育児と介護が同時に訪れる「ダブルケア問題」における休業給付金の知識
- 公開日
こんにちは。アクシス社会保険労務士事務所の大山です。
このごろ、育児と介護が同時に訪れる「ダブルケア」が、社会的な課題として指摘されつつあります。
今回は、この「ダブルケア」とは一体何なのか? どのようなことを知っておかねばならないのか、などについて考えていきます。
晩婚化・晩産化に伴う「ダブルケア」という課題
男女ともに初婚年齢の高齢化が言われています。
特に女性に関しては、厚生労働省の平成27年(2015年)の「人口動態統計」によると、初婚平均年齢が29.4歳、第1子出生時平均年齢が30.7歳と発表されています。
第1子出生時平均年齢に関しては、昭和60年(1985年)時点で26.7歳だったため、昭和から平成へと移り変わり、そして現在に至るまでの30年の間に、実に4歳も上がったことになります(*1)。
このような晩婚化、晩産化という事実から、育児と介護について、我が子の育児から、親などの介護に移行するという図式から、我が子の育児と親などの介護が同時進行する、いわゆる「ダブルケア」の実態が取り沙汰されるようになりました。
育児も介護も女性任せでなく、夫婦で取り組むものとしての「育児休業法」、「介護休業法」の見直しがされていますが、法律的にはまだ、育児と介護の同時進行という前提では整備がされていないのが実情です。
育児や介護に携わる人にはどのような法的支援があるのでしょうか?
育児退職や介護退職をすぐに考えるのではなく、法律知識をもって、自分に当てはめたときの最善の方法を考えましょう。
「育児休業」の仕組み
まず、女性に関しては、出産ののち8週間は産後休暇が与えられますので、育児休業はその後に取ることになります。
育児休業の期間は、原則として子供が1歳の誕生日まで、その時点で保育園などの手立てができない場合は、1年6ヶ月(平成29年10月からは2年)まで育児休業が延長できます。
また、育児休業中は、社会保険(健康保険、厚生年金保険)は免除されるので本人負担が(会社負担も)ないというメリットがあります。
雇用保険に加入していれば、この間の育児休業給付は、育児休業開始から6ヶ月間は、会社から給与が出なかったり、出ても休業前給与の13%以下の場合、育児休業に入る前の給与の67%が支給されます。
6ヶ月以降は、会社から給与が出なかったり、出ても30%以下の場合、育児休業給付金として育児休業の終了まで、育児休業に入る前の給与の50%が支給されます。給与が30%を超えると育児休業給付金は漸減され、給与が80%以上出るのであれば、育児休業給付金は支給されません。
男性の場合
男性に関しては、妻の出産と同時に育児休業を開始できます。
妻の出産後8週間以内に育児休業を取れば、子供が1歳2ヶ月までなら一旦育児休業を終えた後、もう1回育児休業が取れるメリットもあります。育児休業給付金や社会保険の免除のメリットは、女性と同じです。
「介護休業」の仕組み
負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたって常時介護を必要とする身内(配偶者、父母および子、配偶者の父母、同居かつ扶養している祖父母・兄弟姉妹・孫)の介護のために通算93日間にわたって介護休業が取れます。
家に専業主婦(主夫)がいたとしても介護休業は取れます。
介護休業は、終わりのわからない介護のための休業ではなく、介護施設の選定など介護の方針を決める期間としての位置づけがあるため、通算で93日間(3ヶ月間)という期限があります。
また、介護休業は、このような位置づけであるため、育児休業のように社会保険の免除制度は適用されません。介護休業給付金は、会社から給与が出なかったり、給与が出ても休業前の13%以下の場合、介護休業期間(通算で最長93日間)において介護休業に入る前の給与の67%が支給されます。
ダブルケアにおける休業給付金の工夫
育児休業中に介護休業が始まった場合、あるいはその逆の場合も、現行法では、同時に両方の休業給付をもらうことはできません。
しかし、ダブルケアをしなければならないとしたら、現行法下でどのように休業給付金を得るかという工夫が必要です。
平成29年10月以降の改正法を基に、育児休業給付金と介護休業給付金がどのように適用されるかのイメージを図に示しました。
この図では、育児休業給付ののちに介護休業給付を得る図になっています。
この図を基本として、さらに工夫するとしたら、育児休業の仕方として産後休暇に続いて育児休業を開始し育児休業給付金を6ヶ月間得た妻に続いて、夫が育児休業を取れば、その間給与が出なくても、図の67%支給の休業期間6ヶ月が12ヶ月に伸びることになります。
しかも、妻も6ヶ月以降引き続き育児休業を取り続ければ、その間50%の育児休業給付金を得ることができます。
企業としてすべきこと・できること
会社は、要件を満たした社員の育児休業や介護休業の申出を、原則的に拒むことはできません。
会社は、かけがえのない社員が、育児や介護を理由に退職せざるをえない状況にしないためにも、社員の私生活を尊重し、日頃から社員の生産性を向上させるための投資を効率的に進める必要があります。
生産性を直接的に上げる方法には賃上げがありますが、ここでは、設備投資による「業務環境の改善」をお薦めします。
助成金の活用
また、育児休業や介護休業に関する助成金として「両立支援等助成金」も積極的に活用しましょう。
この助成金では、育休の支援や介護離職防止の取組に対して1人当たり数十万円(2人目からは10数万円)が支給され、生産性を向上させれば加算もされます。