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サイバーエージェントに学ぶ「強い組織の3つの共通項」とは?

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“中小企業が目指す 攻めの人材戦略” をテーマに開催されたカンファレンス「SmartHR Agenda #5」。さまざまなゲストをお招きし、「人材戦略」「採用」「評価」「定着」「育成」「組織づくり」についてのセッションを開催しました。
「サイバーエージェントから学ぶ事業成長を支え続けた組織づくり」と題した講演では、組織拡大に伴うさまざまな課題を同社がいかに乗り越えてきたのかお話いただきました。攻めの人材戦略や働き続けたい組織づくりなど、中小企業の成長につながるヒントが共有されました。登壇したのは、株式会社サイバーエージェントの曽山 哲人さんです。

登壇者曽山 哲人 氏

株式会社サイバーエージェント 常務執行役員 CHO

上智大学文学部英文学科卒。高校時代はダンス甲子園で全国3位。1998年に株式会社伊勢丹に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事。1999年に当時社員数20名程度だった株式会社サイバーエージェントに入社。インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。現在は常務執行役員CHOとして人事全般を統括。ビジネス系YouTuber「人事部長ソヤマン」としてSNSで情報発信しているほか、「若手育成の教科書」「クリエイティブ人事」「強みを活かす」などの著作。プロダンスDリーグの「サイバーエージェントレジット」のオーナーも務める。

30%の退職率が7%に改善、きっかけは「役員合宿」

私はサイバーエージェントの設立から1年後、当時社員数20名程度だった頃に入社し、営業部門を経て現在は人事責任者を務めています。今日は、事業成長を支える組織づくりに必要な3つの柱を、サイバーエージェントの事例も交えながらご紹介します。

事業成長を支える組織づくりに必要な3つの柱を表示したスライド

まずは、成果を出す強い組織の共通項についてです。私が入社した頃、サイバーエージェントの従業員数は毎年50名、200名と急速に増えていき、組織は混乱を極めていました。とくに2000年の上場後に大量に幹部を中途採用したところ、社員の関係が希薄になり、退職率が3年連続で30%を超えてしまいました。もちろん良好な関係を築いている社員もいましたが、 なかなか溶け込めずに辞めてしまう社員がいたことも事実でした。

こうした状況に社長の藤田も問題意識をもち、役員が一枚岩になろうと初めて役員合宿を開催したんです。2003年、設立から5年後のことです。2日をかけて役員同士が顔を合わせて議論を重ねたところ、これまでの関係性が嘘のように役員同士のつながりが強化されたんです。

こうした背景には、合宿で議論した内容にポイントがありました。それまでも毎週のように役員は経営会議で顔を合わせていましたが、議論していたのは業績や指標といった数字だけだったんです。一方役員合宿では、会社のビジョンやバリュー、そこに付随する人事制度といった中長期の目標について議論しました。これが組織において極めて重要なポイントで、中長期の目標が一致していれば、たとえ関係が希薄でも建設的な議論ができます。その結果、30%だった退職率は今では7.4%にまで改善し、約90%の社員が「働きがいを感じる」と言ってくれる組織になりました。

2003年に役員合宿が開催されてことを示すスライド

強い組織には明確な軸がある

組織の成長フェーズを経験したことも踏まえて、強い組織の共通項は「軸の明文化」「横のつながり」「個人への光」の3つあると考えています。これら3つの項目すべてで満点を取る必要はなく、3つのうちのどこに課題があるのかを分析・改善することが重要です。

セッションの曽山さん様子を収めた写真

「軸の明文化」:ビジョン・組織目標の浸透

「軸の明文化」は、ビジョンや組織の目標が明確で社員に浸透している状態です。サイバーエージェントは、「21世紀を代表する会社を創る」のビジョンをはじめ、「若手の台頭を喜ぶ組織で、年功序列は禁止」「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを」といったミッションステートメント(価値観)など、会社が大切にしたい軸を明文化しています。

さらに採用では、「能力の高さより一緒に働きたい人を集める」と宣言しています。事業モデルを頻繁に変えるサイバーエージェントでは、ビジョンに共感して一緒に戦ってくれる人であることが何よりも重要だからです。自社のビジョンやビジネスモデルに合わせた一貫性のある軸を考えて、それを明文化していくことが組織づくりには大切です。

明文化した軸がどの程度浸透しているかを確かめるには、「1年目チェック」が有効です。これは、入社して1年目の社員に会社の風土について聞くものです。入社間もない社員を選ぶのは、社歴が浅いほうが客観的に会社を見られる可能性が高いからです。「サイバーエージェントに入ってみて、どんな感じ?」と聞いてみて、明文化した軸に近い答えが返ってきたら、それはある程度軸が浸透していると言えるでしょう。

「横のつながり」:情報・ナレッジを共有できる関係性

「横のつながり」は、社員同士、役員同士、社員と役員間の関係性の質が高いことです。必ずしも仲が良くなくても構いません。こまめに情報を共有し、ナレッジを横展開していける関係性が大切です。関係性の質が低いと、不正も生まれやすくなります。 関係性の質が高ければ高いほどお互いを裏切りたくない、お互いのためにがんばりたい気持ちが生まれ、業績の向上につながります。

マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱する「組織の成功循環モデル(グッドサイクル)」には、強い組織では「関係の質」から好循環が起きているという考え方があります。お互いを尊重し合い、一緒に考えることでメンバーの「思考の質」が上がります。上質な思考によって自発的な行動が増えれば、「行動の質」も向上します。その結果「結果の質」も向上して成果が得られ、また信頼関係が強くなるサイクルが回っていきます。

組織の成功循環モデル(グッドサイクル)のサイクルを示したスライド

サイバーエージェントでも、関係性の質への投資を積極的に行っています。保有するサッカーチームの試合観戦などのイベントのほか、さまざまな部活動にも力を入れています。また、現場の声を聞き、経営のメッセージを伝えることを目的に、役員が社員と食事に行く機会も積極的に設けています。

「個人への光」:周りの人が自分を認めてくれている実感

「個人への光」は、一人ひとりのやりがいにしっかり光が当たっているかどうかです。認めること、褒めることも大事ですが、その前に「よくがんばってくれたね」という労いの言葉を惜しまないでください。 こうした声かけが、社員にとって会社にいる意味になるからです。周りの人が自分のがんばりを見て、認めてくれていると実感できるか、これが非常に重要なポイントです。

サイバーエージェントでは、毎月すべての部署で表彰式を行なっています。部門のメンバー全員に「今月は誰が活躍したか」を投票してもらい、投票結果をもとに表彰するんです。さらに全社員を対象にした表彰もあり、受賞者には社長の藤田が直接トロフィーを渡しています。表彰というのは中途半端にやると照れが入ることもあるので、意図的に盛大に開催しています。

全社表彰の様子を収めた写真

変わることを恐れない企業風土をつくる

事業成長を支える組織づくりの2つ目の柱について、企業変革を成功させるポイントをご紹介します。企業変革とひと口に言っても、生成AIなどの先端技術を活用したリスキリングもあれば、事業モデルをまったく新しいものに変えるなどのケースもあります。私たちもさまざまな企業変革を試みましたが、2000年頃は失敗続きでした。M&Aで事業を買収してもすべて失敗して撤退、自分たちで事業をつくっても黒字にできずに失敗というありさまでした。

今ではサイバーエージェントには100社ほどのグループ会社があり、それぞれ新規事業はゼロから立ち上げ、M&Aもほとんどせず売上の大部分を内部育成でつくり上げています。これまでの試行錯誤のなかで、企業変革を成功させるポイントは大きく3つあると感じています。

1つ目は「変化の習慣」です。私たちのように役員合宿を実施するのも変化の習慣ですし、 部署異動や座席の変更が頻繁にあることも該当します。小さな変化が普段から頻繁にあると、社員は変化に慣れていきます。その点、普段から変化がない会社の場合、いざ変化させようというときの反発がものすごく強いんです。変化に強い会社をつくりたければ、普段から小さな変化を繰り返しておくこと。これが鉄則です。

2つ目は「経営の率先垂範」です。社員に変化を求める以上は、社長や役員がその模範にならなければなりません。経営陣が率先して「自分たちもやるから、ぜひみんなもよろしくね」と働きかけることが重要です。

サイバーエージェントでは「あした会議」と呼ばれる会議を年に1回実施しています。これは役員と社員が同じ場所に集まり、会社の未来を議論するものです。特徴は、各役員が経営の決議案を持ち寄り競い合う点です。社員だけがプランを出すのではありません。順位が社内外で公表されるため、みんな良いアイデアを出そうとがんばります。最後にはブラッシュアップタイムという時間があり、社長の藤田が全チームのテーブルを回ってコメントや議論を行ないます。これが「ミニ経営会議」になり、よい案に近づいていくというわけです。こうして毎年30案ほどの提案があり、多いときで8社ほどの会社が立ち上がることもあります。

あした会議の様子を収めた写真

3つ目は「敗者復活の事例」です。チャレンジに失敗した敗者が復活した事例が多くあるかどうかが大切です。 失敗した人をしっかりと労って、次のチャレンジを応援する。こうした事例が1人、また1人と増えてくると、社員も「失敗しても大丈夫なんだ」と信じてくれるようになります。

また、人材育成において社員の声を聞くことも非常に重要です。 サイバーエージェントでは毎月、全社員にアンケートを取っています。アンケートの結果、コンディションが悪い社員を人事担当者や役員がフォローしたりして、一人ひとりに寄り添うことを目指しています。コンディションという主観的・定性的な情報を定量化する点が大切です。こうした工夫によって突然の退職をなくし、一人ひとりが力を発揮できる環境をつくっています。

優れたリーダーの条件は「高い専門知識」とは限らない

3つ目の柱は、リーダーをどのように育てていくかです。幹部登用でも中途採用でも、活躍するリーダーを見極めるポイントとして、ロイヤリティ(貢献意欲)、ラーナビリティ(学習能力)、エキスパティーズ(専門能力)の3つの要素があります。

中小企業のリーダー採用で起きやすいミスは、エキスパティーズに依存した採用をしてしまうことです。ロイヤリティとラーナビリティが低く、エキスパティーズだけが高い人を採用してしまうと、独善的で組織への貢献意欲が薄いリーダーになってしまう恐れがあります。リーダー採用で重視するのは、エキスパティーズよりもロイヤリティとラーナビリティです。この2要素を備えた人は社長や人事担当者とのコミュニケーションが活発で、専門知識がなくても将来的に活躍してくれる可能性が高いからです。

変化の激しい今、企業は同じ事業を続けるだけでは生き残りが難しくなってきています。人手不足のなか、人材の定着や退職率の改善に悩む人事担当者さまも多いでしょう。私たちにできるのは、従業員が安心してチャレンジできる環境を整えることです。人事制度の設計や組織づくりにも、これまでにないものに挑戦する勇気が必要です。サイバーエージェントの取り組みを参考に、ぜひ自社に合わせた改革を進めていただきたいと思います。

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