「雇入れ時の健康診断」の基礎知識。 法定項目や入社時の実施時期を解説!

こんにちは。 社会保険労務士法人名南経営の大津です。

季節の変わり目に新生活のスタートの準備をはじめるのは、労働者ばかりではありません。企業サイドとしても、新しい従業員を雇い入れるために、健康診断を実施されている頃でしょうか。

しかし、定期健康診断ではなく、入社時の健康診断(雇入れ時の健康診断)となると、その扱い方をきちんと把握できている方は、意外と少ないこともあります。

今回は採用時の健康診断にて、人事・労務担当者が注意するべきポイントを紹介いたします。

法令で定められる健康診断の種類

健康診断と聞くと、毎年1回行われる「定期健康診断」をイメージする方が多いのではないでしょうか。しかし、労働安全衛生法などの各種法令では、労働安全衛生規則(以下、安衛則)などで以下のようにさまざまな健康診断の実施を事業者に義務づけています。

  • 1.一般健康診断
    • 1.雇入れ時の健康診断(安衛則第43条)
    • 2.定期健康診断(安衛則第44条)
    • 3.特定業務従事者の健康診断(安衛則第45条)
    • 4.海外派遣労働者の健康診断(安衛則第45条の2)
    • 5.給食従業員の検便(安衛則第47条)
  • 2.特殊健康診断(有機則第29条など)
  • 3.じん肺健康診断(じん肺法第3条など)
  • 4.歯科医師による健康診断(安衛則第48条)

雇入れ時の健康診断の対象者は?

有害な作業に従事する労働者などに限定された内容も多くありますが、「1-1の雇入れ時の健康診断」「1-2の定期健康診断」は、原則としてすべての従業員への実施が義務づけられています。

パート・アルバイトについても、下記の1~3までのいずれかに該当し、かつ1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であるときは、健康診断を実施する必要があります。なお、4分の3未満であっても、1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者のおおむね2分の1以上であるときは、健康診断の実施が望ましいとされています。

  1. 雇用期間の定めのない者
  2. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上(注)使用される予定の者
  3. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上(注)引き続き使用されている者

(注)特定業務従事者(深夜業、有機溶剤等有害業務従事者)にあっては6か月以上

「雇入れ時健康診断」とは?

今回はこれらの健康診断のなかから、雇入れ時の健康診断のポイントについて確認していきましょう。

雇入れ時の健康診断は、労働安全衛生規則第43条において、以下のように規定され、事業者にその実施が義務づけられています。

労働安全衛生規則第43条(雇入れ時の健康診断)

事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。

(以下省略)

(引用)労働安全衛生規則 第一節の二 健康診断 第四十三条 – 中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター

しかし、実務では実施が徹底されていないケースも散見され、労働基準監督署の調査などで指摘を受ける企業も少なくないのが実態です。法令によって義務づけられている事項ですので、必ず実施するようにしましょう。

「雇入れ時健康診断」の法定検査項目

雇入れ時の健康診断の診断項目としては、安衛則第43条において以下の11項目が定められています。

  1. 既往歴及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
  8. 血中脂質検査(LDLコレステロール,HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
  9. 血糖検査
  10. 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
  11. 心電図検査

(出典)労働安全衛生規則 第一節の二 健康診断 第四十三条 – 中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター

このように見ると煩雑に思えますが、健康診断実施機関では通常、雇入れ時の健康診断のパッケージが用意されています。よって実務で困ることはないでしょう。

雇入れ時の健康診断の注意点

雇入れ時の健康診断の目的は、常時使用する労働者を雇い入れた際における適正配置、入職後の健康管理に役立てるために実施するものであって、採用選考時に実施することを義務づけたものではありません。よって、原則としてこの結果を採用時の判断材料にはできません。

一方、この健康診断実施の結果として、労務提供に支障を生じるような重大な疾患などが見つかり、現実に業務への従事が難しいと判明した場合には、採用内定取り消し(入社前)もしくは解雇(入社後)の検討が必要となり、慎重な対応が求められます。

ただし単に病気が見つかったというだけで、採用内定などを取り消せないことに注意が必要です。

雇入れ時健康診断の「実施時期」はいつまで?

よく質問を受けるのが、雇入れ時の健康診断の実施時期である「雇入れ時」とはいつになるのかという疑問です。これについては通達(昭和23年1月16日基発第83号)において「雇入れの直前又は直後」とされており、実務的にはおおむね入社前3か月以内、または入社後1か月以内に実施することが妥当であるとされています。

その理由ですが、先に紹介した安衛則第43条では、雇入れ時の健康診断は、「3か月以内に医師の健康診断を受けており、その結果を証明する書類を提出したときには省略できる」とされていることから、入社前であれば3か月以内の実施が想定されていると解釈できます。

また「いつまでに」という点について、この雇入れ時の健康診断の目的を踏まえてあえて時期を示すとすれば、入社前3か月から入社後1か月以内の実施が妥当であると考えられます。

入社後も定期健康診断は必須

今回は主に「雇入れ時の健康診断」について取り上げましたが、入社後も毎年の定期健康診断の実施が求められています。また実施後にも、労働安全衛生法(以下、安衛法)により以下のような措置の実施が必須となっています。

(1)健康診断の結果の記録

健康診断の結果は、健康診断個人票を作成し、それぞれの健康診断によって定められた期間、保存しておかなくてはなりません(安衛法第66条の3)。

(2)健康診断の結果についての医師等からの意見聴取

健康診断の結果にもとづき、健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聞かなければなりません(安衛法第66条の4)。

(3)健康診断実施後の措置

上記(2)による医師または歯科医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、作業の転換、労働時間の短縮などの適切な措置を講じなければなりません(安衛法第66条の5)。

(4)健康診断の結果の労働者への通知

健康診断結果は、労働者に通知しなければなりません(安衛法第66条の6)。

(5)健康診断の結果にもとづく保健指導

健康診断の結果、とくに健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません(安衛法第66条の7)。

(6)健康診断の結果の所轄労働基準監督署長への報告

50人以上の労働者を使用する事業者では、定期健康診断の結果を、遅滞なく、所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません(安衛法第100条)。

(出典)労働安全衛生法 第七章 健康の保持増進のための措置 第六十六条 – 中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター

(出典)労働安全衛生法 第十章 監督等 第百条 – 中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター

入社後の定期健康診断も必ず実施しましょう

健康診断は法令で実施が義務づけられているものではありますが、それだけではありません。現実には健康診断の結果により、気づいていなかった病気が見つかり、早期の治療により命が救われることもあります。

近年、健康経営というキーワードを耳にすることも多くなっていますが、社員が安全かつ健康に生活し、仕事に集中できる環境をつくるためにも、健康診断は確実に実施しておきたいものです。

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従業員と企業の双方が「この会社で良かった」と思える環境を実現する人事労務コンサルタント。企業の人事制度整備・ワークルール策定など人事労務環境整備が専門。中でも社会保険労務士としての労働関係法令の知識を活かし、労働時間制度など最適な制度設計を実施した上で、それを前提とした人事制度の設計を得意とする。また実務だけではなく、2015年度から3年間、南山大学ビジネス研究科ビジネス専攻(専門職大学院)で講師(人事評価と制度設計)を務める。講演や執筆も積極的に行っており、「中小企業の「人事評価・賃金制度」つくり方・見直し方(日本実業出版社)」など18冊の著書を持つ。
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