休業手当とは?計算方法や休業補償との違い、支払いの対応を解説
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はじめまして、社会保険労務士の山口と申します。国内最大規模の社労士グループ「SATOグループ」にて、労務相談を担当しています。
新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、4月から6月にかけて、やむなく休業を選択した会社も多くありました。
休業の際に従業員の雇用を守り、給与を補償するために企業に支給されるのが、厚生労働省の「雇用調整助成金」です。累計支給申請件数は2020年7月3日時点で36万件(※)以上にのぼり、今後もハイペースで増加すると見込まれます。
今回は、雇用調整助成金の申請の「キモ」である「休業手当」について、基本の計算方法や支払い義務の必要性、コロナ禍における対応までをお伝えしたいと思います。
文末には、雇用調整助成金について解説した動画も載せておりますので、そちらも合わせてチェックしてください。
休業手当とは
「休業手当」とは、従業員を会社の責任で休ませた場合に、義務として支払わなくてはならない手当のことです。労働基準法26条において、「労働者を『使用者の責に帰すべき事由』により休業させる場合は、使用者は平均賃金の6割以上を『休業手当』として支払う義務を負う」と定められています。
要するに、従業員を、会社の責任で休ませた場合に支払い義務が発生するのが「休業手当」です。
休業手当の支払いに関して
休業手当は労働基準法11条で定める「賃金」に該当します。すなわち、普段の給与と同じように給料日に支払わなければなりません。もちろん社会保険料も控除対象です。労務担当者の方に気を付けていただきたいのは、休業手当の支払いは月額変動(随時改定)のきっかけになることです。
本来就労していたならば受けられる予定だった報酬よりも低額な休業手当等が支払われることとなった場合は、これを固定的賃金の変動とみなし、随時改定の対象となります。反対に、休業の状況が解消されたときも、随時改定の対象となります。
よく混同される休業手当と休業補償の違い
休業手当について語る上で、気を付けたいのが「休業補償」と「休業手当」の用語の混同です。「休業補償」で検索すると、労災保険法に定める「休業補償給付」が出てきますが、これは休業手当とはまったくの別物ですので注意しましょう。
「休業手当」とは、労働基準法26条で規定。会社都合により従業員を休ませる場合、従業員の収入を保護するために会社が支給するもののこと。
一方、「休業補償給付」とは、労働者災害補償保険法14条で規定された、業務災害によって従業員が休業せざるを得ない状況になってしまった場合、労災保険から支給される給付のことです。
基本的な休業手当における平均賃金の計算方法
続いて、休業手当の計算方法について解説します。
休業手当は、休業日ごとに「1日あたり平均賃金の6割以上」を支払う必要があります。よって公休日についての支払い義務はありません。ベースとなる平均賃金の計算方法は以下のとおりです。
原則(パターンA)
休業日以前3ヶ月間の賃金総額 ÷ 3ヶ月の総歴日数
「休業日以前3ヶ月間」については、直前の賃金締切日から起算します。
例えば、末締めの会社で5月1日から休業した場合、「2月・3月・4月の賃金総額」を「90日」で割った額が平均賃金となります。
ただしこの計算方法だと、時給・日給者は額が低くなりすぎることがあるので、時給・日給者については下記パターンBの計算方法と比較し、高い方を平均賃金として採用します。
また、新入社員が入社して即休業となるパターンのように、過去の賃金支払実績がない場合は、雇用契約書などで予定されていた賃金や他の内定者に支払われた賃金額を参考にすることとされています。
時給・日給者の特例(パターンB)
休業日以前3ヶ月間の賃金総額 ÷ 3ヶ月間の労働日数 × 60%
ここで「おや?」と思う方もいるかもしれません。「休業手当は平均賃金の60%」ですが、平均賃金の算出においても「60%」という数字が出てくるのです。すなわち、休業手当を計算するときには、「60%」を2回かけることになります。
1日の一部のみ休業させる場合の計算方法
従業員を1日の一部のみ休業させる場合に必要な休業手当の額は、「平均賃金の60%から一部労働の賃金を引いた額」です。具体例を見てみましょう。
(例)時給1,000円、8時間労働予定、1日の平均賃金8,000円の従業員が、3時間のみ労働してあとは休業する場合
すでに働いた3時間分の賃金は1,000円×3時間=3,000円 また、8,000円×60%=4,800円ですから4,800円-3,000円=1,800円が休業手当の額となります。
派遣スタッフの休業手当の計算方法
派遣スタッフと雇用関係を持つのは「派遣元」です。派遣元には派遣スタッフが休業にならないよう別の派遣先を紹介する義務がありますから、休業手当支払いの義務があるのは派遣会社になります。ただし派遣先の負担がゼロかというと、必ずしもそうとは限りません。
派遣先・派遣元間で締結している派遣基本契約書等では、派遣スタッフを休業させた場合の補償を派遣先に求める条項が定められているケースもあります。受け入れ中の派遣スタッフを休業させる場合は、まずは契約内容を確認しましょう。契約の条項内に休業時の取り扱いが明記されていない場合は、民法の原則に従って判断することになります。
派遣スタッフの休業を含めて、現場の管理職の方に最低限の労務知識を身につけてもらいたいところです。管理職の方が知っておきたい労務知識については、以下の資料を参考にしてください。
社労士監修!中間管理職が知っておきたい労務知識
緊急事態宣言下での休業手当の支払い義務について
前述したとおり、休業手当は使用者の責任で休業させる場合に支払う義務があると定められています。逆に言えば、使用者の責任がない「不可抗力」と判断されれば、休業手当自体の支払い義務はありません。
コロナ禍における緊急事態宣言によって休業を選択した会社について、休業手当の支払い義務があるかないかについては、7月6日時点で、厚生労働省も明確な見解を出していません。
厚生労働省による雇用調整助成金FAQ(6月30日付)でも「『緊急事態宣言』を受けて休業する場合は、事業主は労働基準法26条に基づき休業手当を支払わなければなりませんか」という問いに対して、「個別の判断になりますので、お近くの労働基準監督署にお問い合わせください」と答えるに留めています。
すなわち、休業手当の支払いが必要か否かについては個別のケースに応じて都度判断することになります。
緊急事態宣言は7月6日現在解除されていますが、ウイルス感染拡大の第2波、第3波が訪れることは十分に考えられることであり、そうなれば緊急事態宣言が再び発令される可能性もあります。国にはその時までに明確な指針を出すことが望まれます。
新型コロナウイルス感染症の状況は常に変化しており、まだまだ安心できません。引き続き、最新の情報をキャッチアップしながら、業務に取りかかるようにしましょう。
以下の動画では、「雇用調整助成金」について詳しく解説をしておりますので、あわせて視聴してください。
※本稿に掲載されている情報は2020年7月6日時点での情報ですので、変更されている可能性があります。
お役立ち資料
【2023年版】人事・労務向け 法改正&政策&ガイドラインまるごと解説
【こんなことが分かります】
- 2023年の人事・労務関連の法改正概要
- 法改正による実務面での対策や注意点
2023年は多くの雇用関係の政策が開始し、重要な法令の改正もあります。
本資料では、人事・労務が押さえておくべき内容を「新しい働き方・働き方改革の進展」、「スタートアップ企業に対する支援策の充実」、「人的資本経営の実施」の3つのトピックに分類して紹介します。