「2025年までに5人の社長を輩出する」ローカルベンチャー 温泉道場の人材育成に迫る
- 公開日
目次
「いかに魅力的な人材を育成するか」は、企業にとって永遠のテーマ。
そんな人材育成を「2025年までに5人の社長を輩出する」という経営ビジョンのもと、戦略的に実践しているローカルベンチャーがあります。
埼玉県に拠点を置く株式会社温泉道場は、「おふろcafé」や「昭和レトロな温泉銭湯 玉川温泉」などの温浴施設の運営や経営コンサルティング、メディア制作、はてにはプロ野球独立リーグ球団の運営まで、幅広く地域に根ざした事業を展開しています。
わずか9年で創業時と比較して売上は8倍、2019年に100名以上が入社するなど、温浴施設業界では異例の成長率をほこる同社。
今回SmartHR Mag.では、温泉道場の成長の裏側にある「人を育てるための仕組み」について、代表取締役社長 山﨑寿樹さん、戦略人事室 齊藤綾子さん、佐々木圭子さんにインタビューしてきました。
はたして、経営者レベルの人材を輩出するための取り組みとはどういったものなのでしょうか。採用から労務まで、幅広い人事領域のお話をお届けします。
※本稿は2020年2月に取材したものです。
温泉道場はなぜ「経営者輩出」を掲げるのか
はじめに、経営ビジョン「2025年までに5人の社長を輩出する」を掲げた理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?
山﨑さん
もともと起業前から、地方、ひいては日本全体を盛り上げたいと思っていました。そして、そのためには、いろんな人を巻き込んで地域を盛り上げるリーダーの育成が不可欠だなと。
100人の経営者を輩出するのは難しいかもしれないけど、「2025年までに5人」であれば、リアリティがあって、「私がその中の1人になりたい!」と 社員がアツい想いを持ってくれるのではないかと考えてこの目標人数に設定しました。
なるほど。「人材育成」ではなく「リーダーの育成」という具体性にこだわりを感じます。
山﨑さん
そうですね。いま地方には、新しい仕事をつくるリーダーが必要だと思っています。都心部であれば、20代でもビジネスをしている人はたくさんいますが、地方だと30代であってもかなり若い方だと言われます。
地方にはなかなか仕事がないため、どうしても公務員や銀行などのキャリアを目指す人が多いです。もちろんそれが悪いわけではありませが、経営者を輩出することで地域の強みを活かした魅力的な仕事を創出し、働き方の選択肢を増やすことで、より地方を盛り上げていけたらと考えています。
具体的にはどのような業態での経営者を増やしたいと考えられているのですか?
特に業態にはこだわっていませんね。お風呂関連でもいいですし、ワイナリーやキャンプ場など、地域を盛り上げる仕事であれば基本的になんでもいいと思っています。起業するエリアについても、必ずしも温泉道場の本拠地がある埼玉である必要はありません。
経営者を輩出するためにも、採用の時点で、「やりたいことがあるかどうか」をひとつの観点としてチェックしています。2020年度の新卒生は10名いるのですが、それぞれが起業であったり、将来的に何かやりたい! という意志を示しているメンバーです。
こういった、一見「変わり者」とも言えるような仲間を採用するべく、自社ブログを通じた情報発信には全社で力を入れていますね。経営から新卒社員まで、あらゆるメンバーがライターとして高頻度で記事を執筆しています。
「実践」で人を育てる温泉道場の取り組み
採用の時点で経営に関心のある人材を集めているのですね。しかし、経営者を輩出するとなると、入社時のポテンシャルはもちろん、入社後の成長が鍵になると思うのですが、具体的にどのような方法で育成されているのでしょうか?
佐々木さん
人材育成領域を担当しているのが、齊藤や私が所属する戦略人事室です。制度自体は相当な数あるのですが、その中でも代表的なものをご紹介しますね。
よろしくお願いします!
(1)社内ビジネスプランコンテスト「夢会議」
佐々木さん
夢会議は、いわゆる社内ビジコンのようなものですね。「部活を立ち上げたい! 」といったカジュアルなものから、「こういった事業をこういった規模感でやりたい。物件はここで費用はこれくらい欲しい! 」といった本気の事業計画まで、社員が役員や社外投資家に向けてプレゼンします。
社外投資家まで参加されるとは、本気具合が伝わりますね! 実際に採用されて動き出した事業はあるのでしょうか?
佐々木さん
はい。現在2つの事業が承認されて、立ち上げ準備中です。1つはクラフトビール関連の事業、そしてもう1つは和歌山にゲストハウスをつくる事業です。夢会議は、もちろん、店舗勤務の社員でも参加可能な横断的なイベントです。
このように、イベントや各種プロジェクトは全社横断的に動いていて、手を挙げた人が誰でも参加できるようになっています。各プロジェクトには、 山﨑をはじめ、役員が管轄として入っているので、経営目線を学ぶことができる機会として、若手社員からポジティブな声が挙がっています。
普段は店舗で働いていても、こういった横のつながりや成長機会が用意されていることで、すごく刺激になりそうですね。
佐々木さん
そうですね。基本的に新入社員は店舗からキャリアがスタートするので、店舗内でマネジメントなど、縦のキャリアを積んでもらいながら、横軸で新しい機会を用意することは大事にしています。研修制度なんかもそうですね。
どんな研修をされているのでしょうか?
(2)充実の研修制度
齊藤さん
「温泉道場ゼミ」という、デザインや会計やファイナンス、コミュニケーションやプレゼンテーションなど幅広いビジネススキルを役員から学べる自社研修を実施しています。加えて、Apple Japanの元社長に月に1回、6ヶ月連続で研修してもらうなど、ガッツリと教育に投資していますね。
かなり豪華ですね! 参加してみたい……!
齊藤さん
また、ビジコンや座学研修だけでなく、ある意味強制的に経営目線が培えるような制度もつくろうとしています。それが「抜擢役員制度」です。
(3)抜擢役員制度
齊藤さん
まだ企画フェーズではあるのですが、子会社としてスモールビジネスをいくつか立ち上げて、あるレベルまで成長した社員に、役員を任せてみる制度を考えています。
やはり、実践に勝る経験はありません。いきなり社長を任せるのはプレッシャーがかかりすぎると思うので、社長まではいかないにしても、経営を実際に体験できる役員になってもらうことで、大きく成長してもらう目的です。
経営意欲がある人にとっては大きなチャンスですね! 最初の夢会議もそうでしたが、座学だけでなく、実際に自分が経営に携わる機会を設けているのは、経営者輩出をビジョンに置く会社としてすごく理に叶っていると感じます。
齊藤さん
ありがとうございます。そう思ってもらえるように、いつも社員の声を聞いて議論を重ねています(笑)。
人材育成に力を入れるために、バックオフィスを効率化
お話を伺っていると、経営陣がかなり社員育成にコミットされている印象を受けました。育成に力を割くためには、効率的なバックオフィスの業務体制を構築する必要があると思うのですが、何か取り組まれていることはありますか?
山﨑さん
バックオフィスの効率化が必要なのは間違いないですね。温泉道場ではSmartHRやマネーフォワードを導入するなど、ペーパーワークを減らしてバックオフィス業務の効率化をはかっています。
少し前までは、年100人以上もの入社手続きや年末調整など、ハンコと紙の業務に私自身がかなり工数を奪われている状況でした。
書類提出のためのリマインドメールをコツコツ送ったり、書類にハンコを押すためだけに出社したりと、本来教育や制度設計に使いたい時間をそちらに取られてしまっていました。
そういった課題をクラウドサービスを使うことで解決し、結果的に社員の育成という重要な仕事に打ち込めるようになりました。
経営者を輩出するのは、決して簡単なミッションではありません。
今後も、テクノロジーの力で効率化を進め、 社員それぞれの夢や、やりたいことを達成するための仕事にリソースを投下していきたいです。
山﨑さん、齊藤さん、佐々木さん、ありがとうございました!
【編集後記】温泉道場さんの人事、ここがすごい!
最後に、インタビューを終えて、温泉道場さんの人事の「ここがすごい!」と思ったポイントをまとめてみました。
こちらの内容は取材後にSmartHR Mag.編集部の大久保と宅美が温泉道場さんの運営する「昭和レトロな温泉銭湯 玉川温泉」に訪れ、露天風呂で話したことを元にしています。
- 「人材を育成するぞ! 」といった抽象的な内容ではなく、「2025年までに5人の社長を輩出する」と具体的に打ち出している点に、揺るぎない覚悟を感じる。
- 採用から教育まで、経営者を輩出するための戦略に一本筋が通っている。
- Apple Japanの元社長による研修開催など、座学研修に力を入れるだけでなく、経営を自分で体験する「実践」の場を会社として設けている。
- 人材育成企業として、労務や経理などの業務の効率化にも取り組むことで、人を育てることにパワーを注げている。
2025年にどうなっているのか、今からとても楽しみです。ぜひともまた取材させてください!