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社労士が解説!HRニュース2022年7月振り返りと2022年8月のポイント

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労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎届などのシーズンが終わり、人事・労務担当者の方にとって、ひと段落できるタイミングになったのではないかと思います。

夏季休暇をはさみ、会社全体としても比較的落ちついた時期になると思いますので、人事・労務担当者の方も、しっかり骨休めをするとともに、情報収集や中長期的な課題に対する取り組みなどにも目を向けていただければと思います。

2022年7月のトピックの振り返り

(1)年度更新・算定基礎届の後処理

年度更新・算定基礎届は7月11日までが期限ですので、対応自体はすでに完了していると思います。

年度更新に関しては、届出を行うだけでなく、保険料の納付までを含めて一連の流れですから、納付漏れがないかを含めていま一度、最終確認をしてください(口座振替になっている場合は納付対応不要です)。また、支払った労働保険料は法定福利厚生費となりますので、経理部門とも連携して、仕訳への反映漏れがないようにしましょう。

算定基礎届に関しては、日本年金機構から、新年度の標準報酬月額の記載された決定通知書が順次郵送されたり、電子申請システムで返戻されてきたりしていると思います。

新年度の標準報酬月額は、9月分(10月支払分給与から控除される分)の社会保険料から変更になりますので、決定通知書が届いたからといって、フライングで変更をしないようお気をつけください。

(2)固定残業代の一方的減額を認めず

6月29日に東京高裁で、固定残業代に関する重要な判決が出されました。最高裁の判決ではありませんが、人事・労務担当者は是非把握をしておきたい内容です。

今回の事件では、医薬品開発関係の会社で働いていた労働者が、22万円の固定残業代が組み込まれた給与体系で勤務していたところ、残業の少ない部署に異動になったため、会社側が給与体系を見直し、固定残業代を18万2,000円、7万7,000円と、2段階で減額したところ、労働者側が固定残業代の減額に納得がいかず、裁判になったというものです(実際の裁判では、基本給の減額など他の争点もあり)。

1審の東京地裁は「みなし手当は通常の賃金ではなく、時間外労働に対する割増賃金であり、割増賃金の支払い方法は労基法第37条所定の方法で算定した額を下回らなければ、どのような方法で支払っても自由」として、固定残業代の減額を有効としました。

しかし、2審の東京高裁はこれをくつがえし、「固定残業代を含んだ金額を年俸額として合意しているため、固定残業代は実際の時間外労働が少ないなどの理由で同社が自由に減額できる性質のものではない」として、会社側が敗訴の判決となりました。

ここで人事・労務担当者にお願いしたいのは、自社で固定残業代を採用している場合、どのような位置づけで支払われているのかを再確認していただきたいということです。

固定残業代が、年俸総額や基本給の一部として組み込まれている場合は、たとえ職務内容が変わったとしても、固定残業代の減額は難しくなります。

もし、残業の少ない部署へ異動した場合や、将来的に業務効率が上がって残業が全社的に減った場合、固定残業代の減額を会社として想定したいのであれば、雇用契約書や賃金規程において、「固定残業代は所属部署に応じて時間数を定める」や「固定残業代は、全社の残業の実績を踏まえ、毎年4月に見直すものとする」など、固定残業代の額を会社の判断でフレキシブルに変更できるような定めをしておくことが必要であると考えます。

(3)経団連、ワーケーションを推奨

我が国における代表的な経済団体である一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)は、7月19日に「企業向けワーケーション導入ガイド」を発表しました。

ワーケーションとは、「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語です。通常のテレワークとは異なり、観光地や帰省などの休暇先でリモートワークを行うことを想定しています。

家族と休暇先でレジャーを楽しみながら、必要な時間だけ仕事をする、という新しい働き方です。ヨーロッパのような長期休暇の習慣が無い日本においては、まずはこのような働き方が定着することで、レジャーやワークライフバランスの幅が広がるかもしれません。

柔軟な働き方を可能とする制度設計が重要

(参考)企業向けワーケーション導入ガイド – 一般社団法人日本経済団体連合会

そして筆者は、ワーケーションは、どちらかといえば、若手中心のスタートアップ企業に親和性のあるものかと思っていましたが、大企業中心で構成される経団連がワーケーションの推奨に取り組むのは、伝統的な大企業においても、新しい働き方への取り組みが前向きに行われているのだな、というポジティブな印象を受けました。

通常のリモートワークが定着している企業であれば、ワーケーション中にモバイルWi-Fiを貸し出すなどのハード面での追加対応や、ワーケーション中のセキュリティ基準を明確化(業務を行うのは、ホテルの部屋や空港ラウンジのビジネスコーナーなどに限るなど)すれば、ワーケーションを導入するハードルは決して高いものではないと思います。

2022年8月のトピック

(1)夏季休暇

8月には夏季休暇を設定している企業も多いのではないかと思います。

収束に向かうかと思われた新型コロナウイルスですが、残念ながら感染が急拡大しています。また、新たな感染症である「サル痘」も懸念されます。

国として、緊急事態宣言や強制力のある行動制限を設けていないなか、企業が従業員の夏季休暇中の規制や旅行を制限することは法的な意味では難しいと考えられます。

夏季休暇に入る前に、いま一度、感染予防について啓蒙するとともに、休暇中に本人や家族に発熱などの体調の変化が見られた場合は、会社に連絡のうえ、休暇明けに出社を差し控えることや、テレワーク勤務に限定するなど、企業としての安全衛生を維持管理するためのルールの設定および周知が必要となるでしょう。

(2)円安対応

目下、歴史的な円安水準が続いています。円安は、輸出企業の業績を押し上げるなどのプラス効果もありますが、人事・労務関係においては、マイナスの影響のほうが大きいと感じます。

近年はリモートワークが一般化し、海外居住の人を外貨建ての給与で雇用したり、業務委託契約を結ぶことも珍しくなくなりました。このような場合、円ベースでは人件費が増加していることになります。

逆に、外国からの労働者を受け入れている場合には、円ベースで給与を支払いますが、母国に送金する際に、円安だと外貨に換算したときに目減りしますので、外国人労働者から賃上げを求められたり、日本以外の国で働くことを希望して、来日することや雇用契約の更新を拒否される可能性もあります。

人事・労務担当者の方は、円安に対する自社の人件費への影響や、外国人労働者の雇用環境の状況についても、注視していく必要があります。

(3)社保加入拡大に向けた準備

10月1日より、一定の要件を満たす週20時間以上勤務者への社会保険の加入義務が、被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時100人を超える事業所に拡大されます(従前は500名を超える事業所)。

詳細については、こちらの原稿も参考にしてください。

今回の改正により、新たにパート社員やアルバイト社員を社会保険に加入させなければならなくなる企業は少なくないと思います。

会社の金銭的負担(会社負担分の社会保険料)が増えることもありますが、対象となる従業員各人への説明などの時間も考えると、そろそろ具体的に事前準備を始めなけばならないタイミングです。

手取額が減りますので、社会保険に加入することを嫌がる従業員もいると思います。会社としては、法律上の義務であることを説明のうえ、本人に納得をしてもらうか、どうしても社会保険の加入を避けたい場合は、所定労働時間を週20時間未満に短縮して、雇用契約を結び直さなければなりません。

従業員への説明や意向確認、必要に応じて雇用契約の再締結を行い、10月1日を迎えた時点で、パート・アルバイト社員のうち、誰が社会保険の加入対象者なのかが明確になっていなければなりませんから、余裕を持って段取りを進めておくことが重要となります。

人事・労務ホットな小話

企業経営における人事部門の役割の重要性が認識され、CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)、CTO(最高技術責任者)などと同様、CHRO(最高人事責任者)という役職も市民権を得て、このポジションを設ける企業も増えています。

加えて近年は、HRBP(HRビジネスパートナー)という役職も注目を集めはじめているようです。

CHROは経営の意思決定に参画するとともに、CEOの経営意思決定にもとづいて人事領域における執行計画を立て、その実行責任を負うポジションです。これに対し、HRBPはコンサルタント的な視点も持ちながら、戦略的に経営と現場をつなぐ役割を担います。

人事・労務部門でキャリアを積んでいくにあたっては、CHRO側のポジションを目指すのか、HRBP側のポジションを目指すのか、自分の希望や強みを見据えながら、意識的に考えてみるのも面白いかもしれませんね。

まとめ

今回ピックアップしたトピックをつなぎ合わせてみると、世の中的に、ワーケーションなど柔軟な働き方への許容度が高まりつつも、裁判所が固定残業代に対して示した判決のように、コンプライアンスの遵守には、厳しい目が向けられているというトレンドがわかります。

人事・労務部門としては、「柔軟な働き方」と「コンプライアンスの遵守」という、場合によっては相反するものを、高い次元で両立させていかなければなりません。大変な取り組みですが、それに対するやりがいも大きいのではないかと思います。

若手の方も、「自分がもしCHROやHRBPだったら」という視点を持って、課題に向かい合ってみると面白いのではないかと思います。スタートアップ企業では、20代や30代でCHROやHRBPを務めていらっしゃる方も珍しくありませんから、そのような意識で仕事に向き合っていれば、チャンスが巡ってくるかもしれませんね。

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