1. 人事・労務
  2. 労務管理

人事・労務担当が知っておきたいHRニュース|2024年11月振り返りと12月のポイント

公開日
目次

こんにちは!社会保険労務士の岸本です。今年もいよいよ年末が迫ってまいりました。人事・労務の業務に携わるなかで、毎年時間の流れの早さを実感している方も多いのではないでしょうか。そして、人事・労務担当者は、年調減税事務を含めた年末調整対応の真っ只中にいらっしゃることでしょう。こうした繁忙期だからこそ、いつも以上に冷静に対応できるよう、心がけることが大切ですね。

年の瀬を前にした時期ではありますが、今月も人事・労務の実務目線で気になるニュースをピックアップしてみましたので、ぜひお時間のあるときにご覧ください!

11月のトピックを振り返る

11月は、いわゆる「年収(103万)の壁」に関するニュースが、連日のように報道されていたかと思います。個人的に率直に感じたのは、このテーマがいかに複雑であるかということです。所得税だけでなく、社会保険にも深く関わるテーマであり、特に扶養の要件に関しては、家族構成などによって影響が異なるため、理解するのが難しいのは当然といえるでしょう。

現時点では詳細が確定していないため、これらの点について深く掘り下げることは避けますが、この議論や今後の展開は今後の人事・労務業務に大きな影響を与えるテーマであるため、引き続き動向には注視しておきたいところです。
それでは、11月のトピックを振り返っていきましょう。

トピック1:厚生年金の標準報酬月額の上限引き上げ検討など

11月25日に「第21回社会保障審議会年金部会」が開催され、以下の3つのテーマについて議論がされました。

  1. 基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了について
  2. 在職老齢年金制度について
  3. 標準報酬月額の上限について

人事・労務の業務に特に影響を与える可能性が高いテーマは、「在職老齢年金制度」と「標準報酬月額の上限」だと思われます。それぞれの議論の概要と、仮にこれらの案が実現した場合に実務面で想定される影響について、ポイントを次のようにまとめてみました。

「在職老齢年金制度」における議論の概要

現行制度の「賃金と年金を合わせて月50万円を超える場合、年金の一部が支給停止となる在職老齢年金制度(高在老)」の内容を見直すもの。
「在職老齢年金制度の撤廃案」と「基準額(月50万円)の引き上げ案」の2つの検討案が提出された。

「在職老齢年金制度」に関する変更が実現した場合に実務面で想定される影響

  • 65歳以上の労働者に対する賃金設計の見直しの検討
  • 65歳以上の労働者も含めた人材活用戦略の見直しの検討
  • 定年制度や定年後の継続雇用制度、人事評価制度などの見直しの検討

(参考)「在職老齢年金制度について」|厚生労働省

「標準報酬月額の上限」における議論の概要

  • 現行における厚生年金保険の標準報酬月額の上限は65万円となっているが、これらを見直すもの。直近では、令和2年9月に上限額が1等級引き上げられ、62万円から65万円になっている。
  • 現行の等級の追加ルールとして「2倍ルール」というものがある。
    2倍ルールとは、「全被保険者の平均標準報酬月額の2倍に相当する額が標準報酬月額の上限を上回り、その状態が継続すると認められる場合は、政令で、上限の上に等級を追加できること」です。
  • 今回は、これまでの上限設定とは別に「上限該当者の割合によって上限見直しをする案」(上限75万円、79万円、83万円、98万円などへの引き上げ案)が提案された。

「標準報酬月額の上限」に関する変更が実現した場合に実務面で想定される影響

  • 保険料の事業主負担分の増加も踏まえた人件費関連コストへの影響の確認と、それらに必要な対応の検討
  • 役員報酬や給与の設定に関する見直しの検討
  • 人事評価制度などの見直しの検討

これらは、来年の通常国会に必要な法案の提出を目指して進めていくようですが、すでに報酬月額が標準報酬月額の上限(65万円)を超えている役員・従業員が多い企業ほど、その影響は大きくなるでしょう。
以上からも、具体的な見直しのスケジュールと詳細については、引き続きタイムリーに必要情報をキャッチアップしつつ、早めに必要な対応を検討できるとよさそうです。

(参考)「標準報酬月額の上限について」|厚生労働省
(参考)「第21回社会保障審議会年金部会」|厚生労働省

トピック2:労働基準関係法制に関する議論について

11月11日には「労働基準関係法制研究会 第14回」が開催され、その議事資料には、現代の多様な働き方と現行の労働基準関係法制とのギャップや、具体的な課題についても触れられており、興味深い内容が多く見受けられました。

本資料に記載されている内容のうち、主なポイントのみを抜粋して以下にまとめました。

法制度検討において大切な視点

法制度を検討する際には、以下の点について相互の関係を捉えて論じる必要があります。

  • 法的効果の対象者である労働者をどう捉えるのか(労働者性)(事業)
  • 具体的な法的効果は何か(規制内容)
  • シンプルで分かりやすい制度か(共通原則と労使合意に基づく現場の実情に合わせた調整)

そのため、以下の4本の柱で検討します。

  1. 労働基準法における「労働者」について
  2. 労働基準法における「事業」について
  3. 労使コミュニケーションの在り方について
  4. 労働時間法制の具体的課題について

また、それぞれの具体的な内容については、実務において特に影響のありそうなものを取り上げて、以下のとおり簡単な解説もつけてみました。

企業への影響可能性

「過半数代表者」の機能強化

過半数代表者の選任手続きが適切に行なわれているかどうかのチェックが一層厳しくなると考えられます。この機会に自社の運用を確認しておくことをお勧めします。

企業による労働時間の情報開示

人的資本情報の開示ともリンクする内容ですが、これからますます情報開示が求められるテーマともいえます。SmartHRなどのシステムを使って情報を集約管理して効率化しつつ、正確な情報をいつでも速やかにアウトプットできるよう整備しておくことが大切です。

テレワーク等の柔軟な働き方

「コアデイ(特定の日について始業と終業時刻を使用者が決定する制度)」の導入についても言及されており、企業に適した制度づくりが一層重要になるでしょう。

法定労働時間週44時間の特例措置

8割の事業場がこの特例措置を使っていない現状を踏まえ、撤廃の検討がされる可能性もあります。そのため、現在利用している場合は、詳細を確認しておくことをお勧めします。

休憩

一斉付与の原則を維持すべきかどうかについても議論があり、労働者が働きやすいルールづくりを進めるためには、今後どのような改正が行われるかにも注目したいところです。

副業・兼業の場合の割増賃金

労働時間の通算ルールについて、労働者の健康確保のための通算は維持しつつも、割増賃金の支払いに関しては通算を不要とする制度改正が検討されています。この改正は、副業・兼業を後押しするための材料の一つとなる可能性があります。

すでに日々の業務のなかでは、法令と実態との乖離(ギャップ)を感じる場面があるのではないでしょうか。そのような観点からも、今回の労働基準関係法制の整備に向けた動きは注目すべきトピックといえます。今後さらなる具体化が進むことが期待されます。

(参考)「労働基準関係法制研究会 第14回資料」|厚生労働省

トピック3:フリーランス向け、働き方のチェックリストが公開

2024年11月1日からフリーランス保護新法が施行されましたが、実務の現場では、そもそも「フリーランス」と労働基準法上の「労働者」との違いに迷ったり、その判断基準について悩んだりする場面も多いのではないでしょうか。

直近で労働局から公開されたチェックリストが、「労働者」に該当するかどうかを判断するのに非常にわかりやすい内容となっています。まだご覧になっていない方はぜひこちらの資料に目を通しておきましょう。

現在のあなたの働き方についての自己診断チェックリスト

(出典)「『労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」』を労働基準監督署に設置します|厚生労働省 東京労働局

また、フリーランス保護新法については、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてお読みください。

12月は年末調整対応に加え、健康保険証廃止の影響にも注意を!

トピック1:12月2日以降のマイナ保険証への本格的な移行

ご存じのとおり、12月2日からは健康保険証の新規発行が終了し、マイナ保険証への移行が本格的にスタートしました。

人事・労務担当者としては、しばらくの間、手続きのたびに制度を確認しながら進める必要があるかもしれませんが、まずは主な内容をおさえておくことで安心して対応できるでしょう。

ここでは協会けんぽを中心に、特に実務で関係しそうなポイントを以下にまとめてみましたので、ぜひご確認ください。

把握しておきたい主なポイント:従業員向け

  • 12月2日以降はマイナ保険証での受診が原則となる。
  • マイナ保険証を利用できない人は「資格確認書」を医療機関等で提示する。
  • すでに発行済みの健康保険証も2025年12月1日までは経過措置での利用できる。
  • 70歳以上は引き続き「高齢受給者証」が発行される​。
2024年12月2日以降の受診方法についての図

(出典)「事業主のみなさまへ これからは保険証のルールが変わります。保険証は、マイナ保険証へ」│全国健康保険協会

把握しておきたい主なポイント:人事・労務担当者向け

  • 資格確認書の交付の際は「健康保険資格確認書交付申請書」という新たな届出書類が必要。
  • 新たに被保険者や被扶養者になる方が資格確認書を必要とする場合は「資格取得届」や「被扶養者(異動)届」の「資格確認書発行要否欄」(新様式)」にチェックを入れて届出をする。
  • 新規加入者全員に「資格情報のお知らせ」が自動発行されるため、従業員に配布をする。
    ※今年5月頃までの既加入者の分は、9月頃に一律で事業主宛にすでに送付されている
  • 2025年12月1日までの退職の場合、被保険者資格の喪失時には「保険証」の返却が必要。
  • 有効期間内の「資格確認書」は資格喪失時に返却が必要。
従業員が退職した際の保険証などの返却の必要、不要について

(出典)「事業主のみなさまへ これからは保険証のルールが変わります。保険証は、マイナ保険証へ」p.3|全国健康保険協会

なお、協会けんぽから事業主向けと被保険者向けの、分かりやすいリーフレットがそれぞれ公開されています。ぜひご覧いただければと思います。

(参考)「事業主のみなさまへ これからは保険証のルールが変わります。保険証は、マイナ保険証へ」|全国健康保険協会
(参考)「これからは医療を受けるならマイナンバーカード」|全国健康保険協会

トピック2:年末調整対応での注意点

現在、年末調整の対応に追われている時期かと思います。そこで、実務目線で注意しておきたいポイントを抜粋しましたので、ぜひご覧ください。

年調減税事務では、定額減税の対象者について慎重に要件を確認しましょう。特に、非居住者と配偶者の収入要件には要注意です。

源泉徴収票の発行時には、摘要欄に定額減税に関する必要事項が記載できているか確認しましょう。

SmartHRなどのシステムで申告する場合、原本の提出が必要な書類の回収も忘れないようにしましょう。
(参考)「【一覧】年末調整の際に原本の提出が必要なもの」|SmartHRヘルプページ

人事・労務分野への注目度は一般社会でますます高まる

今回が今年最後のHRニュースとなりました。改めて、いつもお読みいただいている皆さまには、心より感謝を申し上げます。本当にありがとうございます!

昨年末にSmartHR社を退職した私ですが、現編集長のご厚意でお声がけいただき、今年の2月から人事・労務に関する情報を必死で収集しながら、毎月試行錯誤を重ねつつ、記事を執筆してきました。

当初は、「定期的に公開できるような有益な情報を自ら集めて解説できるのか?」という不安もありましたが、結果として「意外と毎月取りあげるべき人事・労務トピックスってあるものだ」と再認識できました。

これは裏を返せば、世間における人事・労務分野への注目度がますます高まり、法改正なども頻繁に発生していることを示しているともいえるのではないでしょうか。

そのような時代背景を感じつつ、これからも皆さまのお役に立てる情報を少しでも発信できるよう、日々努力を続けていきたいと思います。引き続きご支援賜りますようお願い申し上げます。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。それでは、良いお年をお迎えください!来年もSmartHR Mag.をぜひご覧ください!

人気の記事