労務担当者が対応に戸惑いそうな困難事例から学ぶ〜プライベートの喪失感から仕事ができなくなった営業職Bさんの事例|喪失からの回復【Smart相談室】Vol.2 セミナーレポート

2022.12.27 ライター: 廣嶋祐治

2022年11月22日(火)、オンラインカウンセリングサービス「Smart相談室」を提供する、株式会社Smart相談室主催のオンラインセミナー『労務担当者が対応に戸惑いそうな困難事例から学ぶ#02 プライベートの喪失感から仕事ができなくなった営業職Bさんの事例』では、Smart相談室スーパーバイザーの鵜飼柔美氏をお迎えし、喪失感を抱える相談者への対応についてをお話しいただきました。今回の事例はペットロスです。ぜひお役立てください。

<セミナー講師> オフィスファーロ 代表 鵜飼 柔美 氏

<進行> 株式会社Smart相談室 CEO 藤田 康男 氏

話を聴いて、あふれる心の壺を楽にしてあげる

鵜飼さん:第1シリーズの第3回でお話しした、「なぜ聴いてもらうと楽になるのか」というテーマを復習しましょう。相談者の話を「きく」とき、効果的な「きき方」と効果がない「きき方」があります。

日本語には、「きく」という漢字がいくつかありますよね。「聞く」という漢字は、音が聞こえているという場合に使います。BGMで聞こえているイメージです。「訊く」は、質問を投げかけて話を進めることで、「きき手」に主導権がある状態ですね。カウンセラーや労務担当者さんにしていただきたいのは、「聴く」です。「耳」という漢字の左側にある旁(つくり)を分解すると、「十四の心で聴く」、「耳プラス目と心で聴く」といったように見えます。前のめりで話の中身を理解しようと身体を傾けて聴くことが「傾聴」です。その人の世界を理解しようという姿勢で聴くことで、話し手に何かしらの影響が生まれ、変化が起きやすい聴き方なのです。

聴いてもらうことで楽になる理由「安心して思いをあふれさせられる」

なぜ、そういった聴き方をしてもらうと、話し手は楽になるのでしょうか。話し手側の心の壺のなかは、不満や不安、怒りなどの想いがあふれている状態になっています。

壺が満たされてしまうと、視野は狭くなり、冷静に考えることができなくなったり、落ち着いていれば対応ができることも対応できなくなってしまったりするんです。そのようなときに別の誰かの壺がそれを受け止めてくれると、心にゆとりが生まれます。冷静さを取り戻し、視野が広くなり、落ち着いて考えられるようになるのです。

聴いてもらうことで楽になる理由「わかってもらえることで独りではない気になれる」

親身に聴いてもらうこと自体が話し手を楽にすることもあります。「十四の心」「耳と目と心で聴く」と先ほどお伝えしましたが、ただ単に言葉だけを聞くのではなく、言葉の奥にある話し手の世界を理解しようと心がけてください。それによって、話し手は味方や理解者ができたような気持ちになります。

状況は変わっていなくても、気持ちが先に楽になることが多々あるのは、解決方法を教えてほしいわけではなく、わかってもらいたいという想いがあるためなので、その想いを満たしてあげましょう。

喪失からの回復事例

Bさんの事例の詳細

では、今回の事例をご紹介いたします。今回は、「プライベートでの喪失感から仕事ができなくなった営業職Bさんの事例 ~喪失からの回復~」です。過去に経験した複数の事例を組み合わせてつくりました。

相談者はBさん。40代の女性、人材紹介会社の営業職の方です。労務担当の方は、「ロウムさん」という名前にしました。主訴は、いわゆる「ペットロス」ですね。ペットがいなくなってしまったことで仕事が手につかない状況になり、上司の勧めで面談にいらっしゃいました。

話の聴き手が注意するポイント

ロウムさんの立場になると、「なぜ職場でペットの話?」「仕事とプライベートは切りわけないと」と思ってしまうかもしれません。しかし、Bさんに対して批判的な思いや疑問が生まれてしまうと「聴く」ことができず、効果も得られなくなってしまいます。

藤田:正直、ペットのことを仕事場で話すには違和感がありますね。悲しいのはわかるのですが、労務担当の方に言われても困るでしょうね。

鵜飼さん:Bさんは自分から労務担当者さんに話そうと思ったのではなく、仕事が手につかない状態を見かねた上司に勧められたという経緯があるようです。

「ペット」という位置づけは人によって違いますよね。家族だと思っている方もいれば、愛玩する存在と思っている方もいるでしょう。同じペットでも、人によってさまざまな受け止め方があるのです。

相談対応のステップ

相談対応の3つのステップ

まずは相談対応のステップを確認しましょう。1つ目のステップは、「相談者の世界で相談者を理解すること」です。その人にとってペットを失くすことがどういうことか、を理解しないと話がはじまらないんですね。

2つ目のステップで、「問題を解決するための本質を理解」します。「その方にとってどのような事情があったのか」「そのことで生まれている感情や奥底の心情はどのようなものか」を理解してはじめて、問題の本質を考えられます。

3つ目のステップは「解決の方法を一緒に考えること」です。早く解決してあげたいと思うほど、最初から解決方法を提示してしまいがちです。でも、その場しのぎの対応では効き目がありません。同じことを繰り返さないため、長引かせないための解決方法を導くには、これらのステップが必要なのです。

私たちカウンセラーが前提としているのは、相談者がもつ「自己成長力を信じるという人間観」です。植物は、ある程度の光や温度、水分といった必要で十分な条件が整えば、アスファルトの隙間から目を出して花を咲かせるのと同じように、私たち人間も生き物としての生命力、自己成長力を持っています。

また、相談する側と受ける側の信頼関係が不足していたり、たとえ良いアドバイスであっても本人が納得していないと行動の変容は起こりません。

ステップ1:相談者を理解する

相談者の世界を理解するための3つのステップ

では、ステップ1の「相談者の世界で相談者を理解する」を事例とあわせて試してみましょう。相談者を理解するときは、

  1. 身体的な症状をどう訴えているかの「Bio」
  2. 心理、感情をどう訴えているかをチェックする「Psycho」
  3. どのような環境におかれているかを見る「Social」

の3つに分けて考えていきます。

Bさんの事例の注目点(赤字部分)

Bさんの記録から、注目すべき部分を赤字にしました。カウンセラーは言葉をもとに相談者さんの話を理解していきますので、言葉に対して敏感です。情報をパズルのピースのように少しずつつなげながら、相談者さんを理解していきます。聴き手の世界観で理解してしまうと、本質からずれてしまったり、勝手な判断になってしまったりするので、語られたものを根拠に理解していきます。

身体的な症状をチェック「Bio」

身体的な症状の「Bio」の推察

まず、身体的な症状について見ていきます。

「野良猫やカラスにいじめられたり傷つけられたりしているかもしれないと思うと、眠れないときがある」とおっしゃっていました。日常生活に影響を及ぼすほどの心配や不安があって、かなりストレスフルな状態だとわかります。

心理、感情面を理解する「Psycho」

心理・感情の「Psycho」の推察

次に、心理について見ていきます。

化粧っ気がなく、伏し目がちでぼそぼそと話すという非言語情報から、吹っ切れない気持ちや、心配疲れを起こしている状況だと考えられますね。マンションの庭や近くの公園を探しまわったり、警察に届けたり、張り紙をつくって配布したり、多くの行動を起こしたことを話してくれました。それでも見つからない現状に、落胆していることも理解できると思います。

「私がもっとちゃんとしていたら」「リビングに放していた。もう少し私が早く帰っていれば」と自分を責める言葉もあります。人は後悔の気持ちがあると自分を責めてしまいます。

Bさんはお話のなかで、「フェレット」のことを「あの子」と呼んでいます。飼い始めたころを話すときも、「飼う」ではなく「あの子を迎える」という表現を選んでいます。「いじめられたり傷つけられたりしているかと思うとつらい」「昼間はお留守番をさせていて」と、まるで自分の子どもを想うかのような表現しているので、Bさんにとってペットは特別な存在だったのではないかと推察できます。

あえて「あなたにとってフェレットはどのような存在ですか」と訊かなくても、言葉の端々からとても大事な存在だったことが伝わってきますね。探しまわったことで疲れ切っていて、涙ぐんだり嗚咽を漏らしたりするところからも、大きな悲しみのなかにいると理解できます。

相談者がおかれている環境を理解する「Social」

置かれている環境の「Social」の推察

次に、どういう環境におかれているかを見ていきます。

「夫が嫌がっていたので、私の部屋に放すようにしていた」とおっしゃっていることから、どうやら相談者さんと夫の間に、フェレットに対しての温度差があったとわかりますね。

夫に嫌がられないように、Bさんがフェレットを守るような状況にあったと推察できます。

労務担当者の対応の振り返り

こういったことを理解しながら、もう一度労務担当者であるロウムさんの対応を振り返りましょう。「心配な日々をお過ごしだったんですね」というのは、ずれていない応答だと思います。

再掲・Bさんの事例の詳細

事実を教えてもらうために「フェレットと暮らしたことがないのですが、そういうふうにするんですね」と、Bさんの思いを受けて、「飼う」ではなく「暮らす」という言葉を使って聴いています。これも良いですね。

「もう少し早く帰っていれば……」という自責の言葉に対して、ロウムさんが「いなくなって寂しいだけでなく、自分を責めるような後悔の気持ちもあって、おつらいですね」と言ったときには、おそらくBさんに気持ちが伝わって吐き出せる状態になってもらえたのだと思います。だから嗚咽して泣いたのでしょう。

「大切な存在だったのが伝わってきます。そうですよね」と共感的に理解しています。ここで、「私もペットを飼っていて、いなくなったことがあるからわかります」と言ってしまうと、共感ではなく同感になってしまうので注意が必要です。「私も同じことをやったことがあります」というのは、私の感情だからです。あくまでもBさんのお気持ちをBさんの世界で理解したいので、BさんのつらさをBさんのように感じながらの「おつらいですね」はBさんの心に届いたでしょう。

ステップ2:真の問題を探り当てる

問題の品質に対する仮説立案の3つのポイント

Bさんの世界観で、仕事が手につかないくらいのつらい気持ちが十分に理解できたら、ステップ2で問題の本質を考えていきます。

1つ目は「感情の奥にある心情はなにか」で、2つ目は「相談者の特性、パーソナリティや考え方などのこの人らしさ」です。3つ目が、「不足している方法や知識、活用できていないリソースはないか」になります。この3つの面から言語、非言語の情報を根拠に推察し、問題の本質の仮説を立てていきます。

感情の奥にある心情の推察

感情の奥にある心情の推察と仮説

感情の奥にある心情を推察してみましょう。まず、日常生活に影響を及ぼしている状況です。次に、憔悴や後悔、自責の念、大きな悲しみがあること、単なるペットではない存在であったこと。そして、相談者さんと夫の間で、フェレットに対する温度差があったことが推察できます。

このことから、1か月間、Bさんのなかに積み重なってきた想いと大きな喪失感があることが伝わってきます。いなくなったと認めたくない、帰ってくるかもしれないという期待をもちながら、毎日家にいたはずの存在がいないという喪失感のなかにあるようです。

相談者の特性からの推察

相談者の特性の推察と仮説

問題を長引かせる要因となりえるBさんのパーソナリティや考え方の特徴を考えます。

まず自分を責める傾向があるかもしれない、という仮説が浮かびます。またBさんと夫の間でフェレットに対する温度差があったので、「私しか守る人がいない」という想いが強く、大きな後悔や自責につながった可能性もあります。

不足情報・知識からの推察

問題が長引いている要因の分析

次に、不足している情報や知識について考えます。Bさんは、「今日もいなかった」「何の手掛かりもない」という毎日を過ごしています。

推察できることを総合すると、夫と同じレベルで悲しみをわかち合えていない可能性があると考えられます。

ステップ3:解決方法の模索

立案した仮説に対する解決方法の検討

最後に、ステップ3で解決の方法を一緒に考えていきます。この段階では、冷静に状況を把握したり、自分について考えたりする段階ではないと思います。

なぜなら心の壺がまだ、「悲しい」「つらい」「寂しい」という感情であふれているからです。また、知ると楽になれる知識を得る方法を考える段階でもまだありません。この段階で私たちができる方法は、感情、喪失感への対応になります。

悲しみや喪失感をもった人と向き合うために

悲しみを受け止める際の4つのポイント

大きな悲しみや喪失感を受け止める際のポイントをご紹介します。

ポイント1:回復を急がない

1つ目は回復を急がないことです。大きな悲しみから回復するには、とことん悲しみきる時間が必要だと理解しておいてください。そもそも喪失とはもとどおりに戻らない状態です。フェレットがいなくなったという日常に、時間をかけて適応していく必要があります。

ポイント2:「喪の作業」で少しずつ回復

2つ目は、回復に向かって勢いよく進むものではないと心得ることです。

最初の日々は24時間どんよりしていても、徐々に笑えるようになったり雑談ができるようになったりと、少しずつ元気を取り戻していきます。失ったものとしてなんとか受け入れていく心の作業のことを「喪の作業」と呼びます。

ポイント3:現実を受け入れるプロセスを経る

3つ目は、新しい現実を受け入れる心の変化の過程を見守っていくことです。

提唱されているプロセスを2つ紹介します。まずは、フィンクの4段階です。失ったものがもう戻ってこないと受け入れるまでに、まず心に「衝撃」が起こり、自分の心を守ろうとする「防御」が起こります。次第に「承認」していき、「再適応」していくというプロセスです。

もう1つが、死を受容していくプロセスで有名なキュブラー・ロスの5段階です。その現実を受け入れたくないために「否認」が起こり、次に「怒り」が起こる。自分に対しての怒りや、「なぜあのときに窓を開けたのか」など、夫に対する怒りが起こるかもしれません。怒りの感情が出てくる場合は、プロセスが進んでいると考えられます。

次に「取り引き」です。「こうすれば帰ってくるのではないか」「何かを差し出せばもとに戻るのではないか」と考える段階です。それでも無理であったときに「うつ」になります。落ち込んだ状態ですね。そこから「受容」のプロセスに進んでいきます。

喪失を受け容れるプロセスが重要

ペットだけでなく、近しい人が亡くなることもそうですし、結婚が破談になったり、生活やこの先のキャリアなど、思い描いていたものが崩れることも大きな喪失ですね。事故などで身体機能を失ってしまうのも喪失の一種です。「年齢を重ねて、昔のように無理がきかなくなった」という衰えも、ある種の喪失といえるでしょう。大きな悲しみや喪失を受け容れる心の作業には時間がかかりますが、確実に変化するプロセスを根気よく見守っていくことが重要です。

ポイント4:「Being」の効果を信じて寄り添う

4つ目は、何かをする「Doing」よりも、「Being」の効果を信じるということです。

「そばにいるよ」「いつでも、つらかったら吐き出しに来てね」「職場にいても、何かがトリガーになって思い出してしまって泣きたくなったら、ここへきて気持ちを吐き出して、それから仕事に戻ってね」「そういうふうに使っていいんだよ」と伝えておくとよいでしょう。相談者は気持ちを吐き出し、悲しみ切れるので、結果的に早くもとの状態に戻れます。

質疑応答

Q:ペットの喪失を通じて、ご自身の仕事の仕方や、夫との関係性についても振り返って、反省や後悔の気持ちがあふれてしまったのでしょうか?

鵜飼さん:それもあるかもしれないですね。心理的安全性がどれくらい保たれているかによって、言葉の奥にある感情をさらに詳しく、幅広くお話していただける可能性があると思います。ただこのような可能性を本人が話す前に勝手に予想しすぎるのはよくありません。あくまで答えはお話をしていただくなかの情報から理解していくとよいと思います。

Q:Bさんは夫に対する恨みもあるのでしょうか?

鵜飼さん:自分が悪かったと言いながらも、夫に対する恨みも少しあると思うんです。恨みの感情は誰にでも話せることではありません。秘密を守ってもらえる安心感がないと、人の悪口は出てこないですよね。ネガティブな感情を出してくれるまでの関係性をつくれたらよいのではないでしょうか。

Q:労務担当として社員の相談を受ける際に、どこまで悲しさやつらい状況を許容すればいいのでしょうか?

鵜飼さん:労務担当者としての線引きは難しいと思います。明らかに仕事に関係のない内容であれば「プライベートについては、提携しているカウンセリングルームを訪問してください」と線を引けると思いますが、感情のなかで「ここまで」という線引きをすることは難しいものです。セーブできないネガティブな部分を吐き出されたら、その時間はしっかり受け止めるよう努めましょう。これ以上は無理と思ったら「これ以上は専門家のカウンセラーにお話したほうがよいと思う」と、無理をせず専門家につなぐことも必要です。

Q:自身が経験したことのない内容に共感するコツを教えてください。

鵜飼さん:経験したことがあると確かに想像はしやすいですが、経験していないことは教えてもらわないとわからないので、早合点せず丁寧に聴きます。一生懸命に理解する姿勢を感じ取れると話し手は話したくなるので、「教えて」というスタンスは一番よいと思います。

Q:相談者の世界を理解するというのは、何をもって理解したと判断すればいいでしょうか?

鵜飼さん:判断材料はないと思います。私たちカウンセラーは、一生懸命にその人の世界に近づこうと努力はしますが、決してその人にはなれません。

たとえば、相談者さんが40歳なら、40年間の経験や学習してきたことを踏まえて、その方の世界ができているので、少し聴いたくらいでは、その世界には行けないんです。ですから、近づこうとすることが大事です。

※記事で紹介した他にもたくさんの質問に回答いたしました。ご興味があればぜひ次回のセミナーにご参加ください。

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【執筆:まえかわ ゆうか】

株式会社SmartHR コンテンツマーケティングユニット所属。雑誌編集者、クリエイティブディレクターを経験したのち、2022年3月より「SmartHR Mag.」「SmartHR ガイド」の編集に携わっています。
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