社労士が解説! HRニュース 2022年10月振り返りと2022年11月のポイント
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目次
11月を迎え、いよいよ年末が近づいてきました。年末調整の対応をはじめ、年末に向けて、人事・労務担当者の方も本格的に忙しくなってくる時期だと思います。
2022年10月のトピックの振り返り
(1)e-Govのトラブル
人事・労務手続の電子申請の多くは、デジタル庁の管轄する「e-Gov」というシステムを経由して行なわれます。このe-Govが、9月、10月、相次いでシステムトラブルに見舞われました。
まず、9月6日、KILLNETという新ロシア派のハッカー集団のサイバー攻撃により、一時的にe-Govを利用できない状態となりました。翌9月7日にも、システムトラブルでe-Govにログインできない状態が発生しました。また、9月下旬から10月上旬にかけても、e-Govへのログインや申請はできるが、処理側のシステム障害で、健康保険証や離職票の発行が遅れるというトラブルが発生しました。
電子申請は便利ですが、このようなシステムトラブルのリスクもあることを筆者としても改めて認識しました。各企業の人事・労務担当者の方におかれましても、対応を考えておくことが必要だと思います。
具体的な対策としては、社会保険の資格取得(保険証の発行)や離職票の発行などは、従業員の医療機関受診や基本手当(失業手当)の受給に直接影響するので、最優先での対応が必要です。場合によっては、紙の届出書を年金事務所やハローワークに持ち込むことも含め、臨機応変な対応が望ましいといえるでしょう。
一方で、新入社員の雇用保険の資格取得など、多少手続が遅れても実務上の実害がない手続きは、e-Govの復旧を待って対応するという形でも間に合うと思います。
SmartHRなどのHRテクノロジーを導入していれば、紙の申請書をただちに出力できるので、あわてて手書きをしたり、Excelで打ち込む必要はありません。このような非常時のバックアップという観点からも、HRテクノロジーの導入は検討されるべきでしょう。
(2)新しい資本主義
10月4日、岸田総理は、総理大臣官邸で「新しい資本主義実現会議」を開催しました。岸田首相が掲げる「新しい資本主義」において、人事・労務に密接に関わる施策として下記の内容が掲げられました。
- 年功制の「職能給」から「職務給」への移行支援
- 副業を認める企業名の公表や、転職を積極的に受け入れる企業への支援を強化
- 起業を目指す若手人材を今後5年間で1,000人、米国のニューヨークやシリコンバレーなどに派遣
今後、これらの施策がさらに具体的な形となり、たとえば「新たに職務給制度を導入した企業への助成金制度」などが公表されてくると思います。人事・労務担当者は、アンテナを高く張って引き続き情報収集しておきたいものです。
2022年11月のトピック
(1)年末調整準備本格化
11月に入り、年末調整の準備も本格化し始める時期になってきました。筆者の自宅にも、保険会社から保険料控除申告書のエビデンスとなる保険料控除証明書のハガキが届き始めています。
SmartHRなど、HRテクノロジー各社も、2022年版の年末調整機能を続々とオープンしているので、人事・労務担当者は、初期設定をしたりスケジュールを立てたりしたうえ、従業員に年末調整を依頼するメールを送るタイミングになりました。
2022年は前年に対して、税法上の大きな変更点はありませんが、過去の法改正により、年末調整のルールはかなり複雑化しています。私見としては、紙で年末調整を実施することは、人事・労務担当者にとっても、従業員にとっても、限界が近づいている印象です。
SmartHRなどで年末調整を進める場合は、申告書を紙で配布や回収をする工数がなくなるという表面的な改善にとどまらず、UI/UXもつくり込まれているので、従業員の方が迷わずに年末調整に必要な情報を入力できます。
人事・労務担当者も、年末調整の依頼や、進捗管理が大幅にスムーズになります。
従業員規模にもよるかもしれませんが、このタイミングでHRテクノロジーを導入し、今年の年末調整からクラウド化するというのも、まだ間に合うタイミングであるとは思います。今年の年末調整を紙で実施しようと思っていた企業も、いま一度、年末調整のクラウド化をご検討をしてみてはいかがでしょうか。
(2)テレワーク月間
11月はテレワーク月間です。新型コロナウイルス感染拡大を機に、テレワークが一気に普及しました。現在はwithコロナの働き方も定着し、テレワーク一辺倒というよりも、各企業の事情に応じ、柔軟にテレワークを利用しているケースが増えてきています。
新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初は、生産性や効率は二の次としても、「生命・健康を守るため、とにかくテレワークをしよう」という温度感でした。現在はステージがかわり、生命・健康を守るためという側面はもちろん引き続き重要な観点ですが、多くの企業では、自社の業務内容や企業風土に合わせ、「テレワークと通常勤務をどのように組み合わせていくか」が重要なテーマになりつつあります。
新型コロナウイルス対応に加え、ワークライフバランス、採用のチャンス拡大、ワーケーションなど、「福利厚生の一環としてのテレワーク」をはじめとした幅広い観点を踏まえ、テレワークのあり方について考えてみるのはいかがでしょうか。
(3)給与のデジタル払いの解禁対応
2023年4月を目途に、給与のデジタル払いの解禁が予定されていることが明らかになりました。
現在は、労働基準法による「通貨払いの原則」により、給与は通貨(=日本円)で支払うことが法的義務とされています。
この原則を修正し、一定条件のもとで電子マネーで給与を支払うことが合法化される見通しです。
クレジットカードの引き落しや住宅ローンの支払いなどを考えると、給与の全額を電子マネーで受け取るというのは現実的ではないかもしれませんが、給与の一部を電子マネーで受け取れるようになるのは、労働者にとってメリットがありそうです。
電子マネーで受け取った給与は、そのままネットショッピングなどに使えるので、チャージしたりATMに並んだりする手間を削減できます。
加えて、あくまでも希望的観測になりますが、電子マネーで給与を受け取ることを選択した場合、電子マネー事業者によるボーナスポイント付与や特典の提供なども期待できるかもしれません。
このように、労働者にとっては、自社が電子マネー支払いに対応してくれるかは、大きな関心事項になりそうです。また採用活動においても、電子マネー支払いに対応しているか否かが、会社の魅力度に影響をしてくる可能性もあるでしょう。
それを踏まえると、人事・労務担当者は、給与の電子マネー支払い解禁について積極的に情報収集し、いつでも対応できるように準備を進めておくことが望ましいと思います。
(参考)e-Govパブリックコメント「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案に関する御意見の募集について」 – 厚生労働省労働基準局賃金課
人事・労務ホットな小話
今月のニュースレターでは、年末調整の電子化や、給与のデジタル化の解禁などの前向きなトピックを取り上げるなか、e-Govのトラブルというデジタル化の負の側面についても触れました。
時代の大きな流れとしては、人事・労務業務において、電子化がどんどん進んでいくことは間違いありません。
しかし、サイバー攻撃や導入しているHRテクノロジーのトラブルやサービス停止、インターネットの接続トラブルなど、何らかのトラブルがあった場合に影響が生じるリスクの度合いも大きくなっています。
「備えあれば患いなし」という言葉もあるので、人事・労務担当者は電子化に対応していくなかで、万が一トラブルがあった場合、自社においてどのようにバックアップしていくかを、平常時のうちにシミュレーションしておくと安心ではないでしょうか。
まとめ
この時期は、年末調整、冬季賞与の支払い準備など定例業務が増えるとともに、今年の年末年始はwithコロナが浸透した社会情勢も踏まえ、忘年会・新年会や、賀詞交歓会などを再開する企業も少なくないのかもしれません。
寒くなってきましたので、体調に気をつけながら、年末年始の繁忙期に向けての準備を計画的に進めていっていただければと思います。