雇用保険料率を社労士が解説。2022年法改正による引き上げのポイント

こんにちは、社会保険労務士の吉田崇です。

雇用保険とは、労働者が失業または休業した場合に必要な給付を行なうことで、労働者が安心して暮らせるよう生活の安定を図るとともに、再就職の支援をする公的保険制度です。

2022年3月に可決された「雇用保険法改正」で、期中に雇用保険料率の引き上げが10月に実施されます。ここ5年ほど、低水準での据え置きが続いていた雇用保険料率ですが、2022年4月より引き上げられました。まず4月から事業主負担分のみ0.05%引き上げられ、その後10月からは労働者負担分、事業主負担分ともに0.2%ずつ引き上げられます。

今回はイレギュラーな2段階での引き上げとなりますので、年度更新への影響、注意点も解説していきます。

雇用保険とは?

冒頭で述べましたように、雇用保険とは労働者が失業または休業した場合の生活の安定を図る公的保険制度です。

パート、アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、労働者を1人でも雇用している企業は、農林水産の事業の一部を除き、強制的に会社として労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続きをする必要があります。

雇用保険の加入対象となる労働者の条件は以下となります。

  • 31日以上雇用される見込みがあること
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上であること

なお、昼間学生や会社役員など、上の条件を満たしていても原則、雇用保険の加入対象とならない場合もあります。

雇用保険に加入することにより、労働者は失業した場合に失業手当をもらえたり、育児や介護で仕事を休まざるを得ない場合に給付金がもらえたりします。
また、企業に支給される助成金なども、雇用保険を財源にしたものが多くあります。

雇用保険料率について

事業ごとに変わる雇用保険料率

雇用保険は、毎月の賃金額に雇用保険料率を掛けて保険料を算出しますが、この雇用保険料率は事業の種類によって異なり、以下のように3つの業種に分類されます。

  • 一般の事業
  • 農林水産・清酒製造の事業
  • 建設の事業

料率としては、一般の事業が一番低く、ついで農林水産・清酒製造の事業となり、建設の事業の保険料率が最も高くなります。では、どうして業種によって保険料が異なるのでしょうか?

これは料率が高い業種の方が、失業する可能性が高いという特徴をもっているためです。つまり、失業手当の受給など雇用保険を利用する可能性が高いといえるため、料率が高く設定されています。

例えば建設の事業などの場合、有期事業として現場ごとに契約期間の定めのある雇用契約を結ぶケースが多く、雇用の継続が不安定になりがちです。

また農林水産・清酒製造の事業の場合、季節によって仕事が途絶える期間が発生する労働者が存在します。

建設の事業の場合は、一般の事業と比べ、建設業独自の助成金や一般の事業でもらえるものに上乗せして支給される助成金が多いため、保険料率が高く設定される要因となります。

2022年(令和4年度)10月以降の雇用保険料率は2段階で引き上げ

雇用保険料率の引き上げ理由は、大体お察しかとは思いますがコロナですね。コロナ禍における企業への休業対策として特例措置が設けられ、企業および雇用の存続に大いに役立ってきた雇用調整助成金ですが、この財源には雇用保険料が使われています。長引くコロナ禍で雇用調整助成金を申請する企業が急増し、財源である雇用保険の積立金も底をつくことが予想され、保険料を引き上げざるを得ない状況となってしまいました。

では、雇用保険の料率について見てみましょう。表の通り2022年4〜9月までの料率においては、「雇用保険二事業」の料率のみが前年度より0.5/1000(0.05%)引き上げられます。ついで10月からは「失業等給付」「育児休業給付」の保険料率が、労働者・事業主負担とも2/1000(0.2%)ずつ引き上げられます。

令和4年度雇用保険料率のご案内

(出典)令和4年度雇用保険料率のご案内 – 厚生労働省

雇用保険二事業とは、失業予防、雇用機会の増大、労働者の能力開発などを支援する事業です。従業員に直接給付されるのではなく、前述した対策を講じる企業の支援に用いられる財源で、今回の料率引き上げの原因となった雇用調整助成金もここから出ています。なお、保険料は会社のみが負担します。

「失業等給付」「育児休業給付」については、読んで字のごとく失業手当や育児休業中に給付される育児休業給付金などに用いられます。介護休業中に給付される介護休業給付金や再就職手当なども、こちらから給付されます。こちらについては労使で折半して負担します。

「ん? 雇用調整助成金の使い過ぎで財源がピンチなら、雇用保険二事業の料率のみアップすればいいんじゃないの」と思いませんか?

実は、雇用調整助成金の給付に雇用保険二事業の積立金だけでは足りなくなって、「失業等給付事業」の積立金からも借りてしまったんですね。その結果「失業等給付事業」の積立金の残高もそろそろ厳しくなってきたということで、今回の引き上げとなったわけです。

雇用保険財政と執行状況

(出典)雇用保険財政と執行状況 – 厚生労働省(p.3)

保険料率引き上げの背景

雇用保険料率の引き上げ理由は、大体お察しかとは思いますが新型コロナウイルスの影響です。

コロナ禍における企業への休業対策として特例措置が設けられ、企業および雇用の存続に大いに役立ってきた雇用調整助成金ですが、この財源には雇用保険料が使われています。長引くコロナ禍で雇用調整助成金を申請する企業が急増し、財源である雇用保険の積立金も底をつくことが予想され、保険料を引き上げざるを得ない状況となってしまいました。

給与計算に影響が出るのは10月以降適用の雇用保険料率

では、今回の引き上げで実際どのくらいのお金がお財布から出ていくのか見ていきましょう。

例えば月収30万円の従業員の場合、4〜9月については、会社負担分が月額150円増えます。従業員負担分は前年度と変わりません。

10月からは会社負担分がさらに月額600円増えます。前年度からは月額750円増えたことになります。月収30万円の従業員が20人いる事業所だと、それだけで前年度と比較して月額15,000円の保険料の増加になります。個人単位では数百円の増加でも、従業員数が増えるとやはりそれなりの額になりますね。

また10月からは従業員負担分も月額600円増えます。月額600円の増加とはいえ、あらゆるものが値上げされている昨今、さらに給与から引かれるお金が増えるのは、厳しいものがありますね。600円あればコンビニでビールとおつまみが買えますよ。600円あればちょっとオシャレなスイーツが買えますよ。600円あれば……。

雇用保険料の計算方法

では、10月1日より適用される新保険料率を元に、一般、農林水産・清酒製造、建設それぞれにおける雇用保険料を計算してみましょう。

一般の事業の雇用保険料計算方法

一般の事業の場合では雇用保険料率は、労働者5/1,000、事業主8.5/1,000になります。

労働者の給料が20万円の場合、以下のとおりとなります。

  • 労働者負担:20万円×5/1,000=1,000円
  • 事業主負担:20万円×8.5/1,000=1,700円

※2022年10月1日から2023年3月31日の雇用保険料率(2022年3月時点)

事業の種類 (1)労働者負担 (2)事業主負担 (1)+(2)の雇用保険料率
一般の事業 5/1,000 8.5/1,000 13.5/1,000

農林水産・清酒製造の事業の雇用保険料計算方法

農林水産・清酒製造の事業の場合では、労働者6/1,000、事業主9.5/1,000になります。

労働者の給料が20万円の場合、以下のとおりとなります。

  • 労働者負担:20万円×6/1,000=1,200円
  • 事業主負担:20万円×9.5/1,000=1,900円

※2022年10月1日から2023年3月31日の雇用保険料率(2022年3月時点)

事業の種類 (1)労働者負担 (2)事業主負担 (1)+(2)の雇用保険料率
農林水産・清酒製造の事業 6/1,000 9.5/1,000 15.5/1,000

建設の事業の雇用保険料計算方法

建設の事業の場合では、労働者6/1,000、事業主10.5/1,000になります。

労働者の給料が20万円の場合、以下のとおりとなります。

  • 労働者負担:20万円×6/1,000=1,200円
  • 事業主負担:20万円×10.5/1,000=2,100円

※2022年10月1日から2023年3月31日の雇用保険料率(2022年3月時点)

事業の種類 (1)労働者負担 (2)事業主負担 (1)+(2)の雇用保険料率
建設の事業 6/1,000 10.5/1,000 16.5/1,000

なお、端数が出た場合の保険料については、計算の過程で1円未満の端数が出た際には、労働者分の雇用保険料を源泉で控除する場合、「50銭以下の場合は切り捨て、50銭1厘以上の場合は切り上げ」として処理します。

※ただし、労働者が現金で支払うときは50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げ

例えば、給与総額が211,111円の場合、一般の事業の労働者負担分に関する雇用保険料の計算は以下のようになります。

  • 211,111円×5/1,000=1055.555円

50銭1厘以上は切り上げなので、1,056円を給与から控除します。

雇用保険料控除の変更時期について

では、給与から新しい保険料率を適用した雇用保険料を控除するタイミングはどのようになるでしょうか。4〜9月分については、従業員負担分は前年度からの変更はありませんので、従来通りで問題ありません。

10月からの従業員負担分の増加についてですが、締日ベースで判断することになります。つまり、以下のようになります。

例1)当月締め・当月払いの場合

締日:10月20日/支払日:10月31日→10月の料率(新料率)で計算

例2)当月締め・翌月払いの場合

締日:9月30日/支払日:10月15日→9月の料率で計算

 

2022年度年度更新での概算保険料は?

今回の2段階での保険料引き上げに関して企業側が注意すべきは、2022年度の年度更新における概算保険料の申告です。

年度更新とは前年度の労働保険の確定保険料の申告、清算および新年度の概算保険料の納付(新年度に、およそかかるであろう労働保険料を申告し前払いしておく)のために、年6月1日から7月10日(2022年度は7月11日)までに行う手続きのことです。

この概算保険料において、2022年度は年度内に雇用保険の料率変更が行われるために、2022年4月1日から9月30日までの概算保険料額と、2022年10月1日から2023年3月31日までの概算保険料額をそれぞれ計算し、その合計額を2022年度の概算保険料(雇用保険分)として申告・納付することになります。少しややこしいですね。

雇用保険料引き上げを機会に、新たな雇用、働き方の形を模索していきましょう

2022年度は途中で雇用保険料率が変わるイレギュラーな年度となります。10月以降の新料率が適用された給与を支払うにあたり、事前に従業員に周知しておくのがベターでしょう。また、賃金の締切日と料率の変更のタイミングが正しいかの確認も、今年の年度更新の手続き時に一度確認されるのがよろしいかと思います。

コロナ禍において、雇用調整助成金のおかげで助かったという企業や従業員も多いでしょう。それゆえ今回の保険料率引き上げは致し方ないとはいえ、金がいくら少し上がっても、それ以上に控除される金額が増えるとなると、従業員のモチベーションも下がってしまいますね。

今回の雇用保険料の引き上げをきっかけに、今後ますます新しい雇用の形や働き方が模索されていくかもしれません。

よしだ経営労務管理事務所代表。関西を中心に、社長と従業員が安心して働ける職場環境作りをモットーに多くの事業所と顧問契約し、 労務管理で成果を上げる。通常の社労士業務の他に、集客、ブランディングコンサルタントとしての実績も多数。一級カラーコーディネータの資格を有し、ポスターやロゴ等のデザイン業務やWeb制作も行う個性派社労士。よしだ経営労務管理事務所 公式サイト
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