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コープさっぽろがデジタル化を成功させ、業務効率を上げ続けている理由

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“パーパスを実践する企業の挑戦 人手不足時代を乗り越える” をテーマに、2日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Agenda #4」。さまざまなゲストをお招きし、「パーパス経営」「DX」に関するセッションを行いました。

DAY2の本講演では、「デジタル革命への挑戦 〜コープさっぽろがDX組織化した現在地を語る〜」と題し、業務効率化の柱について共有されました。登壇したのは、生活共同組合コープさっぽろ執行役員CIOデジタル推進本部本部長の長谷川秀樹さんです。

  • 登壇者長谷川 秀樹 氏

    生活共同組合コープさっぽろ執行役員CIOデジタル推進本部本部長/ロケスタ株式会社代表取締役社長

    アクセンチュア株式会社に14年、株式会社東急ハンズに10年、株式会社メルカリに1年所属後、プロCIOとして活動中。小売業や飲食店業のシステム開発の会社としてクラウドファースト株式会社を経営。ブックオフグループホールディングス社外取締役も兼任中。北海道と東京の2拠点生活を楽しんでいる。

  • ファシリテーター各務 茂雄 氏

    株式会社JTB 執行役員 CDXO/iU情報経営イノベーション専門職大学 准教授

    VMware、楽天、Microsoft、AWSなどを経てドワンゴへ移籍。2019年にKADOKAWA Connected代表取締役社長就任。2022年3月に退任後、三菱UFJ銀行デジタルサービス企画部、経営企画部 部長としてMUFGのDXを行い、現在はJTB 執行役員CDXO、GovTech東京 業務理事 CTOとしてDXを推進中。著書に『世界一わかりやすいDX入門』『日本流DX』ほか。

DXのゴールを従業員向けとお客様向けで分けた理由

各務さん:

本講演では、売上3,000億円の流通企業「コープさっぽろ」がDXを推進し、ビジネスの成長にどのようにつなげているか?長谷川さんにお話をうかがいます。DXの実践的なハウツーや押さえておくべきポイントなどが聞けることを非常に楽しみにしています。では長谷川さん、よろしくお願いします。

長谷川さん:

コープさっぽろのCIOを担当している長谷川秀樹と申します。本日は「60年の歴史がある大企業のコープさっぽろでも、ここまでデジタル化は進められるのだ」という実例をもとに、業務の効率化についてお話しします。

まずは、当社のDXにおけるミッション・ビジョンと呼ばれるゴールイメージについてお話します。コープさっぽろでは、組合員と呼ばれるお客様向けと、社内向けの2つに分けて考えています。

CIOミッション

コープさっぽろと関連事業が組合員にとって素晴らしいサービスを提供している。また、従業員も気持ちよく働けるIT環境を提供する。

ゴールイメージ(ヴィジョン)

  • お客様(組合員)向け
    • 毎日の食生活を基本とし、安全安心に楽しみながら暮らしている地域となっている。人それぞれの自分の好みにあったやり方でコープさっぽろを信頼し、活用している。
  • 社内向け
    • 人とのコミュニケーションを重視し、お互いの信頼関係が構築されている。
    • 社内の透明性が高く、誰でも全体把握でき、意見が言える会社となっている。
    • デジタルの推進により、スマホ、iPad、PCにて合理的で気持ちよく働ける環境になっている。その結果として生産性の向上が実現されている。

社内向けに関しては、効率を上げるためにデジタル化をどんどん進める方針です。自身の経験からも、業務効率化や合理化はつらいことではなく、むしろ気持ちよく生産性を上げて働ける環境づくりにつながると感じています。

一方、お客様(組合員)向けには、あえて非効率的なことも行っています。コープさっぽろでは、お客様の半数以上が60歳以上の高齢者のため、無理にデジタル化を進める必要はないと考えているからです。

たとえば、過疎地域を対象に食材や生活雑貨を移動販売している車にはあえてATMを乗せています。デジタル化の視点で見れば、「電子マネーを導入すればよいのでは?」と思われがちです。しかし、電子マネーに不慣れなお客様に一から使い方を説明するよりも、搭載したATMで現金を下ろせる・現金で支払えるほうが、お客様にとっては利便性が高いと判断しています。

コープさっぽろはデジタル化に対する方針が明確

長谷川さん:

それでは、社内向けに推進しているデジタル化についてお話ししていきます。コープさっぽろデジタル化の方針は、一言でいうと、インターネットテクノロジーでリアルビジネスを解決する、です。

採用する技術の選定方針

たとえば、昔は法人向け製品を利用していた分野でも、今はBtoC向けの製品やスマートフォンなどで代用できます。また、グローバルで利用されているようなサービスや技術を活用すれば、単独のメーカーに依存することなく開発が可能です。そして、サーバーについても従来のデータセンター管理を廃止し、大半のデータをクラウドサーバーに移行させています。このように

  • コンシューマー製品へのシフト

  • オープンテクノロジーへのシフト

  • クラウド製品へのシフト

を方針に、採用する技術を選定しています。

セキュリティは最新版へのアップデートを重視

セキュリティについては、セキュリティソフトへの追加投資を検討する前に、OSやミドルウエアなどを常に最新版へアップデートするのが先だと考えています。また、VPNに頼るのではなく、インターネット上でもセキュリティを担保して稼働できる仕組みを整えることが大事です。

スクラッチ開発よりもクラウドサービスを優先

昔のパッケージ型製品は自社に合わせたカスタマイズが必要でした。しかし最近はよいクラウドサービスも出ており、SmartHRなどのSaaS(Software as a Service)や、ノンプログラミングでシステム導入ができるPaaS(Platform as a Service)を優先して利用します。どちらも業務案件に合わない場合のみスクラッチ開発しています。

社員の10分の1をシステム開発ができる人材に育成する「ITの民主化」

長谷川さん:

では「デジタル化のためのシステムを開発するのは誰か」? それは社員です。

コープさっぽろでは、デジタルを利用して業務を改善できる人材を、全社員の10%に増やそうと考えています。そのために、「ITの民主化シフト」を行なっています。従業員を情報システム部に半年間異動させ、自部署の業務改革をデジタル化により実現できる従業員を増やし、生産性を上げることを目的とした取り組みです。

システム開発を学んでもらうのはもちろん、在籍する事業部で改善すべき業務課題も従業員自身に考えてもらうカリキュラムです。現在は6か月かけて実施しています。

また、ノンプログラミング学習には動画サイトも活用しています。ツールの活用方法を解説しているビジネス系動画投稿者とともにセミナーを開催したこともあります。実際にセミナーで手取り足取り教えてもらえて、その人の動画で復習もできる。比較的低コストで実施できるだけでなく、セミナー後の学びも深まるなど、非常にお得な学び方でおすすめです。

アプリケーション導入から始めない。デジタル化の適切なステップ

長谷川さん:

社内のデジタル化を進めていくうえで大事なことを2点お伝えします。まず1つ目は、適切な順番どおりに進めていくことです。

コープさっぽろがデジタル化を進めたステップは以下の通りです。

  • STEP1:テクノロジーインフラを整備する(クラウドサーバーへの移行、ネットワーク・デバイス・セキュリティの整備など)
  • STEP2:コミュニケーションインフラを整備する(オンラインドキュメンテーション、WEB会議、チャットツールの導入など)
  • STEP3:アプリケーションインフラを整備する(AWS上のアプリケーション開発基盤やworkato、appsheetなどPaaSの導入など)
  • STEP4:アプリケーションやシステム自体を整備する(SaaSや、スクラッチ開発システムの導入・運用など)

多くの会社では、STEP4のアプリケーション導入から始めてしまいがちです。しかし、まずは土台となるインフラネットワークから順番に整備することをおすすめします。

2点目は、バックオフィス系のデジタル化でポイントとなる、APIの導入です。たとえば、稟議を上げて承認されたら、次に契約書を作成する流れになりますよね。昔のシステムだと、稟議と契約書は別のワークフローになっていることが多いのではないでしょうか。

しかし、APIが導入されているシステムを使えば、最終稟議が終わったら契約書作成クラウドソフトをAPIで呼び出し、そのまま契約書が作成される、という流れが実現します。システム連動による、スムーズな業務の実現は、API導入の大きなメリットです。

業務を改善する社風を作り出す仕事改革発表会

長谷川さん:

弊社の取り組みのなかで参考になりそうなものを紹介します。まずは2007年から始めた「仕事改革発表会」です。1か月に1~2回ほど行っているもので、1回の開催あたり7~12人が1人7分の持ち時間でプレゼンテーションしています。各自が実施したデジタル化による業務効率化の取り組みや、「〇時間を削減できました」という分析結果を発表します。

仕事改革発表会により、業務で困っていることや効率が悪いことは、すぐに改善する社風ができていると思います。大規模の会社ながらも、システムの刷新や業務改革も柔軟に受け入れられていると感じています。

現在、力をいれるのはAIによる業務効率化

長谷川さん:

AIの活用方法についてもご紹介します。弊社では全社向けに、対話型のAIツールを導入しています。AI導入のポイントは、「利用制限を決めず自由に社員に使わせること」です。

新しいものを導入する時には、どうしてもリスクを考えがちです。しかし、昔は議論されていたインターネットメールも現在では問題なく使っているように、AIに関しても慣れていけば多くの企業がどんどん使うようになると思います。

とくにおすすめなAIの使い方は、クラウド型の表計算ソフトを使った分析です。特定の関数を入れた表計算ソフトを利用すれば、「〇〇のスロット分析の強み / 弱みを3つ教えて」「北海道の人口は」「北海道の観光名所を5つ教えて」などのさまざまな質問に、AIツールが自動で回答を入力してくれます。

また、キャッチコピーの案出しにもAIは有用です。たとえば「スーパーマーケットで売り出すフワフワのデザートのキャッチコピーを5つ考えてください」と入力すれば、AIが自動で回答してくれます。さらに、出てきた回答に対して「ちょっと違うな」と感じるならば、回答の再生成を行うと機械的に回答が返ってきます。自分で考えると時間のかかる作業でも、AIを活用すると迅速に対応できます

さらに、マルチモーダル(画像認識)を活用した外国語の画像解析など、AIの進化には可能性を感じています。AI技術を活用した業務効率化には引き続き取り組んでいきます。

新しい技術を積極的に取り入れて業務効率化を進めよう

長谷川さん:

新しい技術やシステムを取り入れることは、歴史がある大きな会社ほど難しいと思われがちです。しかし、業務を効率化して働きやすい環境を作るためには、積極的に新しい技術を取り入れていくことが必要です。

弊社では、ITの民主化や仕事改革発表会を通して、業務を効率化するための方法を社員一人ひとりが考える社風を作りました。今後は、AI技術も広く一般的に使われる未来が予想されます。仕事を効率的に進めるために、さまざまなテクノロジーを導入してみてはいかがでしょうか。

各務さん:

コープさっぽろでは業務効率化のために、デジタル化による抜本改革が進んでいることがよくわかりました。わくわくするようなプレゼンテーションをありがとうございました。

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