CADオペレーターから「労務のスペシャリスト」に。 BAKE手代さやか氏が語る唯一無二の仕事論とは?

2018.01.29 ライター: 副島 智子

どんな環境でどんな経験をしたら、こんな素敵な人になれるんだろう。

仕事ぶり、考え方に感銘を受け、そんな風に思うことってあると思います。でも人事労務という仕事の場合、大きな企業にいないとその仕事を専任でやることもないし、同じ仕事を複数人でやっていたりすることも少ない。そのため、他の人がどんな経験をして、どんな仕事ぶりなのかを知る機会がなかなかありません。

SmartHRサロン第2回となる今回は、グッドウィルやミクシィ、メルカリ、BAKEなどさまざまな環境で人事労務のキャリアを積まれてきた、手代さやかさんにインタビューしました。聞き手はSmartHR副島です。

 

「労務管理が売上に直結」、フロント経験がキャリアの土台を作る

副島
手代さんのキャリアのスタートを教えてください。

手代さん
実は、CADオペレーターをやっていました。

副島
えっ!? 意外!!

手代さん
車が好きで、どうすれば速く走ることが出来るのかを物理的に考えることに興味があった関係もあって、CADオペレーターとして土木系の設計事務所に就職しました。

でもあくまでもオペレーターだったし、頑張っても頑張っても、そもそも基本知識があったわけではないので「本当のプロにはなれない」と、自分で自分の実力がすぐにわかったんですよね。1つのものが図面に起こされていく達成感や楽しさはあったけど、3年くらいでオペレーターとしては「やりきった」と思いました。

副島
そこからどのようなきっかけで労務の仕事に?

手代さん
次の仕事どうしよう、と考えていた時に、求人誌を見ていて「労務管理」という職種を知りました。CADオペレーターより待遇や就業条件がよかったこともあって(笑)、興味を持ちました。

副島
まったくのゼロからのスタートですよね? 労務の知識はどのようにつけていったんでしょうか?

手代さん
グッドウィルという人材派遣業の会社に7年勤務しました。シフトの組み方から憶えるんですが、24時間を回すには「4勤2休」の班が3つ必要です。当時は理屈も仕組みもわからず『とにかくこういうものなんだ!』としてまずは憶えたり、時間外や深夜の割増率を憶えたり……ということからスタートしました。

また、製造業の派遣だったのでタクトタイム(1つのものができあがる時間)を調べて、『何千個作らないといけないから何分必要だよね、その時間は何人分?』と計算をしてそこからシフトを組むんです。

副島
「時間がこれだけ必要だから、こういうシフトを組まないと製品ができあがらない。」ってことですね。

手代さん
そうなんです。今度は逆算で、『この人数しかいないからタクトタイムを削ると何人分削減できるのか』といったことを計算していました。

副島
つまりそれは「労務管理」をするだけではなく、労務管理をした結果の数字がダイレクトに売上請求につながっていたということですよね?

手代さん
その通りです! 人件費が「売上」になるから、その計算(= 給与計算や勤怠管理)が必要でした。それが自分でできるからどうやったら利益が出るのか、赤字にしない営業を開拓できるのか、といったことが考えられました。最終的には支店長にもなって、いろんな知識がどんどんついてくるのが自分でもわかりました。

労基署対応もやっていたし、当時はインターネットで検索すればすぐに答えが出てくる時代でもなかったので、自分でもかなり勉強しました。法定福利費も利益に影響するので、仕組みや計算も「管理のため」ではなく「売上や利益のため」に憶えて学んだという状態なんです。

副島
なるほど。“そっち側”の視点や経験をお持ちだったんですね〜!

30歳で東京に転勤し多くの支店長をサポート。大人数相手でも伝わる情報伝達を習得

副島
そのお仕事はご実家の福島時代のお話ですよね? どういうきっかけで上京されたんですか?

手代さん
在籍していた郡山の支店が、会社の方針によって閉店することになりました。辞めるか東京の本社に転勤するかの選択を迫られ、30歳になる年に東京に転勤することを選択しました。サポートした店舗は80くらいあったかな? 各支店の店長のサポートをやっていました。私自身の支店長経験はそこまで長くなかったんですが、「労務管理」という仕事が自分にすごくフィットしてたんでしょうね。自分の経験や知識を他の支店長にアドバイスすることができたんです。

副島
この会社で得られた経験や知識ってどんなことでしょうか?

手代さん
「深く物事を考えた上で伝える」ということだと思います。会社の規模が大きかったので、部署階層を理解して、段階を経たやり方や伝え方を学びました。派遣社員の登録人数が280万人いましたから、その人数に向けた周知はちゃんと考えないと伝わらない。部署階層がわかってないと情報や伝達の流れを作ることってできないんですよ。

階層の上から段階を踏んで、最後まで伝わる施策を常に考えていました。大規模なシステムがあってしっかり仕組み化されていたことも理解の裏付けとなりました。

目の前の仕事に立ち向かう。好き嫌いをしない姿勢が未来を作る

副島
とても充実していたのではないかと思いますが、グッドウィルからの転職はどういったきっかけだったんでしょうか?

手代さん
ニュースなどでご存じの方も多いかと思いますが、会社が廃業することになりました。一部の人は残って、一部の人は整理解雇となったんですが、私は残ることになっていわゆる『廃業後の残務処理』をやってました。離職票を作ったり、労働組合からの電話を受けて話を聞いたり……。そのあとにミクシィに転職しました。

副島
ミクシィではどんなお仕事をされていたんでしょうか?

手代さん
給与計算を内製化しようとしていたタイミングだったので、給与や勤怠システム設定についてを、計算式や1円未満の端数どうするのかなど、1から全部設定しました。ここでは、前職での組織構成や部署階層などの理解の経験も、システム設定にはとても役立ちましたね。「採用した人は成長させる」という環境があったので、いろいろ教えていただいたし、外部の研修にも積極的に行かせてもらえたのは今でも感謝しています。

副島
ミクシィで印象に残っている仕事はどんなことでしょうか?

手代さん
具体的な内容は言及しませんが、「会社の意志」と「私自身の想い」が相反する業務を遂行したことです。従業員の人生にも関わることだったんですが、私は「会社側の窓口担当者」となったんです。

副島
そうだったんですね……! 「経営」に近い人事という仕事をやっていると、そういった場面に遭遇することってありますよね。手代さんはどのような気持ちで携わっていらっしゃったんですか?

手代さん
いろんな想いはありましたが、私は業務を粛々と遂行しました。なぜかというと、「上場企業でもあるこの大きな組織で決めたことを私一人なんかの力で変えられることはできない」と思っていたからです。

私としても違和感を感じることもありましたが、その場でただ正義感を振りかざすのではなく、企業人事としてやるべきことをやった後に『他に打開策があるのでは』ということを提案し続けることだと思っていました。

悔しい想いをバネに、また同じことが起こらないようにすることが私の仕事なのではないかと。

副島
自分の気持ちとは反していることでも、受け入れて、業務を完遂させられたのは何故でしょうか?

手代さん
そう言われて思い浮かぶのは、労務という実務に誰よりも思いを持って取り組むことができるという自信があるからだと思います。当時、『会社がそんな考え方なら辞めてやる!』と思わなかったのは、私が辞めたところで他にその業務を代われる人がいませんでした。その業務ができる人がいなくなったら困るのは同僚だし、だから「誰かに任せて自分は辞めよう」とはまったく思いませんでした。

副島
「私だからできるんだ!」という自信があるからこその想いですね。

手代さん
仕事を選んでいるうちは好きな仕事は回ってこないし、『私、これがやりたいわけじゃないんだけどな』と思っていてもそれを受け続けることで、自分のやりたい仕事が回ってくる、ということは今までの会社の経験から常に思ってました。どんな仕事もやるべきことはやる。それをやっていればチャンスが必ずやってくるんです。

問われた労務の本質。初めて味わった「産みの苦しみ」

副島
ミクシィのあとはメルカリへ?

手代さん
はい、ミクシィも長く在籍していたし、やりきった感が出てきたときに、メルカリ社に遊びに行ったのがきっかけで入社することになりました。

副島
これまでの会社とメルカリの違いはどんなところだったんでしょうか。

手代さん
とにかく本質を問われました。労務はこうあるべき、会社の意向・規則がこうだから、という「べき論」がまるで通じない。性善説で考えていく文化が当時からあったので、『これはなぜ必要なの?』と聞かれたら、答えが「法律だから、決まっているから」では通じないことが、今までの環境との大きな違いでした。確固たる信念をもって、従業員へメッセージを出していくことが求められました。

副島
そういったことが求められて発信していくには、それこそ法律や規則がきちんとわかってないと、本当にメチャクチャになってしまいますよね。手代さんの今までの経験が全部生きてますね!

手代さん
グッドウィルで“土台作り”、ミクシィで“進化”、そしてメルカリで“飛躍”させてもらいました。特にメルカリでは労務にも0→1があるということを知りました。

例えば障がい者雇用について、ある案を提案したんです。他の会社では普通に行われているような内容だったんですが、それは受け入れてもらえませんでした。『本当にこれでいいのか?』を問われ、最終的に産み出したのが車椅子バスケットボール選手の支援というものでした。産みの苦しみを経験させてもらったのは大きかったです。苦しいんだけど産んだらメルカンなどで取り上げてもらえる仕組みもあって、とてもありがたかったし嬉しかったです。

副島
外から見ててもメルカリさんは本当に仕組みづくりが上手だなあと思ってみていました。

「俯瞰できる労務のスペシャリストでいたい」――。新たな“苦しみ”を求め次なる挑戦へ

副島
メルカリさんはSmartHRでもお世話になっていましたし、とっても充実されていらっしゃるようにお見受けしてたので、手代さんの転職には驚きました。

手代さん
以前からあるもののトレースをするだけではなく、「予算がない」が言い訳にはならない環境での、ある程度の産みの苦しみは経験できたかな、と思ったんです。なので今度は0→1ではない、違う苦しみを見つけに行こうと思いました。

メルカリは優秀な人材が揃ってるし、刺さる場所に刺さる施策を作ってきましたが、「日本の人口の大半に刺さること」を考えたくなって、リテール系の人事を経験したいと思いました。

副島
私もよく『自ら茨の道に進んでますよね』と言われるんですが(苦笑)、手代さんも自ら茨の道に行きますよね(笑)。その原動力ってどんなところから来てるのでしょうか?

手代さん
それは「労務が天職」だからなんです。この仕事が大好きだから常に先頭を走っていたいんです。労務のスペシャリストでいるために、いろんな世界を見てみたいし、できることは経験しておきたい。給与計算とか実務をキッチリやっていたからこそ、0→1ができるし、1になったものの後のことを俯瞰して考えることができる。計算だけしかできないのもダメだし、施策だけ考えても繋ぎこみができないんじゃダメ。なので私は「労務」のスペシャリストでいたいんです。

天職に出会えたことは幸せだし、『他の人も天職に出会えるといいね』と思います。

副島
天職と思えているポイントってどんなところですか?

手代さん
楽しくてしょうがない!
もともとは給与の仕組みに興味があったんです。法律で決まっていることもあれば、会社の規則によって違うこともある。知っていれば得することもあるし、知らなければ損することもあります。最初は個人的に知りたいと思って学んでいましたが、今はそれを同僚のためにもなって『ありがとう』と言ってもらえるようなことに繋がることができるということがとっても楽しいんです。

副島
最後に、BAKEでの最近の活動を教えてください。

手代さん
今は専門のツールやシステムもない中で、「どうやったら伝わるのか」にあらためて向き合っています。若いアルバイトの方も多く、顔の見えない相手に伝える難しさ、伝わる言葉選びなどを考えさせられることがあります。やっていることは今までの経験のトレースではあるので面白味は多くはないけれど、伝わるのが一撃数百人。今後千人は超えていくので重要な業務として向き合っています。

あと、個人的には「若い世代に還元できるような健保組合が作れたらいいなあ」という夢も持っています。若い世代の方々って保険を使わないんですよね。なので若い世代が活用しやすく還元しやすい・既存の組合がもたない仕組みを作りたいんです。

副島
BAKE健康保険組合?

手代さん
ミルク健康保険組合とか(笑)

副島
かわいい!

左:副島智子(SmartHR) 右:手代さやか(BAKE

Photo by 名和実咲(THE BAKE MAGAZINE

副島 智子

20人未満のIT系ベンチャーや数千人規模の製薬会社、外食企業など、さまざまな規模・業種の会社で人事労務の経験を持つ。前職のEC系スタートアップでは経営管理の役員を歴任し、2016年にSmartHRにジョインしプロダクトマネージャーに就任。従業員、労務担当者、経営者の3つの視点を持ち、年末調整機能の企画、電子証明書取得方法の解説など、メンドウで難しいものをわかりやすくカンタンにしてユーザーに届けることを得意とし、2017年カスタマー・エクスペリエンスチームを発足。
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