長時間労働者への面接指導の対象・実施の流れ・注意点を徹底解説
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目次
企業としてリスク管理が必要な一つに「長時間労働」が挙げられます。
政府も2019年4月に労働安全衛生法を改正し、長時間労働者への医師による面接指導を強化しました。しかし、まだまだ長時間労働が原因の過労死・自殺に至るといったケースはあとを絶ちません。
この記事では、長時間労働者への面接指導について、実施の流れや注意点を解説しています。
社内で強化できていない部分の改善が、大きなリスクの回避にもつながっていきますので、どうぞ最後までご覧ください。
長時間労働者への面接指導とは
皆さまも耳にしたことがあるかもしれませんが、長時間労働者への面接指導は2019年「働き方改革関連法」の一つとして強化されました。
- 長時間労働などにより、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さない
- 医師による面接指導を確実に実施する
という点を目的として強化されました。
しかし、ただ面接指導をするだけでは本質的な課題は解決できません。
まずは次からご紹介する「面接指導制度の目的と概要」「面接指導が必要になる長時間労働者の基準」「長時間労働が引き起こすリスク」という点を把握しておくことが、課題解決にとって重要です。
長時間労働者への面接指導制度の目的と概要
<長時間労働者への面接指導の主な目的>
- 長時間労働やメンタルヘルス不調などで、健康リスクが高い状況にある労働者を見逃さない
- 面接指導を通じて適切な措置を取ることで、過労死や自殺といった不幸な事態を未然に防ぐ
長時間労働は、医学的に脳や心臓疾患の発症との関連性が強いとされています。
これらの発症を予防するためにも、一定時間以上の長時間労働者への医師による面接指導が法改正で強化されました。
なお、社内の長時間労働の実態を適切に把握するため、事業者には客観的な方法・その他の適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握することも求められています。
長時間労働者を含め、まずは自身の会社が適切に労働時間管理できているか考えてみましょう。
(参考)長時間労働者への医師による面接指導制度について - 厚生労働省
面接指導が必要になる長時間労働者の基準
長時間労働を算出するためには、時間外労働の時間と休日労働の時間の両方が必要です。この2点を合算した時間が一定時間を超えると、面接指導が必要とされています。
ただ、「一般労働者」「研究開発業務従事者」「高度プロフェッショナル制度適用者」「派遣労働者」によって、面接指導が必要な基準は異なります。次から具体的にご紹介していきます。
(1)一般労働者
一般労働者の面接指導の対象となる基準は「時間外・休日労働時間が1か月につき80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者」です。
この基準に該当する労働者が申出をした場合に、面接指導を実施することとされています。しかし、申出がない場合でも、面接指導を実施するよう努めなければならないとされています。
また、月45時間超の時間外・休日労働を実施し、健康への配慮が必要と認めた労働者についても、面接指導を実施することが望ましいとされています。
例外:所定労働時間が1週間につき40時間に満たない事業場
時間外労働時間・休日労働時間が法定労働時間の40時間を超えた場合には実施するようにしましょう。
(2)研究開発業務従事者
労働基準法において、研究開発業務(新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務)に従事する労働者については、労働時間の上限規定を適用しないとされています。そのため、面接指導の対象の基準も異なります。
具体的には「時間外・休日労働時間が1か月につき100時間を超える研究開発業務従事者には、申出なしに医師による面接指導を実施」とされています。
また、月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められた労働者については、申出があれば、面接指導を行う必要があります。この点もしっかりと押さえておきましょう。
(3)高度プロフェッショナル制度適用者
高度プロフェッショナル制度適用者は、一定の年収要件(年収1,075万円)を満たし、高度な専門知識が必要な業務に従事する労働者を指します。研究開発業務従事者と同様に労働時間の上限規定を適用しないとされており、面接指導の対象となる基準も異なります。
具体的には「1週間の健康管理時間が40時間を超えた場合、その超えた時間が1か月につき100時間を超える高度プロフェッショナル制度適用者には、申出なしに医師による面接指導を実施」とされています。
なお、高度プロフェッショナル制度適用者は独立採算のイメージがありますが、面接指導に掛かる費用については、事業者に面接指導の実施義務が課されています。つまり、事業者に負担義務があることをご留意ください。
(4)派遣労働者
派遣労働者は、実際に時間外労働や休日労働の要請を行うのが「派遣先」であることから、長時間労働の際の面接指導についても派遣先で実施するものと考えがちです。
しかし、労働基準法・労働安全衛生法上では、派遣社員の事業主は「派遣元」とされています。そのため、面接指導も派遣元に実施義務があることを覚えておきましょう。
ただ、派遣先には、派遣元と連携することが求められています。面接指導を実施する場合にも、勤務状況や職場環境に関する情報を提供する必要があります。
面接指導の結果に基づいて派遣元から就業上の措置への要請があった場合は、再発防止対策に協力する必要もあります。
一般労働者と同様に、長時間労働を見逃さないようにしておきましょう。
長時間労働が引き起こすリスク
長時間労働の原因には、人員不足・在籍社員のスキル不足・業務過多・一定社員への業務の属人化などが考えられます。
長時間労働を放置すると、「ストレス蓄積・生産性低下」「労災リスクの増加」「人件費の増加」「人材獲得・人材定着の難化」に繋がります。最悪なケースとして、過労死や自殺も引き起こしかねません。
担当者としては、これらのリスクを把握し、発生を未然に防ぐ体制を整えておく必要があります。
ストレス蓄積・生産性低下
労働政策研究・研修機構「労働時間や働き方のニーズに関する調査」によると、仕事の時間について「あと少し減らしたい」「もっと減らしたい」と考える人が 36.2%存在しています。
長時間労働が続くと「なぜ自分だけ、毎日遅くまで仕事をしなければならないのか?」という不満を抱えたり、周りで早く退勤する人を見かけるとイライラしたりと、段々ストレスが蓄積していきます。
長く働いている分、仕事が前に進みそうなものですが、毎日の休息時間が削られているために肉体的・精神的疲労が抜けず、生産性の低下に繋がる可能性も高いです。
ストレスはさまざまな疾病の原因となり得る可能性がありますので、大きなリスクを含んでいることを改めて認識しておきましょう。
(参考)「労働時間や働き方のニーズに関する調査(労働者票)」 - 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
病気やケガ等の労災リスク増
脳や心臓疾患も、ストレスから発生する可能性や、長時間労働との関連があると言われています。
また、長時間労働の長期化は、集中力の低下も招きます。特に製造現場など危険が伴う作業に従事している場合は、大きなケガや事故を招く可能性も考えられます。
万が一発生してしまい重篤な状況に陥った場合は、事業者が刑事上・民事上・道義的な責任など全てを背負う形になります。
長時間労働は軽く考えず、重大なことと受け止めましょう。
人件費の増加
長時間労働は、残業代や水光熱費の増加などのコスト増にも繋がります。
特に残業代は、割増して支払う必要があり、通常の支払よりも多くのコストが発生します。労働者の収入が増加する分、社会保険料が労働者・事業者共に上がり、企業財政の圧迫にも繋がります。
また、生産性が高ければ時間内に終了していたはずの仕事に対して、支払をしている可能性もあります。長時間労働の把握と共に、生産性の検証も必要になってくると言えますね。
人材獲得・人材定着の難化
長時間労働といえば、対象者と事業者だけの問題と捉えがちかもしれません。しかし、実際には人材獲得や人材定着にも影響を及ぼしています。
ほとんどの人は、積極的に長時間労働に従事したいとは考えていません。そのため、応募する企業について情報収集する中で長時間労働の実態を把握すれば、懸念点の1つになるでしょう。
長時間労働者の周辺で勤務している従業員も、ストレスが蓄積された姿をみて、いずれ自分もこんな風になってしまうのでは..と危機感が募り、最悪の場合は退職することも考えられます。
人材獲得や定着に問題があると、ますます長時間労働の解消が難しくなってきます。負のサイクルに陥らないためにも、長時間労働の問題に取り組んでいきましょう。
長時間労働者への面接指導の流れ
ここからは、具体的に長時間労働者への面接指導の流れについて説明していきます。
大きく分けると、下記の流れとなります。
- 長時間労働者の把握・特定
- 長時間労働者への労働時間通知
- 医師による面接指導の実施
- 面接指導結果について医師から意見聴取
- 事後措置の実施
長時間労働者に対してただ面接指導を実施すればよいのではなく、事後措置を実施し、現在の環境を少しでも改善していくことがポイントとなります。
(1)長時間労働者に係る情報の産業医への提供
長時間労働の実態を把握するためには、まずは1か月の時間外労働時間・休日労働時間をそれぞれ正確に把握する必要があります。
時間外労働時間・休日労働時間の算定は、毎月1回以上、決められた日に実施すべきとされています。
具体的な計算方法は、以下の通りです。
- <1か月の時間外・休日労働時間数=1か月の総労働時間数 - (計算期間1ヶ月間の総暦日数/7)×40>
(引用元)長時間労働者への医師による面接指導制度について - 厚生労働省
もし、時間外労働時間と休日労働時間を合算した時間が80時間を超えた労働者が発生した場合、当該労働者の作業環境・労働時間・深夜業の回数などの情報を産業医に提供しなければなりません。
(2)労働時間に関する情報の通知
事業者は、1か月あたりの時間外・休日労働が月80 時間を超えた労働者に対し、速やかに労働時間に関する情報を通知しなければなりません。書面・電子メール・給与明細への記載など、通知方法については問いません。
その際、面接指導の申出を推奨する意味で、面接指導の実施日時や場所も案内することが事業者に求められています。
1か月あたりの時間外・休日労働が月80 時間を超えない労働者についても、労働時間に関する情報の開示を求められた場合は、 開示することが望ましいとされています。
毎月の給与計算時には残業時間を集計されていると思いますが、月の途中にも集計しておくなど、常日頃から労働時間の把握に努めておきましょう。
(3)産業医による申出の推奨
事業場から長時間労働に関する情報の提供を受けた産業医は、健康障害(メンタルヘルス不調、脳や心臓疾患など)の発生リスクがあると判断した者に対して、面接指導の申出を推奨することができます。
推奨方法としては、産業医が封書やメールで、長時間労働者に直接推奨することが望ましいとされています。
一方で対象者は、周りの労働者の目を気にしたり、面接することで何か不利益があるのではといった不安を抱えている可能性もあります。
産業医と連携して、面接を申出しやすい推奨内容となっているか確認をしておきましょう。
(4)労働者の申出
労働者から面接指導の申出があった場合は、申出から1か月以内に遅滞なく実施することが求められています。申出方法に関しては、書面や電子メールなど記録に残る方法で行うことが推奨されています。
事業者は、面接の申出や指導があったことを周囲の労働者に知られないようにするなど、長時間労働者が申出しやすい環境を整えることが大切です。
せっかく長時間労働をなくすために経営者が力を入れ始めたとしても、労働者本人の申出がないと事態改善には繋がりません。
<産業保健師からの一言>
労働者にとって気になることは大きく3つです。
- どんな人が対応するのか
- 面談はどんな内容なのか
- 時間の融通が利くか
面接の申出のハードルを下げるために、企業側でできることとして、下記3つをおすすめしたいです。
(1)案内時に産業医の簡単なプロフィールを記載する
(2)面談時間は柔軟に対応する
(3)(もし対応できる場合)日ごろのちょっとした健康に関する悩みも相談できる旨を伝える
又、「面接を受けることによって、配置換えや昇進に関わるような不利益があるのではないか?」「自分の悩みが社内で共有されてしまうのでは?」と心配な思いを抱えている声もあります。
- 相談者のプライバシーは守られる
- 面接結果によって労働者の不利益がない
といった内容を案内に掲載したり、繰り返し周知することも有効です。
申出のハードルが下がるように、工夫されてみてください。
(5)面接指導等の実施の通知
労働者から申し出を受けた事業者は、1か月以内に産業医による面接指導を実施する必要があります。労働者に対して、実施を担当する医師の氏名・実施日時・場所が決まれば、速やかに通知しましょう。
また、実施する産業医に対しても、実施日時・場所以外に定期健康診断結果やストレスチェック結果、職場の環境や周りの労働者の労働時間等々、長時間労働解消の参考となるような情報を提供しておきましょう。
(6)面接指導の実施
面接指導を行う医師としては、事業場のことを把握している産業医が推奨されています。産業医は「長時間労働者への面接指導チェックリスト(医師用)」を活用することとされています。
面接指導では、「勤務状況・疲労の蓄積状況等の把握」「メンタルヘルスの現況確認」を中心にヒアリングします。その中で、医学的な見地から本人が気づかない異変を指摘したり、把握内容に基づく適切な措置の提案を行うことが求められています。
なお、長時間労働者が産業医による面接指導を望まず、外部での面接指導を希望するケースも想定されます。その場合は、なぜ外部を希望するかもヒアリングし、課題があれば改善していくことが求められます。
(7)面接指導結果についての医師の意見聴取
事業者は、面接指導を実施した労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴かなければならないとされています。
意見聴取の時期については、遅滞なく実施することとされていますので、速やかに意見聴取の場を設けるようにしましょう。
なお、事業者は面接指導等の記録を作成し、5年間保存しなければならないとされています。その記録については、面接指導を実施した医師からの報告をそのまま保存することで足りるとされていますので、意見聴取と共に記録の保存も確実に行なうようにしてください。
(8)事後措置の実施
事業者は、面接指導が実施された後、担当医師から意見聴取を行ないます。長時間労働者がメンタルヘルス不調を発症している場合は、直ちに精神科医などの専門医と連携する必要があるとされています。
産業医から事後措置について提案された場合は、当該労働者の意見や現状も確認しながら、具体的に「就業場所の変更」「作業の転換」「労働時間の短縮」「深夜労働の回数の削減」といった措置も実施していかなければなりません。
ただ事後措置を実施して終わりではなく、当該労働者に改善の兆しがみられた場合は元に戻したり、改善の傾向が見られなければ、さらに追加の措置を取っていくなど、長時間労働による影響が解決されるまで適切な措置を取り続けることが大切だといえます。
長時間労働者への面接指導時の注意点
これまで、長時間労働者への面接指導の流れをご説明してきました。
ストレスチェックと同様、機微な個人情報が含まれる可能性が高い内容となります。
「面接指導の実施者の守秘義務」「面接指導に関する不利益取扱いの禁止」といった部分については、長時間労働者だけでなく、全従業員に対して明確に周知しておかなければなりません。
この点が浸透していないと、せっかく面接指導に参加したくても躊躇する労働者も出てくる可能性があるためです。
面接指導の実施者の守秘義務
面接指導の実施者である産業医や医師、面接指導の実施の事務に従事した労働者には、守秘義務が課せられます。面接指導の結果記録を保管する使用者に対しても、機微な個人情報が含まれることから厳重な管理が求められています。
面接指導の結果については、個人から開示請求があった場合は、開示する必要があるとされています。
しかし、他の労働者に漏洩するなど、守秘義務に反するようなことになれば、当事者の退職や民事訴訟を起こされる可能性もあります。衛生委員会等で体制を討議する機会があれば、情報の取り扱いについても十分に議論していきましょう。
面接指導に関する不利益取扱いの禁止
面接指導は、長時間労働が常態化している労働者の環境改善を目的として実施されるものです。そのため、面接指導の結果によって、労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないと定められています。
例えば、面接指導の中で、会社の労働管理への批判が行なわれたからといって、退職勧奨を行う・解雇する・不当な配置転換や職位の変更をするといったことは固く禁じられています。
医師から意見を聴取した措置についても、労働者の実情を無視して措置を講じた場合、不利益変更と捉えられる可能性もあります。本人の意向も確認しながら、慎重に進めるようにしましょう。
まとめ
今回は、長時間労働者への面接指導・実施の流れ・注意点を解説してきました。
長時間労働は決して軽く考えられるものではなく、労働者の健康や安全、そして経営コストにも関わる大事な内容だと理解頂けたのではないでしょうか。
面接指導を実施し、必要な措置を講じるというのは簡単なことではないと思います。しかし、企業全体のリスク軽減に繋がる重要な内容ですので、経営層も巻き込みながら進めてみてください。
【この記事を監修した人】
広瀬 莉冴(ひろせ りさ)
病棟看護師 / 産業保健師として約7年間勤務した後、全国に医療施設型ホスピスを展開するA社の採用広報担当に転身。入社翌年より責任者として部署を牽引し、年間600名以上の看護師・介護士の採用に携わる。採用活動を通して同社の株式上場にも貢献した。現在はRecovery International株式会社にて採用チームの立ち上げに従事。
【保有資格】看護師 / 保健師 / キャリアコンサルタント / MBA(経営学修士)