社労士が解説!今月のHRニュース2020年11月編(e-Govアプデ、育児介護休業法改正、年末年始休暇など)
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こんにちは。特定社会保険労務士の榊です。
いよいよ人事労務部門にとっての繁忙期がやってきました。皆様の会社での年末調整の進捗はいかがでしょうか?
そして、新型コロナウイルスの感染が再び拡大傾向にあることも懸念されます。油断のならない状況の中ですが、良い年末年始が迎えられるように、人事労務部門の方に年末までに対応していただきたいことをまとめました。
2020年11月のトピックの振り返り
(1)年末調整の推進
年末調整を紙で行う会社は、既に申告書の配布を終えているでしょうか。また、SmartHRなどのクラウドソフトで行う会社は、従業員への依頼メールは発信済でしょうか。
年末調整は、11月中に従業員からの申告書の回収を完了させ、12月の給与明細で過不足の精算が完了できているのが理想的なスケジュールです。
税務署への法定調書合計表・源泉徴収票の提出および、市区町村への給与支払報告書の提出期限は1月31日なので、実務上は、確かに年末調整に関するタスクを1月まで先延ばしにすることは可能です。
しかし、いつまでも年末調整のタスクを引きずっていると、気持ち新たに新年のスタートも切れないので、年末調整は年内に完了させるようにしましょう。
年末調整では、所得税が還付になることが大半ですので、12月支払分の給与で還付ができれば、従業員の方々にとっても、嬉しい越年資金となるでしょう。
(2)e-Govのアップデート
先月のHRニュースでも触れましたが、11月23日にe-Govに大幅なアップデートが施されました。
クラウドソフトを利用してAPI経由で電子申請をしている会社に関しては大きな環境変化はありませんが、e-Govから直接申請をしている会社は、新しい操作画面に担当者が習熟できるよう努めてください。
なお、e-Govは、入社や退職の手続だけでなく、就業規則や36協定の届出、定期健康診断やストレスチェックに関する報告書など、様々な行政手続きに対応しています。
普段の入社・退職などの手続きはAPI経由で申請している会社も、e-Govがリニューアルされたこの機会に、API申請に対応していない手続に関しても、e-Gov経由での電子申請にトライしてみてはいかがでしょうか。
(3)健康保険組合の電子申請義務化開始
2020年4月1日から資本金1億円超の企業に関し、社会保険・労働保険の主要手続きの電子申請が義務化されましたが、健康保険組合に対する手続きに関しては、電子申請環境の整備の進捗を踏まえ、義務化が2020年11月に後ろ倒しとなっていました。
この点、健康保険組合への電子申請には2つのルートがあります。
第1のルートは、健康保険組合が独自に構築した電子申請システムを経由する方法です。しかし、健康保険組合で、独自の電子申請システムを持っている組合は多くありません。
そこで、第2のルートとして、国は、マイナポータルとGビズIDを利用した電子申請のシステムを構築し、健康保険組合に提供しました。
ただし、マイナポータル自体に直接電子申請できるインターフェースが用意されているわけではありません。健康保険組合に加入している各企業が、マイナポータルにAPI接続して電子申請できるインターフェースを自社開発するか、民間のITベンダーが開発したソフトを利用するか、どちらかの方法で対応できる環境を用意する必要があります。
このように、健康保険組合に電子申請を実際に行うためには、多大な手間が発生します。また、健康保険組合への電子申請に対応したソフトを提供しているベンダーもまだ少数です。そのため、多くの健康保険組合で、11月以降も実務上は、資本金1億円超の企業からの紙ベースでの申請を受け付けているようです。
とはいえ、いつまでも紙ベースというわけにはいきませんので、電子申請義務化に該当する企業は、健康保険組合からのアナウンスや、民間のITベンダーのソフトの開発状況を踏まえ、早いうちに健康保険組合への電子申請ができる環境の構築に取り組みたいものです。
2020年12月のトピック
(1)2021年1月以降の雇用調整助成金
雇用調整助成金に関し、新型コロナウイルス対応として支給要件の緩和や支給額が上乗せされている緊急対応期間は、2020年12月31日までとされています。(2020年11月24日時点)
2021年1月以降、雇用調整助成金は、支給要件の引き締めや、支給額の縮小が行われるという情報が流れていました。ところが、目下の新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は、緊急対応期間を延長し、2021年1月以降も、現在の特例措置を継続する方針に転換したようです。
雇用調整助成金、特例水準維持へ 政府、コロナ感染増に配慮
加えて、従業員を、新型コロナウイルスの影響を受け事業が縮小している企業から他の企業に出向させた場合の雇用調整助成金は、拡充される予定です。
雇用調整助成金、厚労省が出向者への助成増額検討 来年1月から適用へ
国は、「単純な休業」から「労働力移動の後押し」に舵を切りつつあると言えるでしょう。年明け以降の雇用調整助成金がどうなるか、人事労務担当者はアンテナを張っておきたいものです。
(2)育児介護休業法の改正
2021年1月1日より、育児介護休業法に改正があります。
今回の改正内容は、「子の看護休暇」および「介護休暇」に関し、従業員が希望した場合には、時間単位の付与が義務化されるというものです。
なお、法的な義務としては「始業時刻から連続」または「終業時刻まで連続」して取得を認めれば足り、いわゆる「中抜け」を認める必要まではありません。もちろん、会社の方針で、「中抜け」も含めて認めることは問題ありません。
法改正内容を把握するとともに、時間単位での休暇管理となると煩雑さが増しますので、自社の勤怠管理システムや給与計算システムが対応しているかのチェックもお忘れなく。
(3)冬季賞与
今年は新型コロナウイルスの影響で、冬季賞与の減額や、支給見送りを検討している会社も少なくはないでしょう。
会社から従業員に対しては、賞与の有無や支給水準について、可能な限り早めにアナウンスをすることが望ましいと考えます。
幸いにして例年と変わらないのであれば従業員は安心しますし、減額や不支給となる場合には、従業員の日常生活や住宅ローンの返済などに影響が出ることは必至ですので、早めにアナウンスして、従業員が対応を取れるように配慮をすべきです。
たとえば住宅ローンであれば、早めに状況が分かれば、余裕を持って金融機関と返済スケジュールの調整が可能となります。
未曽有のパンデミックとなったコロナ禍で、賞与の支払いが厳しい状況であることは多くの従業員は理解をしてくれるでしょう。その上で、会社がどれだけ従業員に配慮をできるかが労使の信頼関係に直結すると考えます。
(4)年末年始休暇
冬季賞与と並び、今年の年末に向けて早めに確定させておきたいのは年末年始休暇です。
政府が17連休を要請するというのは誤報であったようですが、帰省や初詣等で一斉に人が動くと公共交通機関や街中が「密」の状態になることは避けられません。
各企業としては、従業員やその家族が少しでも「密」を回避できるよう、自社として可能な範囲で長めに年末年始休暇を設ける、日数だけ決めて各従業員が一定の期間中に任意のタイミングで年末年始休暇を取得できるようにするといった対応が考えられるでしょう。
また、12月下旬や1月上旬は、会議を控えるなどして、従業員が年次有給休暇を取得しやすい環境を整え、有給奨励期間とすることも考えられます。
あるいは、帰省のタイミングをずらせるよう、帰省先でのテレワーク勤務を認めるのも一手ではないでしょうか。
今年の年末年始休暇は、従業員の新型コロナウイルス感染防止のため、休み方にも最大限の工夫をしたいものです。
人事労務ホットな小話
11月はe-Govのアップデートや健康保険組合の電子申請対応、そして、年末調整を今年からクラウド化した企業も少なくないでしょう。人事労務担当者にとって、もはや「IT」は切っても切り離せない存在となりました。
しかし、私たち社会保険労務士の業界も含め、「人事労務の専門性」と「ITの知識」の両方を兼ね備えた人材はまだまだ多くありません。
これからは、HRテクノロジーの進化で人事労務部門のIT化は間違いなく加速していきますので、そのような時代背景の中、人事労務とITの双方に精通すると、間違いなく希少価値のある人材になれると考えます。
現在、企業内で電子申請や年末調整のクラウド化を担当していらっしゃる方は、とても大変だと思いますが、是非とも前向きな気持ちで頑張って頂ければと思います。
おわりに
人事労務担当者は、これから年末に向けどんどん忙しくなると思います。
そして、日に日に寒さも増してきました。健康に気を付けながら効率的に業務を進め、この繁忙期を乗り越えていきましょう!