安田さん:私が準備してきた項目は、まずテクニカルな部分が分からないこと。そしてどんな項目を聞き、どう分析し、結果をどう活用したら良いのか分からないというところです。また、「悪かったらどうしよう」という恐怖です。特に経営陣の方がお持ちでしょう。こういった障壁がある中での導入は、運用の成果をもって説得していただくのがよいと思います。

サーベイ導入の7つのポイント

安田さん:ポイントの1点目は、できるだけシンプルなものから始めることです。さまざまな手法や角度のサーベイがありますから、意識調査や上司部下の関係性を測る指標など、いろいろな項目を集めてしまいがちです。その結果よく分からなくなるため、できるだけシンプルなもので集めてみる。あんまり複雑にしないことが、すごく大事だと思います。

2点目は、何のために実施するのかを明確にすること。目的が人事制度の刷新ならは、従業員が感じる課題感や会社全体に抱いている想いを知るための設計が必要です。エンゲージメントをあげたいならば、エンゲージメントの度合いを測りたいからやるという文脈を明確にするべきです。

3点目は、サーベイへの協力に対して感謝し、結果を示すことです。その主語は人事部でも会社でも構いませんが、今回の結果をこう理解してますという、組織的認知のサマリーを付けることがすごく大事なんです。データをシェアするだけではなくて、給与への不満や上司部下の関係をどう捉えているのかを示しましょう。さらに今後のアクションとして、管理職教育を進めるなど、評価制度を抜本的に変えるなどの方向性も示せるといいですね。

4点目は、難しいけれどやったほうがいいことです。それは数字だけで判断せずに深掘りしてみること。質問自体に工夫しても、やっぱり分からない部分があるので、直接的に深掘りしてみたほうがいいんですよね。

私はこれまで経験した5社すべてでサーベイをしてきましたが、給与の肯定回答率って本当に低いんです。だからといって、すぐに給与を上げることなんてできません。そこで、本質的な不満を深掘りしてみましょう。どうしたら給与が上がるかが分からないことに対する不満なのか、他の人と比べての不満なのか、自分の給料がどうやって決められてるのかが分からないという不満なのか。

具体的な方法として私がやっていたのは、カジュアル・ミーティングです。発言者を特定するためではなく、調査結果をみながら、「本音のとこはどうなんでしょうね」とソフトに聞くみたいなアプローチでした。

あとは、ある程度は他部門の結果も共有するといいでしょう。少なくともファーストラインマネージャー、その組織で最初に部下を持つ課長や店長などの層には他部門の結果も共有したほうがエンゲージメントが上がると思います。いいところを参考にしてもらえるでしょう。

あと6番目は改善アクションです。いいところと悪いところから、強みや伸び代が判断できたら、伸びしろにアプローチする改善アクションを作ります。その時、改善アクションは、その部門の当事者である部長や課長がリーダーになってつくるということが大事です。人事はあくまで事務局なので、エンゲージメント・サーベイの出た結果からくる改善アクションは、必ず現場が主体となってつくるということが、すごく大事だと思います。

7番目は、参加・回答をひたすら促すこと。強制は良くないという意見もありますが、自分たちの職場を自分たちの声でよくしていこうという当事者意識を従業員にもってもらいましょう。

ここまでで私の講演は終わります。ありがとうございました。

サーベイ実施と結果活用のポイント【執筆・まえかわ ゆうか】
エディター / ブランディングプランナー / カレー屋さん。アパレルからビジネス分野まで幅広い分野でクリエイションを提供する。専門分野は食。

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