法令遵守しながら自主的な残業も尊重する「#ネオみなし残業制」のススメ
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「働き方改革」の流れを受け、労働時間をコンパクトにしていこうというはたらきが活性化しつつあります。疲弊していた労働者に溢れている昨今を鑑みると、至極健全な取り組みだと思います。
しかし、その裏で「ワーカホリック」という言葉もあるように、仕事に熱中し、ハードワークすることにやりがいや生きがいを感じる人がいるのもまた事実です。
そんな時社員から、下記のようなリクエストがあったらどうしますか?
「今日中にこの仕事をやり切りたいので残業させて下さい!」
「納得いくまでこの仕事を仕上げたいので残業をさせて下さい!」
経営者はコンプライアンスの観点から、やすやすと受け入れられないのが現実です。しかし「自主的な残業」を申し出る社員のモチベーションを削ぐのも憚られるかもしれません。
「コンプライアンス」と「社員のモチベーション」を両立させる方法はあるのでしょうか?
「自主的な残業」も労基法上の残業
前述のように自主的に残業を申し出ているケースにおいて、経営者や上長が「明日でいいから今日は退社しなさい」「この仕事の完成度はこれで十分だから、今日はもう上がって下さい」と、明確に退社を指示をしたにも関わらず、本人が職場から退出しない場合には、会社は本人に対して残業代を支払う必要はありません。
逆に、「退出しなさい」という命令を無視したことに対し「懲戒処分」をすることさえ可能な状況です。
しかしながら、経営者が退社の指示をせず残業を黙認していたり、「やる気があってよろしい。君が納得いくまで頑張りなさい。」というように残業を肯定するような発言をした場合には、たとえ明確な残業命令をしていなかったとしても、会社には「残業代の支払義務」が生じます。
一昔前までは「実務上の暗黙の了解」が存在
ただ、一昔前までは少し状況が違いました。
法律上は違法であることを認識しつつも、会社は「若手社員が自己啓発のために残業をするのだから、残業代は払わなくてもいいよね」と考え、社員本人も「まだ会社に貢献できていないのだから、残業代をもらうのは申し訳ない」というような感覚を持っているケースも少なくなかったのです。
つまり「自主的な残業に対しては残業代を支払わない」という、「実務上の暗黙の了解」が存在していたことは否定できないと思います。
自主的な残業も「残業代を支払わなければならない」という世論
しかし、「違法な長時間労働」や「過労死」が大きな社会問題になっている昨今。
残業については法律を遵守し、たとえ自主的な残業であったとしても、きちんと残業時間として管理し、残業代を支払わなければならないという世論が強まっています。労働基準監督署も、長時間労働や未払い残業に対する取締りを強化しています。
したがって、今後は、上記のような「暗黙の了解」は許されず、放置すれば大きな労務リスクになると考えるべきでしょう。
「自主的な残業」に対する実務上の対応方法
それでは、一律に「自主的な残業」を禁止するのが会社にとって最善の対応なのでしょうか?
私は、一概にそうは思いません。
確かに、会社が効率的なオペレーションを構築したり、最短で正解にたどり着くようなマニュアルを整備して、無駄な残業が発生しないようにすることは非常に大切でしょう。
しかし、社員が「自分で考える力」や「仕事における応用力」などを身に付けるためには、色々なことを調べたり、回り道であっても挑戦したりすることが不可欠だと私は思います。
試行錯誤しながら成長したいと本心から思っている社員に対して、無理矢理業務命令で退社させるのは、本人のモチベーションを奪ってしまうでしょう。
高度専門職の「裁量労働制」と一般社員への「みなし残業制」
そこで、私が考えるのは、正しい労務管理をしながら、本人の「やる気」も尊重できる仕組みを作ることです。
具体的には、まず、高度専門職に対しては、法律上の手続を正しく踏んだ上で裁量労働制を適用することです。
次に、一般の社員については「みなし残業代」の適用を検討する余地があります。「みなし残業制」というと「残業代をごまかすための手段のようなネガティブな見方」をされることもありますが、たとえば次のような考え方はできませんでしょうか。
社員のモチベーションを生かす画期的な「ネオみなし残業制」
まず、基本給25万円で雇用契約を結ぼうとしている人に対して、20万円の基本給と5万円のみなし残業代での雇用契約を打診します。
その上で、残業を、会社の業務命令によって行う残業(以下「残業A」という)と、本人が自主的に行う残業(以下「残業B」という)に区分し、残業Bについてはみなし残業代から充当し、残業Aについては、法律通りの割増率で計算して追加の残業代を支払うという方法です。
この仕組みによって、本人が自己啓発のために残業したい場合は、会社は追加の金銭的負担なく残業をしてもらうことができ、会社として業務上の必要性があり残業命令を出す場合には追加の残業代を支払うことができるという、「本人も会社も納得でき、労務管理上のリスクも無い残業管理」ができるようになります。
もちろん、「残業Bが固定残業代を上回らないようにする」ことと、「残業Aと残業Bを合わせて36協定の上限を超えないようにする」ことは、会社が責任を持って管理していかなければなりません。
「コンプライアンス」・「モチベーション」双方の尊重を
「社員の自主的な残業」に対して「暗黙の了解」に頼ることも、逆に一律に禁止することも、両極端で上策とは言えません。
そんなときは今回紹介した、「ネオみなし残業制」のように、会社も社員も納得でき、より良い方向へとはたらきかけていける仕組みづくりが効果的でしょう。
会社としての法的な「コンプライアンス」と「社員のモチベーション」という双方を尊重し、上手に両立させ、自社に合った仕組みを構築していきたいですね。