現場管理職が抱える、人事評価運用時の悩み【ミッション・ビジョン・バリューと連動した評価制度の設計と運用(後編)】


2022年5月24日、企業と個人の関係性を再構築する人材のマネジメントの実践を考えるセミナー「ミッション・ビジョン・バリューと連動した評価制度の設計と運用」を開催いたしました。このセミナーの模様を前編・後編の2回にわたってお届けします。

前編では、「そもそも評価とは何か?」「人事評価の設計において、MVV・パーパスと結びつけるために必要な考え方」について紹介しました。

後編では、「人事評価の設計において、MVV・パーパスと結びつけるメリット」「現場管理職が抱える人事評価運用時の悩み」、そして「明日から実践できること」についてお届けします。

【パネラー】

株式会社インプリメンティクス 代表取締役

金田 宏之 氏

組織人事コンサルティングファームにて大規模組織の人事制度設計や会社合併に伴う人事制度の統合、監査法人や大学法人など、さまざまな組織の人事制度設計を手掛ける。制度設計の他に、プレミアムブランドを支える人材の採用・教育研修・評価等の人事マネジメント全般の仕組みづくりにも取り組む。2014年、スタートアップ向けの組織人事コンサルティングに特化したインプリメンティクスを創業。クライアントのMission実現に向けてハンズオンで支援中。
主にスタートアップの組織人事に関するブログも執筆:https://kaneda3.com/

株式会社SmartHR カスタマーサクセスグループ マネージャー (登壇時)

稲船 祐介

大学卒業後、給与計算ソフトや院内物流システムのUI開発に従事。2012年より企業のWebマーケティングを支援するSaaSプロダクトのプロダクトマネージャーや、カスタマーサクセスチーム立ち上げを経験したのち、 2019年1月に株式会社SmartHRへ入社。MMB領域のカスタマーサクセスマネージャーとして顧客対応を経験後、SMB領域を担当するユニットのチーフとして、チーム立ち上げを担当。2020年1月よりカスタマーサクセスグループ全体のマネージャーとして組織づくりを行う。

【モデレーター】

株式会社SmartHR プロダクトマーケティングマネージャー

重松 裕三

慶應義塾大学商学部卒業後、コンシューマー向けプロダクトを開発する企業で、プロダクトマネージャーとして新規事業の立ち上げを複数手がけつつ、組織内最大チームのマネジメントを担う。2019年、SmartHRに入社し、プロダクトマーケティングマネージャーとしてクラウド人事労務ソフト「SmartHR」の機能開発に貢献。人事情報を活用し組織の力を向上させるサービスの企画開発も担当し、2020年9月に「従業員サーベイ」機能を、2021年10月に「人事評価」機能をリリース。

 

人事評価の設計において、MVV・パーパスと結びつけるメリット

重松:「人事評価の設計において、MVV・パーパスと結びつけるメリット」のテーマに移ります。ここからは、現場で評価を実際に回しているSmartHRの稲船さんにも話をうかがいます。

重松:まず、SmartHR社の7つのバリューに触れたいと思います。弊社では、このバリューに紐づく形で評価が行われています。実際に現場で評価を実施されている立場として、バリューが評価と結びついていることによって、どのようなメリットがありますか?

稲船:私はこのバリューに共感し、中途入社で2019年にSmartHRに入社しました。おそらく面接を担当してくださった先輩社員が、このバリューにマッチしているかどうかを確認してくれて、そこで一定評価をいただけてジョインができたのかなと思っています。

バリューと評価が結びついているメリットについてですが、ひとつは評価をする手前の段階から、普段でもこのバリューを使っている文化が生まれていることです。日頃の行動からきちんとバリューを体現しようという意識があるのはポイントだと思います。

例えば、私たちはSlackというコミュニケーションツールを社内で使っています。そのツールには7つのバリューを表す絵文字がすべてそろっていて、スタンプのように押せるようになっています。

誰かがバリューを発揮したときは、メンバーがスタンプを押して盛り上がったりしています。このように直接的なアクションができることで、バリューが可視化され、非常に有効に仕事に活かされていると感じます。

「どこを評価するか」が定義づけられていないと、上司や仲間の行動・考え方を参考にするしかありません。しかし、バリューがあることで「こういう行動を評価すればいい」と、そこからインストールできます。初めて評価をしたときは、特に手助けになりましたし、これは非常に大きいメリットだと考えています。

重松:金田さんから見て、こういったバリューはどうご覧になられますか?

金田さん:私はSmartHR社の従業員が9人だったときに、評価制度設計のご依頼を受けて一緒につくらせてもらいました。そのときにCEOが「評価制度をつくりたい」「こういうことを評価したい」といって、最初に6つのバリューをドキュメントで渡されました。そのことが鮮明に記憶に残っています。

自分たちの事業が成功する、つまり自分たちがきちんとサービスを届けられる状態にするには、社員の人たちにはこういう動き方をしてもらいたい、こういう動き方ができれば、自分たちは成長できるのではないか。さらには、なぜ「自律駆動」が大事なのか、なぜ「最善のプランC」を見つけるべきなのかと、一つひとつの説明を受けました。それが衝撃的で、「もう評価制度はできているじゃないか」と驚きました。

大企業で制度をつくる場合、MVVの出発点である「会社が目指すこと」から考えなければならないことがありますが、その答えが見えていなかったりします。SmartHR社は最初から「ミッション」「ビジョン」「バリュー」がそろっていたことに衝撃を受けましたし、それがうまく機能している理由ではないかと思っています。

現場管理職が抱える「人事評価」運用時の悩み

重松:次のテーマでも、稲船さんに話をうかがいます。人事評価に関して、どのような悩みがありますか?

稲船:バリューに紐づく評価について、人によって温度感が違ったり、評価の軸が違ったりします。バリューを設定していたとしても、評価のズレ、ギャップは常々あると感じており、悩みでもあります。

また、事業環境が変わることによって、バリュー自体は変わりませんが、評価する側に求められるアクションや内容自体は刻一刻と変わっていきます。私たち自身が、評価をするスキルや経験をアップデートし続けなければいけないと常々考えています。

もうひとつ、評価する側としては、報酬と紐づく部分の難しさがあると感じています。現場の評価する側としては、メンバーの皆さんに「成長してほしい」「活躍してほしい」と、人材育成の観点から評価をしていくことになります。

しかし最終的な評価結果は報酬に関わってくるので、このセンシティブな部分はやはり難しいというか、評価をする側のプレッシャーは日々感じています。

評価する側の評価とメンバーの自己評価にギャップがあり、自己評価の方が高い場合、トラブルに発展したり、これまで積み上げてきた信頼が一気に失われるのではないか、そういうプレッシャーも抱えています。評価制度でそういう悩みをサポートしていただけると非常にありがたいなと思っています。

重松:報酬は非常にセンシティブなので、ここはどう伝えるのかやはり難しいと思います。金田さんは、そういった課題についてどのように思われますか?

評価に対するギャップを埋めるためには?

金田さん:先ほどもお伝えしたように、私は評価とは振り返りであると考えていますが、評価される側は測定という気持ちで見ますので、その部分にどうしてもギャップが生じてしまいます。ですから、評価者の責任としてその人を育成して、最終的には報酬決定につなげるというのは、マネージャーの重大責務のひとつだと思っています。

評価制度が機能している会社と機能していない会社では、制度の重要度に対する認識が異なります。評価者がその重要さを認識できていない、一方メンバーは「報酬は非常に大事なものだよね」という認識だと、管理職もメンバーも悩みを抱えてしまうケースがあるかと思います。

人事評価がうまくいっていない企業における、成果が出ていないと感じる理由・課題

重松:下の図表は、SmartHR社とHR総研さんで調査をした「人事評価がうまくいっていない企業における、成果が出てないと感じる理由・課題」について聞いたアンケート結果です。

重松:1位に「評価者の育成ができていない」、2位に「評価基準が従業員に伝わっていない」がランクインしていますが、稲船さん、何か思うところはありますか。

稲船:評価の方法って、よくよく考えると教わったことがないですよね。大きな企業には研修などあると思いますが、スキルアップしていくのはなかなか難しいですし、やはり経験を積んでいくことが大事なのかなと思いました。

当社には評価する人によって差が出てきたときにカバーをする仕組みがあります。評価者同士でそれぞれの評価を見て、「なぜこの人にこの評価をつけたのか」「なぜこの行動にGoodをつけたのか」「私はこの人のこういう部分がGoodだと思うけど、なぜこのポジションにあるのか」といったことを社内で確認する会議体があります。

そこで自分の評価が甘かったのか、辛かったのかを客観的に判断でき、こうした経験を積むことで評価者としてレベルアップし、適切に評価できるようになっていく。この仕組みが、結構機能しているのかなと思っています。

重松:そうですね。甘辛調整、キャリブレーションといったりもします。そのような場で他の人がどう評価しているのかを学んだり、人事が持っている明確な判断基準について聞きながら理解度を深めていくことは、かなり有効な手段なのかなと思います。金田さん、このあたりについて何か思われるところはありますか?

金田さん:アンケート結果の「1位:評価者の育成」「2位:評価基準ができていないこと」は、両輪だと思います。評価制度は、設計がどんなによくても、運用がうまくいかないと駄目だよねということはよく語られています。

制度の設計は本当に肝です。難しいところではありますが、きちんとロジックを説明し、メンバーが納得できる制度をつくらなければいけないです。そこからの運用で、お互いの信頼関係をつくりながらきちんと制度を回していくことが大事だと思います。

重松:「基準が伝わっていない」の前に、きちんと基準が明確になっているのだろうかと、評価基準を見直した方がいいかもしれないですね。稲船さん、他にも何かありますか?

稲船:現場管理職が抱える評価時の悩みは、大きく4つあると考えています。

  • 人を評価するのは、そもそも難しい
  • 信頼関係が前提にないといけない
  • 専門知識のない領域は特に難しい
  • 評価時のストレスで、評価者の心理的な負担が高まる

「そもそも業務をやりながら、人が人を評価できるのだろうか」という悩みは、皆さん人間なので、誰しも心の中にあるだろうと思っています。

評価対象者も多くさまざまなメンバーがおり、大変だと悩んでいる管理職もいます。また評価をするためには、信頼関係が前提になくてはいけません。しかし、専門知識のない領域は、適切な評価ができているのか、特に判断が難しかったりします。

評価が負担になってしまうことによって、マネージャー自身がバリューを発揮しづらくなるようなことは望んでいないですし、そういったことを取り除いていきたいと思っています。人事の皆さんとも会話することが多く、どういうふうに評価のやり方や意義を伝えるのがいいのか、という点で力を借りています。

重松:管理職はストレスがかかってしまい、それこそ病んでしまう人も出てきたりするのかなと思うのですけれども、人事の方々にしっかりサポートしていただくことで、そういった人たちを減らすこともできます。

パフォーマンスを評価することは、従業員のためには必要なのですが、評価者に余計な負担をかけすぎないような取り組みも同時にやれるとよいのかなと思いました。金田さん、いかがでしょうか?

金田さん:評価をすることは重責ですから、負担は非常に重いと思います。評価に関しては「寛大化傾向」「ハロー効果」などの評価エラーがありますが、そういうものを気にしても正直あまり意味がないです。

評価をどうフィードバックするのかは、相手の性格なり、その人のことを全部考えたうえでやらないといけないので、本当に責任は重いと思います。評価は情報が閉じられているので、周りに相談することもできず、非常に難しいです。

ですので、「評価よろしくね」といわれるだけでは、評価者はストレスがたまってしまいます。人事としては、評価者のフォローをいかにやっていくのか、併せて考えられるといいでしょう。

例えば、コーチングの専門家を社内に取り入れようという流れもあります。

明日から実践できること

重松:最後に、金田さんから、明日からできることとして3点いただいています。お話しいただけますか。

1)ロジックスクリプト

金田さん:ひとつは、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)について、「なぜこのミッションなのか」「なぜこのビジョンなのか」「なぜこれが評価されるのか」「なぜこれが振り返りの基準なのか」、評価項目について納得感をもって説明できる状態にすること。この部分のロジックが、今どれくらいまとまっているのかは、点検のポイントです。

「評価制度はこれです」「これとこれを評価します」「結果このように報酬に反映されます」だけでは納得感が生まれにくいですし、「そもそもこの評価の基準は何なのだろう」とメンバーが疑問を抱いたまま仕事に向かってしまうので、成果につながりにくい。「なぜこの基準なのか」というロジックをきちっと文面に落とすことが重要です。

2)チームビジョン

金田さん:ビジョンやミッションは非常に大事です。ただ、これらをつくるとなったとき、経営層などの立場でなければできないと思います。

では、人事や管理職が何もやらなくていいのかというと、そういうわけではありません。「チームとしてどういうビジョンを描けているのか」「それが会社のビジョン、ミッションとどうつながっていくのか」など、組織が目指すものや果たすべき使命を考えることは、マネージャーやリーダーシップに必要な要素です。

そういうことを一つひとつやっていくのはトレーニングの観点でも大事ですし、会社の仕組みとして、マネージャーがチームビジョンやチームミッションを設定していくというのもありではないかと考えています。

3)言行一致アンケート

金田さん:最後に、バリューを評価したり、ビジョンやミッションを語ったりするうえで、評価者やマネージャーにとって一番大事なのは、「言行一致」「有言実行」です。

メンバーを評価する以上、自分自身ができていないと評価はできません。上長がやっていなければ、メンバーは納得できないので、自分がまずできているのかどうかを振り返ることは非常に大事です。

例えば、360度評価のような形でメンバーに「マネージャーが言行一致できているのか」についてアンケートをとって、振り返りの一要素として使っていくのはありかなと思います。マネージャーがメンバーによる自身の評価を見て考えることも気づきになりますし、メンバーもアンケートを答えるときに「これが大事なんだな」と気づくので、そういう要素として使ってほしいです。

重松:いきなり会社のビジョン・ミッション・バリューや評価制度を変えようというのは難しいことだと思います。

まずは「今ある評価制度をロジックで説明できるようにしていく」、「チームのビジョンをしっかり持つこと」から進めていくのは、明日からできること、自身のコントロールに及ぶ範囲なのかなと思いました。実践できていない方は、ぜひ試してみていただけるといいのかなと思います。金田さん、ありがとうございました。

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