こんにちは、社会保険労務士の吉田崇です。
3月に可決された「雇用保険法改正」で、期中に雇用保険料率の引き上げが10月に実施されます。ここ5年ほど、低水準での据え置きが続いていた雇用保険料率ですが、2022年4月より引き上げられました。まず4月から事業主負担分のみ0.05%引き上げられ、その後10月からは労働者負担分、事業主負担分ともに0.2%ずつ引き上げられます。
今回はイレギュラーな2段階での引き上げとなりますので、年度更新への影響、注意点も解説していきます。
10月以降は何が変わる?
雇用保険料率の引き上げ理由は、大体お察しかとは思いますがコロナですね。コロナ禍における企業への休業対策として特例措置が設けられ、企業および雇用の存続に大いに役立ってきた雇用調整助成金ですが、この財源には雇用保険料が使われています。長引くコロナ禍で雇用調整助成金を申請する企業が急増し、財源である雇用保険の積立金も底をつくことが予想され、保険料を引き上げざるを得ない状況となってしまいました。
では、雇用保険の料率について見てみましょう。表の通り2022年4〜9月までの料率においては、「雇用保険二事業」の料率のみが前年度より0.5/1000(0.05%)引き上げられます。ついで10月からは「失業等給付」「育児休業給付」の保険料率が、労働者・事業主負担とも2/1000(0.2%)ずつ引き上げられます。
雇用保険二事業とは、失業予防、雇用機会の増大、労働者の能力開発などを支援する事業です。従業員に直接給付されるのではなく、前述した対策を講じる企業の支援に用いられる財源で、今回の料率引き上げの原因となった雇用調整助成金もここから出ています。なお、保険料は会社のみが負担します。
「失業等給付」「育児休業給付」については、読んで字のごとく失業手当や育児休業中に給付される育児休業給付金などに用いられます。介護休業中に給付される介護休業給付金や再就職手当なども、こちらから給付されます。こちらについては労使で折半して負担します。
「ん? 雇用調整助成金の使い過ぎで財源がピンチなら、雇用保険二事業の料率のみアップすればいいんじゃないの」と思いませんか?
実は、雇用調整助成金の給付に雇用保険二事業の積立金だけでは足りなくなって、「失業等給付事業」の積立金からも借りてしまったんですね。その結果「失業等給付事業」の積立金の残高もそろそろ厳しくなってきたということで、今回の引き上げとなったわけです。
給与計算に影響が出るのは10月以降適用の雇用保険料率
では、今回の引き上げで実際どのくらいのお金がお財布から出ていくのか見ていきましょう。
例えば月収30万円の従業員の場合、4〜9月については、会社負担分が月額150円増えます。従業員負担分は前年度と変わりません。
10月からは会社負担分がさらに月額600円増えます。前年度からは月額750円増えたことになります。月収30万円の従業員が20人いる事業所だと、それだけで前年度と比較して月額15,000円の保険料の増加になります。個人単位では数百円の増加でも、従業員数が増えるとやはりそれなりの額になりますね。
また10月からは従業員負担分も月額600円増えます。月額600円の増加とはいえ、あらゆるものが値上げされている昨今、さらに給与から引かれるお金が増えるのは、厳しいものがありますね。600円あればコンビニでビールとおつまみが買えますよ。600円あればちょっとオシャレなスイーツが買えますよ。600円あれば……。
雇用保険料控除の変更時期について
では、給与から新しい保険料率を適用した雇用保険料を控除するタイミングはどのようになるでしょうか。4〜9月分については、従業員負担分は前年度からの変更はありませんので、従来通りで問題ありません。
10月からの従業員負担分の増加についてですが、締日ベースで判断することになります。つまり、
という具合です。
2022年度年度更新での概算保険料は?
今回の2段階での保険料引き上げに関して企業側が注意すべきは、2022年度の年度更新における概算保険料の申告です。
年度更新とは前年度の労働保険の確定保険料の申告、清算および新年度の概算保険料の納付(新年度に、およそかかるであろう労働保険料を申告し前払いしておく)のために、毎年6月1日から7月10日(2022年度は7月11日)までに行う手続きのことです。
この概算保険料において、2022年度は年度内に雇用保険の料率変更が行われるために、2022年4月1日から9月30日までの概算保険料額と、2022年10月1日から2023年3月31日までの概算保険料額をそれぞれ計算し、その合計額を2022年度の概算保険料(雇用保険分)として申告・納付することになります。少しややこしいですね。
おわりに
2022年度は途中で雇用保険料率が変わるイレギュラーな年度となります。10月以降の新料率が適用された給与を支払うにあたり、事前に従業員に周知しておくのがベターでしょう。また、賃金の締切日と料率の変更のタイミングが正しいかの確認も、今年の年度更新の手続き時に一度確認されるのがよろしいかと思います。
コロナ禍において、雇用調整助成金のおかげで助かったという企業や従業員も多いでしょう。それゆえ今回の保険料率引き上げは致し方ないとはいえ、賃金がいくら少し上がっても、それ以上に控除される金額が増えるとなると、従業員のモチベーションも下がってしまいますね。
今回の雇用保険料の引き上げをきっかけに、今後ますます新しい雇用の形や働き方が模索されていくかもしれません。