まだ認知度2割の「健康経営」。経営者と人事が知るべき、生産性向上との関係性とは?
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こんにちは、社会保険労務士の飯田 弘和です。
2019年3月に公開された、アデコ株式会社による「健康経営」に関する認知度調査では、健康経営について「言葉も内容も知っている」と回答した人は約2割にとどまったとのことでした(*1)。「言葉は知っているが、内容はわからない」という人を含めても6割弱と、まだまだ健康経営についてご存じない方が多いようです。
今回は、経営者や人事労務担当者が知っておくべき「健康経営」について解説します。
「健康経営」とは?
健康経営とは、企業が従業員の健康管理を戦略的に実践していく経営手法を意味します。
生活習慣病予防や禁煙マラソン、予防接種、メンタルヘルス対策、ワークライフバランス推進など、その施策は多岐にわたります。
一方で、
「健康管理は従業員自ら行うべきものではないのか?」
「経費やコストばかりが膨らんでいって、経営を圧迫するのではないか?」
経営者がこのように考えるのも、もっともだと思います。
しかし、健康経営では、従業員の健康への配慮によって、経営面で大きな成果が期待できるとされます。その点、健康経営は「コスト」の増大ではなく「投資」であると考えます。
なぜ健康経営は「投資」なのか? 背景課題と理由
労働環境を改善できない場合の悪影響
現代の日本では、生産年齢人口が減少し、労働力の確保が難しい状況にあります。
そんな中、従業員の健康をおざなりにし、労働環境を改善できなければ、健康悪化はもちろん企業の生産性低下を招きかねません。慢性疲労や腰痛、うつ病などにより、出勤はできたとしても体調がすぐれなければ、パフォーマンスを発揮できないでしょう。
また、その状況が恒常的に続くようであれば、離職の可能性も高まります。離職者が相次げば他の従業員への負担がかかります。
従業員への負担増は、長時間労働や属人化、休みたくても休めないなど、いっそう働きにくい環境へと繋がりまた従業員の健康に悪影響……、といった悪循環は免れないでしょう。
それだけでなく、人材定着率の低下は、採用コストや教育コストの増大、人材確保への悪影響なども懸念されます。
従業員の健康に配慮するのはもちろん、従業員の健康と結びつく「働く環境の整備」も同時に重要となるでしょう。
健康経営が「投資」たるワケ
一方、健康経営に取り組むことで様々なメリットを享受できます。
まず、従業員が健康的に働けることでパフォーマンス向上に寄与するだけでなく、企業イメージの向上や社会的評価の獲得も期待できるでしょう。
このような側面から、結果的に「人材定着」や「人材確保」への好影響をもたらし、企業競争力の向上、ひいては生産性向上へと繋げられと考えられます。
また、長期病気休職者や病気退職者の減少、労災事故の低減などのリスクマネジメントとしても機能します。
従業員を大切にしている働きやすい会社として、従業員の帰属意識の高まりや労働意欲の向上など、従業員の意欲や能力を引き出すことにも役立ちます。
将来的な組織の活性化や企業業績向上のための「投資」として、戦略的に実践していくことが重要です。
健康経営に着手する手順
「健康経営」を始めるにあたって、何から手を付ければよいでしょう?
まずは、健康経営に取り組むことを経営トップ自らメッセージとして発信し、コミットしていくことが重要です。
経営理念の中にも、健康経営を掲げるべきでしょう。そして、その理念に基づいて組織体制を築き、必要な人材を教育・配置します。
自社の従業員の健康上の課題を把握したうえで、具体的な施策を計画・実行していきます。
健康経営が「投資」的側面をもつことからすれば、実行するだけで終わることなく、しっかりとPDCAサイクルを回していくことが重要となってきます。
定めるべき改善指標は?
そのためには、健康経営投資がどの程度、経営上の効果をもたらしたかを把握する必要があります。
そこで必要となるのが、様々な改善評価指標です。
自社が求める健康経営によって、どういった効果がもたらされたのかを定量的指標として定義し、適切な指標を選択することになります。
健康経営にまつわる指標としては、例えば「アブセンティーイズム」や「プレゼンティーイズム」などがあります。
「アブセンティーイズム」とは、病欠や病気休職の状態を示します。
「プレゼンティーイズム」とは、何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態を示します。
これらの指標は、比較的短期間において企業の健康経営の取り組みを振り返られるうえ、金銭換算が可能なことから経営的効果がわかりやすいといえます。
より詳しくは、経済産業省の公開するガイドブック(*2)などもご参考ください。
「健康経営優良法人認定制度」も効果的
生産性に直接関与する定量指標以外にも、ブランド価値や企業イメージの向上を評価するのも良いかもしれません。
たとえば、経済産業省が手がける「健康経営優良法人認定制度」により、健康経営優良法人と認定されれば、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから高い社会的評価を受けられると考えられます。
このような「認定取得」を、企業競争力を高めるためのひとつの通過点として、健康経営を進めるのも良いでしょう。
おわりに
ひとりひとりのパフォーマンスが重要になるこれからの時代。折しも、働き方改革関連法の施行で、産業医の機能強化が求められるなど、ますます健康への注目度が高まっています。
これを機に、健康経営を重要な経営戦略のひとつと位置付け、本気で健康経営に取り組んでみてはいかがでしょうか。
【参考】
*1 健康経営に対する認知度、2割にとどまる – アデコ株式会社
*2 企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~