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産業保健師とは?仕事内容や中小企業こそ導入すべき5つのメリット

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産業保健師という職業を聞いたことがありますか? 産業医は知っていても産業保健師は初めて聞く、存在は知っていても具体的に何をしているかはわからないという方も多いと思います。

本稿では、産業保健師の仕事内容から導入するメリットまでお伝えします。とくに中小企業で離職・休職率の高さや生産性の低下に関して悩んでいる方は、産業保健師を導入するメリットが大きいため、ご一読をおすすめします。

産業保健師とは?

簡単にお伝えすると、心身の病気の予防に関する専門家です。名前に”産業”とついていることからもわかるように、産業保健師は産業分野で働いている保健師のことで、働いている人をサポートしている保健師です。

そもそも保健師は保健師資格だけでなく、看護師免許も必ず取得しており看護職の1つです。保健師は、働いている職場の領域に応じて主に「産業保健師」「行政保健師」「学校保健師」の呼び名で呼ばれます。

産業保健師の業務内容

勤務先によって細かい業務内容は異なりますが、大まかには下記のとおりです。

(1)健康管理 :健康診断の実施サポート・(特定)保健指導の実施

保健師は従業員の健康度、つまり、”どのくらい健康なのか/健康でないのか”を把握し、健康度が向上するための施策や対応を考えます。イベント、研修やセミナーを企画・実施することもあります。

また、健康管理の一環として健康診断の実施があります。自社の業務内容から、必要な健康診断の種類を確認します。たとえば、有害物質の取り扱いがあれば、特殊健診を実施する必要があるので、定期検診に加えて特殊健診を会社が実施できるようにサポートします。

そして健康診断の結果から、生活習慣を改善した方がよさそうな従業員や適切な治療が必要な従業員などに対して保健指導を実施します。名前に保健”指導”とつきますが、実際の内容は状況確認や相談・アドバイスなどであり、”厳しく指導します”というものではありません。

なお、40歳以上が対象となる特定健康診断(メタボ健診)の実施後に、生活習慣病のリスクが高そうな従業員を対象に実施する保健指導は、特定保健指導と呼ばれます。

(2)従業員の健康相談

健康診断の実施後のみならず、日頃から従業員の健康に関する相談業務を実施しています。相談の種類は多岐に渡り、会社の人間関係から自分の健康状態に関すること、睡眠に関することなどさまざまです。

産業医面談は医学的視点や労働環境からアドバイスすることが多く、継続的ではなく、単発での実施が多いです。

一方で、保健師は医療・生活・労働環境の視点など、包括的に従業員を見ながら継続的に面談していきます。

(3)メンタルヘルスやハラスメント対策

メンタル不調者の対応や休職・復職対応を産業医や人事とともに実施します。会社内に常駐している保健師の場合は、日々の業務のなかで従業員と関わりをもちながら、不調者の早期発見・早期対応に努めます。

また、早期発見のためにラインケア研修をはじめとした現場に対する研修を企画することもあります。企業によっては、保健師が人事と協働してハラスメント対策を実施する場合もあります。

(4)ストレスチェックの実施

産業医同様、保健師はストレスチェックの実施者になれます。外部委託せずに自社にてストレスチェックを実施する場合、保健師はストレスチェックの結果をデータとしてまとめて、人事や経営層に報告をすることもあります。

(5)過重労働対策

長時間労働の現状把握をします。過重労働が多い現場であれば、労働時間を削減するためにどうしたらよいかを人事・現場・経営層・産業医とともに相談しながら実施します。また、産業医による過重労働面談がスムースに実施ができるようサポートします。

(6)産業医や人事との連携および調整

会社の衛生管理体制は、経営層・産業医・人事担当者・衛生管理者・従業員など多数の関係者が連携しながら整備しています。保健師は、産業医の訪問日の調整や面談のスケジューリング、衛生委員会や研修の日程調整、従業員の声の拾い上げなど、産業医・人事をはじめとした多職種と連携しながらコーディネーターとして調整します。

産業保健師の雇用形態 

産業保健師の雇用形態は、大きくわけて下記の2パターンになります。

(1)企業が保健師を直接雇用し、常駐してもらう

正社員のことも多いですが、中小企業では準正社員や契約社員が多い印象です。大企業では総合職として入社することが多いため、総合職の給与になりますが、中小企業や正社員でない場合は医療職としては給与水準は低めであることが現状としてあります。

(2)産業保健師業務をアウトソースする

保健師業務を提供している企業などから、決まった時間のみ保健師にきてもらう形態です。

他の職種との違いは?〜産業医・行政保健師・衛生管理者・産業看護師〜

産業医との違い

産業医と産業保健師の違いとして、法律での配置義務の有無・業務内容・視点の3つの点からご説明します。

配置基準および人数の違い

産業医

産業保健師

従業員50人以上に対して1人、3,000人以上は2人の配置が必須。1,000人以上(特定の業種の場合は500人以上)専属産業医を選ぶ必要あり

法律上の配置義務はなし

業務の違い

  • 健診

産業医

産業保健師

健診結果の確認をとおして就業判定

健診実施のサポート・産業医業務をスムーズに実施できるようにサポート

  • ストレスチェック

産業医

産業保健師

実施者になれる

実施者になれる

  • 保健指導

産業医

産業保健師

実施可能

実施可能

  • 衛生委員会

産業医

産業保健師

構成メンバーとして必須

必須ではないが、企業によっては参加することもある

視点の違い

産業医

産業保健師

医学の専門家として、企業へは安全配慮が遂行できるよう、従業員へは健康レベルの維持向上ができるようにアドバイスする

従業員が生き生きと働ける環境をつくるために、企業と従業員のニーズに応じながら、企業・従業員・産業医のサポートする

産業医は大企業をのぞいて基本的に常駐はしていません。一方で、保健師は導入企業は少ないですが、導入している場合は常駐していることも多いです。そのため、企業と産業医の橋渡しの役割をスムーズに行えたり、従業員にとってより身近な存在であったりすることが多いといえます。

なお、産業医・保健師ともに、企業内で診療所登録をしていない限りは医療行為はできません。医療行為とは、診断、予防接種、注射や採血などをさします。

行政保健師との違い

行政保健師

産業保健師

保健所などの自治体にて、赤ちゃんからご高齢者までのサポートをする保健師

産業領域で、働いている人のサポートをする保健師

衛生管理者との違い

衛生管理者は、職場環境の衛生面の改善と病気の予防処置などを担当し、事業場の衛生全般を管理する者とされています。衛生管理者の資格は労働安全衛生法により定められている国家資格で、第1種、第2種があります。

衛生管理者との違いとしては、保健師の方が医療的な視点をもっていることや業務の幅が広いこと、保健師として名乗って業務を担当できるなどの違いがあります。

中小企業の場合、人事担当者が衛生管理者となることが多いです。保健師は自治体に申請することで第1種衛生管理者の資格も取得できるため、産業保健師が衛生管理者を兼任することもあります。

従業員数が1,000人以上の事業場、もしくは従業員数500人以上で有害業務を30人以上従事させている事業場では、専任の衛生管理者(他の業務を兼任せず衛生管理者としてのみ勤務する)の設置が義務づけられています。

産業看護師との違い

産業看護師

産業保健師

個人をみる力・従業員の課題を見つけてアプローチする視点が強い

集団を見ながらダイナミックにアプローチする・予防的な視点をもっている

保健師は看護師に加えて保健師になるための講義および実習を受けており、なかには大学院で保健師の教育を受けた人もいます。

もちろん、産業看護師のなかにも産業衛生の教育をしっかり受けていたり、経験が豊富な方もいます。そのため明らかな違いは「資格と受けている教育の量の有無」であり、産業保健師と産業看護師の違いは個々人の経験の違いによることが多いです。

産業保健師を導入する5つのメリット

ここからは、産業保健師を導入するメリットをご紹介します。

企業側のメリット(1):人事・労務の負担が減る

衛生管理者も兼任している人事・労務の場合、手探りで多くの業務を担当されていることが多いです。医療・看護・産業保健の専門家である産業保健師を導入することで、業務負担の減少につながります。

人事・労務として日常の業務は多く、会社の産業衛生に関する業務は後手に回りやすい傾向があります。そのため、会社の衛生管理体制の整備や運営をするためには、産業保健の専門家である産業医との連携が重要となります。保健師は産業医と企業をつなぐことも大きな役割の1つであるため、保健師が入ることで企業ー産業医間のやりとりがよりスムーズになります。

 企業側のメリット(2):アドバイザーとして一緒に悩める関係

多くの人事・労務担当者が、健康管理などの教育を受けていないことがほとんどです。衛生管理の体制整備・運営や従業員への対応に関して、1人で悩まれる人事・労務担当者も少なくないと思います。

そんなときに、人事担当者が1人で悩まずに気軽に相談できる相手が産業保健師です。インターネットのみの情報は実践的ではなく、ときに誤った情報もありますが、状況や背景を理解したうえで、専門家から適切なアドバイスをもらえることは大きなメリットです。

企業側のメリット(3): 健康経営優良法人認定制度の取得もサポート

2020年よりブライト500が始まったことから、企業の規模に関わらず、健康経営優良法人認定制度を取得するために産業保健師を雇用する企業も多くいます。

健康経営を取得するためには、満たす必要のある項目が決められています。必要な項目を効率的に満たすための施策を考え、実務面で主体的に活動できるのは、産業保健の専門家である産業医と産業保健師です。

なかでも、産業医とは異なり常駐することが多い保健師は、会社の実情も理解しやすく現実的な施策を考案することができるため、健康経営を取得するためのキーとなる職種といえるでしょう。

従業員側のメリット(1):気軽に相談できる

「医者へ行くまでではないけれど、専門家に相談したい」というニーズは確実にあります。「産業医に相談すると人事評価に影響するのでは」と懸念を抱く従業員は少なくありません。保健師は産業医よりも定期的に会社に滞在することが多いため、医師よりも身近な存在と感じてもらいやすく、相談しやすい相手といえます。

従業員側のメリット(2):多角的に従業員をサポートできる

医師は病気を診断して治療をする一方で、看護師は病気を理解しながらその人がその人らしく生きることができるようサポートをします。同じように、産業保健師は従業員が生き生きと働けるように、多角的に観察しながら伴走者として従業員をサポートします。

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