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労務相談担当者としての初めの一歩ストレスケアの基礎知識とは?【Smart相談室】Vol.2セミナーレポート

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目次

2022年4月20日、オンラインカウンセリングサービス「Smart相談室」を提供する、株式会社Smart相談室主催のオンラインセミナー「延べ2万件以上のカウンセリング経験を持つカウンセラーに聞く『労務相談担当者としての初めの一歩 ストレスケアの基礎知識とは?』」が開催されました。

労働者が抱える「仕事」や「働く環境」に起因する悩みや不安、ストレスに対し、どのように対応すればよいか、お悩みの方もいるのではないでしょうか。

そこで、Smart相談室スーパーバイザーであり、産業カウンセラー資格の養成業務に長く携わりながら、企業でのカウンセリングも担当されている、オフィスファーロ代表、鵜飼 柔美 氏を講師として迎えたセミナーをまとめました。今回は、全7回を予定されているセミナーの第2回目の講演です。

  • セミナー講師鵜飼 柔美 氏

    オフィスファーロ 代表

  • 進行藤田 康男 氏

    株式会社Smart相談室 CEO

ストレスとは何か?そのしくみを説明

まず、「ストレスとは何か?」というしくみから解説していきます。

ストレスとのは何か?そのしくみを説明

上記の図は、私たちの心を表現したものです。柔らかいボールのようなものをイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。

私たちが普段ストレスと呼んでいる何かしらの刺激。それは、物理の用語で「ストレッサー」と呼びます。ボールに負荷が掛かる、つまりストレスが掛かったときには凹んでしまうように何らかの変化が起こります。そのストレスがなくなったとき、元の状態に戻ります。これは、「健康な状態」ということです。

ボールに空気が適切に入っていれば、それを跳ね返してもとに戻れます。しかし、かなり強いストレスを感じたり、長い期間ストレスに晒されたりすると、変形したまま戻らなくなることもあります。あるいは、空気が抜けてしまう、色が変わってしまうというイメージです。

そういったストレスの要因となる、ストレッサーにはどのようなものがあるのかをまとめてみました。

例えポジティブな出来事も「非日常」であればストレスが掛かる

人生における主なストレスの内容と強さ

これはアメリカの心理学者であるホームズ氏とレイ氏によって作成された「社会再適応評価尺度」をまとめたものです。少し欧米的な発想かもしれませんが、「配偶者との死別」をストレスの100としたときのそれぞれのストレスの尺度を表したものとなります。

ここで注目していただきたいのは、オレンジ色の文字になっている箇所です。結婚や妊娠、家族の増加など大変喜ばしいことですよね。また、家計の状態の変化における向上や昇格なども嬉しい出来事のはずです。

これらは、ポジティブな変化ですが、「非日常」であるということで何かしらのストレスが掛かることを表しています。

例えば、親戚の結婚式に参列して「おめでたいね」と思っていても、家に帰ると疲れてしまうことを想像するとわかりやすいかと思います。ストレスは、良いことも悪いことも関係なく、通常の状態ではない「非日常」であることで負荷が掛かるのです。

過去の体験などによってストレスの感じ方は人それぞれ異なる

「ストレスの感じ方」は誰しも同じわけではなく、人それぞれ異なります。

例えば、犬を見たときに「噛みつかれそうで怖い」と感じる方もいれば、「つぶらな瞳で可愛いな」と感じる方もいるかもしれません。

人それぞれの体験や、学習してきた結果によって「犬」という対象を見るときのフィルターが掛かり、事実だけでなくフィルターを通してストレスとして感じてしまうことがあります。

自分のフィルターや考え方、性格などの特性が分かっていると、コントロールしやすくなります。

労務担当者が相談者の方のフィルターや捉え方を理解するのは難しいと思いますので、セルフケアの研修などをおすすめすると良いと思います。

セルフケア研修を通して、それぞれの方がどういったフィルターや考え方、捉え方、ものの見方があって、自分自身のストレスはどういったものかを知っていただくと良いのではと思います。

近年普及したテレワークのようなオンラインでのストレスについてもお話します。

オンライン会議など時代や社会環境の変化でストレス源も変化している

例えば、オンラインの会議で画面をオフにして無機質なアイコンが並ぶ会議などもあります。無機質なアイコンが並ぶことで「相手の反応が見えない」「発言する際に不安や心細さを感じる」といったストレスを感じるかもしれません。

このように、時代や社会環境の変化の中でストレス源も変化していることを念頭に置いておきましょう。

自身でコントロールできない「ストレス反応」との向き合い方

「ストレス反応」の一例

人はストレスが掛かることでさまざまな反応が起こります。例えば、頭痛や胃痛、眠れなくなる、疲労感といった「身体的反応」と呼ばれているもの。そして、不安や緊張、怒り、落ち込み、憂鬱な気分といった「心理的反応」と呼ばれているもの。うっかりした結果、ミスが増えたり、遅刻や欠勤をしたりするといった「行動的反応」と呼ばれるものもあります。

この反応は多くの場合、自分で選べないのです。例えば私の場合ですと、胃は元気なのであまり食欲不振にはなりません。ただ、緊張すると指先が冷たくなる反応が起こります。これは選んでいるわけではなく、有機体として自身に起こる反応なのです。

ストレスと生産性

このストレス反応がすべて悪いものかというと必ずしもそうではありません。

ストレス学説の提唱者として有名な生理学者のハンス・セリエ博士は、「ストレスは人生のスパイスである」とおっしゃっています。ほどほどのストレスは良いスパイス(活力)になるという意味ですね。

ストレスが少なすぎれば、やる気の低下や倦怠感が生じます。一方で多すぎれば過労状態になるので、適度なストレスが重要と言われています

ストレス反応は自身でコントロールできないことにつながるのですが、私たちの多くは過小ストレスと適正の境目、適正と過剰ストレスの境目に気づいていないことがあります。

身体で考えれば、食べすぎたときに満腹になって「しんどい」と感じることがありますよね。

ストレスも同じく、自身の状態が過小なのか過剰なのか、適正なのかを把握する。目標を持つとか、モチベーションにつながるように、上手にストレスを活用するイメージを持つのが良いのではないでしょうか。

代表的なストレス理論「NIOSH職業性ストレスモデル」

代表的なるトレス理論

次に、ストレス理論について解説します。上記の図は、代表的なストレス理論である「NIOSH職業性ストレスモデル」と呼ばれるものです。相談を担当する労務担当の方であればぜひ覚えてください

ストレス要因には、仕事上のストレスと仕事外のストレスがあります。私たちは仕事をしていながらもプライベートでは家庭を持っていたり、趣味を持っていたり、色々な役割を同時に生きています。その役割の中でストレスというのは往々にしてあります。

仕事上のストレス要因といえば、仕事の量や質、人間関係や職場環境など。また、自分自身でコントロールできるのか、あるいは、突発的に対応しなければいけないのかなど、さまざまです。

仕事外のストレス要因は、プライベートの夫婦関係や子育ての問題、親の介護の問題などが考えられると思います。

そして、個人の要因としてフィルターや考え方、ストレスへの対処法を持っているかどうかでストレス反応にならなかったり、過剰にストレスを感じるわけです。

一方で、緩衝要因というものもありまして、職場の上司や同僚、家族や友人からの心理的・物理的なサポートがあるとストレスを軽減できます。

この図を頭の中に入れておくことで、どういったストレス反応が起きているのかがわかりやすくなります。

ストレスチェックを理論に当てはめながら理解する

職業性ストレス簡易調査票

ストレスチェックも基本的に「NIOSH職業性ストレスモデル」に基づいて考えられています。厚生労働省が出している「職業性ストレス簡易調査票」の集計項目を見ていただくとそれがわかります。

ストレスの原因と考えられる因子として、心理的な仕事の負担の量と質が挙げられています。自覚的な身体的な負担かどうか。対人関係でのストレス、職場環境によるストレスなどもあります。

「NIOSH職業性ストレスモデル」の図の「職場のストレス要因」が、ストレスとなっていないかどうかの項目になっています。

B【ストレスによっておこる心身の反応】

心身の反応としては、活気、イライラ感、疲労感、不安感、抑うつ感、身体愁訴などの反応がでているかという項目もあります。そして緩衝要因として、上司や同僚からのサポート、家族や友人からのサポートがあるかも因子になっています。

ストレスが掛かっていそうな方、メンタル不全を起こされた方を理解するときに、先ほどの「NIOSH職業性ストレスモデル」の図に当てはめながら、どんなストレスがあるのか、この方自身の考え方はどうなのか、緩衝要因として機能できているかを考えられると良いでしょう。

ストレスが起因となって生じる精神疾患について

ストレスが起因となって生じる精神疾患

ここまでは理論を中心にご紹介してきました。次に、ストレスが起因となって生じる精神疾患についてもご紹介します。

知れ渡っていることも多くありますが、心の問題が密接に関連して起こる「身体の病気」として急性胃腸炎や潰瘍、自律神経失調症、過呼吸症候群、頭痛などがあります。また、「不安」を中核とする心因性の病気として、強迫性障害、パニック障害、適応障害、PTSDなどが挙げられます。

脳の機能障害として、統合失調症やうつ病などもストレスが起因となって生じると言われています。行動障害としては、問題飲酒や問題行動、薬物依存などもあります。

冒頭のストレッサーのお話の中で、「負荷がかかり続けるとボールは凹んだままになる」というように、ストレス反応をずっと放置しておくと、こういった症状につながってしまうと考えられます。

ストレスに対してどのように対処していけば良いか

ストレスに対する対処

労務担当の方々は、ストレスに対する対処法を知っておくことが大切です。そして社員の方への情報提供や、セルフケアができるようにアドバイスしてあげてください。

ストレス要因そのものに対して、可能であれば克服できるものは克服する。情報収集したり、相手に働きかけたり、回避することも必要かと思います

考え方や物事の捉え方、認知に対する対処法としては「認知の歪み」に着目します。世の中には白か黒かハッキリするものだけでなく、グレーで曖昧なこともありますが、「白か黒かハッキリしたい」と思うとストレスが掛かってしまいます。

認知の歪みに気づくこと、別の考えを取り入れる方法があります。「曖昧なままでも良いか」「(自分にはない)そういった考え方もあるのか」と思えるような考え方ですね。

ストレス反応に対する対処法としては、気分転換や呼吸法、リラクゼーションや趣味などを持っていると良いでしょう。

また、1人で頑張ってしまい「緩衝要因としてサポートを得る対処」が難しい方も多くいらっしゃいます。そういった方には、誰にだったらSOSを出せるかを話し合ったり、カウンセリングの中で相談したりします。

それから「アサーショントレーニング」というものもあります。これは「上手に自分の主張をする」ことです。

近年では社員研修でも取り入れられている企業もあります。アサーショントレーニングによって、相手を傷つけずに爽やかな人間関係を作れるような主張の仕方を学ぶのも良いでしょう。

活力ある職場のために

活力ある職場のために

最後に今回のセミナーの内容をまとめました。

活力ある職場のために、さまざまなストレスの対処法を用意しておくと良いですよと社員の方に伝えていただけたらと思います。

日常で生じる小さなストレスには、身近でほっこりできるようなもの。心地の良いお洋服を着るとか、ちょっと大きな買い物をして発散するとかですね。あるいは遠くに旅行することがストレス発散だった方には(コロナという世情もふまえて)、近場でできる対処法を考えると良いですね。

自分のストレッサーになり得るものを理解することも大切です。ストレスになりうるものを理解できれば、事前の行動を変えることでコントロールできます

そして、自身に起こるストレス反応を理解することも大切です。「胃は痛くならないが身体の末端が冷える」などに気づくことです。こうした反応があれば、ストレスが掛かっていると自覚できるため、早期に対処できるようになります。

活力につながるよう、ストレスをうまく活用する意識を持つのも良いでしょう。自分を大切にして早めにケアする意識を持つべきことを、社員の方々にお伝えください

そして、正しい知識とネットワークを持ち、研修などを通して心の健康を保つことを意識していただきたいです。お互いがサポートしあえる職場環境を実現するために、声を掛け合ったり、気づいた人が声を掛けるようにしてみてください

言うのは簡単ですが実践は大変だと思います。ですが、上記でお伝えしたことを頭に入れておいていただけると、社員の方の相談に乗る際に役立てるのではないかと思います。

質疑応答

Q:適正ストレスに関して、社員本人がどういった状況にいるか労務担当から把握する方法はありますか?

藤田

まず、「本人がどの状況にいるか、外部から、労務担当とかが把握する方法はありますか」という質問があります。

鵜飼さん

やる気を持って業務を進めているかなど、観察してわかる部分はあります。しかし、適正ストレスの過剰寄りなのか過小寄りなのかは分かりにくいと思います。

例えば、本人がやる気に満ちてハキハキとしていたとします。徐々に過剰になり、長時間働くようになってしまうなど、ストレスの範囲がグラデーションとなり、どういった状態か計りづらいということもあります。

頑張り屋さんな気質を持っている方であれば、「まだやれます」ということもあるかと思うので、つい過剰になってしまうことには気をつけなければなりません。

むしろ、労務担当者としては「大丈夫かな」と考えながら様子をみることが必要だと思います。

Q:適正ストレスを自分で把握するにはどうすれば良いでしょうか?

藤田

これは、自分でわかるために、どうすれば良いかという質問だと思います。

鵜飼さん

カウンセリングなどを通じて、自分自身を知っていくことがとても有効だと思います。カウンセリングは、ひと言で申し上げれば「自分をわかるためのお手伝い」と私は思っています。

話を聞いてもらうことによって自分自身が「こういったときは真面目だけど、こういうときは不真面目だよな」のように色々な面を知るきっかけになります。

自身を多面的に理解できるようになれば、自分自身を区別せず、臨機応変に対応しやすくなり、「こんな自分もあるんだ」と受容でき、生きやすくなると思うのです。

自分自身のフィルターに気づき、反応の出方に気づくことが、適正ストレスを理解する中で必要かと思います。

Q:個人の要因や緩衝要因の項目について、よくあるケースを教えてください

藤田

勉強されている方からの質問だと思うのですが、「個人の要因や緩衝要因について、カウンセラーの立場からよくあるケースを教えてください」という質問です。

鵜飼さん

よくあるのは、性格傾向でいうと「べき」が強い方。考え方が柔軟でなかったりするので、「○○すべき」でないものに対して不安や怒り、不完全感が起こりやすいです。

自分自身に対しても「べき」になっていないと許せないし、他人に対しても部下に対しても「べき」が出来ていないと、怒りが湧いてしまうことがあるようです。環境の変化に対応しづらくなるため、こういった傾向があればストレスが強いかなと思います。

緩衝要因としては、私がよくお聞きするのは「家族の理解があるかどうか」です。共働きで夫婦ともに仕事をされている方も多くいらっしゃいます。

相手に気を遣って悩みを相談することができないケースがあります。少し家庭で愚痴るだけでも楽になったり、「大変だったね」と言ってもらうだけでもホッとすることがあると思うのですが、「私のほうが大変だ」と大変なことのマウント取りになってしまうと緩衝要因として機能しないと思います。

藤田

ありがとうございました。ストレスに関する理論や対処法など、詳しく参考になるお話をありがとうございます。以上でセミナーを終了いたします。

※記事で紹介した他にもたくさんの質問をいただき回答させていただきました。ご興味があればぜひ次回のセミナーにご参加ください。

▼Smart相談室について

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【執筆:宮川 典子】

離職防止につながるカウンセリングの2つのポイント

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