変更が閣議決定された「過労死防止大綱」の具体的ポイント
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こんにちは。アクシス社会保険労務士事務所の大山です。
平成27年7月に閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(以下、過労死防止大綱)の見直しが、2018年7月24日に閣議決定されました。今回は、この3年間の経緯を踏まえた見直しの概要について解説したいと思います。
「過労死防止大綱」の大まかな変更概要
3年前に閣議決定された大綱では、喫緊の課題として過労死等の防止策で「長時間労働の削減」、「ワークライフバランスの確保」ならびに「労働者の健康管理に係る措置の徹底」の重要性を示していました。
一方、今回の大綱では、これらに具体的な数値目標を設定しています。さらに勤務間インターバルなどの課題を追加するとともに数値目標も設定しています。
なお、調査に時間がかかる研究項目については、引き続き分析を進める方針です。
過労死等防止対策の数値目標
具体的な数値目標を、目標達成年に分けて以下の表で示します。
(1)2020年目標
(2)2022年目標
国・労働行政機関等が取り組む重点対策
大綱には、これらの目標を達成するための対策として、国および国以外の主体に分けての取り組みが示されています。
ここでは、まず国が取り組む重点対策について解説し、続いて国以外の主体として事業主等の取り組みについて触れたいと思います。
都道府県労働局、労働基準監督署等が取り組む対策として掲げられている内容ですので、事業主(企業)側にとっても注目すべき非常に重要な内容を含んでいます。企業の立場から注目すべき点は以下の通りです。
(1)長時間労働の削減に向けた取り組みの徹底
過重労働の疑いがある企業等に対する監督指導の徹底です。
いわゆる「36協定の時間外労働時間の上限」を明確にし、労働基準法でその内容を明文化しています。
この取り組みに注目し、企業側は、労働者の労働時間を把握し、法律で規定する時間外労働の上限時間を超えないよう徹底する必要があります。更に、できるだけ時間外労働を抑えるよう、適正な時間管理を徹底しなければなりません。
(2)過重労働による健康障害の防止対策
労働時間の長さだけではなく、度を越した不規則な勤務や頻繁な出張、重い責任などは、疲労やストレスの蓄積に繋がります。更には、脳疾患や心臓疾患、精神疾患の原因にもなりかねないことから、その予防対策を実施します。
とりわけ過労死等が多く発生している重点業種等については、実態調査を繰り返し実施し、過重労働と過労死との実態解明に取り組みます。
重点業種とは、自動車運転事業者、教職員、IT産業、外食産業、医療、建設業、メディア業界、宿泊業等です。
(3)メンタルヘルス対策・ハラスメント防止対策
自殺の原因、動機として勤務に関するものでは、「仕事疲れ」が約3割、次いで「職場の人間関係」が2割強を占めています。
長時間労働や過重労働が続く中での職場におけるハラスメントが自殺の引き金になりかねません。
近年は精神障害を引き起こすような悪質な嫌がらせやいじめ、暴力が増加傾向にあることから、傘下の事業場において3年程度の期間に精神障害に関する労災認定が2件以上ある場合、その企業本社に対してハラスメント防止対策に係る指導が実施されます。
なお、過労死等については、死に至る業務起因性に注目してきましたが、効果的な防止についての議論がし尽されていないことから、「長時間労働の削減」「休息の確保」「労働時間の適正な把握」「職種ごとの業務の特徴分析」などに加え、「職場環境や勤務体制」等についても発生要因があるのか、明らかにしていく必要があると述べています。
事業主等が取り組む重点対策
労働者を雇用する者の責任において以下の取り組みを述べています。
(1)経営陣の取り組み
経営陣は、既に問題点として明らかになっている下記のような項目を、自分ごととして捉え、先頭に立って推進することの必要があります。
- 労働者の健康を害するような働き過ぎを防ぐ対策
- 年次有給休暇の取得促進
- メンタルヘルス対策
- ハラスメントの予防・解決に向けた取り組み
(2)産業医をはじめとした「産業保健スタッフ」の活用
事業主は、労働者が産業保健スタッフ(これらのスタッフがいない事業場では産業保健総合支援センター)にいつでも相談し、専門的知見を活用できるよう環境整備を図る必要があります。
また、産業医による面接指導や健康相談等を確実に実施することで、過重労働やメンタルヘルス不調等による過労死のリスクが高い状況を見落とさないような措置を講じるべきとのことです。
まとめ
いわゆる「過労死防止大綱」について、3年経過した現時点において具体的な数値目標が明確化されました。
その実現に向けて、36協定等においては、罰則を伴う法制化を実施し具体的な上限規制を掛け、労働基準監督署による明確な指導対象の根拠となりました。
36協定の法制化は、過労死問題に取り組む政府の本気度を示す第一段階といえます。