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SmartHR社が住民税通知書の電子配付に挑戦!実際どうだった?

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目次

令和6年より、個人住民税の特別徴収税額通知が電子データで受け取れるようになりました。

本稿では、SmartHR社の労務担当者が、実際に電子データの個人住民税特別徴収税額通知を受け取り、配付してみた感想をお届けします。

※注意点

SmartHRには正式に「個人住民税の特別徴収税額通知の電子データ配付」に対応した機能はありません。あくまで現存の機能を利用した実例であり、同じ方法での配付を推奨するものではありません。

令和6年の個人住民税特別徴収税額通知(納税義務者用)電子化の概要

従来、紙媒体のみで配付されていた個人住民税の特別徴収税額通知が、令和6年より電子データで受け取れることとなりました。

各市区町村からの従業員(納税義務者)用の個人住民税特別徴収税額通知は、以下の方法を選択できるようになります。

  • 従来の紙媒体での受け取り
  • eLTAX(地方税ポータルシステム) から電子データでの受け取り

個人住民税特別徴収税額通知の従業員への電子配付には、以下のメリットが考えられます

  • 人事労務担当者
    • 開封、確認、配付等の事務作業負担を軽減できる
    • 郵送費などの事務経費の削減ができる
    • 郵送や各事業所・店舗での手渡しにより発生する、従業員が受け取るまでのタイムラグが削減される
  • 従業員
    • タイムラグ無しに自身の通知を受け取れる
    • 紙媒体に比べて、紛失によるリスクを低減できる
    • 個別のパスワード使用して情報にアクセスするため、第三者による閲覧のリスクを低減できる

しかし、新たな電子データでの受け取りについては、以下の課題も存在しています

  • パスワード付きの「通知書ファイル(ZIPファイル)」 と、それを展開するための「個人住民税の特別徴収税額通知書のパスワード確認方法のご案内ファイル(PDFファイル) 」を同時に配付しなければいけない
  • 「通知書ファイル(ZIPファイル)」 がWindows標準のエクスプローラーでは解凍ができない
個人住民税特別徴収税額通知の電子データを受け取り配付するためのステップを示した図。

出典:個人住民税特別徴収税額通知(納税義務者用)電子化に係る特別徴収義務者向け特設ページ | eLTAX 地方税ポータルシステム

人事労務担当者の業務負荷が大きい紙媒体の通知の配付。電子データでの受け取りを選択できるようにはなったものの、現状では電子データを効率よく配付でき、従業員からの問い合わせが発生しないような配付方法を検討する下準備が必要と考えられます。

SmartHR社が実際に電子データの通知を配付してみた

メリットも十分にある電子データでの受け取り・配付。ですが、現状では前述の下準備の必要性などの観点から、電子データの受け取りを選択するのは企業・労務担当者にとってハードルが高いと言えます。

そこで今回は、電子配付を実施したSmartHR社の労務担当者から、実施した感想をお届けします

  • 労務担当者中﨑 千敬

    株式会社SmartHR 人事管理本部 労務部 労務ユニット

    営業職、専業主婦を経て前職で未経験から社労士法人で給与計算や社会保険手続きを経験。
    SmartHR社には2020年3月に派遣社員として入社、その後、2020年10月に正社員として入社。労務として産育休対応や手続きをメインで担当。

  • 労務担当者永沼 宏樹

    株式会社SmartHR 人事管理本部 労務部 労務ユニット

    広告・製版、金融、不動産、テーマパークの企業にて人事・労務を経験。2024年1月にSmartHRへ入社し、給与のほか、主に労務コンプラや規程の改定などを担当。簡易なプログラムの知識を活かしシステム間のデータ作業の効率化に携わる。

電子データでの配付を選んだ理由

SmartHR社は、従業員が大幅に増えています。また、リモートワークの定着によりさまざまな都道府県に従業員が住んでいるため、年々、個人住民税特別徴収税額通知の郵送作業の工数が増え続けています。令和6年度(2024年度)に紙の通知書を郵送する場合、1,000通以上になると想定していました。

そこで、個人住民税特別徴収税額通知(納税義務者用)が電子化対応されることを知り、紙の通知書の仕分け、封入、郵送などの効率化の観点から電子データの受け取りを選択することに決定しました。

電子データの受け取りから配付までのスケジュール・配付方法

今回の対応にあたり、以下のスケジュール・方法で電子データの受け取りから配付までの業務を実施しました。

(1)2024年1月〜4月:令和5年度の給与支払報告書提出時に電子を選択。届くまでに情報収集

まず、令和5年度の給与支払報告書提出時に電子を選択しました。

電子データが届くまでの期間は、労務チームでデータの形式・内容などについて情報収集しながら、運用のイメージを組み立てていきました。どのようなデータが来るか未知な部分も大きかったため、念入りな情報収集をしました。

(2)2024年5月中旬:電子データが到着

2024年5月中旬頃から、電子データが各市区町村から到着しました。

なお、2024年5月上旬には、各市区町村から電子データを選択した企業宛に、電子データ選択の確認や、紙の通知書に変更するための申請書なども届いていました。

(3)2024年5月末〜6月1週目:従業員への配付に向け、SmartHR 従業員情報に「住民税通知用のカスタム項目」を作成

SmartHR社では、従業員情報内に住民税通知用のカスタム項目を作り、以下をアップロードする方法をとりました。

  • 通知日
  • パスワード
  • 電子データ

通知日は、CSVファイルのインポートにて従業員情報に一括登録しました。

参考:複数の従業員情報を一括で登録する - SmartHRヘルプセンター

SmartHRの従業員情報の中に住民税通知用のカスタム項目を作成したイメージ。

作成した住民税通知用のカスタム項目

(4)2024年5月末〜6月1週目:「ファイル一括操作」機能を利用し、各従業員に紐づけた電子データを一括アップロード

従業員ごとに用意された2つの電子データ(パスワード付きの「通知書ファイル(ZIPファイル)」 と、それを展開するための「個人住民税の特別徴収税額通知書のパスワード確認方法のご案内ファイル(PDFファイル) 」)は、各従業員に紐づけてカスタム項目にアップロードする必要があります。そのため、SmartHR Plusで提供されている「ファイル一括操作」機能でアップロードすることにしました。

ここで、「ファイル一括操作」機能で複数ファイルを一括アップロードする場合、「{社員番号}@+{任意の文字列}」という命名規則でファイル名を設定する必要があります。

そのため、電子データのファイル名を変換するために、プログラミングを活用し、ファイル名変換用の表計算ソフトファイルを用意しました。

各市区町村から届いた全電子データのファイル名を変換し、カスタム項目へ一括アップロードしました。

ファイル名を変換するために利用したスプレッドシートのイメージ

利用したファイル名変換シート

(5)2024年6月2週目:従業員へ配付・公開

従業員への配付前には、全社会議で閲覧方法などについて説明しました。また、操作方法を説明した社内ドキュメントも作成、周知しています。

全社会議での説明後、カスタム項目を従業員が閲覧できるよう権限を変更し、各従業員に電子データをダウンロード、解凍、閲覧してもらいました

配付後も大きな混乱はなく、各従業員から「確認できた」という声があり、安心しました。

住民税通知の配付について説明した社内用マニュアルのイメージ

配付した社内用マニュアルの一部

住民税通知の電子データ配付を実施した感想

紙の郵送や確認にかかる工数・コスト削減ができる

紙で郵送する作業工数や切手代を考えると、電子データでの配付はメリットが大きいと感じました。

とくに、紙媒体の通知では、誤って必要な部分を破棄していないか確認する作業が発生していました。届いた封筒を配付終了まで念の為に残しておき、複数人で何度も確認して破棄する、封入や住所ラベル作りも2人体制で作業・チェックして郵送する、などの工数が削減できたと思います。

配付方法・運用はまだ改善の余地がある

一方、初年度だったこともあり、電子データに変える決定や実際の配付までの業務に緊張感はありました。また、新しい運用を労務チーム内で定着させるためには、まだまだ改善の余地があると感じています。

電子データ配付が難しいと感じた点 3つ

難しいと感じた点もいくつかありました。

(1)電子データの中身を労務担当者が見られず、ファイルの正誤を判断できない

プライバシー保護の観点から、通知書の内容を労務担当者が閲覧できないため、ファイルを開封できません。また、各市区町村から送られてきたファイル名に氏名が入っていなかったため、電子データの中身が本当に正しい従業員本人の通知書であるか確かめる方法がありませんでした。紙の場合は、印字された名前で確認していたため、運用が難しいと感じました。

(2)従業員が電子データ(ZIPファイル)を操作できるか否かに左右される

SmartHR社は従業員全員が業務用パソコンを所持・利用しているため、今回の配付方法が採用できたと感じています。しかし、各企業の状況によっては、従業員からの質問が増大する可能性も考えられます。

(3)SmartHRを利用する場合は、「ファイル一括操作」機能においてファイル名の変更が必要

SmartHR以外のソフトを利用した、ファイル名の一括変更技術が別途必要になる点が難しいと感じました。

初年度の電子データ配付はメリットも課題もあり

今回は、SmartHR社が実際に個人住民税特別徴収税額通知(納税義務者用)を電子データで配付するまでの記録を公開しました。

SmartHR社の場合は全従業員が業務用パソコンを所持しており、日常的に業務で利用します。そのため、電子データでの配付にも抵抗がなかったことが、電子化初年度でも挑戦できた大きな要因だったと思っています。

メリットも課題もみえた電子データでの受け取り・配付でしたが、挑戦できてよかったと感じます。労務担当者として、SmartHRをさらに活用できるように、これからもさまざまな業務への応用を実践していきます。

※注意点

SmartHRには正式に「個人住民税の特別徴収税額通知の電子データ配付」に対応した機能はありません。あくまで現存の機能を利用した実例であり、同じ方法での配付を推奨するものではありません。

<電子化の概要 執筆>
株式会社SmartHR ドメインエキスパート 中島章伍

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