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3か月に1度は全社員が集合。対面機会の創出が起こす化学反応

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“パーパスを実践する企業の挑戦 人手不足時代を乗り越える” をテーマに2日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Agenda #4」。さまざまなゲストをお招きし、「パーパス経営」「DX」についてのセッションを開催しました。

「DXでパーパスを加速・持続可能に」がテーマのDAY2では、「人事業務効率化のその先は?社内コミュニケーション設計で帰属意識向上へ」と題し、3年をかけてこだわり抜いた社内コミュニケーション設計の事例をご紹介しました。登壇したのは、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社の渡辺 歩さん、小原 幸浩さんです。

  • 登壇者渡辺 歩 氏

    ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社 HRマネージャー

    新卒でJR東日本に入社し、電車の運転士や人事業務を経験。2012年にケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズにコンサルタントとして入社し、クライアントの業務改革・システム導入を支援。2018年から人事に転向し、社内の人事制度設計やオンボーディング支援、業務・システム改善に取り組んでいる。

  • 登壇者小原 幸浩 氏

    ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社 組織開発担当

    新卒でケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズに入社。 コンサルタントを5年経験した後、人事に転向。組織開発担当として人事評価制度の見直しや組織サーベイの実施、DE&Iの普及活動、社内コミュニケーション設計などを手がける。

リモートワークの課題は「関係性の固定化」

渡辺さん

ケンブリッジは2021年5月にSmartHRを導入し、人事・労務業務のプロセスを見直しました。その結果人事・労務の社内インフラが整備され、さまざまな変革にチャレンジできるようになりました。なかでも今日は、社内コミュニケーション設計についてお話します。

ケンブリッジでは職種を問わず、対面とリモートを組み合わせたハイブリッドワークを続けています。これは言い換えれば、コミュニケーション上の課題に向き合い続ける道を選んだということです。「雑談がしにくい」「部下が何をしているのか把握しにくい」「新入社員の名前と顔が一致しない」といった課題は、皆さんも心当たりがあるでしょう。私たちは、こうしたリモートワーク下のコミュニケーション課題の本質を「社内の関係性が固定化され、状況を相対比較できず、社員個人の悩みが濃縮化されてしまうこと」だと考えています

リモートワークにおけるコミュニケーションの課題を紹介するスライド

リモートワークでは、コミュニケーションの経路が同じ部署やチームのメンバーに限定されがちです。要件以外の話をしにくいオンラインミーティングでは、ほかの人の仕事の進め方を偶然見聞きする機会も少なくなるでしょう。

その結果、小さなトラブルがあちこちで起きはじめます。仕事がうまくいかないのは自分だけだと感じたり、上司からフィードバックを受けてもどこから変えればいいのかわからず、行き詰まってしまったり。こうした状況を改善するには、対面の機会を活用し、固定化された関係性を解きほぐす必要があると考えました。

「N対N」だから活きる新入社員支援の仕組み

渡辺さん

人事が対面の機会を進んで設計することで社員を巻き込み、組織への理解を深めてもらう。そのためのコミュニケーション設計事例を2つご紹介します。1つ目は、新入社員定着支援の仕組み「オンボーディング・チーム」です。

小原さん

オンボーディング・チームは、有志の先輩社員が新入社員を1年間サポートする仕組みです。新入社員3〜4人に2人の先輩がついて班を形成します。先輩社員は社内のチャットツールでグループをつくり、新入社員からの素朴な質問に真摯に答えます。また、月1回のミーティングを開催し、悩みを共有したりアドバイスし合ったりします

オンボーディング・チームの仕組みを説明するスライド

渡辺さん

オンボーディング・チームに対する新入社員の反応はどうですか?

小原さん

「視点の違う意見をもらえるのがありがたい」という感想をいただいています。ほかの人と話すことで「みんなもここに悩むんだ」と安心できたり、「いま大変なのはこのプロジェクト特有なんだ」と悩みが軽くなることってありますよね。このように、自分の経験を相対化できるのがオンボーディング・チームのよさだと思います。

渡辺さん

オンボーディング・チームの制度設計のポイントを教えてください。

小原さん

1対1ではなくN対Nだということです。個人と個人ではなく、チームで助け合う関係性にこだわりました。新入社員からすると、2人の先輩という相談先を確保しつつ、同期とのつながりも維持できます。先輩よりも同期に相談したい場合にも対応できます。

N対Nの関係性は、先輩社員の負担軽減にも効果的です。かつて1対1のメンター制を採用していたころは、役割の重さを訴える先輩社員が多かったんです。悩みを解決するのは自分しかいないとなると、やはり負担が大きくなります。N対Nの関係性をもち、チームで助け合うことで、その負担がうまく分散されていると感じています。

オンボーディング・チームの制度設計のポイント3つを紹介するスライド

また、先輩社員が立候補制であること、1年間限定のチームという点も大事なポイントです。1対1のメンター制だった頃は、人事が先輩社員を指名してオンボーディング・チームに参加してもらっていました。そうするとやる気のある人は積極的ですが、そうでない人は形ばかりのメンターになってしまうことが多かったんです。立候補制であれば、やる気のある人だけにお願いできますし、1年間限定であれば息切れせずに走り切ってもらえるようになりました。

人事としても、メンター探しに困ることがなくなりました。面倒見のいい人には、どうしても集中してメンターをお願いしたくなってしまいます。その結果、特定の人に負担が集中するのが気になっていました。1年間と期間を限定することで負担が減り、「またやってもいいよ」という人が増え、メンターが枯渇しないのは非常に助かっています。まさに制度設計の妙ですね。

オンボーディング・チームの担う役割は、あくまでも「水先案内人」としています。新入社員の悩みをオンボーディング・チームがすべて解決する必要はなく、解決してくれそうな人につないでもらうことを主なミッションにしているのです。これによって若手社員でもオンボーディング・チームの先輩役を担いやすくなりました。「オンボーディング・チームはいい仕組みだった」と思った人が翌年のオンボーディング・チームに立候補してくれるという返報性のサイクルが生まれています。

オンボーディング・チームにおける人事の役割は「サポート・レベルの調整」だと思っています。「こうしてください」と具体的な指示をすると、負担感が大きくなってしまう。かといって、ただ集まって話すだけでは狙った効果が出ない。そこで「最低限これはやってください」「すべての質問に答えられなくても大丈夫です」という先輩社員の構え方を示したガイドラインを魂を込めて作り、どのくらいのレベルでサポートすればよいかを伝えています

今では若手社員を中心に「オンボ」の略称が定着しており、仕組みが形骸化せずに浸透したんだなと実感します。

渡辺さん

「今日は誰かと飲みに行くの?」と聞いたら「オンボです!」と返ってくるやり取りをよく聞くようになりましたよね。

全社員共通の記憶で組織がグッと身近に

渡辺さん

2つ目の事例は、「3か月に1度、全社員が対面で集う場を作る」取り組みです。

小原さん

この取り組みは2022年の夏に「これからは3か月に1度、全社員で一堂に集まります」と社内に宣言したことではじまりました。それまでは、対面で全社員が集まる機会は半年に1度程度でした。しかし、新入社員には入社して3か月以内に「これがケンブリッジ社員だ」という姿を見せたい気持ちがあり、半年のスパンを3か月に短くしたんです。

直近では2024年1月に「鏡開き」を開催しました。このときは、カルチャーの醸成を目的に「ケンブリッジEXPO」「リスペクト・トレーニング」「経営メンバーのお話」「懇親会」の4つのしかけを用意しました。

ケンブリッジが開催した鏡開きの4つの催しを紹介するスライド

渡辺さん

対面の場づくりに対する思いをあらためて教えてください。

小原さん

自分が所属する組織をイメージしたときに思い描くのは、パソコンのミーティング画面ではないと思うんです。熱い議論をかわしたあの人、いっしょに笑ったあの人。組織と結びつくのは、そのような対面の記憶が多いはずです。

渡辺さん

思い出に残るミーティングは、たしかにオンラインより対面が多いですよね。オンラインのミーティングは、対面に比べて情報量が少ないのかもしれません。そのときの議題しか交換できないケースもよくあります。

小原さん

対面なら「ここに置いていたコーヒー、誰がこぼしたの?」と会場がザワついたというような、ささいなことがセットで記憶に残ります。こうした共通の記憶は、組織にとって非常に大事だと思うんです。「去年の集会で……」という話がはじまったときに、自分だけ去年を知らないのはさみしいじゃないですか。でも1年経って「ああ、去年のあのエピソードね」とついていけるようになると、組織がグッと身近になりますよね。

組織を身近にするという意味では、個人ではなく集団としての会社のキャラクターを知ってほしいとも思います。フォーマルなのか、和気あいあいとしているのか、尖った組織なのか。そういった会社のキャラクターを新入社員はもちろん、既存社員にも確認してほしいんです。そこから出てくる「今のケンブリッジでは、自分のコミュニケーションは尖りすぎかな」「昔のような活発なコミュニケーションもほしいな」という感想が、組織や自分のあり方を見直すきっかけになると考えています。

小原さんの対面の場づくりに対する3つの思いを紹介するスライド

長く続けるには「力を抜くこと」も大事

渡辺さん

小原さんは本当に熱い想いをもっているんです。人事チームで話し合いをしているときも今のようなテンションで話しているので、ほかのメンバーはついていくのに必死です(笑)。対面の場の企画や運営のポイントについても、ぜひ教えてください。

小原さん

「集まって話せば何とかなる」ではダメだということです。当日の社員の体験を徹底的にデザインします。誰かが前に出てきてあいさつをしただけでは、共通の記憶にはなりません。どのような情報を交換して、どのようなメッセージを受け取ってほしいか、帰るときにどのような状態になってほしいかをできる限り具体的に設定することが大切です。

対面の場を企画・運営するうえでの3つのポイントを紹介するスライド

一方で、現場社員と人事社員ともに工数を最小限に抑えて息切れしないようにすることも大事です。イベントの企画・運営は、がんばろうと思えばいくらでもがんばれる余地があると思うんです。でも、がんばりすぎると疲れが出て「3か月後!来年も!」という気にはなれません。長く続けることを想定して、「がんばること」と「力を抜くこと」の両立を心がけています

社員も人事も飽きないように、でも息切れしないように。今は役割を分担することで、そのバランスをうまく取れています。このときに大事なのが、一緒に場を作ろうという意識です。人事が社員をおもてなしする、あるいは人事は場を用意するだけという構造では協力関係が築けず、取り組みがうまくいかないからです。

ここまで2つの事例を紹介しましたが、ケンブリッジでは対面の機会を活用することで、ハイブリッドワークのコミュニケーション課題に向き合っています。皆さんも「この取り組みは活用できそう」「ウチではこのようなアレンジが必要かな」と感想を交換しながら、組織への理解を深めていっていただけるとうれしいです。

渡辺さん

コミュニケーションの課題に向き合うことは、カルチャーの醸成に非常に重要です。強力な企業カルチャーは、ケンブリッジの競争力の源泉であり、これが失われることは、事業が成り立たなくなるほどの死活問題です。そうした危機感を経営陣も現場のコンサルタント、私たち人事の皆が肌感覚としてもっています。これからもこのことを忘れず、取り組みを続けていきたいと思います。

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