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キャリアアップのつもりが新しい環境に適応できず落ち込む〜自己効力感の醸成〜労務担当者が対応に戸惑いそうな困難事例から学ぶ【Smart相談室】Vol.3 セミナーレポート

公開日
目次

2022年12月21日、オンラインカウンセリングサービス「Smart相談室」を提供する、株式会社Smart相談室主催のオンラインセミナー「労務担当者が対応に戸惑いそうな困難事例から学ぶ#03 キャリアアップのつもりが新しい環境に適応できず落ち込む〜自己効力感の醸成〜」では、Smart相談室スーパーバイザーの鵜飼柔美氏をお迎えし、自己効力感を失いつつある中途採用者への対応についてをお話しいただきました。

セミナー講師鵜飼 柔美 氏

オフィスファーロ 代表

進行藤田 康男 氏

株式会社Smart相談室

話を聴くことで心の壺に隙間をつくる

聴いてもらうことで楽になる理由「安心して思いをあふれさせられる」

鵜飼さん

まずは「なぜ聴いてもらうと楽になるのか」というテーマのおさらいからはじめましょう。聴いてもらうことの効果の1つ目は、心の壺に溜まった思いを安心してあふれさせられることです。不安や思いがけない状況に心がとらわれていると、視野が狭くなりますよね。すると客観的な視点で考えたり判断したりすることが難しくなります。

聴き手はまず、身体的症状、気持ち、困りごとを理解するために傾聴しますが、その共同作業のなかで、相談者は徐々に自分を客観視できるようになってきます。そうすればやがて相談者さんは自力で解決していけるようになっていきます。

聴いてもらって楽になる理由は「わかってもらえて独りではない気になれる」から

鵜飼さん

2つ目は独りではないという気持ちになることです。よく洞窟探検にたとえるのですが、一人での探検は孤独で不安な作業になります。そんなときに「独りじゃない」と思えるのは非常に心強く、もう一歩奥へ進んでみようと思えますよね。

効果的な聴き方は「聞こえるものの内容を理解しようという姿勢で聴く」こと

鵜飼さん

相談者の話を「きく」とき、効果的な「きき方」と効果が薄い「きき方」があります。赤い字で書いてある「聴く」は、パートナーシップをつくって作業同盟を組むために効果的なコミュニケーションをさします。聞こえているだけではなく、「内容を理解しようという姿勢で聴く」のが傾聴です。

思いを共有してもらうことで心にゆとりができ、アドバイスを受け入れてもらえるようになる

鵜飼さん

解決への一手として、アドバイス自体は悪いことではありません。しかし相談者の心にアドバイスが入る隙間がなければ受け入れて行動してもらうことは難しいでしょう。アドバイスをする聴き手側にとっても、相手のことをよく知らないと適切な提案はできません。まずはご事情や気持ち、奥にある心情までを相手の世界線で理解することを大切にしてください。

転職後に結果が出せず悩んでいる中途採用者の相談事例

鵜飼さん

今回は「キャリアアップのつもりが、新しい環境に適応できず落ち込む中途採用Cさんの事例」をとおして、自己効力感の醸成についてポイントを絞って話していこうと思います。

これは、いくつかの事例をもとにつくった架空の事例で、特定の人物やご相談を示すものではないことをご承知おきください。Cさんは20代の男性、転職して4か月の方です。

転職先で結果を出せていないCさんの事例

鵜飼さん

丸いかっこは非言語の表現なのですが、「(よろしくお願いしますと礼儀正しく挨拶する)」といったような所作にも私たちは注目しています。パーソナリティを理解するうえで役に立ちますからね。

内容は「転職して4か月が経ったものの、成果を思うようにあげられないことや、抱えている問題、不動産業界を志した理由などです。どんどん焦りが大きくなっていることを訴えていますね。

聴くときの注意点は「Cさんに対する批判、否定などが生まれると聴けなくなってしまう」

鵜飼さん

ロウムさんの立場で気をつけていただきたいのは、「甘えるな」「もう向いてないんじゃないの?」のような批判、否定の気持ちを抱えないことです。その人のことを理解するためには、耳だけではなく目と心まで使って傾聴してください。ここで藤田さんに質問なのですが、Cさんについてどう感じましたか?

藤田

僕は、「向いていないのではないかな」と思ってしまいました。Cさんの若さゆえに甘えの気持ちがあるのではとさえも思います。

鵜飼さん

私たちはつい、経験が浅い人や年下の方には成長してほしいという気持ちから、そのように思ってしまうことがあります。でも、自分たちとは時代背景が異なる人たちと働くためには、理解し合う努力をしなくてはなりません。

相談対応のステップで地下水脈を見つける

相談対応は「相談者の世界で理解する」「問題の本質を理解する」「解決の方法を一緒に考える」のステップで進めるのがポイント

鵜飼さん

相談対応のステップに当てはめて考えてみましょう。その人のパーソナリティを踏まえて、「何が起こったのか」「なぜそれが長引いているのか」を理解します。問題の本質とは、相談者が話すエピソードとエピソードをつなぐ、地下水脈のようなものだと私は捉えています。問題の本質に気がつくことで、同じような悩みを繰り返しにくい状態になっていきます。それは成長とも呼べますし、キャリア形成の観点からも自分がアップロードされたように感じられるかもしれません。

1つ目のステップ「Cさんの世界を理解する」は「身体的な症状をどう訴えているか」「心理、感情をどう訴えているか」「どういう環境に置かれているか」から推察する

鵜飼さん

Bio、Psycho、Socialの3つの観点に着目し、Cさんの状況や心情を理解しましょう。Cさんの語りのなかには沢山の情報が含まれています。聴き手側はパズルのピースのように、情報を受け取ることを意識して傾聴してください。

Cさんの訴えから推察するのがポイント

(1)身体的な症状をチェックする「Bio」

鵜飼さん

Bio、Social、Psychoに当てはまる部分に色をつけてみました。

まずBioのところでは身体的に腹痛が出現しています。Cさんはその原因を、ゆううつであることと結びつけて語っています。語りのなかでは、自分の内面を数多く表現してくださっています。最初の仕事は「なんとなく入職した」とおっしゃっていましたが、「もっと広い世界で自分を試したい」「大きな額を動かす」「一生に何度もする買い物ではない仕事に燃えた」と、やる気があったような発言をしていますね。しかし現状は焦りや戸惑い、困惑、不安などの気持ちがあるようです。やれると思っていたことがやれず、自己効力感の低下を招いたと考えられます。

(2)置かれている環境を確認する「Social」

鵜飼さん

Socialではどういう環境に置かれているかを確認します。Cさんは、以前の職場と今の職場の違いについて語っています。以前は一つひとつ仕事を教えてもらうなど、可愛がられている感じがしますね。礼儀正しさも可愛がられた要因かもしれません。しかし今は「自分で考えろ」という環境に置かれており、大きな違いに直面しているといえます。おもちゃのレゴにたとえると、「設計図どおりにつくるよう指示される環境」か、「好きな作品をつくりなさい」という環境かの違いに当てはまるでしょう。

「自由につくってよい」という環境を喜ぶ人もいれば、困惑してしまう人もいます。私は前者なので、提案することを楽しいと感じます。逆に「このとおりにやりなさい」と言われると、シュンとしてしまい、集中力が下がってしまうんですよね。Cさんは私のような性格ではないのか、慣れていないだけなのかわかりませんが、現在の環境では、うまく自分の力を発揮できていないことがわかると思います。

問題の本質は何か、仮説を立てる

感情の奥にある心情から真の問題を推察する

鵜飼さん

次に問題の本質を考えていきます。相談者が語った情報をもとに、「心情やこの人らしさ」「見落としているもの」「不足しているもの」などを考えていきます。心情では、高いモチベーションを持っていながらも、うまくいかない現状に大きなショックを抱えていると仮説を立てられます。

相談者の特性からも真の問題を推察する

鵜飼さん

次に「この人らしさ」です。前職でのエピソードを踏まえると、少なくとも教えてもらったことは、しっかりとこなせる力があると考えられます。しかし、自分で新しく考えたり、「よきにはからえ」と裁量のなかで進めたりすることは苦手か、未開発な能力なのかもしれません。深いところまではまだ分かりませんが、創意工夫が必要な会社に適応しきれていないとわかります。

問題を長引かせている要因から仮説を立てる

鵜飼さん

問題を長引かせている要因を考えるときは、ここまでで推察した内容から仮説を立てます。「ショックが大きくて焦って、さらにどんどん落ち込んでいる」こと。そして「職場環境の違いに戸惑って、新しい環境に適応できていない」ことが考えられると思います。

自己効力感を回復するように支援するには

立てた仮説にもとづいて解決方法を一緒に考えていく

鵜飼さん

焦りのスパイラルから、どう抜け出していくかを一緒に考えていきましょう。先ほど立てた仮説を乗り越えていただくために、聴き手ができることは2つです。

1つはショックへの対応です。やる気が空振りしたときのショックは、ハシゴを外されたような空しさがあります。その気持ちを共感的に理解し、「ひとりぼっちではない」とわかってもらいましょう。あるいは、吐き出したい不安な気持ちをしっかり理解して受け止めることが、今すぐにできる支援です。

もう1つは自己効力感の回復です。できれば今の職場に適応し、挫折を乗り越えてもらいたいですよね。本人の新たな可能性を見つけてキャリア形成にもつながれば、会社としても生産性が上がるでしょう。

「遂行行動の達成」「代理的経験」「言語的説明」「情動的喚起」の4つで自己効力感を醸成する

鵜飼さん

「自己効力感の醸成」に必要なことをお話しする前に、前提として2つポイントをお伝えします。似た言葉に「自己肯定感」がありますが、この違いを理解してください。自分ならやれるという「自己効力感」に対して、「自己肯定感」は、「自分は存在してよい」という感覚です。自己効力感が上がると積極的な挑戦ができるようになったり、失敗から学び次に活かそうとするようになったり、モチベーションの高さを維持する効果もあります。

自己効力感については、バンデューラという心理学者の研究が参考になります。自己効力感を高めるポイントは4つです。

(1)遂行行動の達成

鵜飼さん

1つ目が「遂行行動の達成」です。やったらできたという経験を積み重ねていくことによって、「自分はできる」という自信を得ることになります。昔、上司の方が「背伸びしてやっと届くぐらいの目標を続けてやっていく方が、人は伸びる」と教えてくださったのですが、まさにこのことだと感じます。

(2)代理的経験

鵜飼さん

2つ目は「代理的経験」です。自分が経験していなくても人の成功を見ることで、自分自身に置き換えてモデリングすることです。観察と学習を経て、「あのようにやればうまくできる」「上手い人はこの手順でやっている」という感覚を得ることも、自己効力感を高めるポイントなのです。

(3)言語的説明

鵜飼さん

3つ目は「言語的説明」です。ポジティブな言葉をかけるイメージです。「私はできる」という自己暗示や、他の人から「君ならできる」と声をかけられることで、「できるような気がしてきた」と、気持ちが高まります。

(4)情動的喚起

鵜飼さん

4つ目は「情動的喚起」です。生活リズムを整えたり、ワクワクする出来事を経験したりすることは、生物学的に挑戦に向かいやすい状態をつくり出せます。たとえば、寝不足で身体がつらいとか、大きな悲しみのなかにあったら、「やれる」みたいな気持ちにはなりませんよね。身体と心を整えるのは、非常に大切なことです。

4つの視点から具体的な支援策を検討する

鵜飼さん

これらのポイントを踏まえると、具体的な支援が見えてくると思います。

(1)遂行行動の達成:具体的目標を立て、達成をサポート

鵜飼さん

遂行行動の達成では、小さな成功体験を重ねられるようなお手伝いや、具体的な目標を一緒に立てるなどが有効でしょう。無理しすぎない適度な目標を設定し、達成を見届けるまでお手伝いします。最終的に「よくできたね」と言ってくれる存在がいると、元気が出ますよね。

(2)代理的経験:ロールモデルの設定

鵜飼さん

代理的経験をするためには、ロールモデルを見つけるお手伝いも有効です。ロールモデルといえば、年齢、性別、能力などすべてを兼ね備えている一人を見つけなくてはならないと思いがちですが、そうではありません。「この能力はこの人をモデルに」「この部分はこの人をモデルに」と能力別に複数を設定しても問題ありません。

(3)言語的説明:ポジティブな言葉をかける

鵜飼さん

言語的説明においては、ひたすら声かけをしてください。聴き手の立場にいる人は、「君ならできる」という言葉を一番かけやすいポジションです。語ってくれた内容を踏まえて、「このような持ち味があるから、あなたはできるよね」と、なるべく具体的に話をしましょう。

(4)情動的喚起:改善案を提案する

鵜飼さん

情動的喚起が叶えられそうな提案をしてあげるのも1つの手です。どうしたら生活のリズムが調うかなどを一緒に話し合いながら、「この方法はどうだろう」と発案するのです。「こうしなさい」とか「こうすればよい」という一方的なアドバイスではなく、案として出してみましょう。

このようなことを積み重ねていくと、Cさんもやる気が出てくるのではないかと思います。何より現状抱える不安や心細さ、戸惑いを、共感的に理解して関係性を構築したうえで、この自己効力感を上げるためのお手伝いをすることがポイントになってくるかと思います。

質疑応答

君ならできる」は、無茶な仕事をやらせる際に使われがち。具体的に説明して、理由とともに「君ならできるよ」と伝えればよい?

鵜飼さん

そのとおりです。根拠のない「君ならできる」ほど上滑りするものはありません。本人が過去にやってきたことを例に挙げると、「あのときと同じようにやればよいのか」と、イメージをしてもらいやすくなります。

打ち明けやすい雰囲気づくりのために工夫していることは?

鵜飼さん

なるべく警戒心を持たれない努力をしますが、相談者にもいろいろな想いがあります。私も過去に、「結婚指輪をしているカウンセラーになんか喋るものか」と思ったときもありました。勝手ですが、それは仕方のないことですよね。相談を受ける人ができることは、自分が批判や否定をする人間ではないこと、秘密を守ることなどを相談者にわかってもらう努力です。一緒に考え、悩むことを厭わない姿勢を非言語的に見せていきましょう。可能なら、焦らずに何回かお会いするのもよいでしょう。

聴き手は自分の体験談を話してもよい?

鵜飼さん

一概には言えませんが、経験上かなりの確率で効果がありませんでした。過去の話をされても、現在悩んでいる当人に「あなたはそれでよかったかもしれないけれど、できないから悩んでいるんだ」と思われてしまうかもしれません。

ただし関係性のなかで、自分の体験が相手の課題と非常にリンクしていると思うのであれば、話してみるのもよいでしょう。ロールモデルとして捉えてもらえるような関係性があればよいですが、リスクは高いかもしれません。

共感を生むためや、距離を縮めるための体験談なら、話しても問題ない?

鵜飼さん

距離が縮まればいいですよね。ただそれを言って縮まる可能性は、やってみないと分かりません。成功体験よりは失敗したことの方が、身近に感じてもらえるとは思いますね。

相談者の上司から「何を話したの?」と聞かれたときの対処法は?

鵜飼さん

相談者に「ここで話したことは誰にも言わない」と言っているのだとしたら、「言わない約束なので言えません」と伝えましょう。あるいは内容には触れず、自分の感想を述べるくらいならよいかもしれません。

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【執筆:まえかわ ゆうか】

離職防止につながるカウンセリングの2つのポイント

効果的なメンタルヘルス対策とは?

Smart相談室導入事例|株式会社TENTIAL

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