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「育介休業法・子育て支援・雇用保険」。直近可決の法改正と実務への影響を解説

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目次

こんにちは!労務業務の経験を活かして、SmartHRで人事・労務業務に関する最新情報を社内外へ発信している「コンテンツQA部」の穴原です。

公表された法改正情報の速報をもとに、人事・労務担当者が知っておくべきポイントと、対応内容をわかりやすくお伝えいたしますので、ぜひご覧ください!

成立した3つの改正法をおさらい

主に2025年(令和7年)4月以降に向けて人事・労務業務に影響のある以下の法改正が成立しました。

今回は概要と人事・労務担当者が何をすべきなのかを解説したいと思います。

(1)育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法

少子高齢化が急加速する昨今、育児や介護と仕事の両立は喫緊の課題となります。この度の改正では、育児・介護と仕事の両立支援を従来よりさらに充実させるために、さまざまな措置が新設及び拡充されました。

細かい内容が盛りだくさんなので、見落としや対応漏れがないように順番に確認していきましょう。

改正のポイント

今回の育介法の改正は、さまざまな措置を実施する体制整備が主な内容です。施行までにまだ時間はあるので、今から法改正内容と自社の現行制度の乖離を確認しましょう。

ポイント1:子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充

出典:育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法改正ポイントのご案内 - 厚生労働省

出典:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律案の概要 - 厚生労働省

現行と改正後の主な変化は以下のとおりです。


現行
改正後

柔軟な働き方を実現するための措置(選択制)

3歳以上の小学校就学前までの子を養育する労働者

所定外労働の制限(残業免除)の対象

3歳までの子を養育する労働者

小学校就学前までの子を養育する労働者

子の看護等休暇の対象となる子の範囲

小学校就学前まで

小学校3年生修了まで

子の看護等休暇の対象となる事由

子の病気や怪我の看護等

行事参加や学級閉鎖が追加

子の看護等休暇において勤続6か月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組み

あり

廃止

育児のためのテレワークの導入

-

努力義務(3歳未満)

出典:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律案の概要 - 厚生労働省

また、労働者からの妊娠・出産等の申出があった際に、育児休業制度の個別周知・意向確認が義務付けられていますが、これに加え、育児と仕事の両立について個別の意向の聴取と配慮が追加されました。

さらに、3歳になるまでの適切な時期に関して、柔軟な働き方を実現するための措置の個別周知・意向確認をするとともに、個別の意向の聴取と配慮も同時に行うこととなりました。

企業が積極的に両立支援に向き合うよう、促す改正内容となりましたね。

ポイント2:育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化

出典:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律案の概要 - 厚生労働省


現行
改正後

男性の育児休業取得率の公表義務

常用雇用労働者1,000人超

常用雇用労働者300人超

育児休業の取得状況等に係る状況把握・数値目標の設定義務

-

新設

次世代育成支援対策推進法の有効期限

2025年(令和7年)3月31日

2035年(令和17年)3月31日

現行と改正後の比較は上記のとおりです。育児休業の取得状況等に係る状況把握・数値目標の設定義務では、PDCAサイクルの確立が求められるようになり、より自主的で効果的な施策を後押しするような内容となりました。

ポイント3:介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等

出典:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律案の概要 - 厚生労働省


現行
改正後

個別の周知・意向確認

-

義務

早期の情報提供や、雇用環境の整備

-

義務

勤続6か月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組み

あり

廃止

介護のためのテレワークの導入

努力義務

育児についての改正内容の一部が介護にも適用されるのが主な内容です。

育児と同じく、介護と仕事の両立に関しても、人事担当者が積極的に制度の周知や意向確認をするように求められます。

人事・労務担当者が対応するべき内容

今回の改正の内容は細かい部分が多数あるため、何から手をつけてよいかわからないと感じた方も多いと思います。

現行の企業の制度によって対応する内容が異なるため、自社の制度と改正措置の差分をご確認いただき、対応するべき内容を把握しましょう。

 全企業に共通する対応内容

  • 規程の改定
  • 子の看護等休暇、介護休暇において勤続6か月未満の労働者を除外する労使協定の修正
  • 子の看護等休暇の運用準備
    • 拡大する対象者の確認
    • 勤怠システムでの設定
    • 運用周知など
  • 育児・介護に関する制度の整備・周知
  • 個別の意向の聴取・配慮の対応フロー準備
  • テレワークの追加措置の検討および導入

 常用雇用労働者300人超1,000人以下の企業のみ

  • 男性の育児休業取得率の公表準備

 常用雇用労働者100人超の企業のみ

  • 現行の行動計画と改正後内容の乖離の確認

(2)子ども・子育て支援法等の一部改正

子ども・子育て支援法は児童手当をはじめとした子育て支援を定める法律となります。この度、歯止めがかからない急速な少子化を受けて対策を強化する改正案が決まりました。

出典:子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案の概要 - こども家庭庁

改正のポイント

改正内容は盛り沢山なものの、人事・労務担当者の実務に関係があるのは以下の2点になります。

  1. 出生後休業支援給付の創設
  2. 育児時短就業給付の創設

(1)出生後休業支援給付

  • 対象
    • 子の出生直後の一定期間以内(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)に被保険者とその配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する場合
  • 支給額
    • 最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額を支給

出典:子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律(令和6年法律第47号)の概要 - 厚生労働省

両親ともに育児休業をしている場合、一定期間において育児休業給付が従来の67%の給付率に13%が追加され80%となり、いわゆる手取り100%給付の実現となります。

育児休業を取りたくても収入の低下が不安で取得できなかった方(主に男性)にとって、取得を後押しできるような給付になりますね。

(2)育児時短就業給付

  • 対象
    • 被保険者が、2歳未満の子を養育するために、時短勤務をしている場合
  • 支給額
    • 時短勤務中に支払われた賃金額の10%

出典:子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律(令和6年法律第47号)の概要 - 厚生労働省

2歳未満の子を養育中の時短勤務をしている被保険者に対しての給付金となります。給付の仕組みは高年齢雇用継続給付に似ています。

子育てでフルタイムで働けず、賃金が下がってしまう従業員にとって、両立支援を促す心強い給付となりそうです。

人事・労務担当者が対応するべき内容

給付金手続きの詳細はこれからなので、現行社内制度の確認程度から手をつけ始めるとよいでしょう。

  • 新たな給付内容も考慮した、育児関係の社内制度・施策の見直しや拡充等の検討
  • 新たな給付の社内周知、手続き
    • 出生後休業支援給付
    • 育児時短就業給付

(3)雇用保険法

出典:雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要 - 厚生労働省

雇用保険法も改正が決まりましたが、今回の改正は多様な働き方を支えるためのサポート、リスキリング支援、雇用の流動化などが狙いです。

細かい内容が多数ありますが、人事・労務担当者に関係があるものを抜粋してご紹介します。

改正のポイント(抜粋)


現行
改正後

雇用保険の被保険者要件の週所定労働時間

※2028年(令和10年)10月1日施行

20時間以上

10時間以上

自己都合退職の給付制限期間

2ヶ月

1ヶ月

教育訓練給付金の最大給付率

70%

80%

被保険者が在職中に教育訓練のための休暇を取得した場合に、その期間中の生活を支えるための給付金

-

新設

雇用保険の加入対象拡大が大きなニュースのほか、リスキリング施策、財源確保のための措置といった内容です。

企業の人事・労務担当者に必要な対応は、雇用保険の加入対象拡大となります。短時間勤務のパート・アルバイトを多く雇用する企業には大きな影響となるでしょう。

人事・労務担当者が対応するべき内容

今回の改正では教育訓練やリスキリング支援の充実が盛り込まれており、企業としての人材育成や教育施策の充実などもますます求められてきています。これを機に人材戦略の見直しをしてみてはいかがでしょうか。

また、雇用保険の適用拡大は施行が2028年(令和10年)10月とかなり先になりますので、今は法改正があることの把握だけでよさそうです。

詳細がわかってきましたら、対象者の確認から着手するとよいでしょう。

  • 社員向けの教育訓練に関する社内制度の見直しや検討
  • 雇用保険の適用拡大対応
    • 対象者の確認
    • 対象者への周知
    • 雇用保険加入手続き

エンゲージメント向上のチャンス。より良い環境整備を検討しよう

雇用保険の加入対象拡大以外は2025年(令和7年)4月が中心にスタートとなり、働きながら育児や介護との両立がさらにしやすくなる世の中になりそうです。

企業の人事・労務担当者としては対応することが盛りだくさんですが、両立支援は従業員のワークエンゲージメント上昇には欠かせない要素です。従業員の声を聴きながらより良い働く環境にしていただければと思います。

【監修】社会保険労務士 岸本 力

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