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「産後パパ育休」と「育児休業の分割取得」のポイント。取得推進のコツは?

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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

2021年6月育児・介護休業法が改正され、2022年4月から段階的に施行されます。前回の記事(【2022年4月〜段階的に施行】育児・介護休業法の改正ポイントを社労士が解説)では、改正内容の概要を解説いたしました。今回は、2022年10月に施行される「産後パパ育休(出生時育児休業)」「育児休業の分割取得」について、詳しく解説いたします。

産後パパ育休(出生児育児休業)創設の背景

厚生労働省が2021年7月に発表した令和2年雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は2020年12.65%と初めて1割を超え、過去最高を記録しています。しかし、政府は男性の取得率の目標を13%としていたものの未達成。女性の育児休業取得率は80%超で推移している一方、男性の育児休業取得率は低い水準のままです。

また、厚生労働省が開設した「イクメンプロジェクト」の特設ページに掲載されている各種データでは、取得期間が女性は10ヶ月以上が69.7%に対し、男性は5日未満が28.33%と短期間です。男性の家事・育児の時間も女性の6分の1程度。世界各国と比較しても、日本の男性の家事・育児参加率は低いことがわかります。

このような背景のなか、妊娠、出産、育児等を理由とする離職を防止し、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにするため、2021年6月に育児・介護休業法が改定されました。

とくに、産後パパ育休(出生児育児休業)創設により、男性の育児参加を促し、女性に偏りがちな家事・育児を見直し、女性の就業機会の拡大、出産意欲向上、男女の雇用格差の改善につながることが期待されます。

2022年から段階的に施行される育児・介護休業法の改正のポイント

改正内容と施行スケジュール

2022年4月1日~・雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化

・有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

2022年10月1日~・産後パパ育休(出生時育児休業)の創設

・育児休業の分割取得

2023年4月1日~・育児休業取得状況の公表の義務化

育児・介護休業法改正における、「産後パパ育休(出生児育児休業)」「育児休業の分割取得」のポイント

1.産後パパ育休(出生時育児休業)の創設(2022年10月〜施行)

新たに創設される「産後パパ育休(出生時育児休業)」は、通常の育児休業とは別の制度で、男性版産休といわれています。産後パパ育休は、原則休業の2週間前までに申し出ることで、出生後8週間以内に4週間までの休暇を取得できます。なお、初めにまとめて申し出れば、分割して2回取得することも可能です。

現行の育児休業取得イメージ

(出典)リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」|厚生労働省(PDF)

産後パパ育休(出生時育児休業)の期間中は、就業しないことが原則です。ただし、労使協定を締結することにより、休業中に就業してもらうことも可能になります。(休業中の就業日数や就業時間数に上限があります。)

なお、会社から就業可能である申出を一方的に求め、従業員の意に反するような休業中の就業は避けなければなりません。

2.育児休業の分割取得(2022年10月〜施行)

現行の育児休業では、次の図のように、育休は原則分割して取得することはできません。

※育児休業の「出生から1歳まで(パパ休暇は例外)」「1歳から1歳6ヶ月」「1歳6ヶ月から2歳まで」は別の制度と考えます。

改正後の育児休業取得イメージ図

(出典)リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」|厚生労働省(PDF)

2022年10月からは、子が1歳になるまでの育児休業を分割して2回取得することが可能となり、次の図のような取得が考えられます。

(出典)リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」|厚生労働省(PDF)

1歳以降の育児休業の延長では、育児休業開始日は1歳、1歳半の時点に限定されていましたが、改正後は育児休業開始日を柔軟に設定できます。1歳以降は、これまでは再取得ができませんでしたが、特別な事情がある場合に限り再取得可能となります。

今回の改正により、育児休業を分割して短期間での取得や、夫婦間で取得時期をずらして育休を交代するなど柔軟に働き方、休み方を実現できるようになりました

これまでの「パパ休暇」「パパ・ママ育休プラス」はどうなる?

これまでの「パパ休暇」は廃止

改正前の制度では、産休の対象ではない男性のための、子の出生日から8週間以内に取得する育児休業(パパ休暇)があります。このパパ休暇を取得した場合に限り、育児休業の再取得を例外的に認めるものです。

改正により、パパ休暇は廃止となり、代わりに「産後パパ育休(出生時育児休業)」が新設されます。産後パパ育休は通常の育児休業とは別の制度で、育休の分割取得ができるようになるため、パパは子が1歳になるまでに最大の4回分割取得も可能となります。

また、パパ休暇は出生後8週間以内であれば取得日数に制限はありませんが、産後パパ育休(出生時育児休業)は4週間以内となりました。

「パパ・ママ育休プラス」は継続

あまり知られていないかもしれませんが、パパとママの両方が育児休業をする場合で、以下の要件を満たせば育児休業の期間を子が「1歳まで」から「1歳2ヶ月まで」に延長できます。

  1. 配偶者が子の1歳に達する日以前において育休をしていること
  2. 本人の育休開始予定日が子の1歳の誕生日以前であること
  3. 本人の育児休業予定日が配偶者の育休の初日以降であること

保育園に入園できないなどの事情がなくても1歳2ヶ月まで延長ができるため、保育の状況にあわせて、夫婦が交代で長期間育児休業が取得できます。

ただし、パパ、ママそれぞれの休業期間は出生日以後の産前・産後休業、産後パパ育休(出生時育児休業)、育児休業を合計して最長1年間である点は変更ありません。

育児休業をはじめ、労務の基礎知識を身につけることは働く上で欠かすことができません。以下の資料では、働く上で知っておきたい基礎知識をQ&A形式で紹介します。ぜひお役立てください。

「働く」に役立つ基礎知識Q&A23選_あなたを支える人事・労務

男性の育児休業給付金、社会保険料の免除について

雇用保険の育児休業給付金

通常、育児休業中は会社から給与が支給されません。しかし、産後パパ育休(出生時育児休業)中および育児休業中は、要件を満たせば、雇用保険の育児休業給付金が支給されます

【受給資格】

  1. 育児休業開始前2年間に雇用保険被保険者期間(注1)が通算して12ヶ月以上あること
  2. 有期雇用労働者は、休業開始時に同一事業主の下で1年以上雇用継続されており、かつ、子が1歳6ヶ月までの間に労働契約が満了することが明らかでないこと

(注1)原則、賃金の支払いの基礎となった日数が月に11日以上ある場合に1ヶ月

【支給額】

休業開始時賃金日額(注2)×支給日数×67%(育児休業開始から6ヶ月まで(注3))

(注2)原則、育児休業開始前6ヶ月間の賃金を180で除した額

(注3)育児休業開始から6ヶ月経過後は50%

詳細は、厚生労働省が制作したパンフレット「育児休業給付の内容及び支給申請手続きについて」をご覧ください。

2022年10月から育児休業給付金が変わります

改正後の産後パパ育休(出生時育児休業)、育児休業の分割取得に対応して、2022年10月から育児休業給付金が変わります。

育児休業の分割取得にあわせて、1歳未満の子について、原則2回の育児休業まで育児休業給付金を受けられるようになります。(例外事由に該当する場合は1回に数えません。以下の図を参考ください)

(参考)令和4年10月から育児休業給付制度が変わります – 厚生労働省

回数制限の例外事由

(出典)令和4年10月から育児休業給付制度が変わります – 厚生労働省

また、育児休業を延長する場合、1歳〜1歳6ヶ月と1歳6ヶ月〜2歳の各期間において夫婦それぞれ1回に限り育児休業給付金を受けられます。

出生時育児休業給付金

新設された産後パパ育休(出生時育児休業)に対応する期間に受給する給付金は、名称が出生時育児休業給付金となります。産後パパ育休中に労使協定により就業も可能ですが、10日以上勤務するなどの場合、給付金の対象とならないので注意が必要です。

また、給付率は67%ですが、支給された日数は育児休業給付の支給率67%の上限日数である180日に通算されます。

詳細は、パンフレット「令和4年10月から育児休業給付制度が変わります」をご覧ください。

(参考)令和4年10月から育児休業給付制度が変わります – 厚生労働省

社会保険料の免除

育児休業期間中は、要件を満たせば、社会保険料が自己負担分および事業主負担分ともに免除されます。免除の要件は、「その月の末日が育児休業中である場合」となりますが、2022年10月以降は、それに加えて、以下の要件が追加になります。

  • 「その月の末日に育児休業中でなくとも、同一月内で14日以上の場合」を新たに保険料免除の対象として追加。
  • 「賞与に係る保険料については、連続して1ヶ月を超える育児休業を取得した場合」に限り保険料を免除

(参考)育児・介護休業法の改正について ~男性の育児休業取得促進等~ – 厚生労働省 雇用環境・均等局 職業生活両立課 P30

男性の育児休業取得推進のために、企業が実施すべきこと

男性社員が育児休業を取得しやすい雇用環境を整備する

イクメンプロジェクトの特設ページのデータによると、「育児休業を希望していたが取得できなかった」とする男性労働者が約3割いることから、休業取得の希望を十分にかなえられていない現状があります。

たとえば、「男のくせに育児取得なんてありえない」「育児休業で休まれたら迷惑」という言動はハラスメントの典型です。自社では育児休業等の取得を妨げるような雰囲気になっていないでしょうか。

2022年4月からは、育児休業の対象となる労働者へ個別に周知・意向確認が義務付けられます。そのため、男性も育児休業を取得しやすい職場となるよう、企業風土改革にも取り組んでいく必要があるでしょう。

まとめ

男性の育児休業取得率の政府目標は2025年に30%。今回の改正により、男女問わずワークライフバランスのとれた働き方、休み方ができる社会になることが期待されます。

お役立ち資料

【2023年版】人事・労務向け 法改正&政策&ガイドラインまるごと解説

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