ハローワークの雇用保険適用窓口受付時間短縮へ!いま労務担当者が知っておきたい電子申請の始め方
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こんにちは、特定社会保険労務士の榊 裕葵です。
2020年1月からハローワークの雇用保険適用窓口の受付時間が短縮となりました。(※)
それに伴ってハローワークは電子申請を推奨しており、一部企業を対象とした電子申請義務化の波とあいまって、企業には今まで以上に電子申請対応が求められるようになります。
そこで本稿では、これから電子申請の対応を始める人事担当者の方が、スムーズに電子申請の対応を始められるように、電子申請の全体像や具体的な準備の流れについての解説をしたいと思います。
ハローワークの受付時間が短縮。電子申請推奨へ
冒頭で申し上げたように、ハローワークの雇用保険適用窓口での受付時間が短縮されます。
従来は「午前8時30分から午後5時15分まで」であったのが、2020年1月1日より、「午前8時30分から午後4時まで」となり、1時間15分短くなります。
※ 短縮となるのは事業主関係の手続窓口のみで、基本手当(失業手当)の受給など求職者関係の窓口の受付時間は従来どおりです。
受付時間短縮の目的は、午後4時以降を電子申請による申請・届出の集中処理をおこなう時間に充てるためです。
2019年5月にデジタル手続法が成立し、「デジタルファースト」の理念のもとで電子化を進める流れは一層強固なものになりました。ハローワークが雇用保険適用窓口での受付時間を短縮し、企業に電子申請の利用を促すのは、国の大方針に沿うもので、必然的な変化と言えるでしょう。
窓口時間短縮によって考えられる影響
「窓口の受付時間短縮によってどのような影響が生じるのか?」という点ですが、やはり短縮された時間の中で受付者が集中し、受付から事務処理終了までの待ち時間が伸びてしまうということが懸念されます。
待ち時間も従業員にとっては労働時間となりますので、生産性の低下や、時間外労働を誘発する要因になることも懸念されます。
確かに、ハローワークの待ち時間だけで36協定の上限を突破するような長時間の残業が発生するわけではありません。しかし、長時間残業は様々な要因の積み重ねによって発生します。
「塵も積もれば山となる」という言葉があるように、ハローワークへの移動時間や待ち時間も積み重なることで大幅な時間的ロスになりえます。そうならないようにするためにも、電子申請への移行が得策といえるでしょう。
電子申請義務化に向けての対策
続いて、2020年4月から電子申請が義務化されるにあたって、どのようなアクションをとればよいのかを解説します。
大企業
まず、大企業についてですが、資本金が1億円を超える大企業は、2020年4月1日から電子申請が義務化されます。4月1日をターゲットにして電子申請の準備を行っている企業もあると思いますが、筆者は、前倒しで電子申請の準備を始めてほしいと考えています。
その理由は2つあります。
1つ目は、電子申請が法的に義務化される4月1日に、いきなり「ぶっつけ本番」で電子申請を行い、うまくいかなかった場合、結果的に義務違反となってしまう恐れがあるためです。
2つ目は、繁忙期の混乱を避けるためです。4月1日付で新卒社員が多く入社する大企業も少なくないでしょう。そのような繁忙期に電子申請がうまくいかなかったとき、大きな混乱が生じてしまう恐れがあります。
そのため、義務違反や社内での混乱を避けるため、ハローワークの受付時間が短縮されることもふまえ、ぜひとも前倒しで電子申請に取り組んでみてはいかがでしょうか。
なお、電子申請義務化における「大企業」に当てはまるか否かは、従業員数にはかかわらず、純粋に資本金が1億円を超えているかどうかで決まります。
従業員数が少なくても、資金調達などで資本金が1億円を超えている場合は、対応漏れがないようにご注意ください。
中小企業
次に、中小企業についてです。中小企業は、2020年4月1日から電子申請が義務化されるわけではありません。しかし、筆者は、中小企業も積極的に電子申請の対応を進めたほうがよいと考えます。
1つ目の理由は、電子申請の義務化の範囲が遠くない将来拡大されることが予想されるからです。手続のデジタル化は国の大方針ですので、中小企業がいつまでも義務化の対象外ということにはならないはずです。遅かれ早かれ対応する必要があるのであれば、早めに対応しておくにこしたことはありません。
2つ目の理由は、限られた人員で事業を行っている中小企業こそ、電子申請による効率化の恩恵を受けるべきだと考えるためです。中小企業では、経営者や役員が人事労務手続を行っていることも少なくありません。
経営者や役員は、人事労務手続の手間を極力最小化し、経営やマネジメントに集中するべきだと考えます。
また、従業員が人事労務手続を行っている場合であっても、時間外労働の罰則付き上限や、有給休暇の5日取得義務等の働き方改革法に対応していくにあたり、少なからず負荷がかかります。そのため、電子申請による業務効率化は大いに役立つでしょう。
電子申請の始め方
それでは、ここからは電子申請をするにあたって、必要なもの、進め方について説明したいと思います。
まず、最低限準備しなればならないのは、以下の3つです。
- PC
- インターネット回線
- 電子証明書
続いて、電子申請の進め方を大まかに説明すると以下の流れとなります。
- PCをインターネット回線に接続する
- 「e-Gov」という電子申請の窓口へアクセスする
- 電子申請用のデータに電子証明書を添付してデータ送信する
e-Govは「電子政府のポータルサイト」という位置づけで、法令検索やパブリックコメントの意見提出など、様々なコンテンツを持っています。そのe-Govの主要コンテンツである「電子申請機能」を通じて、電子申請の手続きができます。
e-Govを使った電子申請の方法
e-Govを使った電子申請の方法をさらに詳しく説明します。
まず、e-Govのトップページから電子申請のコンテンツに進み、そのコンテンツ内で「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」「雇用保険被保険者資格取得」「月額変更届」など、該当する手続を検索します。
そして、当該手続を行うためのインターフェイスに沿って情報の入力や、電子証明書の添付によって申請データを完成させます。
最後に、完成したデータを政府のサーバーに送信し、電子申請の一連の操作は完了となります。
政府側での処理が終わり次第、手続が完了した旨の公文書がPDF等のデータで企業側に送信されてきます。
以上が、申請の方法です。
e-Govを使って電子申請する上での課題
このように、紙での手続よりも便利に思える電子申請ですが、e-Govを利用するにあたって3つほど課題があると考えます。
1つ目は、「インターフェイスの難しさ」です。
e-Govを悪く言うつもりはないのですが、インターフェイスが複雑なため、使い方に慣れるまでにどうしても時間がかかる印象があります。実際に、私の経営している社会保険労務士法人で職員に操作を教える際や、e-Govを利用している企業の方に話を聞いた際に「使いにくい」という声をよく聞きます。
2つ目は、「データ入力に手間がかかる」ことです。
e-Govで電子申請を行う場合、会社の人事マスタなどとリンクをしているわけではありませんので、全ての情報を手入力する必要があり、1件あたりの申請にどうしても時間がかかってしまいます。
そして3つ目は、「電子証明書を取得するコストと手間」です。
電子申請自体は無料なのですが、現在のe-Govの仕様では、電子申請を行う前提として、電子証明書を取得する必要があります。電子証明書は「認証局」から発行されるのですが、取得には費用がかかります(費用は認証局により異なる)。
また、取得した電子証明書をブラウザにインストールするなど、設定の手間もかかり、PCを使った作業が苦手な人にとっては高いハードルになっているようです。
電子申請を加速させる「HRテクノロジー」と「GビズID」
これらの電子申請の課題を解決する上で覚えておいて頂きたいのが、「HRテクノロジー」と「GビズID」です。
HRテクノロジー
「HRテクノロジー」は、広義ではAIやビッグデータなども含む、人事労務業務を効率化するITサービスの総称ですが、本稿においては「人事労務手続を効率化するクラウドサービス」というイメージを持っていただけば良いでしょう。
たとえば、SmartHRのようなクラウド人事労務ソフトを利用すれば、新入社員の入社情報を分かりやすいインターフェイスで収集し、収集された情報がクラウド上に人事マスタとして保存され、簡単な操作で一気通貫して電子申請まで完了してしまいます。
すなわち、インターフェイスや手入力に関する課題は、HRテクノロジーの導入によって解決できます。
GビズID
「GビズID」は、1つのアカウントで複数の行政サービスにアクセスできるようになる、新しい認証システムです。
現在は、人事労務手続は電子証明書を利用してe-Gov経由でおこなう、国税手続はe-TAXでおこなう、地方税手続はeL-TAXでおこなう……といったように、手続の種類によって窓口や申請方法が細かく分かれています。
これをGビズID経由に統一しようという動きがあり、2020年4月から、一部の人事労務手続についてGビズIDを利用した新しい形での電子申請がスタートします。
GビズIDには、メールアドレスがあれば即日発行される「GビズIDエントリー」と、発行に法人の印鑑証明などが必要となる「GビズIDプライム」の2種類があり、電子申請に必要なのは「GビズIDプライム」となります。
GビズIDは、電子証明書とは異なり、エントリーもプライムも無料で発行できます。
また、GビズIDは、ログイン形式での認証となりますので、電子証明書のようにブラウザにインストールするという難しい操作も必要なくなり、PCが苦手な人でも扱いやすくなることが予想されます。
ただし、2020年4月1日からGビズIDでの申請ができる電子申請手続は、社会保険や雇用保険の被保険者資格手続など一部の手続に限られるという点にはご注意ください。
当面は、GビズIDを使って行う電子申請と、電子証明書を用いて行う電子申請が併存することを覚えておきましょう。
まとめ
ハローワークの時間短縮によって、ますます電子申請にシフトすることが求められるようになります。
大企業・中小企業を含め、法令対応はもちろん、バックオフィスの効率化という観点からも1日も早く電子申請に対応することを推奨します。
電子申請に抵抗がある方は、ぜひともHRテクノロジーを活用して、ハードルを下げた状態で電子申請にチャレンジしてみてください。
電子申請によって、みなさんの生産性がより向上することを願っております。