2020年の改正法でどう変わる? 派遣労働者と同一労働・同一賃金の注意点を解説


こんにちは、特定社会保険労務士の榊 裕葵です。

大企業では来年2020年から、中小企業では2021年から「同一労働・同一賃金の原則」が適用されます。

通常の雇用形態の社員に関しては、業務内容が同じ正社員と契約社員で待遇に差を設けてはならないなど、社内での理解や、人事制度の見直しが進められていると思います。

これに対し、派遣労働者にも同一労働・同一賃金の原則は適用されるのですが、そのこと自体があまり知られていなかったり、知っていたとしても、どのような基準で適用されるのかの理解がまだ浸透していないようです。

そこで、本稿では、人事担当者が押さえておくべき、派遣労働者に関する、同一労働・同一賃金の注意点について解説します。

努力義務から「絶対的義務」へ

従来も、労働者派遣法で、派遣労働者の賃金や待遇について、同種の業務に従事する通常の労働者との均衡を確保することは、「努力義務」として定められていました。下記のとおり、「~配慮しなければならない」という表現にとどまっています。

労働者派遣法第30条の3第1項(現行法)

派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者の賃金水準との均衡を考慮しつつ、(中略)当該派遣労働者の賃金を決定するように配慮しなければならない。

これが、働き方改革法による法改正の一環で、2020年から次のように改正されます(条文の構成の関係で項番号が第2項に変更)。「~不利なものとしてはならない」と、断言をする表現に変わっていることがわかります。

労働者派遣法第30条の3第2項(法改正後)

派遣元事業主は、派遣労働者であって(中略)通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、正当な理由がなく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する当該通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならない。

「派遣先均等・均衡方式」での同一賃金の確保手順

それでは、派遣元事業主は、どのような手順で、派遣労働者に派遣先の通常の労働者との同一賃金の確保を実現すれば良いのでしょうか? ここでは、「派遣先均等・均衡方式」と呼ばれる同一賃金の確保手順について説明していきます。

(1)派遣先事業主が派遣元事業主に情報開示

まず、派遣元事業主は、「派遣先の事業所の通常の労働者」が、どのような待遇で勤務しているかが分からなければ、派遣労働者の賃金を決めることができません。

そこで、働き方改革法により改正された労働者派遣法では、派遣先事業主に対し、比較対象となる労働者の賃金等の待遇に関する情報を、派遣元事業主に提供する義務を課しています。

なお、派遣先からの情報開示が得られなかった場合にはどうなるかというと、見込や予測で適当な賃金を設定して労働者派遣を行うことは法的に許されず、情報開示を拒む派遣先には、派遣労働者を派遣してはならないことになっているため、派遣元の担当者はご注意ください。逆に、派遣元の担当者の立場の方も、法的に開示義務があることを認識し、無碍に拒否をしないようにしてください。

(2)派遣元事業主が均等な労働条件を設定

派遣元事業主は、派遣先事業主から提供された情報をもとに、均等な待遇となるように賃金などの派遣労働者の労働条件を定めます

その上で、雇入時や派遣時に、派遣先の通常の労働者と同一労働・同一賃金が確保されている旨の説明を、派遣労働者に対して明示および説明する義務も定められています。

「労使協定方式」という例外も許されている

先ほど説明した、派遣先の通常の労働者の情報から均等待遇を確保する考え方は、実務上派遣先均等・均衡方式と呼ばれ、原則となる考え方となっています。

しかし、改正労働者派遣法では「労使協定方式」という、別の方式での同一労働・同一賃金の確保をする方法も許されています

労働者派遣法第30条の4第1項(改正後)

派遣元事業主は(中略)労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その雇用する派遣労働者の待遇(中略)について、次に掲げる事項を定めたときは、前条の規定は(中略)適用しない。

上記の「次に掲げる事項」というのは、条文をそのまま引用すると長くなるので割愛させていただきますが、要するに、労使協定で、政府の定める一定の客観的な指標に基づいて派遣労働者の待遇を決めることにしたならば、全国平均と比較しての同一労働・同一賃金は実現できるはずなので、個別の派遣先から賃金データをもらって、都度均衡を図る必要は無いということです。

実務上の方向性は?

実務上は、法的には例外にあたる「労使協定方式」のほうが主流になるのではないかと筆者は予測しています。

個別の派遣先から賃金データなどを都度取り寄せるのは、派遣先にとっても派遣元にとっても手間がかかることですし、派遣先の会社としても積極的に開示したいデータでは無いでしょう。

派遣労働者本人にとっても、派遣先が変わるごとに賃金が上がったり下がったりするよりは、派遣先にかかわらず、労使協定方式で安定的に賃金が決まったほうが、収入も安定しますので、安心感につながるのではないでしょうか。

ですから、派遣元の人事担当者の方は、「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」、両方の仕組みを理解することは必要ですが、実務上は、「労使協定方式」を前提に、全国平均の賃金データ等を集めたり、労働者代表に説明をしたりするなどして、労使協定を結ぶ準備を進めることが、最優先事項になるのではないかと考えます。

(了)

 

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特定社会保険労務士 榊 裕葵

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。「社員から信頼される会社作りをサポートする」を経営理念として、顧問先の支援に当たっている。執筆活動にも力を入れており、WEBメディアへの掲載多数。
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