1. 人事・労務
  2. 労務管理

労務事務はITで劇的に効率化できる。クラウド人事労務ソフト「SmartHR」が変えた仕事の現場

公開日
目次

*編集部註:この記事は、2017年7月18日に「RISE UP CLUB」で公開された記事を、許諾を得て転載しています。

「働き方改革」や「長時間労働問題」があらゆる業界でキーワードになりつつある昨今ですが、人事・労務の分野でITの活用した業務効率化が進んでいることをご存知でしょうか?

労務管理部門のクラウドソフトでシェア1位を誇り、さまざまなアワードを“総ナメ”にした人事・労務のクラウド型ソフトウェア「SmartHR」(スマートエイチアール)を運営する、株式会社SmartHRのプロダクトマネージャー・副島智子さんにお話を伺いました。

副島 智子(そえじま・ともこ)

20人未満のIT系ベンチャーや数千人規模の製薬会社など、さまざまな規模・業種の会社で給与計算・社会保険手続きの経験を持つ。前職のEC系スタートアップでは経営管理の役員に就任。2016年にSmartHRにジョインし、SmartHRのプロダクトマネージャーに就任。

アナログのまま取り残された人事・労務の仕事

まずは「SmartHR」というサービスについて教えてください。サービス開始から利用企業数は5,000社を超えたということですが、どんなサービスなのでしょうか。

副島 智子(そえじま・ともこ)

クラウド人事労務ソフトSmartHR社会保険や雇用保険の手続きを自動化するクラウド型ソフトウェアです。書類を自動作成でき、役所への電子申請をウェブから行うことができます。

そのほかには人事データベース、マイナンバー管理、ウェブ給与明細などの機能を搭載しています。

社会保険・労働保険は素晴らしい制度でありながら、その手続きは不便かつ煩雑で、わかりづらいものです。たとえば入社の際は通常、雇用契約書、被扶養者現状表、雇用保険被保険者資格取得届など7種類ほどの書類が必要で、従来はすべて手書きで行われてきました。

書類をつくったら、今度は役所に行かなければいけません。全国健康保険協会(協会けんぽ)であれば年金事務所とハローワークの2カ所に行くのですが、組合健保(関東ITソフトウェア健康保険組合など)と呼ばれるものは年金事務所、健保組合、ハローワークの「3カ所」に行かなければいけません。

書類作成で1時間、役所周りで半日。人事・労務担当者の1日はあっという間に終わってしまうのです。

副島 智子(そえじま・ともこ)

人事・労務分野では、そういったアナログなフローが当たり前だったのですね。

副島 智子(そえじま・ともこ)

そうなんです。給与計算や経理はソフトで行うのが当たり前の時代を迎えてもなお、人事・労務分野はなぜか手書きという慣習のまま取り残されていたんです。

そこに市場性を見出す人がいなかったのかもしれませんね。会社単位で見ても、従事している人は限られていますし、社会保険労務士に委託している企業も多くあります。

社内で問題意識をもちにくい分野でもあったことも、IT化が遅れた理由でしょう。

私自身もさまざまな企業で人事・労務の仕事をするなかでExcelの関数を使うなど工夫はしてきましたが、100人規模でそうした手続きを行うとなると本当に大変です。

SmartHRを導入し、労務にかける時間が3分の1になった企業も

実際に「SmartHR」を使うと、どのくらい作業を軽減できるのですか。

副島 智子(そえじま・ともこ)

入社手続きを例にご説明しましょう。

SmartHR

副島 智子(そえじま・ともこ)

まず、人事担当者がログインし、入社が決まった方を「SmartHR」に招待します。入社する人は自宅PCやスマートフォンからアクセスして必要事項を入力。

あとは管理者が入社予定日など必要な情報を入力すると、入社周りの書類が完成します。これがだいたい3分くらいですね。

時間のかかる役所巡りも、「SmartHR」を使えば数クリックで電子申請が完了します。これが1分くらい。1日の大半をかけて行っていた作業が、大幅に軽減できるというわけです。

実際、労務にかける時間が3分の1になった事例もあります。

また、人事情報はExcelで管理している企業も多いのですが、その場合「どれが最新ファイルかわからない」「誤って上書きしてしまった」といったトラブルが発生しがちです。

「SmartHR」では人事情報をクラウド上に一元化しているため、こうしたリスクを防ぐことができます。

それは画期的ですね。ほかに導入企業から反響が高いのはどういった機能でしょうか。

副島 智子(そえじま・ともこ)

2016年の秋にリリースした「ペーパーレス年末調整機能」です。

年末調整は人事・労務担当者にも従業員にも大変負担が大きい作業です。私がかつて在籍していた企業は従業員が1,300人、全国に70店舗以上を展開する外食企業でしたが、年末調整の時期になると4,000枚の書類を印刷し、店舗ごとに郵送し、回収してチェック、Excelに入力をするという作業に忙殺されていました。

従業員側も年に1回しか書かないので、毎年「どう書くんだっけ?」と記入ルールを思い出すことから始めなければいけません。見慣れない用語や書式に戸惑ううえ、フォームの欄が狭すぎて書ききれないこともあります。

SmartHRの「ペーパーレス年末調整機能」は、「これに該当しますか?」「扶養家族はいますか?」「生命保険に加入していますか?」といった質問に答えていくと、自動でその情報が入力されて書類が作成されます。

この機能への反響は非常に大きく、特に従業員の方からポジティブな感想が多かったのが印象的でした。従業員も毎年の年末調整には大きな負担を感じていたのでしょうね。

副島 智子(そえじま・ともこ)

あらゆる企業で使えるようにカイゼンを行う

どのような企業に向いているのでしょうか。

副島 智子(そえじま・ともこ)

SmartHRはもともと10人未満の小さな会社向けにサービスを開始しました。小さな会社では経営者が人事・労務もやっていることが多いので、そこに市場性があると踏んだためです。

ただ、実際にリリースしてみると、従業員数の多い企業からのお声がけも多く、現在では8,000人以上の企業にもご利用いただいています。

大企業に使っていただくことで、プロダクトもどんどんカイゼンを行いました。従業員がすぐ近くにいる小さな企業であれば、管理者だけが使えればOKです。

しかし、さまざまな場所に拠点があり、従業員の数も多い企業では、管理者だけが使えるような状態では確認作業も煩雑になり、自動化の意味が薄れます。そうした事情を踏まえて試行錯誤しながらプロダクトを進化させてきました。

現在はチャットサポートなどでお客さまの声を吸い上げ、より良いサービスづくりに活かしています。

作業に忙殺されることなく、本来やるべき仕事に集中できる

こんなに便利なサービスがあると、人事・労務担当者は必要なくなってしまいそうな気がします。そのあたりはいかがでしょうか?

副島 智子(そえじま・ともこ)

そう言われることはよくありますが、人事・労務担当者が必要なくなるということはありませんよ。

そもそも、人事・労務担当者が本来やるべき仕事は従業員が働きやすい環境を整え、企業の生産性を上げるバックアップをすることです。それは、人間にしかできないことでしょう。クライアントからも「制度企画に時間を使えるようになった」という声が届いていたりもします。

小さな企業の場合、バックオフィス担当者はたいてい、経理や総務、人事・労務、法務などを一手に引き受けています。

ただただ忙しく、作業だけで1日が終わることも多いのが現実です。その作業を軽減することによって情報収集をしたり、従業員に情報を提供したりする時間をもつことこそ重要なんですね。

評価制度をつくるにしても、専門知識がわかっていないと形骸化し、結果的に従業員に損をさせてしまうこともあるでしょう。

そういったことを防ぐために、これからの人事・労務担当者はもっと勉強する、考えるために時間を振り分けるべきだと思います。

副島 智子(そえじま・ともこ)

情報の格差をなくし、より働きやすい環境へ

『SmartHR』のような便利なサービスを導入することで、会社はどう変わっていくと思われますか。

副島 智子(そえじま・ともこ)

情報の格差がなくなっていくと思っています。

これはかつて、私がベンチャー企業から大企業に転職をした際に感じたことなのですが、その大企業では一般従業員が健康保険や年金にとても詳しかったんです。会社のイントラネットに従業員をサポートする情報が公開されており、従業員の間でも共有されているのですね。

これがベンチャー企業だと、そういった文化がなかったり、複数の業務を兼任していることもあって、そもそも詳しい知識をもっていなかったりもします。結果、余計な作業も発生してしまうことがあります。

私は、これは情報の格差だと思うんです。大企業だから知れる、ベンチャー企業だからわからない、という世界をなくしたい。

「SmartHR」があれば従業員はいつ何が必要なのかがわかるようになるし、人事・労務担当者も最初から労務管理がスムーズにできる。

そして人事・労務という仕事に求められる、本来の仕事に力を入れられる人が増えることで、会社をより良くしていけるだろうと考えています。

インタビュアー・執筆赤木麻里(あかぎ・まり)

フリーライター。学習院大学文学部日本語日本文学科、東京福祉大学心理学部卒。書籍やウェブサイトを中心に幅広く執筆を行う中で、特に思想、哲学、心理学の分野で多数の執筆協力、コンテンツ提供を行っている。

*記事提供元:中小企業の課題解決メディア「RISE UP CLUB」

人気の記事