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「リスキリング」が強い組織をつくる5つの理由。導入ステップも紹介

公開日

この記事でわかること

  • リスキリングの定義と必要性
  • 企業でのリスキリングの取り組み状況
  • リスキリング制度導入で得られるメリット
  • リスキリング制度導入ステップ
目次

こんにちは。社会保険労務士法人名南経営の大津です。

2023年6月16日に閣議決定された「骨太の方針2023」のなかでは、

  1. リスキリングによる能力向上支援
  2. 個々の企業の実態に応じた職務給の導入
  3. 成長分野への労働移動の円滑化

という「三位一体の労働市場改革」を断行し、客観性、透明性、公平性が確保される雇用システムへの転換を図るという内容が盛り込まれました。

このように注目を浴びるリスキリングですが、実際には「時間がない」「何をしたらよいかわからない」という意見も少なくありません。

そこで今回は、今後重要性を増すリスキリングの状況をお伝えするとともに、企業がリスキリングの取り組みを推進する際のポイントについて解説します。

(参考)経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太の方針2023) - 内閣府

リスキリングとは

現在、第4次産業革命の最中にあり、さらには第5次産業革命のコンセプトが議論されるという大変革の時代を迎えています。

産業革命は以下のとおりに進展してきました。

  • 第1次産業革命:18世紀末以降の水力や蒸気機関を用いた工場の機械化
  • 第2次産業革命:20世紀初頭の電気エネルギーを用いた分業体制による大量生産の導入
  • 第3次産業革命:1970年代初頭からの産業用ロボット導入などによる生産のオートメーション化

そして第4次産業革命は、IoTやAI、バイオテクノロジーなどのさまざまな分野での技術革新による産業の在り方の変革であるとされており、あらゆる産業において業務やサービスの形が大きく変化してきています。

企業で働く従業員としては、その環境変化に適応すべく、これまでとは異なる職務や新たな分野で必要とされるスキルを身に付ける必要が高まっています。また企業としては、従業員に新たなスキルを身に付けさせなければなりません。これがリスキリングです。

リスキリングの必要性

最近、生成AIがビジネスなどに与える影響について、盛んに議論されています。企業を取り巻く環境変化のスピードは増す一方であり、経済産業省が令和4年に発表した企業調査の結果を見ても、すでにスキルギャップが顕在化しているという回答が43%にもなっています。

このギャップを埋めるために必要な取り組みがリスキリングなのです。

(出典)未来人材ビジョン - 経済産業省(p.38)

リスキリングの現状

このように関心が高まるリスキリングですが、その現状はどのようになっているのでしょうか。ここでは、Adecco Group Japanが2022年に個人を対象に実施した「リスキリングに関する調査」から、実施状況や課題について見ていきましょう。

(出典)リスキリングに関する調査 - Adecco Group Japan

この結果からは、大半の方がリスキリングの必要性を感じており、実際に約半数の従業員がリスキリングに取り組んでいることがわかります。

一方で残る半数の方は、リスキリングに取り組んでおらず、その理由として「時間や金銭的な余裕がない」ことが上位に挙がっています。

企業の取り組み状況

これに対して、企業のリスキリングの取り組み状況はどのようになっているのでしょうか。帝国データバンクが2022年に発表した「リスキリングに関する企業の意識調査」によれば、企業の48.1%がなんらかのリスキリングに取り組んでいると回答しています。

(出典)リスキリングに関する企業の意識調査 - 帝国データバンク

ここで興味深いのが、「DXに取り組んでいない企業」で「リスキリングに取り組んでいる」という回答が32.2%に留まっているのに対し、「DXに取り組んでいる企業」では81.8%と、大きな差が出ていることです。ここからは、デジタル化への対応のなかで、リスキリングが重要であるとわかります。

その他の傾向としては、企業規模が大きくなるにつれて取り組み割合が上昇しています。長期的スパンでビジネスモデルや人材育成を検討できる大企業を中心に、リスキリングの動きが強いといえるのではないでしょうか。

企業におけるリスキリングの必要性

企業を取り巻く環境が大きく変化するなか、リスキリングは、企業と労働者の双方にとって重要な取り組みとなっています。なかでも企業が従業員のリスキリングを進めなければならない必要性は、以下のとおりです。

(1)人材不足への対応

近年では、多くの企業で深刻な人材不足が続いています。ここには労働力人口の減少という我が国の構造的な問題があります。しかしそれだけではなく、能力のミスマッチによる人材不足という要素が、かなり大きいと理解する必要があります。とくに最近は、社内のDXを進める際に、DX化を牽引するような人材が決定的に不足しています。

人材を確保するためには、基本的には「外部から調達するか」、「既存の人材を育成するか」しかありません。新規採用など外部からの調達が難しいなか、既存人材のリスキリングを進めることによって、ミスマッチを解消して、必要な人材の調達が求められます。

(2)生産性の向上

表計算ソフトが登場する以前は、さまざまなデータを集計する際に、電卓を叩いていた時代がありました。いまでは誰もがスプレッドシートを活用する時代になり、生産性は大幅に向上しています。当時は新しいツールの習得も、ある意味でリスキリングだった訳ですが、デジタル化の進展によりさまざまなツールが登場してきています。

それらを学び、活用することで大幅な生産性向上を実現できるようになっています。また、ビッグデータ、IoTなどによって、農業などデジタル化とは少し距離があった業種でも、デジタルツールを活用した業務の革新、生産性向上が期待できる時代となっています。

(3)新分野への展開

リスキリングの議論で、もっとも重要なポイントが「新分野への展開」でしょう。

「AIによって多くの仕事が消える」という話は以前からよく聞かれます。これは労働者個人のキャリアの問題だけでなく、企業においては、「現在展開している事業自体がなくなる」もしくは「大きく形が変わる」ことを想定しなければなりません。

このような劇的な環境変化への企業の対応で有名なのは、富士フィルムの事例でしょう。

同社はデジタル化のなかで、コア事業である写真フィルムの需要激減という環境変化を迎え、ヘルスケア分野などへ大胆に事業を転換して勝ち残りました。

このように新分野へ展開するためには、リスキリングの効果的な実施が不可欠です。

リスキリング制度導入のステップ

今後、企業としてリスキリングを進める際には、以下のようなステップを踏むことが求められます。

ステップ(1):ビジョンの明確化

いま求められるリスキリングは、既存業務を効率的に遂行する目的ではなく、今後の企業を取り巻く環境変化に対応すべく、求められるスキルの習得がポイントとなります。そのため従業員には、今後予測される環境の変化をわかりやすく伝えたうえで、自社がどのように事業を展開していくのかというビジョンを明確にすることが重要です。

この部分が不明確なままリスキリングの取り組みを求めることは、「意味もわからないまま慣れないことをさせられる」という印象を与えることになり、取り組みとしては失敗に終わる危険性も生まれます。

ステップ(2):必要スキルの明確化

そのうえで、今後の環境において求められるスキルを明確にすることが必要です。

最初から高いレベルのスキルを求めることは、従業員に大きな不安やストレスを与えることになります。このステップでは、ステップバイステップで求められるスキルを書き出していくとよいでしょう。

ステップ(3):教育プログラム策定

3つ目のステップとして、必要なスキルを身に付けるための教育プログラムを策定します。リスキリングで取り組むべきテーマは、スキルやノウハウが自社内に存在しないことが少なくありません。

よって社外の講座なども組み合わせて効果的な教育プログラムを構築していきましょう。

ステップ(4):学習環境の整備

先ほど見たAdecco Group Japanの従業員を対象にしたアンケートでは、リスキリングが必要だと思うが現在は取り組んでいない理由の第一位は「時間的な余裕がない」でした。

(出典)リスキリングに関する調査 - Adecco Group Japan

リスキリングは働きながら取り組む必要があるものなので、取り組みの時間を確保するなどの環境整備が必要です。

ステップ(5):スキル活用機会の提供

そして最後に重要なのが、リスキリングにより身に付けたスキル活用機会の用意です。

努力して身に付けたスキルを活用する場がなければ、従業員の不満は大きくなります。場合によっては、転職のきっかけになってしまうかも知れません。

この解決策としては、リスキリングの取り組みと並行して、先のビジョンにもとづいた新たなビジネス分野の開拓が求められます。

リスキリング制度導入で強い組織づくりを

経済産業省の未来人材会議では、今後のDX・GX化を見据えて、求められる能力需要の変化を試算しました。その結果が以下の「56の能力等に対する需要」です。

これを見ると、現在は「注意深さ・ミスがないこと」、「責任感・まじめさ」が重視される一方で、将来は「問題発見力」、「的確な予測」、「革新性」が最重要になるとしています。

(出典)未来人材ビジョン - 経済産業省(p.20)

過去の産業革命は、基本的には「製造現場における生産性の向上」が中心テーマでした。しかし、現在進行している第4次産業革命は、文字どおり「社会の在り方そのものが変わる大変革の時代」となっています。

企業・労働者ともに、大きな環境変化への適応が不可欠であり、そこで重要になるのがリスキリングです。

今後、企業を取り巻く環境の大幅な変化は確実な情勢です。「変化に高い意識を向け、自社のビジョンを明確にしたうえで、備えるためのリスキリングを推進する」ことは、これからの企業の勝ち残り、その前提である「安定した従業員の確保・組織力の強化」に不可欠な重要テーマとなるでしょう。

  1. Q1. リスキリングとは?

    企業で働く従業員としては、その環境変化に適応すべく、これまでとは異なる職務や新たな分野で必要とされるスキルを身に付ける必要が高まっています。また企業としては、従業員に新たなスキルを身に付けさせなければなりません。これがリスキリングです。

  2. Q2. 企業におけるリスキリングはなぜ必要なのでしょうか?

    「人材不足への対応」「生産性の向上」「新分野への展開」など、今後企業が成長を継続するために必要であるためです。

  3. Q3. リスキリング制度の導入はどのように進めるべき?

    今後、企業としてリスキリングを進める際には、以下のようなステップを踏むことが求められます。

    1. ビジョンの明確化
    2. 必要スキルの明確化
    3. 教育プログラム策定
    4. 学習環境の整備
    5. スキル活用機会の提供

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