【各社事例あり】実例から考察する「リテンションマネジメント」施策|青山学院大学・山本寛教授インタビュー #4

2023.01.20 ライター: 廣嶋祐治

少子高齢化が進む現在、2030年問題といわれる生産年齢人口(15~64歳)の減少に対して、人材確保を目的とした、優秀な人材に長く活躍してもらうための「リテンションマネジメント」に注目が集まっています。

青山学院大学経営学部・山本 寛 教授に「リテンションマネジメント」についてお話しいただいたインタビュー連載企画の最終回は、「各社の実例から考察するリテンションマネジメント施策」をご紹介します。

青山学院大学経営学部

山本 寛 教授

働く人のキャリアと組織のマネジメントが専門。著作は『連鎖退職』、『なぜ、御社は若手が辞めるのか』、『「中だるみ社員」の罠』(以上、日経BP社)、『自分のキャリアを磨く方法』(創成社)、『人材定着のマネジメント』(中央経済社)など。2023年2月に『働く人の専門性と専門性意識』(創成社)を出版。研究室ホームページ/http://yamamoto-lab.jp/

事例(1):同期のコミュニケーションルート確立で、新入社員の早期退職10名→1名に減少|給食センター運営会社

ーーこれまでの山本教授のインタビューから、リテンションマネジメントの有効性を探ってきました。今回は、山本教授が調査してきた各企業のリテンションマネジメント施策についてお教えください。

山本教授:1つ目の事例は、研修内容を変更したことで、コミュニケーション改善につながった例です。給食センターの運営会社で、調理師と栄養士から成る新入社員の早期退職が課題でした。

これまでの施策として、本社での入社式後に、能力開発を主としたOff JTの研修を1回実施していたのです。その後は、保育所や学校、事業所など現場のOJTが中心で、異動が少ないため横のつながりが希薄だったという問題がありました。

研修制度改革とネットワーク構築によるリテンションマネジメント事例

課題に対する施策として、新入社員が受ける1年間の集合研修を12回に増加しました。教育のクオリティ向上だけではなく、新入社員同士のネットワークを構築できた点について、人事担当者の方から効果を実感しているという声をいただきました。

企業によっては、企業主導で内定者のネットワークを構築する場合もあります。しかし、企業主導ではうまくいかないこともあるため、この事例では自分たちでネットワークを構築しました。

SNSでのコミュニケーションだけでなく、仕事上の失敗で落ち込んだときに、リアルで会って職場での愚痴を話せるネットワークを構築できたことが、最大の効果でしたね。

その結果、今までは直近3年の入社1年以内の離職者が10人を超えていたのが、3年間でたった1人にまでに減りました。

事例(2):新入社員の不足スキルを次年度研修に反映。入社3年以内の離職率50%→10%に|カネテツデリカフーズ株式会社

山本教授:2つ目は、食品メーカーのカネテツデリカフーズ株式会社です。こちらも新入社員の早期離職が課題でした。コミュニケーションルートをOJTリーダーだけでなく、先輩とのコミュニケーションルートもつくったんです。また6か月の間、入社2〜3年目の先輩がマンツーマンで新入社員を指導しました。

以前は細かく指導せずに、「仕事は見て覚えろ」という文化だったそうです。このスタイルだと、スキルの共有やコミュニケーション不足が発生してしまいます。この取り組みでは、仕事を直接教える先輩Aのほかに、もう1人の先輩Bと毎月の1on1ミーティングで指導項目と目標を決定して、指導計画書を先輩がつくりました。その後、毎月末に指導する先輩Aと、1on1を実施する先輩Bの両者が新入社員にフィードバックしました。

先輩2名はそれぞれ、今月の目標と、新入社員があげた成果と努力に応じた内容をフィードバックしました。ここまでは多くの企業で実施しているのですが、ここから先が違っていました。新入社員を対象に、入社半年〜1年後に行うフォローアップ研修の内容を変えたのです。

コミュニケーションルートの変更によるリテンションマネジメント事例

新入社員それぞれの指導項目や目標、未達だった項目のデータを集めて、研修担当者と話し合います。単に、新入社員研修の内容を振り返るのではなく、分析した不足しているスキルや知識を集中的に研修内容に盛り込み、入社3年以内の離職率は50%から10%に減少しました。

事例(3):採用時の配慮と適性配置によるリテンションマネジメント|人材サービス会社Y社

山本教授:3つ目は、東京都内にある人材サービスY社です。苦労して採用した、AI領域の開発技術をもつ専門性の高い若手エンジニアの離職が問題でした。

ここでは「採用時の配慮」と「適性配置」の2つでリテンションマネジメントをしました。

情報をすべてオープンにして、業務内容や勤務時間などのとくに厳しい部分を意識的に伝えたそうです。この企業では働き方改革が進んでいて、「全体的に残業時間は減少しているが、仕事の特性上、12月だけは残業が増えてもよいか?」と一人ひとりに確認して、相手の表情を見て、本当に納得しているかを確認してから採用したそうです。

転職者の体験入社も実施しました。配属予定部署で1週間ほど仕事をして、今までのキャリアを活かせるのか、転職希望者に考えてもらいました。また配属予定部署でも、転職希望者が、風土やほかのメンバーと協調して仕事を進められるのかを確認したあとに、採用の合否を最終決定したそうです。

採用時の配慮と適性配置によるリテンションマネジメント事例

また、適性配置についても実施しました。自社ツールを活用した「客観性の高いアセスメント」「自己申告」「周囲の社員からの定性情報」を活用して、配置を検討しました。とくに自己申告を重視して、適性配置に努めた結果、リテンションに効果があったそうです。

事例(4):新入社員研修期間を3倍+研修風景のDVDを家族に送付。入社3年以内の離職率10%以下に|株式会社アイネット

山本教授:4つ目は、若手社員の離職が問題となっていた株式会社アイネットというITサービスの会社です。

この企業でも研修をテコ入れした事例になります。新入社員研修の期間を2か月から6か月に延長するとともに、フォローアップ研修も3年間実施しました。そして、社内インターン制度で、採用職種がバックオフィス、エンジニア問わず、原則として全事業部の業務を経験して、適性を判断したあとに初任配属先を決めたそうです。

研修期間の延長によるリテンションマネジメント事例

何人かの人事担当者にヒアリングすると「初任配属は博打だ」という方もいらっしゃいました。内定段階で適性は見ていると思いますが、やはり完全にはわからないので、実際に業務を経験してもらったほうがよいでしょうね。

ほかの特徴的な取り組みは、新入社員が研修の様子を撮影して、DVDで家族に送付したそうです。最近「親確(オヤカク)」という言葉もありますよね。少子化ですから、親御さんとの結びつきが強い方もいるので、仕事風景を見れば家族も安心するでしょう。家族が喜ぶと、本人も「よい会社なんだな」と思うそうです。

IT系企業で40~50人を採用して、3年以内の離職者が3~4人というのは非常に低い数字だと思います。

事例(5):時短勤務期間の延長とシフト固定、復職手当で正社員の残業時間削減と女性従業員の定着率が向上|菓子製造小売会社W社

山本教授:5つ目は、お菓子製造小売会社です。2つの問題がありました。

1つ目の問題は「お子さんの小学校入学にともなう女性従業員の退職」です。2つ目は、30代の中堅従業員の退職。50~60代の従業員の退職にともなって、後継の中堅社員が育っていないことが問題となっていました。

この企業では、労働時間の改善と福利厚生制度の改定でリテンションマネジメントを実施しました。実施した施策で注目すべきは、「シフトの固定」です。本来、シフトは柔軟なほど人材は集まりやすくなる傾向にあります。多くの企業では、シフトの穴を責任者である正社員が埋めており、残業が増えて退職してしまうケースが見られます。

正社員である店長のリテンションを取るか、非正規従業員の大多数が占める店員の利便性を取るかを選ぶことになり、この企業では、シフトの固定により正社員である店長のリテンションを選びました。

シフトの固定により、責任者もある程度休めるようになりました。その一方で、学生を含む、非正規従業員の応募は一時的に減ったそうです。

労働時間管理と福利厚生制度改革によるリテンションマネジメント事例

また、時短勤務は小学校卒業まで延長できるように制度を変更しました。ほかにも「復職者手当」を支給したのです。理由を問わず、復職者に対して必ず手当を支給したことが、女性従業員のリテンションに効果的でした。

この企業の女性従業員は「会社が『わが社では女性社員の終身雇用ができますね』と言ってくれたのがうれしかった」とおっしゃっていました。

事例(6):人材定着の分析部門を設置。経営層への問題提起でリテンションが成功|携帯電話等小売会社M社

山本教授:6つ目は、京都にある携帯電話の小売会社で、経営陣を巻き込んで成功したリテンションの例です。

この企業では、女性は結婚・妊活・出産、男性は介護を理由にした離職が多かったそうです。戦略的観点から、経営陣を本気にさせたことが大きかったと担当者はおっしゃっていました。もともと「同業他社に比べて、なぜ当社では退職者が多いのか」という、経営層の問題意識が高かったんですね。

取り組み前は、分析する部署が人事部門になかったため、離職理由を把握していませんでした。そこで人事部門内に担当部署を設置し、理由も含めて離職に関するデータの集計・分析をしたことで、「どの時期に、誰が、どのような理由で退職するのか」について、経営層の理解が進みました。

そして、短時間正社員制度導入と同時に、「当社は社員の定着を重視する会社だ」と、ありとあらゆるパブリシティの場・媒体で経営層が明言したそうです。

経営陣の意識と行動変革によるリテンションマネジメント事例

トップが「定着を重視する会社」と公言しているのに、定着率があがらない、リテンションが成功しないというのは、人事など周りの責任になるので、必死に施策に取り組んだそうです。

とくに中小規模の企業では、経営層が本気になるかどうかが重要だと思う事例でした。

経営層がリテンションマネジメントの重要性に気づく活動がカギ

ーー理想は経営層が自ら気づくことですが、そうでなければ人事担当者から経営層への提言がポイントになりますね。

山本教授:同じ業界の事例をご存知の企業は多いと思いますが、他業界の成功例には、参考にするべきポイントが多くあります。人事担当者は、退職に関する専門知識やデータ、知見をもっています。CHOやCHROがいれば、発言権をもって経営者に直接提言できるので、今後は経営者へ提案する仕組みの構築も必要かと思います。

退職管理として、退職理由の把握が重要です。イグジットインタビューという退職時面談で、外部のキャリアコンサルタントも巻き込んで、内部・外部の人材の両面からリテンションマネジメント施策を検討していくべきでしょう。

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株式会社SmartHR コンテンツマーケティングユニット所属。雑誌編集者、クリエイティブディレクターを経験したのち、2022年3月より「SmartHR Mag.」「SmartHR ガイド」の編集に携わっています。
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